「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい1

航海長の結婚式が済んだ翌日から兵員の上陸や休暇が本格的に始まった――

 

航海科の見張兵曹は本格的な休暇は先延ばしにし、とりあえず亡き母の墓参をしたいということで上陸、ということになった。麻生分隊士も一緒に上陸し「オトメチャンのお母さんのお墓に御挨拶せんとなあ。久しぶりじゃけえ」ということになった。

この日、午後の課業を終えてから「上陸員甲板に整列!」の号令を聞き最上甲板に並ぶ。衛生兵嬢から「待ち受け一番」と今回から配られるようになった「ゴムかぶと」を受け取って上陸札を箱に入れて艦を降りる。オトメチャンはつめたい風を切って海上を走るランチの中で「ゴムかぶと」の包みをひねくりまわしながら「なあ増添兵曹。これを持ってうちはどうしたらええんじゃろう?うちにはようわからんのじゃけど」

と聞いてみた。増添兵曹が口を出すより早くその後ろから野田兵曹が

「そこのこまい兵曹。ゴムかぶとがいらんのならうちに呉れえ。あんたはこんなもの使わんじゃろ、ほんならうちに呉れえ」

と言ってオトメチャンが手にしていたゴムかぶとをあっという間にかっさらって自分の一種軍装のポケットに入れてしまった。増添兵曹は野田兵曹の顔を睨みつけると

「野田、貴様なにするんじゃ。まだオトメチャンがええとも何ともいうとらんのにかっさろうて行くなん、ええ加減にせえや!貴様麻生少尉に殴られるで?ええんか?」

と怒鳴った。しかし野田兵曹はしれっとして

「いうてこのこまい兵曹は男と遊んだりせんのじゃろ?ならこのかぶとをこまい兵曹がもっとっても無駄になろうが。じゃけえうちが使うてやる言うんじゃ。ありがたく思わんといけんよ、こまい兵曹」

といい、増添兵曹は

「こまい兵曹ではのうて見張兵曹じゃ!貴様航海科の見張兵曹を知らんのか、知らんなら貴様もぐりじゃわ」

と怒鳴り、野田の横にいた副砲の細川兵曹が

「ほうじゃ、貴様えらっそうに・・・。大体が貴様上陸なんぞ出来る柄か?貴様のチェストの中の蝙蝠、はようどうにかせんか。臭うていけんわ。自分の世話もよう出来んくせに男と遊ぶじゃと?ええ加減にせえやワレ!」

というなりその膝で野田の尻をけり上げた。野田は「痛い!何をするんじゃ」とこれも怒鳴って副砲分隊同士の乱闘になりかけた。ランチが大きく揺れ他の上陸員たちが悲鳴を上げ、漕艇の下士官嬢が泡を食って

「やめえ、こらあ!転覆するで、やめんか貴様ら!誰か止めえー!」

と絶叫する。オトメチャンや増添兵曹ほかランチに乗る総員が暴れまくる野田を抑えつけやっとことなきを得た。大騒ぎのランチがやっと上陸桟橋に到着し、野田兵曹は細川兵曹に蹴られながら降りて来た。すると副砲の安部分隊士が先ほどからその様子を双眼鏡で見ていたらしく

「野田兵曹、ちいと来い」

と言って「はい」とやってきた野田兵曹の横っ面を思いっきり張った。野田兵曹はびっくりして頬を押さえて「痛―い!何なさるんですか」と思わす抗議の声を上げたが安部分隊士は憤怒の形相で

「俺はなあすべて見とってじゃ。貴様、ランチの中で暴れたりしよってからに!」

と怒鳴ったが野田は「ほいでもあれは細川兵曹がうちを蹴りました。じゃけえうちも反撃したんです」と反論。すると細川兵曹が「分隊士、原因を作ったんは野田兵曹です」と口を挟み、安部分隊士は最初から詳しい経緯をランチに乗っていた皆から聞きだした。

「結局貴様のせいじゃないか、このあほったれ。貴様上陸はまかりならん、このまま帰れや!」

と安部分隊士は野田兵曹を乗ってきたランチへ突き飛ばした。そして

「貴様あのチェストをきれいにするまでは上陸も休暇もなしじゃ、ええなあ!」

と叫んで野田兵曹はとうとう泣き顔に。

麻生分隊士はこの様子を少し離れたところから見ていたがオトメチャンが「分隊士、お待たせしてしもうて」とやってくると「オトメチャンもえらい目ぇにおうたのう」と言って苦笑した。それから二人は下宿に向かって歩き出した。

 

そんなころ『大和』では松岡中尉がマツコとトメキチに

「ねえ鳥くんと犬くん。あの野田兵曹のチェストの中の蝙蝠くんをそろそろ私の友人に引き渡そうと思ってるんだよ。その時にはぜひ、君たちにも手伝ってほしいんだがいいかね?」

と尋ねている。マツコは胸を張って「いいわよ、マツオカの頼みだもんアタシはやります。・・・で、あんたはどうなのよ」とトメキチを見た。トメキチは後ろ足を舐めながら「うん、あの人たちちょっと怖いけど僕も頑張るから。一緒にがんばりましょ、マツコサン」といった。

その様子を見ていた松岡中尉は一人でうなずいて

「よーし、じゃあ私は明日同期の彼女に連絡していつ蝙蝠を持って行ったらいいか相談しよう。早く南方に返してやらないと日本のこの寒さは彼らの体によくないといけないからね」

と言って、マツコは「マツオカって人道的ね。そこへ行くとあの野田って女!しょうもない奴よね」とため息をついている・・・。

 

その晩は久しぶりに分隊士の下宿に行き、そこの女主人とも再会を喜び合った。女主人は

「フーチャンもオトメチャンも、元気でよかった。海軍さんは連戦連勝じゃけえ安心しよったがほいでも顔を見るまでは安心できんかったけえね。これでおばさんも安心して眠れるわ」

と言ってかすかに涙ぐんだ。その顔を見てオトメチャンも涙ぐんでしまった。その晩は遅くまであれこれ語り合った三人であった。

そして翌朝、日が昇ってすぐに麻生少尉と見張兵曹は下宿を出て、見張トヨの墓参に向かった。兵曹は今朝がた女主人が摘んでくれた庭の草花を手にしている。その草花を愛おしげに見つめるオトメチャンに心ときめく麻生少尉である。

昨晩は疲れも出てオトメチャンを抱くことができなかったのが心残りではあるが内地での碇泊は今回はけっこう長いものになるらしい、とトレーラー出航後航海長に聞いていた。麻生少尉は(今度の碇泊がずっとずっと長かったらええのになあ)と思っている。見張兵曹も(今度はいつまで居れるんじゃろう。出来れば桜が咲くまで居れたらええのに)と。

そんなことを想いつつ二人はなんとなく黙って山を登る。その中腹にある墓地に、見張トメ兵曹の生みの母親、見張トヨの奥津城がある。小さいが心のこもった墓。今は亡きオトメチャンの父親が愛するトヨの為に建立したもの。

オトメチャンの父親・洋二郎とトヨはいわば不倫の関係ではあったが洋二郎は愛のない家庭よりトヨを選んでいた。が、トヨはトメを産んだあと産後の肥立ちが悪くついに帰らぬ人となった。そのあと見張の家に引き取られたトメは、継母や腹違いの姉たちにひどいいじめを受けるのであった。が、自分が「不義の子供」と知った後では兵曹は(あの仕打ちも仕方あるまい、所詮うちは生まれてはいけん子供なんじゃけえ)と諦観していた。しかし不義の子とは言え、両親の間には真実の夫婦より固いきずなが横たわっていたことを兵曹は知るに至って考えを変え、生まれたことを感謝するようにさえなったのだった。

 

二人は白く息を吐きながら見張トヨの墓を目指した。靴の下で、霜柱がサクサクと崩れる音がする。立木も今はその葉を落としているので見通しの良い墓地、トヨの墓が見えるところまで来た時先を歩いていたオトメチャンが「あ?」と小さな声をあげて立ち止まった。

麻生少尉が「どうした?」というとオトメチャンは片手をそっと上げて、行く手を指差した。指差した先には見張トヨの墓がある、その前に。

 

一人の海軍士官がしゃがみこんで合掌している。線香の香りが流れてきて麻生少尉と見張兵曹の鼻腔をくすぐった。

暗くて誰だかよくわからない。が、その人物は二人が数メートル後ろにいることさえ分からないほどに熱心に墓に祈りをささげているようだ。

(一体、誰じゃろう)

麻生少尉も、見張兵曹もそう思ってじっとその背中を見つめている。オトメチャンには自分の母親の墓をこれほど熱心に拝む人間に心当たりはない。第一、母親の墓がここにあること自体知っているのは麻生少尉と自分、そして墓の場所を教えてくれた海軍航海学校時代の恩師・西田教官の妻サトだけである。サトは昔から見張洋二郎とトヨとは親しい関係で、この二人の事情をよく知っているからやたらと墓の場所を口外はしないはずである。

(一体誰じゃろう)

再びオトメチャンが思ったその時、その人はやっと腰を上げた。そして墓に一礼するとゆっくり踵を返し、こちらを向いた。海軍士官の一種軍装だ。

その顔を見たオトメチャンがはっと息をのんだ。同時に士官もハッとした顔でこちらを見つめまるで金縛りにでもあったように動かなくなった。

数瞬の後、オトメチャンのその可憐な唇から驚きの言葉が漏れていた――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりに麻生・見張のお話です。が、なんだか不穏な始まりの予感です。一体この海軍士官は誰でしょう。何か――起きそうなそんな気がします。


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Comments 4

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
肝心なのはやはり「中身」の強じんさ・・・なんて^^!
「女だらけの海軍」の連中、なんだかんだスッタモンダもありますが心の底辺では絶対嫌いあったりしていません。そこを読みとってくださったことに感謝です。

オトメチャンの母の墓前にぬかずく人は一体!
どうぞ次回をご期待くださいませ。

今日の東京すごい大雪でベランダが雪山になっています!一日店の前の雪掻きでづつうになりました(^^ゞ。

2014/02/08 (Sat) 21:54 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

こんにちは。
ゴムかぶと、ですか。兜のように強いのはゴムではなく中身であってもらいたいものですよね。あらら、失礼。それにしてもいつもながら人間味あふれるてんやわんやが逆に愛しく感じます。みんな何やかやと言ったりイタズラしながらも心の底では労わり合っていますもんね。

さて墓前で見た人は?? オトメチャンの元??でしょうか。可愛いオトメチャン、麻生さんとの板挟みにでもならねば良いがと空想を膨らませております。

2014/02/08 (Sat) 13:06 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます!
いやあ雪になりましたね・・・23区のはずれにある我が家では結構な積雪です。
オスカーさんはお昼過ぎの出勤ですか…ちょっとでも降り方が緩くなってくれるといいですが・・くれぐれも転倒にはご注意くださいね!

さて。
麻生とオトメは一体だれと会ったのでしょうか。緊迫の次回をお楽しみに!

2014/02/08 (Sat) 08:42 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  

おはようございます。雪ですね~思っていたより積もっていないし、今はやんでいるっぽいのですが…私が出掛けるのは昼過ぎ…う~ん、転ばないように気をつけなくでは!
今度のお話はまた複雑な人間模様が展開しそうで、ドキドキしています~無言で歩くふたりの姿が映像で浮かんできました!! 美しい光景でありますね。続きがとても楽しみでありますが、ムリはしないで下さいね。お身体に気をつけて下さい。

2014/02/08 (Sat) 08:08 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)