2017-10

「女だらけの戦艦大和」・あなたの胸は私の船渠(ドック)2<解決編> - 2014.01.28 Tue

日野原軍医長との話し合いと副長の診察を終えて梨賀艦長は森上参謀長との話し合いの日を早く持ちたいと思っていたー―

 

その時は思っていたより早く来た。

日野原軍医長と別れてたったの一時間ののちに、第一艦橋に戻った艦長に森上参謀長は言ったのだった。いわく、「野村の奴、なにをあんなに怒ってんだ?あいつ人の顔をまともに見やしねえの。まったく何考えてんだかなあ」。

梨賀艦長はむうっと怒りが胸元から喉へと突き上げてくるのを辛くもこらえて、深呼吸をすると

「だから言ったろう、貴様がしたこと!ちょうどいい、今夜話し合おうじゃないか。覚えていないならいないでいい、副長の口から言わせる。そして今後の酒の管理の方法も話し合う!」

と怒鳴るように言った。森上参謀長はさすがに驚いて「はあ・・・そうかい。いいよ」と承諾、艦長は日野原軍医長と副長にも声をかけてその晩艦長の部屋で話し合いを持つことにした。

副長はそれを艦長から聞いて気乗りしない顔をしたが「わかりました。これで納得ゆく話し合いが出来たらいいと思いますが」と言ってファイルを抱えて下甲板へと降りて行った。

日野原軍医長は「今夜ですね、いいですよ。森上大佐のお心うちも知りたいですし酒の管理もきちんとしたいですからね。わかりました」と言って微笑む。

艦長は「お手数をおかけして申し訳ないですがよろしく願います」と言って軍医長の部屋を後にした。

 

その夜。

巡検を済ませた副長がまず一番に艦長室を訪れた。「野村です」の声に艦長はあわててドアを開けた。副長はそっと一礼して艦長に手をひかれて中に入る。

「まだ軍医長はお見えではないんですね」と副長は言って、勧められた椅子に座った。艦長はその前に置いた椅子に腰を下ろすと「ああ、軍医長は急患の診察があってね。少し遅れるそうだ。森上大佐はそろそろ来るだろうね」といい副長の顔をそっと見た。案の定副長は<森上大佐>の言葉に少し身を震わせた。が、何事もなかったように装って「そうですか」と小声で言った。

艦長従兵のオトメチャンが紅茶を運んできた。艦長は「ありがとう、日野原軍医長と森上大佐が来たらまたお願い」と受け取ってオトメチャンは静かに一礼して出て行く。

その紅茶の一つを副長に渡し、艦長は「いい香りだね」と言って微笑んだ。こわばった表情だった副長の顔が少しほころんだ。そして二人は静かに紅茶を喫した。副長が

「オトメチャンは紅茶の淹れ方が上手いですね」

といい艦長も「ああ、絶妙だ。今までのどの従兵より上手だよ。天性のものだろうか」と言ってまた紅茶をすすった。静かな時が流れた。

その静寂を破ったのはドアをノックする音と「こんばんは、日野原です」という声であった。「どうぞ」という艦長の声にドアが開き日野原軍医長が顔をのぞかせた。とその後ろから「申し訳ない、遅刻遅刻」と森上参謀長がやってきた。副長の顔が緊張感を帯びた。

二人がソファに落ち着くとオトメチャンがさらに二つの紅茶を運んでくる。それを受け取った艦長は

「今夜はもうこれで終わりだよ。当直もあろうから帰りなさい」

といいオトメチャンは「それでは本日はこれにて。お休みなさいませ」と言って皆に敬礼して出て行った。パタ、とドアが閉まりオトメチャンの足音が遠ざかってゆくのを確認して艦長は

「日野原軍医長、今日はお忙しいところ大変申し訳ないですが・・・ぜひ我々と一緒に考えていただきたいことがあります」

と話を切り出した。艦長は言葉を選びつつ先日の森上大佐の副長への暴行や、今日の暴言をやんわり非難した。そして、正体失くすまで酒を飲み副長へ暴行を加えさらにそれを酒の上のことと正当化するのはいかがなものかと問うた。さらに

「森上はそんなに副長が嫌いなのか?今まで良好な関係と思っていたのは私の勘違いだったのか?しかし同じ艦の中で暮らす者同士たとえ気が合わないとしてもうまく付き合うのが本当ではないか、大人げなさすぎる」

と問い詰めた。日野原軍医長は黙って森上大佐の横顔を見つめている。森上の表情に変化が現れたのはそれから数分後である。森上大佐はふっと息をつくと

「酒は飲んだよ。飲んだが記憶はあった。正体失くしたってのは嘘だ」

と言った。副長が驚きの目を瞠り、艦長と日野原軍医長は互いを見交わした。森上大佐は紅茶のカップを手にしてそれを見つめながら

「ちょっとした個人的な懊悩があった。苦しかったよ、それを乗り越えられないかもしれないと思った時野村の顔を見たら何の悩みもない顔をしてるのがどうしようもなく癪にさわった。あの大会の時周囲の興奮もあって野村の手を握ったらハッとしたような顔をしてこっちを一瞬見た、それを見た時こいつを思い切り困らしてやろうと思ってしまったんだ。こいつが梨賀とそういう仲ってのも知ってたし、だったらそこから突いてやろうと思ってさ・・・。

で、前にがめておいた一升瓶をあおって酔ったような風を装って野村を部屋に引き込んだんだ。野村を滅茶くちゃにしてこいつが泣きわめくのを見て自分の懊悩を解消しようとしてたんだから――馬鹿なことをしてしまったよ。悪いことをしてしまったと思いながら素直に謝ることが出来なかった自分が恥ずかしいというのか気不味くてあんなことも言ってしまった・・・・本当に悪いことをした・・・」

と告白した。副長は下を向いている。

日野原軍医長は穏やかに、

「森上大佐、あなたのその懊悩とやら、若し差し支えなければお聞かせ願えないでしょうか?」

と言った。そして「いや、個人的なことをこの場でうかがうのはどんなものかとは思いますが決して口外しませんし・・・あなたのその懊悩をこの場の皆で共有できたらもしかして軽くなりませんか?そういうものを一人で抱え込んでも何の解決にもなりませんし、御自分でもいやだと思うのですが。そして、こう言っては何ですが今回のような事案の再発を防ぐためにも良いと私は思います」

と森上大佐に諭すように言った。

森上大佐は黙ってカップを見つめている。その彼女を梨賀艦長が見つめ、副長は下を向いたままである。ややあって森上大佐はカップをテーブルの上にコトンと置いた。そして姿勢を正すと

「軍医長、私は今から独り言をいいます」

といい置いてから語り始めた――

 

私にはごく小さい時からそばにいた男性がいたんだ、幼馴染というのかな、きょうだいのように仲好く過ごしそして長じてからは自然に恋心を抱くようになった。そして「いずれ結婚をしよう」といい合うようになったんだ。そして私は海兵に入り幼馴染は大学に行き卒業後は県庁に勤めた。

私は海兵卒業後皆も知っての通りの経過を歩んできた・・・当然手紙のやり取りもあったし休暇が出れば会ったりもした。結婚の話をほんとは勧めたかったんだが向こうも勤め始めたばかりでそれどころではなかったみたいで、結婚の話は口約束のままだった。

で、長いこと時間がたって・・・内地に来る直前実は幼馴染から手紙が来たんだ。久しぶりの手紙で、私は正直「いよいよ結婚の話を」具体的にするのではないかと浮足立ってしまった。

でも封を切って中を読んでみたらごくありきたりの時候の挨拶と、職場の女性と一緒になるということが書いてあって――仕方がない私たちの結婚の約束は単なる口約束、親同士に紹介し合った仲でもない。私もきちんと結婚をしたい、という意思を明確にしておけばよかったのだが・・・

そんなことがあったので何か私は面白くなかったしつらかった。でも誰もそんな私の心の内を知らないし知らせるようなことではない。でも――やはり悔しくて悲しくて。

誰かにこの悔しい思いをぶつけたかった。誰でもいい、だが兵隊にそれをストレートにぶつけることはためらわれた。上に立つ者として自分の感情を兵隊にぶつけるのはしてはいけないと思った。だから、というわけではないが――一番手近の野村にぶつけることにしたんだ。梨賀もいないしちょうどいいと思ってしまった。と言って別に野村を嫌いとか何とかいうんじゃなくて・・・私には逆らえないだろうという確信があったからね。

あとはさっき話した通り。悪いことをしてしまった、野村中佐本当に申し訳ない。許してはもらえないと覚悟はしている。あとは野村中佐次第だ。

 

そして森上参謀長は「独り言をいいました」と言ってカップの中の紅茶をそっと飲んだ。

日野原軍医長が副長を見ると彼女はいつしか顔をあげて森上大佐を見つめていた。梨賀艦長も森上を見つめている。すると副長の唇がかすかに震えた、そして絞り出すような声で

「参謀長・・・そんな苦しみがあったならどうして言ってくれなかったんです?同じ艦で同じ釜の飯を食う間柄じゃないですか、たとえそれが個人的なことであっても相談してほしかった。私は参謀長が人知れず苦しんでいるのを助けてあげられなかったことに悔しさを感じます。

――参謀長、もうこの件水にしましょう。私は参謀長の心の内がよくわかりました。どうにもならない現実から逃避したかった、そういうことだと思います。人間そういう時もあるでしょう、ね?日野原軍医長。だからもういいんです、私もちょっと大騒ぎしすぎました。もう無しにしましょう」

と言って参謀長の手に自分の手をそっと重ねた。日野原軍医長は

「と、副長はおっしゃってますが――参謀長そして梨賀艦長はいかがですか?」

とそっと言った。森上参謀長の双の瞳に涙が盛り上がった。そしてそれは滂沱として流れ落ちた。副長の手をしっかり握ってすまんすまん、許してくれるのかと言って泣いた。副長も涙ぐみながらうなずいている。

梨賀艦長も参謀長の肩にそっと手を置くと

「よくわかったよ森上。そういえば昔、結婚を考えている人がいると言っていたね。結果は残念だったがまだ若いから先はあるよ。焦ることはない、じっくり探せよ。な!」

と言って、森上参謀長は泣きながら「子供がいる奴に言われたくなーい」と言って皆は笑った。日野原軍医長はやれやれ、と言って紅茶を飲み干したあと

「そうだ艦長。幹部連中の酒の管理に関してはどうしますか?必要なら主計長にも声をかけないとなりませんが」

と尋ねた。すると艦長は機嫌よく

「その必要はないですよ軍医長。みんな自分の酒量は自分で管理できるのですから。御心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

といい、参謀長も副長も改めて軍医長に敬礼をした。軍医長は「照れるからやめて!」と言って艦長室を出て行こうとした。ドアを開けかけてフッと立ち止まった軍医長は振り向くと

「皆さんお互いの胸は憩える船渠(ドック)のようなものですね。それが一番、何より何より!」

というとドアをそっと閉めて行ったのだった。

 

「梨賀、貴様の胸は副長のものだ。私は新しい<憩える船渠>を探すよ。心配すんな、大丈夫だから」

参謀長は笑顔でそういうと、梨賀艦長と副長をくっつけるようにして「じゃ、お休み!」と部屋を出て行った。その場に残った艦長と副長、少し気恥ずかしげに立っていたが梨賀艦長が

「ツチー」

と副長をその胸に引き寄せた。副長はその胸に身を預けると

「軍医長のおっしゃる通り・・・あなたの胸は私の船渠(ドック)です・・・」

と言ってまぶたを閉じた。そのあとも長い時間二人はそのままでいたのだった――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参謀長そんな心の葛藤があったのか・・・日野原軍医長の問いかけが功を奏したのでしょうか。でもよい方向に向かってほっとしましたね。

結婚の約束はきちんと婚約をしておかないといけませんね。口約束は危険だ!!

 

懐メロにはなりましたが今聞いてもとても「新鮮」で清純な歌で大好きです。伊藤咲子さん「乙女のワルツ」


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
思い遂げられない辛さは、私も50年生きてきた中で何回かありました。辛い涙を流した夜もありましたね。どうしてこの心が伝わらないのかなあ~なんて切ない思いに胸を焦がしたあの日が今では懐かしいです。
森上大佐、大佐という階級ゆえの思いの辛さがあったのでしょう・・・ただそのぶつけ方がいけなかったですね。
日野原軍医長がその辺をうまく丸めてくれたのが何よりでした!

東京は午後、久しぶりのお湿りがありました。このところまとまった雨がなかったので喉も少し楽になりました。いつもお心にかけていただきありがとうございます、にいさまも御身大切にお過ごしくださいね^^。

思いを遂げられぬままというのはつらいことですね。
50年生きているなかでいくつか思い当たる古傷があります。もう痛くもなくなりましたがその当時は心の奥底まで痛みが走り、遂げることのできない苦しみにもがいたものでした。
相手は心を持つ人間。心が届かなくなったり闇に消えたりするとジタバタしたものでした。
決して恨みには思いませんでしたが暫くはつらかったですね。
きっと森上さんだって泣くに泣けない思いをついついぶつけてしまったんでしょうね。

穏やかな人格者が側にいてくれるって心強いですね。日野原さんの魅力ある人間性にこの場が救われました。

大分は朝から雨です。きっとこの雨、東京にも届くのかなぁなんて思いながら濡れた外を見ています。風邪など引かないようにね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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