2017-09

「女だらけの戦艦大和」・白無垢の航海長1 - 2014.01.30 Thu

その日の夜から片山航海長はそわそわしていた――

 

花山掌航海長が「航海長、いよいよ明日ですねえ!」と言って、操舵員長の三田村兵曹もニヤニヤしている。三田村兵曹は

「ええですねえ、航海長。明日ご結婚なんでしょう?うらやましいですのう、私もはよう結婚したいもんですよ・・・ウフフフ!」

と言って航海長を照れさせる。掌航海長が

「ほうじゃ・・航海長の結婚式には誰誰が出席なさるんです?」

と聞くと片山航海長は右手の指の先を左手の指先でトントンと触れながら「ええと、梨賀艦長に野村副長。それに黒多砲術長に日野原軍医長。それから浜口機関長が出てくれますね。あと私の同期の連中が数名かな」と数えた。掌航海長は

「ほう、ええがいに集まりましたね。にぎやかな結婚式になりましょうな。しかし・・・ええなあ!」

とますますうらやましげである。片山航海長は

「花山さんも今年あたりいいお話があるんじゃないかなあ?それにほら、花山さんは家持ちだからね、引く手あまたかもしれないよ――ッてくれぐれもだまされないようにしないと。家やしき目当てで、って輩もいるらしいからねえ。ま、そのへんはこの艦には目利きがいるから平気だよ。迷ったら日野原軍医長にお尋ねしたらいいね、軍医長は患者を診る眼も確かなら男を見る眼も確かだからね」

と言った。花山掌航海長と三田村兵曹は顔を見合わせて

「ほう、じゃあ男選びで迷うたら日野原軍医長をおたずねしたらええんじゃね、心強いわあ」

と言って笑う。笑い収めてふと、時計を見やった三田村兵曹は

「航海長、もうお休みにならんと。明日はお早いんでしょう」

と言って航海長を見た。航海長は「おお。それでは申し訳ないが先に休ませてもらうよ、それで明日から二週間ほど休暇になるからその間よろしく」と言って、花山・三田村の二人は敬礼して

「よい休暇でありますようお祈りいたします。・・・航海長、はようお休みにならんと明日の化粧の乗りが悪うなりますよ」

と言って三人は別れた。

 

この年は最初からおめでたい話がある年で片山航海長の挙式をはじめとして、何名もの士官下士官が見合いを控えている。「見合いを勧められている」というのも入れたなら相当数に上る。梨賀艦長は

「ふーん、今年の暮れまでにこの艦は<奥様>だらけになるんじゃないかねえ。嬉しいことだけど心配もあるけどね」

と言っていた。心配とはとりもなおさず「おめでた(懐妊)」である。懐妊がわかったらとりあえず退艦であるからそのあとの補充がたいへんになる。「かといって、子供を作るななんて言えないよね」と艦長は笑ったが実は「女だらけの海軍」にとってはかなり深刻な話ではある。が、そのへんは皆上手くやっている――とだけ言っておこう。

ともあれその晩私室に帰った片山航海長は胸の高まりを抑えきれなかった。(眠れないなあ、困ったな)と思って少しいらいらしたが、考えを変えて(そうだ、読みかけの本をこの際だ。最後まで読もう)と思ってベッドの中で本を開いた。だがしかし、十五分ほどで耐えきれないほどの睡魔に襲われ、航海長は本を閉じ電気スタンドを消すと一気に眠りの中に落ちて行ったのだった。

 

翌朝、片山航海長はまだ暗いうちから目を覚ましていた。〇四〇〇(午前四時)になってそっとベッドから身を起こしてデスクの前に座り、電気スタンドを点けた。今日持って行くべきものの点検をして――と言ってももう昨日完璧を期していたのですべきこともないのだが――頬づえをついてほうっと息をついた。

今日で長年親しんだ<片山>の姓ともお別れである。少しの感傷が航海長の胸をよぎった。(誰しもそう思うのだろうか、嫁ぐ日には。片山でいられる時間もあと少し・・・)航海長の脳裏に幼いおろから今までの思い出が去来した。机の上の両親兄弟と一緒に撮影した写真の入った写真立てを手元に持ってきて眺めて

(娘時代は幸せだった。両親ときょうだいに囲まれて何不自由なく育ててもらってこうして海軍に奉職できたのは両親のおかげ。本当にありがたいことだと思っています――お父さんお母さん。これからは私が家庭を作る番です。お母さんのように出来るかどうかわからないけど、いつかお母さんは言ってくれましたよね『私の娘なんだから出来ますよ』って。海軍士官の身で何処まで家庭を上手にやりくりできるかは分からないけど、あの人と一緒に頑張ってみます)

と片山航海長は思った。そして、もう一つ裏返しにしてある写真立ても手元に引き寄せた。表に返すと夫となる男性の全身写真が入っている。海軍工廠の技術大佐である。

海軍の女将兵の夫は工廠の技官や兵学校の教官が多い。それはやはり他の職業の男性では妻の仕事を理解できにくいからであろう。航海長の夫となる人も、持ち込まれた見合い話である。結婚の気配のない娘を案じて父親が東奔西走したおかげできた見合い話、当初航海長は

「いやだ、見合いなんぞ。大体が私のような武骨な女、もらってくれるような人なんかいない。絶対しない、結婚もしない!」

と嫌がっていたが母親に「まあ会うだけ会ってみなさい。いやならことわりゃいいんだし」と押し切られ見合いの席に着いたのが前の内地帰還の時。写真で見たときとはちがって明るい男性に航海長は一瞬にして心奪われていた。男性は航海長の仕事をよく理解して航海長をねぎらった。お互い海軍同士ということで気兼ねせずに話ができたのは航海長にとってもその男性にとっても良いことだった。二人は意気投合し見合いの翌日には間に立った人を通じて

「ぜひ片山さんと結婚したい」

ということが伝えられた。航海長は喜んだが「私はなかなか内地に帰れません、それでもいいのでしょうか」と尋ねたが相手は「構いませんよ。その辺は私はよくわかっています、私はあなたが気に入りましたからぜひ一緒になりたいのです」と言ってきた。

その時はもうトレーラーへの出発が間近だったため「この次内地に帰艦したらいの一番に」と堅い約束を交わしてそして今日に至った。

(今日・・・あの人の花嫁になる)

片山航海長の胸は高鳴った――。

 

その日の〇九〇〇(午前九時)片山航海長は梨賀艦長、野村副長、森上参謀長他各科長に見送られて舷門前にいた。

航海長は

「しばらく休暇を頂戴いたします。何かとご不自由をおかけしますがどうかよろしく願います。艦長、副長・・今日はよろしく願います」

と言って敬礼。艦長は深くうなずいて

「今日はおめでとう。この通り日本晴れの良き日となりましたね。あとから我々も行きます、花嫁姿を楽しみにしています。では気をつけて、ごきげんよう」

と言って副長以下一斉に敬礼。航海長は敬礼の手を下し、一同ににっこりとほほ笑んで舷梯を降りて行った。内火艇に乗り込む航海長を皆は「帽振れ」で見送った。見送りの列にいた花山掌航海長は

「いいなあ、航海長。いいなあ、私も結婚したいなあ」

とひとりごち、隣の山口通信長が帽子を振りながら「大丈夫、あなただってきっといい御縁がありますよ。焦っちゃだめです!」と言って掌航海長を見てほほ笑んだ。

片山航海長を乗せた内火艇は、一月の凛と張った空気を切り裂いて軽快に上陸場目指して波を蹴立てて行く。

 

それから数時間後、今度は梨賀艦長、野村副長森上参謀長他が内火艇に乗り込んで上陸場目指す。

それを防空指揮所で見送る形の見張兵曹、麻生分隊士に小泉兵曹がいる。見張兵曹は「航海長、御結婚じゃそうですね。ええですねえ・・・結婚」となんだかうらやましげである。小泉兵曹でさえ指揮所の囲いに両手を掛けて内火艇を見送りながら

「ええのう、うちも式に呼ばれたかったわ。航海長がどんとな花嫁さんになるか見たかったわあ」

と言っている。麻生分隊士が「航海長に言うておいた、結婚式の写真が出来たらいの一番に航海科の連中に見せてつかあさいね、て」と言って見張兵曹が「分隊士さすがじゃ、かっこええ」と言って微笑んだ。小泉兵曹が呆れたように

「何処がかっこええんじゃ・・・」

とつぶやき麻生分隊士に「なんじゃと!」と睨まれてしまった。それでもめでたい日のこと、麻生分隊士はなんだか可笑しくなって笑いだしてしまった。

オトメチャンに小泉兵曹も笑いだし、三人の笑い声は内地の空に広がって行ったのだった――

   (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

片山航海長、いよいよ結婚式を迎えます。

軽いマリッジブルーのようなものもあったようですがでも心浮き立つ結婚式!次回は航海長の結婚式の模様です。

 

本文とは関係ない写真ですが・・・いただきものの「暴走」じゃない「房総サブレ」です。
DSCN1307.jpg

開けると――オオ!箱の中ぎっしり入っていますね~これは嬉しいぞ!!
 
DSCN1308.jpg
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● COMMENT ●

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
なぜかどうしてか結婚式というと嬉しいような心浮き立つ気分になりますね!
ほう、ご子息は神社での挙式をお望みですか^^、ぜひ!なさってください。日本の伝統を継承いたしましょう~~♡
私にも従妹が4人はいたはずですがどれもこれも婚期をすっかり逸してしまったようです。残念なことにお呼ばれはもう望み薄(泣)。
かといって自分の娘だと・・・ね(^^ゞ。
国際結婚でも白無垢って素敵ですね♪日本人にはやっぱりしっくりくる式服ですね^^。


結婚式の様子を明日にはアップできると思います、どうぞお楽しみに!ぜひまたご来店?くださいませ~!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
そして「おかえりなさい」お疲れさまでした。急なことで本当にお大変でした、くれぐれもお疲れの出ませんように。

そうですね、昔は花嫁さんを街中で見かけるのはそれほど珍しいことではなかったですね。chっと昔の「サザエさん」にも出てくるくらい普通なことだったのですが・・・

オスカーさん、いつもお心にかけてくださってありがとうございます。あなたの優しさがいつもうれしい私です。
こちらこそまたよろしくお願いいたします!!

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
お返事遅くなってごめんなさい!

そう、このシャチは「鴨川シーワールド」ですね~^^、私も子供たちが小さいころよく行ったものです。また行きたいなあと思います!
そういえば・・・今もあるのかしら、「房総タクシー」というタクシーが走っていて「房総・・暴走!」といてと大笑いしたことがあったのですがあれが鴨川だったか・・・記憶は定かではないですが確かにそういう自動車走ってましたね~。
すっとこ姉さまもまたぜひ!シーワールドにいらしてみてください!そーだ、白イルカショーを思い出しちゃった^^!

片山航海長の挙式の物語、あすにもアップしますね!

こんにちは!

楽しい雰囲気がいっぱい詰まった感じで、読んでいるこちらもウキウキしてしまいますb
結婚式、うちの息子は神社でやる!と言っておりますよw
あの濃い顔で(笑)

私は国際結婚ですけど、白無垢でしたw
なんだかいいですね~結婚式って。
そういや最近、どこからもお呼ばれしてないww
同年代はほとんど済んでしまったし、残るは子供の世代でしょうかね。
なんだか楽しみですね~^^

引き続き結婚式の模様を楽しみにしておりますb
最近、携帯でこちらに飛ぶ事ができるようになったので、時間がある時は少しずつ読ませてもらってます。
ただ…ガラ携なのでコメントが打ちにくい←

また来ます~^^

こんにちは。実家のすぐ近くに美容院があり、小さい頃はよく花嫁さんを見に行きました。今は式場で…がほとんどで町中で花嫁さんって見ないのが寂しい…。

いろいろとお気遣いいただきありがとうございました。見張り員さまはがんばり屋さんなので、お身体がとっても心配です。ご家族の皆さまもどうぞ健康に気をつけて…仲良く楽しく暮らして下さいね! またよろしくお願い致しますm(__)m

なるほど!

暴走サブレ!に萌えますた笑。

なるほど暴走シャチもジャンプしとりますね。
はて房総の海にシャチがいたかいな・・・と
思ったら鴨川シーワールドでしょうか。

娘がまだよちよち歩きの頃シーワールドへ
行きました。帰りだったか海岸に寄って初めて
波を見た娘が怖くて泣いてる写真があります。
足元を波に洗われるのがおそろしかったようで笑。

片山航海長、どんな結婚式でしょうね?ワクワク。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
「結婚」そのものより「結婚式」に憧れました。
白無垢のうちかけが夢でしたね^^、あれって本当、重いんですよね。刺繍が施してありますし色打ち掛けとなるとぐんと重さが増します。かつらや簪などで首筋が痛くなりましたっけ。普通の振り袖とは違って普段は威勢の良い女の人も粛々と歩くしかなくなりますw。
その点洋装は気軽ですし特に「重い」ということもないので楽ですね。

次回をお楽しみに^^!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
結婚は女にとって――いや男性にとってもですが――人生の一大事、その一大事に関し気心知れた仲間たちに祝ってもらえる航海長は果報者です。

まろにいさまが好きだとおっしゃってくださったこの文はその光景を脳裏にはっきり思い描いて書きました。一月のこの空気、寒いですが好きですね、背筋がしゃきっとします^^!
結婚式の様子をお楽しみに^^。

一月、あっという間でしたね。さらに二月はもっと早く終わってしまうのでしょう・・・暖かいですね。これでまた急激に寒くなったら風邪がぶり返しそうです(-_-;)・・・。
にいさまにとっても穏やかな二月でありますように。

女性にとっての結婚式、憧れでしょうね。お相手の男性もさることながら、花嫁衣装は女性にとって夢を持たせてくれるでしょう。当時のことですからもち論白無垢の打掛でしょうね。
展示しているお店の衣装を手に取らせていただいたことがありましたが、思った以上に重いんですね。それにかつらや笄で頭は重くなるそうで、花嫁さんも体力が必要なんですね。静々と歩いてる花嫁さんを見てると、女性らしく垣間見られますけど、あれはそうせざるを得ない状況だったんですね。
今は婚礼衣装に憧れるといってもウェディングドレスが多いようですね。次回の結婚式楽しみにしております。

嫁ぐ人を見送るみんなの気持ちが其処此処にあふれていますね。まるで素敵なドラマでも見るような光景です。
こんなにも優しい人たちから見送られて花嫁になる片山航海長は幸せですね。
>片山航海長を乗せた内火艇は、一月の凛と張った空気を切り裂いて軽快に上陸場目指して波を蹴立てて行く。
この情景は洵にもって日本人の精神を疼かせるそのものようで僕は好きです。
さて結婚式。楽しみにしていますよ。

一月も今日で終わりますね。新しい年明けから一ヶ月経ってしまいましたが暖か過ぎて実感も湧かず。
きっと寒さが戻ることでしょうが二月も平穏な見張り員さんの暮らしでありますように祈っています。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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