「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい2

その人の顔が朝日に照らされて、オトメチャンは「姉さん・・・」と声をあげていた――

 

「姉さん?」と麻生分隊士は思わず小声ではあったが声に出してオトメチャンを見た。オトメチャンはその場に立ち尽くしていた。

見張トヨの墓を背にして立った海軍士官はこちらへゆっくり歩いて来るとオトメチャンと麻生分隊士の前に立った。麻生分隊士は相手が海軍少佐というのに気がつくとさっと敬礼していた。その敬礼に丁寧に返礼した士官は、

「覚えていてくれましたか。トメちゃん。トヨさんのお墓ずいぶん探しました」

と言ってほほ笑んだ、がしかし、オトメチャンの表情は硬いままである。その表情を見て海軍少佐は悲しげなほほ笑みになると麻生少尉に向かい

「申し遅れましたね、私は見張貴子海軍少佐。――ここにいる見張トメ兵曹とは――姉妹(・・)です。私はトメちゃんのすぐ上です」

と言って自己紹介した。麻生少尉は不動の姿勢のままで「はっ、私は麻生太海軍特務少尉であります。軍艦『大和』航海科分隊士、この見張兵曹の上司であります」と自分も自己紹介した。見張貴子少佐は満足げにうなずいて

「トメちゃん、『大和』に乗務なんだね。出世したねえ、あんなに小さかったのにこんなに立派になって」

というと愛おしげにオトメチャンを見つめた。が、オトメチャンは微動だにせず貴子少佐を凝視したままである。貴子少佐はその視線を受け止めつつ

「トメちゃんには今まで本当に悪いことをしてきました。単に・・・母親が違うというだけで、私の母も姉たちもそして、この私もトメちゃんにはひどいことをしてきました。どんなに謝っても謝りきれない」

と苦しげにうつむきながら言った。するとオトメチャンの唇がわなわなとふるえ、次の瞬間

「いまさら何をぬかすか!」

と鋭い叫びが早朝の空気を切り裂いた。麻生少尉があわてて「いけん、オトメチャン!」と後ろから羽交い絞めにしてその口をふさいだ。いくらきょうだいとは言え階級というものが二人の間には厳然と存在する、上官侮辱罪に問われればただでは済むまい。そう、麻生少尉は直感したのだった。

しかし、貴子少佐は優しく麻生少尉の手をオトメチャンから外させた。意外な、という表情の少尉に向かい少佐は

「いいんです。今日は私はこの子の思いをしっかり受け止めに来ました。なんでも思うことを言わせてあげたいのです。そして私の思いも伝えに来ました」

といった。オトメチャンは少尉の腕からほどかれると怒りに満ちた顔で姉の少佐の前に立った。そして

「貴子姉さん・・・うちはこげえなこともう言いとうはないがほいでも言わせてもらいます。確かにうちは不義の子じゃ。お父さんとうちのお母さんがいけない関係になって生まれたんがうちじゃ。ほんまならうちみとうな子供は生まれんかったはずじゃ、産んではいけんかった子供じゃ、なのにそれを産んでしもうたんはうちのお母さんの失敗じゃ。大罪じゃ思うとります。ほいでも・・・うちを育てよう思うてお父さんはあん家に連れて帰って下さった・・・こげえに汚れたうちでも。ほいでもあなた方はこげえな汚れたうちのこと、いやならなんで捨ててくれんかったんじゃ?いじめ抜かれて、ほいでも生きんといけん人間のつらさがあんたらにはわかってか?なんで・・・いやならあの川に投げてくれんかった?雪の降りつもるつめたい晩に布団もなきゃ飯ももらえん、体を温めるもの一つない雪の吹きこむ納屋の中うちがどがいな思いで居ったか。鳴神の落ちた木の真横で気ぃ失いかけとったあの時の気持ちや物干しの竹で思いきりどつかれた時のあの痛みやあん人の気分しだいで蹴られたり殴られたり・・・もう、もう思い出すんも嫌なこと!

ほいであん人に皆の前で「お前はもらいっ子じゃ」言われた時の屈辱をアンタみとうに恵まれた海兵出身の士官さんにわかるかね?みんな・・・姉さんたちは海軍兵学校を優秀な成績で出て海軍省だの艦隊司令だの潜水艦司令だの・・・海軍のトップに居りんさる人間にうちの気持ちなんぞわからんじゃろう?嫌な奴との見合いも、麗子ねえさんにさせられてあん時は分隊士にもえらい迷惑をかけてしもうた。

そんとな仕打ちをしといてなんで今になってうちの生みのお母さんの墓に参ったんじゃ?『アンタの娘は海兵にも入れんかったあほじゃ、じゃけえ今は下士官でピーピーしとる、ええ気味じゃ。うちを見い、海兵出のえらいさんじゃ』言いに来たんか!

うちはあん人とはもう親子の縁を切ったんじゃ、あんたらとももう兄弟じゃない!もうこれ以上うちやうちのお母さんの周りを嗅ぎまわらんで!かかわらんといて!」

と最後は絶叫となりその場にくずおれて号泣し始めた。麻生少尉は声をかけかねてその場に立ちつくしたままである。貴子少佐はその場に膝をつくとオトメチャンを抱きしめた。

そして泣きながら

「ごめんね、ごめんね・・・本当に悪かった。本当を言えばうちはトメちゃんがお父さんに抱かれて来た時うれしゅうてどうしようもなかったんじゃ。うちはあの姉妹の中で一番下じゃったけえ、姉さんたちに言いたいことも言えん時が多かったよ。ほいでもこまいトメちゃんが来てうちはほんまは嬉しかった」

といった、その少佐にオトメチャンは

「いじめるもんが出来てうれしかったんじゃろう?姉さんたちに気兼ねしとるうっぷんを晴らせる、思うて!」

とかみつくように泣き叫ぶ。すると貴子少佐はオトメチャンを抱きしめる腕に一層力を込めると「ちがう、ちがうで!そげえなことない、うちはほんまにトメちゃんが大事じゃった」と言って泣いた。しばらく泣いていた貴子少佐は

「うちの話、落ち着いて聞いて欲しいんじゃ。トメちゃん」

というとそっと語り始めた――

 

――確かにお父さんが年若いトヨさんとそういう関係になり子供さえ出来てしまったというのは娘としては衝撃ではありましたよ。

でも・・・私は冷静に考えていました。私の母と、父の夫婦としての関係はとうの昔に壊れてしまっていたのです。どうしてそうなったか、それは娘の立場では今でもわかりかねる部分があって何とも言えないのですが母は気性の激しい人で自分が気に入らないとなにもしない、しないばかりか人にあたるようなところがあり、私は正直そんな母が怖かった。他の姉たちのように要領よく母と付き合えるようなら苦労もなかったのでしょうが私は昔から今に至るまで要領がよくないので母には折檻される時さえありました。大勢の姉たちもそんな私をあほだと思っていたみたいです。私はどんな気に染まないことでも母に気に入られるようせねばなりませんでした。

そんな時、お父さんがトメちゃんを抱っこしてあの家に帰ってきました。もう前に、子供ができた生まれたという話やトヨさんが産後半年で肥立ちが悪く無念の死を遂げたという話は聞いて居りました。母や姉たちは父やトヨさんのことを罵って、生まれたという赤ちゃんを呪っていました。が、私一人は別の感想を持っていました。それは先ほども申しました通り両親の仲が破たんしていたということに由来するもので、それならなぜいっそ父はこんな母と別れてトヨさんと一緒にならなかったのかということで、私は小さな赤ん坊を置いて亡くなったトヨさんと、生みの母を失ったトメちゃんが哀れで気の毒でなりませんでした。

そして父親に抱かれたこまい赤ちゃんが来た時、私は『妹が来た』ととてもうれしかった。でもうちの誰もこまいトメちゃんを抱っこしようとしなかった。私は母や姉たちに何を言われてもされてもええ、この子を抱っこしよう育てようと父親から抱きとりました。トメちゃんはうちに抱っこされるとうちの顔をじっと見つめていましたがにっこり笑うてくれました。ほいでうちの胸にしがみついてきました。

私の胸の内に、いとおしさがあふれてきました。母も姉たちもそんな私の事を火の出るような瞳でにらみつけていましたっけ。その日からトメちゃんの世話は私の担当になりました。楽しかった、こまいトメちゃんのお世話は。私はまだ学校に通っていましたが家に置けばどうされるかわかったものではないと、学校に抱いて連れて行き、小使いさんに事情を話して授業中は小使いさんのお部屋に置いてもらいました。

幸い小使いさんがいい人で何の偏見も持たず、私の授業中はトメちゃんを見ていてくれたので助かりました。ただ、級友たちからは好奇の視線で見られましたがそんなものは私の中ではとうに織り込み済みでしたので決して動じたりはしませんでした。

ただ・・・もらい乳をしに行くときはとても辛かった。村の人の視線が痛かった。何の罪もないトメちゃんに、まだ何もわかりもしないトメちゃんに投げつけられる罵声と無遠慮な視線。乳をくれる人がいなくて重湯を作って飲ませたことが何度もありました。罵声を村人が浴びせるたび、私はそのたび食ってかかり、それを又母に告げ口されてよくたたかれました。お前は一体だれの味方か、ってね。

私はトメちゃんの味方でした。

そんな窮状をこっそり父に手紙で書いて送りましたら、父からは大きなミルクの缶がいくつも送られてきてとてもうれしかった。湯ざましで溶いて飲ませる時のトメちゃんの満足げなあの顔が今も忘れられません。

そしてトメちゃんは私の腕の中でだんだん大きくなってゆきました。トメちゃんが大きくなると私も上の学校に行くようになりもう学校へ連れて行くのは出来なくなりました。私は後ろ髪ひかれる思いで学校に行きました。そして終わって急いで帰ればトメちゃんはたいがい、泣いていました。

母に折檻された跡がありありわかり私は時に母に食ってかかることもありました。そんな時トメちゃんは私の服の裾をしっかりとつかんで私を見上げていましたっけ。

もう少しトメちゃんが大きくなるとトメちゃんは母に折檻されたり怒られると外に出て行ってしまうようになりました。私は必死で探しに出たことも何回もあります。ある日泣いてあるいていたトメちゃんをわたしが追ってゆくと年配の夫婦が大事そうに抱えて家に連れて行くのを見ました。その夫婦はトメちゃんももう知ってかもしれないですがトヨさんの御両親つまり、トメちゃんのお祖父さんお祖母さんでした。お二人はそれからも時折泣いて歩いているトメちゃんを家に連れて行ってはご飯を食べさせたりしてくれていたようです。

トメちゃんが学齢に達するようになってもトメちゃんは学校に行かせてもらえず、ばかりか家の雑用ばかりさせられていました。しかし私はトメちゃんが賢いことをわかっていましたので、時折トメちゃんが寝起きしている納屋にそっと本を置いてきたりしてました。トメちゃんは一人でそれを読んでいたみたいですね・・・ときどき私が本を読んであげたの、覚えてますか?

でもそれを気に入らない姉たちは散々トメちゃんに意地悪しましたね。ある年の節分には、柊のとがった葉の先でトメちゃんの柔らかい手やほっぺを刺すように強いられ、私は心の中で泣きながらそれをしました。あれは本当につらかったのです。でもトメちゃんにはきっと、私が喜んでしているようにしか見えなかったでしょうね・・・

 

貴子少佐の話は続く――

   (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・

トヨさんの墓前にいたのは、オトメチャンの異母きょうだいの見張貴子少佐でした。彼女はトメちゃんを実は愛していたらしいのですが・・・彼女の昔語り、オトメチャンの心にどう響くのでしょうか。次回を御期待下さい。

 

柊の葉(画像お借りしました)、これでチクチクされたら痛いです・・・。
柊の葉っぱ


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ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
婚外子問題の難しさを私も思いつつ書きました。
子供には罪はないですが「わが子」として育てられるかというと私も難しいです。でもいじめたり虐待だけは出来ませんね、ひととして。

オトメチャンの生い立ちはこんなふうでした。
ひねくれてもおかしくなかったオトメチャンをまっすぐにしたものはなんだったのでしょうか、このシリーズのラスト近くでわかります^^。

泣いて読んでくださってありがとうございます、書いた甲斐があるというものです!!

う~ん、辛い…

思わず泣けてきてしまいました。
こういう話を知ると、どうしても婚外子問題を考えてしまいます。
難しいと言われているのも解りますね。
私としては、生まれてきた子供に罪はないですから、自分の子供と同じようにして育てるだろうと思います。けれど正直なところ、自分の子供のように愛せるか、と聞かれれば…愛せないと思います。
ただ、いじわるはしたくないし、するのもイヤですけどね。

辛い経験をたくさんしてきた子は優しくなるか、ひねくれるか、のどちらかですよね。
オトメちゃんは間違いなく前者ですね。
見張り員さんのキャラクター作りの綿密さに驚かされました。
こういう経緯で優しいオトメちゃんが出来上がったのですね…なるほど。。
ますます、キャラクターへの愛情を感じました。
素人さんの書いた物語で泣けたのは初めてです。
よいお話でした!次、はやく~!ww

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
そうなんです――オトメチャンには悲しい過去がありました。

人って、痛みをわが身で受け止めねば決して人の痛みをわかりませんよね。優しさもそうですね。

オトメチャンの辛さと同じくらい貴子さんも辛かった・・・
その辛さをオトメチャンはわかってくれるでしょうか?

どんな展開が待っているでしょう、これもまた少し長い話になりそうですがよろしくお付き合い願います!

おお!

オトメチャンにこげな悲しい過去があったとは!
でも、読んで行くうちにわかるような気がしたのです。
ヒトの痛みのわかる人は自分も痛みを経験した人です。
いつも優しいひとは 優しくされない辛さを知っているからです。

オトメチャンも辛かったけど 貴子姉も辛かったのですね。

こんな修羅場のような母の墓前での再会は いったいどういう
展開になるのでせうか?

オトメチャン、応援しとるよ!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
全くもって酷い雪で、きっと今週内には溶けないと思うくらいの雪があちこちにあります(-_-;)。

オトメチャンには出生の秘密があり、家族とは隔絶された環境でした。本当ならとても悪い子供になっていてもおかしくなかったオトメチャンですがそれをこんなに優しく気のきく子にしたのは一体??

さあこのあと姉少佐と、麻生分隊士との間で彼女はどう出るのでしょう。ご期待ください!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
オトメチャンの悲しみ辛さもそうですが、貴子姉の辛さもきっとひとしおだったでしょう・・・確かに親や姉妹には嫌われたくはないですものね。
本当の心とは裏腹に乙女ちゃんをいじめなければならなかった姉さんの気持ちがオトメチャンに伝わるでしょうか!?
絶望の先にある、一筋の希望の光(何かの主題歌にありました)
それが射しこむことを期待して!

大雪、近所の家家の壁には「いったいここどこ?」ってくらいの雪が寄せてあります(-_-;)。
オスカーさんもお疲れの出ませんように!

おはようございます。雪の残りは如何でしょうか。大変でしたね。無理しないように過ごして下さい。

あの優しいオトメチャンにこんなつらい出生の秘密と家族との軋轢があったのですね。
人は生まれた環境でいかようにも人生が変わるものです。特に本人の意思とは関係なく不遇をかこった幼少期は後々どれだけの歪みが生じるか。オトメチャンの優しさはそんな家庭環境の中から自ら見つけた泥中の蓮なのかもしれないですね。
彼女のルーツを知ってしまった墓参での一場面。これも亡きお母さんの導きかもしれません。きっとお姉さんとのわだかまりも雪が解けるように解けていくのではないかと思います。
仲を取り持つかもしれない麻生さんと、そして見張り員さんの腕の見せ所です。大いに期待しながら次回を待ちます。

こんにちは。せつなくてかなしくて涙がでてしまいます……オトメちゃんはずっとこんな気持ちを抱いて暮らしてきたのかと思うと……子どもってどうしても親には逆らえないというかやはり嫌われたくないという気持ちも働くので、義姉さんの気持ちもわからなくはない……ツラいけれど希望の光が射し込む結末があると信じて続きを楽しみにしています。

大雪の余波がまだまだありますが、ムリしないで下さいね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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