2017-10

「女だらけの戦艦大和」・夜戦!2<第二夜> - 2014.01.23 Thu

一方的な嵐のような時間が過ぎ去って、副長はそっとその身を参謀長の寝台から起こした――

 

参謀長はすっかり酔いが回ったらしく副長の横で大きないびきをかいて眠っている。副長はそれを見ながら

(いい気なもの。人をこんな目にあわせて)

と恨めしく思った。参謀長の寝台の横にはおシャレな彼女らしく小さめの鏡が掛けられている。それをそっと覗きこんだ副長は自分の髪の乱れを直した。そして視線を下ろすと胸にはひっかき傷。そして両方の乳首には小さな噛み傷。もう一度視線をあげると、参謀長に思いっきり張られた頬は赤く腫れている。

一体なんで自分がこんな目に遭わなければならないのかまだよくわからないまま副長はそっと寝台を降りた。と、足先に何かがあたった。見れば「皇紀26××年 迎春」と書いたラベルの付いた万福の一升瓶がからになって横たわっている。これは元日の幹部連中との年始の祝賀の席で出された酒。

(自室に持って帰ってたのだな)

と副長はそれをそっと机の上に置くと裸の体を軍装で隠しながらドアをそっと開けた。廊下には誰の気配もない、よし!と副長は素早く床を蹴って小走りに自分の部屋に飛び込んだ。

自室に入ってカギをかけると――なんだか情けなさに涙があふれて来た。そのまま自分の寝台に伏せて思い切り泣いた。

 

 

つめたい風吹く機銃座の中で松本兵曹長は、岩井少尉を抱きしめて悩んでいた。が、しばらく呻吟した後兵曹長は思い切って顔をあげ

「七日言うたら・・・あまり日がありませんけえ急がんと。ほいでもその日に決着をつけるいうんはむりですけえ、少尉、その日は単なる顔合わせくらいなつもりでいてつかあさい。

・・・ほうじゃ、うちの知り合いのやっとる喫茶店がありますけえそこに奴を呼びだしてみませんか?うちは奴に顔を知られとりますけえちいと離れた席から様子を見たい思います。ですから少尉はもう一回会う日と場所――場所もうちの顔馴染の旅館がありますけえそこで。そこで決着つけましょう。ほいで、そのやり方ですが――」

と言って少尉の顔を真正面から見つめた。岩井少尉はその奇想天外とも思える作戦に驚くでもなく淡々と受け入れた。

松本兵曹長の方が心配になって「少尉、ほんまにそのやり方でええでしょうか?ええでしょうか」と何度も念を押すほどである。しかし岩井少尉は

「ええよ、松本兵曹長が考えてくれた作戦じゃ。うちは喜んでさせてもらうで。ほいであん人がもううちのちょっかいを出さんなら喜んでするで。――然し兵曹長、詰まらんことに巻きこんでほんまに申し訳ない。許してつかあさい」

と言って喜びかつ、謝った。松本兵曹長は激しく首を横に振り

「そんなことないであります少尉。うちは、うちは岩井少尉のお役にたてるんなら死んでもええんです。うちは――岩井少尉が大好きですけえ」

と言って少尉の細身の体を思いっきり、力いっぱい抱きしめた。岩井少尉は抱きしめられながら

「嬉しい・・・松本兵曹長・・・。うちもあなたがだ―い好きじゃ」

と囁き、二人の影はいつまでも離れることはなかった。

 

 

翌日、関東にいる梨賀『大和』艦長は同期の皆に別れを告げて横須賀の自宅へと向かった。久しぶりに会う家族、子供たち――その顔を思い浮かべる梨賀艦長の顔には自然と頬笑みが浮かんだ。そして野村副長の顔も思い浮かべた。

(ツッチー、結婚するんだろうか。今回の内地帰還で見合いをするという話をしていたが。相手がいいひとならいいんだが)

そんな心配をしながら汽車に揺られる艦長である。

そして汽車は横須賀につき、艦長は周囲の景色を楽しみながら家まで歩いた。懐かしい家の前の通りに出た。少し向こうに二人の女の子がまりつきをして遊んでいる。そのうちの一人が

「あ・・・」

と言って棒立ちになった。もう一人の大きいほうの女の子も立ち上がりこちらを見つめていたが

「おかあさん!」

と大きな声で叫んで、二人はこちらに走ってきた。梨賀艦長は小腰をかがめて二人を抱え込んだ。そして「ただ今。内地に帰ってきたよ」

と囁き二人の娘は「わあ、本当お母さん?」と喜んだ。その娘たちにうんうんとうなずいて「さあおうちに入ろう」と艦長は家の門をくぐる――

 

家では艦長の母親と長男が「なんだ、帰ってくるなら知らせてくれればいいのに」といいつつもこれもうれしそうである。艦長はまず洗面所で手をよく洗ってから

「うん、でもね今回は二日だけ。また長い休暇を取って帰るからその時はまた知らせるよ」

と声を張り上げた。一番末の娘が艦長の一種軍装の裾を遠慮がちに引っ張って「お母さん。また行っちゃうの?」と聞いて来る。艦長は手を拭くとその娘を抱き上げ

「うん。でも今度はね長いこと日本にいるからまた来るよ。今日はねお母さん着替えもあんまり持ってきてないから今度来るときはいっぱい持ってきて華子とたくさん遊ぼうね」

と言ったので娘は納得したようだ。

その晩は、一家水入らずで楽しい夜となった。艦長が同期の平出に「これ、御家族に」ともらった牛肉の塊が子供たちを喜ばせた。長男の正明はことし中学入学を控えているがこの大きな牛肉には目をまん丸くして

「お母さん・・・これは一体なんというものでしょうか。で・・・これをどうしたらいいのでしょうか」

と言って皆を笑わせた。艦長は長男にわざと丁寧に

「牛肉というものでございますよ。そしてこれは、こうして食べればいいのでございます」

と言ってさらに大笑いになった。長女が無言で箸を使いながら

「おいしいね、お母さん、おばあちゃん」

と言って幸せそうにほほ笑んだ。次女も笑い、その顔を見ていた艦長は急に鼻の奥がつーんとしてきて困った。

その夜も更けて梨賀艦長は風呂を使った後、子供たちの寝息を聞きながら一人居間で茶を飲んでいた。母親が湯殿で湯を使う音が聞こえてくる。(平和だな)と思った。

ふと艦長は立ち上がり軍装のポケットから手帳を引き出し、開いた。家族写真と『大和』幹部との集合写真の間に<彼女>はいて、いつものほほ笑みを浮かべてこちらを見つめている。その<彼女>に艦長は

「もうすぐ戻るからね。待っていてくれ」

と囁いてからそっと手帳を閉じた。副長に会いたい、しかしこのまま子供たちとも一緒にいたいという複雑な感情の梨賀大佐である。

「ううん・・・おかあさーん」

次女の寝言が聞こえ、艦長はそっと子供たちの眠る部屋に入り次女の横に身を横たえた――

 

 

呉在泊中の『大和』艦内。

機銃分隊の長妻兵曹と航海科の小泉兵曹が露天甲板に座って夜風に吹かれている。長妻兵曹は

「貴様の上陸予定とか休暇の予定はわかるかね?うちはまだ決まっとらんのじゃが。はよう休暇もろうてゆっくり眠りたいわ」

と言って眼がしらのあたりを指先で押さえた。小泉兵曹はそれを見て苦笑しながら

「うちもまだじゃ。休暇のきまっとる奴なんぞえらいさんくらいじゃろうな。そういやあ艦長はもう休暇らしいで。ええのう、艦長は」

と言った。長妻兵曹がいやいや違うで、と手を横に振ると

「艦長はなあ、海軍省へ行ったんじゃと。はあ難儀じゃな、艦長にもなれば海軍省やらなんやら行ってへこへこ頭も下げんならんでね。まあ、休暇だ上陸はもうちいと先でもええわ。楽しみは先の方がええもん」

と言った。小泉兵曹はふーっと息をつくと

「はあそうね。艦長いうんは意外と大変なんじゃな。うちは兵隊でえかったかもしらんね。それよりうちははようあの見世に上がって遊びたいわ。あん人を指名して、な」

と言って笑った。

「で、さあ小泉」と長妻兵曹が言った、「うちはな、――」

その言葉に小泉兵曹は衝撃を受けていた。「長妻、貴様本気で言うとってか?」――

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それぞれの夜が更けて居ります。

久々の子供たちとの楽しい会食を楽しんだ梨賀艦長。でも心の片隅にはしっかり副長がいるのですね。そして長妻兵曹はいったい何を言ったのでしょうか?第三夜に続きます。

 

牛肉と言えば・・・私の気に入りのレトルト食品を御紹介いたします。

長崎空港で食べられる・買える『海軍さんのビーフシチュー』です!箱には<海軍佐世保鎮守府の司令長官であった、「東郷平八郎元帥海軍大将」が英国留学中に愛した料理は「ビーフシチュー」と言われています。野菜と果実の甘みを生かしたマイルドなソースに仕立て、ここ長崎空港で懐かしい味を再現しました。>と書いてあります。

その通り普通のデミグラソースとは一味、いやふた味も違いますが重くなくとてもおいしくいただけます。これとパスタを一緒に盛ってもとてもおいしいです!
DSCN1304.jpg

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは^^。
森上さん、最後までしてしまったようです・・・(-_-;)
これから艦長、愛しいツッチのために一肌脱ぐことになります。次回からはじっくり一人一人に焦点を当てて書いてゆくシリーズになります。ある意味、戦闘シーンより難しいかも(-_-;)。

艦長も家族と副長を天秤にかけることができるのでしょうか??
この先のシリーズをご期待ください!

最後まで……、やっちゃったんでしょうか。
目的が達せられたから高いびきで?? 微笑ましいというか頑是ないというか。
でも良心のかたまりのような人の副長の気持ちはどうなっていくのでしょうか。艦長の耳に入らなけ良いのですが。
そして家族と久々に団欒を味わっている艦長も子供と愛の狭間で苦しみそうな予感が。
それぞれの身に降りかかる第三夜が楽しみです。

そうだ!! 今夜はビーフシチューにします。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます^^
そう、何故かビーフシチューってハイカラで高級!って感じがしますよね。カレーはその点庶民的。
さあ食欲が満たされたら動くぞ~~って・・・^^。

三夜目はどうなりましょうか。
私のことですからまた長ーい話になるかもでございます(-_-;)・・・よろしくお付き合い願います!

こんばんは。
>ビーフシチュー
カレーよりもハイカラ度が高い気がするのはなぜかしら! 食欲が満たされたら次は…食後の運動ですかね~イエイエ、エロい意味では……(^.^)
第三夜はどうなるのでしょう~起承転結で言えば一番の盛り上がりの三番目!! 寒い夜もアツく過ごせそうです( ̄▽ ̄)ゞ


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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