2017-10

「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい3 - 2014.02.12 Wed

貴子少佐は話を続ける――

 

あの時柊の葉でトメちゃんをつついた時の「痛いよー、痛いよー」という泣き声は今でも私の耳の奥に残っていて時折、何かの拍子にふっとよみがえる時があります。そのたび私は深い後悔の念にさいなまれます。あの時ああいう嫌なことを思いついたのは一番上の麗子姉です。麗子はあの時分すでに軍令部にいました。と言ってもまだ若輩者で大した役職ではありませんでしたが軍令部の末端に籍を置いているということでたいへん威張っていました。あの時はたまたま休暇で帰省していた時でした。麗子は泣いて逃げるトメちゃんを何処までも追ってゆきとうとう追い詰めそこで執拗につつきました。あんなこといい年をした大人がすることでしょうか・・・

トメちゃんのほっぺが破れ血が流れだし、麗子は残忍な笑みを浮かべてそれを見てその場に居合わせた他の姉たちも先を争うようにトメちゃんをつつきました。麗子は私に柊を持たせ、「やれ」といい私が手をひっこめるとその手を強引に取って「こうやるんじゃ!」と言ってトメちゃんの頬を思い切りつつかせました。

すさまじい悲鳴があたりに響きトメちゃんは逃げ出しました。私はあわててそのあとを追って抱きかかえたのですが・・・もうトメちゃんは私を見てはくれませんでした。当たり前ですよね、無理やりさせられたとはいえ、結果的には私の手がトメちゃんのほっぺを思い切りとがった葉っぱの先で刺したのですから。トメちゃんがもう一度私を見つめてくれたのはそれからしばらくして、私が海軍兵学校受験の勉強を始めたころでした。トメちゃんはその頃、畑仕事もさせられていて小さな体に大きな鍬を持った姿が痛々しかった。私がふと机から顔をあげて外を見た時、トメちゃんもこちらを見ていました。しばらく二人の視線が合ったのですが母親の罵声が飛んでトメちゃんは逃げるように走ってゆきましたっけ。

その時私は決意しました。

兵学校を終えたらトメちゃんを連れてこの家を出ようと。そしてもしも、兵学校に受からなかったら呉の海兵団に入ろう、そしてトメちゃんをどこかに預けてでもこの家から出そう。そう思っていました。でもそんな私の思惑はとうに母はわかっていたのでしょう。トメちゃんは母の徹底した監視下に置かれることになりました。

私は何とか兵学校に合格は出来ました、がもともとあまり頭のよくない私でしたのでハンモックナンバーは下から数えた方が早いくらいでした。母はそんな私を嫌がり遠ざけました。私は家の恥だったのです――

 

そこまで話して、貴子少佐はふうっと息を吐いた。吐息が白く宙に上がって消えた。麻生分隊士は注意深くオトメチャンの表情を観察していた。オトメチャンの表情から先ほどまであった怒りの表情はほとんど消えていた。記憶を手繰る様な顔つきで視線を貴子と母の墓の両方に泳がせている。

と、オトメチャンの唇がかすかに動き

「ほうじゃ・・・うちは貴子姉さんにはようかばってもろうた」

といった。固唾をのんで見守っていた麻生少尉の顔にかすかにえみが浮かんだ。オトメチャンは貴子の顔を正面から見つめると

「うちは・・・いやなことばかりに気を取られてええことを忘れとりました。貴子姉さんはいつも陰に日向にうちをかばってくれた」

といった。言ったがオトメチャンの顔に疑問の表情も浮かんできた、それを見て取った麻生少尉はそっと「どうした、オトメチャン」と囁いた。オトメチャンは麻生少尉を見上げてそのあと貴子に視線を戻して

「ほいでもなぜ貴子姉さんが今うちのお母さんのお墓に参ったのか、うちはちいと不思議な気持ちになりまして」

といった。貴子少佐は半身を見張トヨの墓に向けしばらく見つめた後再び語りだす、

 

・・・うちは兵学校で出来が悪かったけえやっと今頃少佐になりました。麗子姉はあと数年で定年になります。その下の姉たちは第一線でガンバっとるようです。うちは姉たちに『お前は我が家の恥じゃ』ばかり言われてましたが・・・そんな私も五年ほど前結婚をしました。もう、見張ではのうて<新井>となりました。そして私も人の子の母親になりました。子供を産んでその子供が私の目の前に連れてこられた時――私はトメちゃんの生みのお母さん、トヨさんのことが頭に浮かびました。トヨさんはトメちゃんを産んでどんなにうれしかっただろう、どれほど愛おしい存在だっただろう。そして、そんなにも愛おしいトメちゃんを一人置いて死なねばならなかったトヨさんのお心うちを想った時、なんとしてもこれはトメちゃんと泉下のトヨさんに謝らねばならないと思ったのです。

私は手を尽くしてトヨさんの墓を探しました。私は駆逐艦の長をしておりますが艦の乗組員にこれこれこういう下士官を知らないか、こういう人のお墓を見たことがないかと聞いて回りました。以前にいた艦の旧知にも聞きましたし故郷の友人にも尋ねました。

訪ねあぐねた時、私の脳裏に思い浮かんだのは昔トメちゃんを優しく抱きとってくれたあの老夫婦、トヨさんの実の御両親です。私は長い航海の後、トヨさんの御両親を訪ねました。お二人はお元気で、私を見るとハッとして身を固くなさいました。私は、私の母たちがトヨさんにした仕打ちを心から謝りました。絶対許してはくれないと思いました。それでも私は謝らねばなりません。必死でした・・・必死で許しを請いました。土間に伏して泣く私に、やがてそっと「起きてつかあさい」と声がかかりお祖父さまが土間に降りてらっしゃいました。そして『あなたの気持ちはよくわかりました、娘の墓は――』と言ってここを教えて下さいました。

それからすぐにでも来たかったのですが私も水雷戦隊の中に組み込まれていたので、それから一年もたってしまいました。そして今日やっとお参りにこれました。そして・・・トメちゃんにも遭うことが出来ましたのはトヨさんのおひき合わせかと・・・。

トメちゃん、本当にごめんなさい!あなたは私を許してはくれないでしょう、それでもいいんです。ただ私の思いを知ってほしかった。私は母や、ほかの姉たちとは全く違う思いをあなたとあなたのお母さんに持っていたということを。

いまさら遅い、何を言うかというあなたの気持ちは尤もです。こんなに遅くなって取り返しも付かないようになってから許せ、というのはとても虫のいい話ですよね・・・それでも私は――あなたに謝りたかったのです。あなたのお母さんのお墓の前で――

 

そこまで一気に話すと貴子少佐はその場にうち伏して泣き始めた。貴子の軍帽が地面に落ちた。

麻生少尉は黙って少佐が泣いているのを見つめていたがやがて

「オトメチャン。お姉さんはこうおっしゃっとられるが・・・オトメチャンの気持ちはどうなんじゃね?今日はええ機会じゃけえ、はっきり言うたらええ」

と言って、地面に伏したまま泣いている貴子少佐のそばにそっと膝をつくと

「見張少佐。いや、新井少佐。オトメチャンがどがいなことをいうても、もう恨んだりせんでつかあさい。少佐のお気持ちはオトメチャンにもようわかったことと思います。そのうえで――オトメチャンが出す答えをどうか受け止めてやってつかあさい」

とそっと言った。貴子少佐はやっと顔をあげてまず麻生少尉を見た。貴子少佐は「麻生少尉・・・」と言って、麻生少尉は「麻生特務(・・)少尉、であります」とそっといった。貴子少佐は「いや、麻生少尉。私はトメちゃんがなにを言おうともう動じない。トメちゃんが私を受け入れてくれようともそうでなかろうとも私はトメちゃんの気持ちを尊重します。悪いのは一方的に私の方なのですから」と言い切った。

麻生少尉はうなずくと

「さあ見張兵曹。自分の言葉で自分の思いを少佐にお伝えしんさい。ええな」

とオトメチャンに普段の少尉よりは厳しい言い方で言った。オトメチャンは麻生少尉の瞳をしっかり見つめると、うなずいた。

そして姉である<新井少佐>に向きあうと、しばし、その瞳の奥を見つめ続けていたがやがてすうっと息を吸うと

「貴子姉さん・・・」

と話し始めた――  

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャンの義姉、貴子少佐の話はオトメチャンの心にどう響いたのでしょうか。

心を開くのかそれとも閉じたまま別れてしまうのか?緊迫の次回を御期待下さい。

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● COMMENT ●

かぎコメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
本当に寒い毎日でもう、正直寒さには飽きましたねw。というか寒さ疲れのようなものが出てきたような気がしています。

今回の雪はもう本当にすごくってうちの裏庭は犬がすっぽり埋もれるほどでした!でもモミジは大喜びでしたよ。
そちらは積もらなかったのですか!う===ん・・・うらやましいと言っていいのかもしれません、今回はちょっとひどすぎましたからね~、宅急便も集荷集配出来なくて私も荷物を送ったり受け取ったりができない状態です(-_-;)。

またどうぞいらしてくださいね、お待ちしています^^。

すっとこさんこんばんは!
NYも大雪ですか!日本の東京周辺も大雪になりまあうちのあたりは信じられないほどの降雪となり今日は雪掻きが辛かったです。鉄のスコップの角で膝を思いっきり打ってしばらく動けませんでしたw。姉さまも雪での怪我にはお気をつけてくださいね!

オトメチャンのあの優しい性格の根源は彼女の過去にありました。
姉もオトメチャンも思いのたけをはきだすことによっていい姉妹になれたらいいですね。

続きを待っていてくださいね~♡

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

NYは大雪ですが

こちらでは永年の雪のように冷えた思いが
融けて来るきざしが・・・。

オトメチャンの性格はこんなつらい過去の上に
成り立っていたのですね。
貴子姉さんもずーっと言いたかったことをお墓の前で
言えてこれはまさしくお引きあわせ!

続きを待っています!

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
オトメチャンと姉さん。難しい関係ではありましたがいがいと凍りついた関係が氷解するのは…かもしれませんね^^。

いつも私の文章をおほめくださってありがとうございます^^、とてもうれしいです!
きっと・・ウダモさんの御期待を裏切らない結果になる――と思います!!

雪ですねー!もうイヤッ!w

この時だからこそ氷解する問題…ってありますよね。
まさに今回のお話がそれですね。
今だからこそ、オトメちゃんとお姉さんが心を開いて話し合えるのだと思いました。
お姉さんの気持ちがとても繊細に描かれていて、すんなりと納得できます。
この微妙な心の揺れ具合は、なかなか描けませんよ。
見張り員さん、仕事が丁寧ww

オトメちゃんがどうするか??
なんだか期待通りに動いてくれそうな予感がします。
オトメちゃんなら解ってくれる!そう信じています!

…って、浅いかな?w

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
赤の他人より兄弟のほうが何かあった時後々まで引きずりますね。私の母のほうの兄弟にもかつていろいろありまして・・・私はきょうだいというものがなくてよかったかなと思ったりしました。
しかし、いつかは言わねばならないことはありますよね。
いつまでも腹に抱えたままではいけないことってありますね。すっきりさせるためにも――<ぶちまける>日が来てもいいかもしれませんね。

なんだか時おり私の記事とにいさまの生活のどこかがシンクロするようなときがあって不思議な気がしています。
なんでかなあ?

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
麻生少尉がその場にいればこその二人の対話、対面なのです。緩衝材というと変ではありますがそういう存在がいれば話がこじれない場合がありますね。
この対話がオトメチャンの生き方――今までとこれからをつなぐ――に何かをもたらすことでしょう。

次回をお楽しみに^^!

麻生さんの存在が際立ちますね。

親子きょうだいで何気なく過ぎた場面が後々になってとても大きくのしかかることがあります。きょうだい同士で確執があれば尚更それは拭うに大変な思い出にも。
かく言う我が兄弟も。許したくないこと。これまで言わずに穏便にしていたこと。そろそろぶちまけても良いのではと思っています。そうしなきゃ死ぬに死ねません(笑)
親というのは麻生さんと同じで兄弟姉妹の仲を取り持たなきゃいけない存在でもあるのですよね。しみじみとそれを感じる五十路の僕です。何だか見張り員さんに背中を押されたような思いがしています。気持ちの整理を付けねばならない時が来たような。不思議ですね。ありがとう。

こんばんは。話す方も聞く方もどちらも辛いですね…麻生さんがいたからこそ成り立つ会話かもしれませんが、本音を言うのはこれからのオトメちゃんの生き方を決める大事な儀式になるのかもしれません。
ああ、もう続きが気になって……ドキドキします!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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