「女だらけの戦艦大和」・夜戦!3<終夜>そして新しい夜へ

長妻兵曹はそれを特に思いつめたようでもなく、意外にあっさりと戦友の小泉兵曹に告白した――

 

「小泉、うちは親に頼んで見合いをしよう思うんじゃ」

その言葉を聞いた小泉兵曹は思わず口をポカンと開けたまま長妻兵曹の顔をしばらく見つめていた。どのくらい時間が過ぎたころか、小泉兵曹はようやく言葉を発することが出来るようになって

「ナガツマ・・・あんた正気か?見合いって、あんたもう遊ぶのやめるんか?」

とこれだけをやっとこさ、言った。長妻兵曹は露天機銃座の方へ歩いてゆき、一基の機銃座の中に入り込んだ。そして射手席に座ると小泉兵曹を見て

「ああ。もう今までみとうに男と遊ぶんは控えようかなあ思うてね。・・・なんかむなしゅうなってな。まあうちもいろいろあってじゃ。なんだかうちは・・・。じゃけえうちはそろそろ身を固めよう思うたんじゃ。いうて貴様もそうしろ言うんじゃないけえ安心せえ」

と言った。小泉兵曹は機銃の砲身を挟んだ向こう側の回旋手席に座りながら

「なんじゃ貴様、なにがあったね?」

と言って長妻の方を見た。長妻兵曹は以前は「うちはもっと遊ぶ!いろんなところの男を味わいつくすで!結婚なんぞ先の先じゃ」と言ってはばからなかったのだ。小泉兵曹は

「もしかして貴様のねえさまが結婚しんさったけえうらやましゅうなったか?」

と照準器を触りながら聞くと長妻兵曹は激しくかぶりを振った。そして「そんとなじゃのうて」と語り始める・・・

 

うちがトレーラーのあの店の男を好いとるんは貴様もしっとろう?うちはずいぶんあん人に入れあげた。あん人がしたい言うことは何でも受け入れたよ。じゃけえずいぶん恥ずかしいこともさせられた・・ほいでもうちはあん人が好きじゃったけえ一所懸命じゃった。上陸した晩はもう・・・夜戦状態じゃったな。いろいろ尽くしたよ、あん人には。

じゃがあん人もやはり「ひと」じゃったね。心変わりしよったんじゃ。まあ・・・いつかはそげえな日が来るかもしらん思うとったがね、ほいでもあがいにあからさまじゃあ・・・。

多分その心変りの相手いうんは最近トレーラーの航空隊に着任してきた飛行兵曹じゃ思う。何せ航空隊は、格好ええもんね、しかも零戦の搭乗員ときたらもう花形じゃ。たぶんアッチの方の技術も上手なんじゃろう。あん人はその飛行兵曹と一夜を共にして・・・すっかり飛行兵曹の虜になったんじゃ。なんでわかるかって、そんなんわかるにきまっとろう?そのあとうちが行っても態度が全くちごうてじゃもん。あんなにあれこれしてくれた人がなんもしてくれん。事務的に済ませてさっさと出て行ってしもうた。

その時うちは思うた。

もうこげえな男といつまでつきおうてもどうなるもんでもない、却ってうちが損するんじゃなかろうかって思うた。じゃけえ、考えをうちは艦隊進路百八十度くらい変針したんじゃ。

うちは実家に頼んで結婚相手を探してもらう。うちは決めたんじゃ。

 

そう話す長妻兵曹の瞳には決意がみなぎっていた。小泉兵曹は回旋手席から降りながら

「ようわかった。ええ相手が見つかるよう祈っとるわ。・・・しかしそうなれば『大和の突撃隊員』の新しい隊員を探さんならんね」

といい、二人は笑った。

夜風が吹き抜けた――。

 

 

――梨賀艦長帰艦の夜となった。その日の午後『大和』に帰還した梨賀艦長は迎えに出た副長の様子が少しおかしかったのに気がついていた。(何があった?あとで呼んで聞こう)

そしてその晩、艦長は副長に「巡検が済んだら艦長室へ来るように」と命じた。副長は少しためらいの表情を見せたが「わかりました。では巡検後に」と言ってから甲板士官たちと巡検に出た。

一時間半ほどで巡検終了。掌長とあいさつを交わしてあと、副長は艦長室に向かった。少し心が重いのはやはりあのことのせいだろう。あれから森上参謀長は全く何事もなかったように副長に接している。それが副長には少し解せないのだが。

ともかく、副長は一種軍装に略帽のいでたちで艦長室を訪ねた。

艦長は「ようこそ副長!」と喜んで彼女を部屋に招じ入れた。副長がその身を部屋に入れるとお決まりのように背後でカギが閉まる。

副長は正面に来た艦長に

「お帰りなさい。東京はいかがでしたか?御家族にもお会いになったのでしょう」

と言った。艦長は副長にソファに座らせ自分もその横に座り「久しぶりの東京だったがそれほど変化はなかったよ。ただちょと寒かったね。同期の兄部の家に古村や平出と泊ってね、楽しかったな。子供たちもみな元気で言うことなしだった。――ツッチー、留守をしっかり守ってくれてありがとう」というと副長を抱きしめた。そしてそのまま

「で、ツッチ。その間何か・・・あったのか?」

と尋ねた。副長の身体がこわばった。その頃には艦長の指先は副長の軍装のホックをはずし始めている。

「あの・・・艦長、あの」

とあわてる副長、その服の前をすっかり開き素肌をあらわにした艦長は、その肌をよく見つめた。胸に傷薬が縫ってあるのがわかった。艦長は副長を荒っぽくソファに押し倒し

「いったい何、この傷は」

というと副長の傷ついた乳首をギュっ、指先で強く摘まんだ。副長が「あっ…痛い」と声を上げた。その彼女を残酷な笑みを浮かべつつ見下ろす艦長は

「誰にされた?私の留守に誰かとこんな傷が出来るようなことをしたんだ?噛まれたんでしょう、ここを。どんなふうにしたのかなあ、教えてほしいなあ」

というと彼女の着ていたものをすべて強引に脱がせてしまった。そしてソファに押し付けた副長の肩をぐいぐい押しながら

「言え、いいなさい。一体だれとこんなことをしたのか。言わないとひどいよ」

と責めた。遂に副長は泣きだして

「したくてしたんじゃない!無理やりされたんです、私は嫌だと言ったのに森上大佐が無理やり!」

と叫んだ。

「森上が?」と艦長は言って立ち上がると部屋を出て行った。取り残された副長は裸のままソファの上で泣いている。やがて艦長が参謀長を伴って戻ってきた。参謀長は部屋のソファに裸の副長が泣いているのに驚いて

「どうしたツッチー。そんな恰好で」

と声をかけた。艦長は厳しい表情で「森上、貴様どうして私のツッチにあんなひどいことをした!」と詰問した。

すると参謀長は「へ?あんなひどいことって私がツッチーに何したって言うんだね」と心外な、といった表情で言った。艦長は思わず参謀長のむなぐらをつかむと

「ツッチーを乱暴したでしょうが、ツッチーのここ!見ろ、噛み傷がついてるじゃあないか。貴様がやったとツッチーは泣いた。どうしてこんなこと・・・私の留守に・・・」

と怒鳴っていた。参謀長は「ちょっと待てや」と言って艦長の手を自分の胸から外させた。そして泣いている副長をソファから引き起こしその傷を眺めた。しばらく眺めていた参謀長は

「うー。覚えてねえ」

と言って副長はびっくりした。そして涙声で「覚えてらっしゃらないと・・・?」と言った。参謀長は副長の隣にどすっと腰を下ろすと

「ああ、覚えてない。あの日は羽根つき大会が終わってから酒飲んじまったんだ。なんか気分よくってさ、飲んでたところまでは覚えてるがそのあとは全く記憶がない。気が付いたら朝になってた」

と言って「まいったな、それにしてもそんなことしちまったとは」と副長の胸をつかんでしげしげ見つめた。副長は恥ずかしげに身をそっと引きながらも

「確かに参謀長酔ってらっしゃるようでしたが・・・私のことを『好きだ』とおっしゃって」

と言った。すると参謀長は

「お前を好きだって?まさか、なんで俺がお前を好きにならなきゃいけないの?馬鹿言ってんじゃねえよ。一回くらいあったからっていい気になってんじゃねえよ馬鹿。正体なく酔った俺も悪いけど」

と吐き捨てるように言って――今度は心とプライドの傷ついた副長はさらに大泣きすることになり、艦長は「もう!森上は出てって!しばらくの間ツッチーに近寄んないで」と怒って、それでも参謀長は

「酒の上のことだから水に流せ、願いまーす」

としごくお気楽な様子で言うと部屋を出て行ったのだった。そして、副長はずたずたのプライドを艦長に丁寧に修復してもらったという――

 

そんなうえの人間たちのスッタモンダも知らない麻生分隊士と見張兵曹は今夜、当直明けに電線通路でギンバイしてきた餅をろうそくの火であぶって食べている。誰か来ないか気にしながらの行為ではあるがそれがさらにスリリングで楽しい。今夜は見張兵曹が主計科の冷蔵庫を急襲して餅を六つ、『占領』してきた。手に汗握るギンバイ行だったとオトメチャンは言った。そしてその餅を口に入れながら

「分隊士餅はおいしいですねえ」と見張兵曹が言えば「ほうじゃのう、オトメチャンがギンバイしてきてくれたけえなおさらうまいわ」と分隊士がいい二人は顔を見合わせると「エヘヘヘ」と笑いあったのだった――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「夜戦」というには少しチンケでしたがこれはこれからのお話の導入です。これからそれぞれの「個人的な戦い」が始まります。岩井少尉、生方中尉、野田兵曹ほか、けっこう問題を抱えている乗組員多いです!

次回を御期待下さい。

 

三連装機銃(画像お借りしました)。
三連装機銃

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)