2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地の正月、○○決戦!7 - 2014.01.19 Sun

マツコは、麻生分隊士と羽根つきを始めたオトメチャンを見つめていたがやがて衝撃の言葉を吐いた――

 

「あの小娘、きっと勝ち残るわよ。アタシの勘に間違いないわよ。あの小娘絶対勝つ」

それを聞いてトメキチは驚いてマツコの顔を食い入るように見つめた。そして

「え・・・ほんとに?マツコサン」

と言ったまま絶句してしまった。マツコはその頭のあほ毛をそよ風に吹かせていたがおもむろにうなずいた。トメキチはオトメチャンの羽根つきの様子を見た。お世辞にも上手な羽子板使いとはいえなさそうである。トメキチは

「ねえ、どうしておばさんはそう思うの?トメさんが勝ち残るって」

というと後ろ足で耳のあたりを掻いた。マツコはその金色の瞳をかっと見開くと

「また!アタシはオバサンじゃないって何度言えばわかるのよう!アタシはマ・ツ・コ!ハッシー・デ・ラ・マツコよ。――それはともかくあたしにはわかるのよ、ほかの連中は勝とう勝とうッて妙な執念が渦巻いてるんだけどあの小娘にはそれがないの。言って見れば<無欲>ってやつね。人間こういう勝負の時って無欲な奴の方が勝ち残るのよ。あの小娘には羽根つきとやらを楽しみたいって気持ちしかないわよ。賞品とか名誉が欲しいとかそんなことこれっぽっちもないわ。――見ててごらん明日の大会、絶対あの小娘の勝利よ。そしたらまた麻生が大騒ぎね」

と言って最後の方はホホホ・・・と笑った。

トメキチはマツコのその観察眼の鋭さに驚きの目を瞠ったままである。

 

そしていよいよ大会当日である。

この日は朝から無風状態で「羽根つき日和だな」と森上参謀長でさえ嬉しげに言ったものである。今日は交替で当直をこなして皆で羽根つき大会に参加となった。

会場の前甲板には、昨日花山掌航海長が買ってきた大きな羽子板と凧が飾られた。兵隊嬢たちは「わあ、正月らしゅうてええねえ!素敵な羽子板と凧、あれは誰のものじゃろうねえ」と喜ぶ。それを見てまた花山掌航海長は嬉しくてそのへんを飛び回る。

その掌航海長を「少し落ち着きなって」と押さえて片山航海長は

「では開会のあいさつは副長に願いましょう」

と言った。一種軍装で正装の各科長たち幹部が朝礼台代わりの通風口前に並ぶとすでに時遅しと待ちかねている将兵嬢たちは静まった。皆の視線が集まる中、副長が台に上がり皆を見回す。そしてにっこりとほほ笑むと

「今日は待ちに待った羽根つき大会である。この大会の趣旨は、発起人の松岡中尉によれば二年ぶりの内地の正月を楽しんでほしい、日本的情緒を思い切り感じてほしいということである。であるから皆もその趣旨を汲んで単に勝ち負けだけにこだわらないで正月の雰囲気も合わせて楽しんでほしいと思うものである。以上!」

といい皆は一斉に敬礼。副長も右手を上げ敬礼。

 

羽根つきの対戦は松岡中尉の改定案により分隊など関係なく兵員を東西に分けその勝ち抜きで最後まで勝ち上がった同士が最終決戦として対戦することになった、そして審判も松岡中尉。助手にマツコとトメキチがあたる。

西の一番目の対戦は高角砲の野田兵曹と航海科の酒井一水。野田はその大きな顔に不敵な笑みを浮かべて酒井一水を圧倒しようとしている。しかし酒井一水はそんな脅しには屈しない。事業服姿もりりしい一水は腰に手を当てて野田兵曹をにらみつけた。そして

「お手合わせ願います、野田兵曹」

というと一礼して羽子板を構えた。野田兵曹はこの時点で酒井一水の発するオーラのようなものに圧倒されている。野田兵曹の構えた羽子板が小刻みに震えているのを森上参謀長は幹部席から見て取った。そしてそっと隣の野村副長に

「なあ野村。ありゃこの時点で野田兵曹の負けだと思わない?あんなに震えてちゃだめだな。この勝負あったも同然」

と囁いた。副長は軍帽をかぶりなおして

「そうね、ここから見てもわかるくらい動揺してるねえ。でも参謀長、勝負はやってみなきゃ分からないって」

と言って勝負の場を見つめる。参謀長はちょっとその横顔を見つめて「・・・全くだね野村さん。その通りだね」と苦笑した。

松岡中尉が「お二人さん、用意はいいですかあ!さあー熱くなれよ、今日からあなたも富士山だ!」と叫んで試合開始。酒井一水の放った羽根を野田兵曹が受ける。その羽根を鋭い返しで酒井一水が跳ね返し、あわてた野田兵曹の伸ばした手の羽子板の端っこを掠り地面に落ちた。

「勝負あり、酒井一水!」

松岡中尉の声が飛んで野田兵曹は無念の敗退。酒井一水と礼を交わしてそそくさと場を離れた。誰かが「野田の得意なんは散らかすことだけじゃけえの。こげえな頭脳戦は土台無理なんよ」と言ってその周囲にさざ波のように笑いが広がった。

そのあと酒井一水は善戦したが二十八人目で機関科の椿於二矢子兵曹に敗れた。見事な椿兵曹の羽子板さばきに見学の皆からも幹部からも拍手が起き、酒井一水もさわやかな笑顔で

「いやあ、参りました!椿兵曹の技術は素晴らしい、今度教えてつかあさい」

と言って握手を交わし皆もさわやかな気分になった。

 

そのあと椿兵曹は百六十七人を簡単に負かし航海科の麻生分隊士と対戦。これが意外に実力伯仲の熱戦で四十五分の大試合となった。結果は麻生分隊士の粘り勝ちで椿兵曹はハアハアと息をついて頬を真っ赤にして

「麻生少尉の強さは本物です、うちはまだまだ!参りました」

と言ってほほ笑み、麻生分隊士も

「謙遜じゃ、椿兵曹は強い。うちはもうだめか思うた」

と言って笑い二人は握手をした。皆の間から大きな拍手が起こり松岡中尉が「麻生さーん、あなたすごいですねえ!ただものじゃないですね、さあその調子で熱くなって頂戴なっと!」と叫んで次は松本兵曹長。松本兵曹長は「うちはこげえなこと自信がない。麻生少尉御手柔らかに願います」と弱腰だったがなんなく勝ってしまい

「どうしたことじゃ、うちが麻生少尉に勝ってしまうなん、夢かもしらん」

と慌てふためく。その兵曹長に「松本兵曹長、夢でないけえ!しっかりせんね」と岩井少尉から声が飛び松本兵曹長はハッとしたような顔で「ほうじゃ、夢ではない。――岩井少尉ありがとうございます」と見物席に向けて手を振る。

そのあと勢い付いた松本兵曹長はそのでかい身体にもかかわらず小回りを利かせ八十三人を駆逐した。

 

羽根つき大会は昼食をはさんで再開された。

さて、西も東も大変な激戦であったが西の主砲の内田水兵長がすさまじい強さを見せ対戦相手は次々撃沈。内田水兵長は艦内帽をかぶり直し

「次は誰じゃ?もうおらんのか、ほいじゃあうちの優勝が決まったも同然じゃな」

と大音声を発した。と松岡中尉が

「待ちなさい、あなたはまだ頂点ではないよ。東の優勝者がいる」

といい、見物の後ろにひっそり立っていた東の見張兵曹を押しだした。オトメチャンはいつの間にか東の優勝者になっていた。マツコがトメキチの耳に「言ったでしょう、アタシの勘あたってるでしょ。あの小娘絶対総合優勝よ」と囁く、トメキチが殊勝にうなずいた。

松岡に押し出されてオトメチャンは羽子板を胸に抱えて戸惑いの表情を見せた。オトメチャンはまさか自分が東の優勝者になるとは思っていなかったし何より、内田の強さにすっかり呑まれていた。しかしもう西も東もない

「ええぞオトメチャン、内田水兵長なんぞ負かしたれや!下士官の底意地見せてやれ」

という下士官連中やオトメチャン親衛隊の叫びに引っ込めなくなってしまった。おそるおそると言った態でコートに上がる。その事業服の襟のひもが軽く吹いてきた風に揺れた。

内田水兵長はオトメチャンより年がずっと上、階級なぞ眼のうちではない内田水兵長はどすの利いた声で

「かわい子ちゃんの下士官さん、どうぞお手合わせ願います?――うちは手加減なんぞせんからのう!」

と怒鳴りオトメチャンはどきっとしたように片足を引いた。麻生分隊士が「オトメチャン、脅しに乗ったらいけんで。あんなもんハッタリじゃ。気にせんで行けー!」と叫んだ。幹部からも「オトメチャン頑張れ」と声が飛ぶ、石場兵曹や小泉兵曹、長妻や増添兵曹も

「オトメチャンならいけるで、ハッタリ野郎なんぞぶっ倒せ」

と大騒ぎになった。

松岡中尉が二人を等分に見て

「でははじめます。さあーお二人とも熱くなって下さいよ~、今日から君たちは富士山だッ!」

と声を張り上げた。

それを合図に西のトップ内田水兵長と東の優勝者・見張兵曹の一騎打ちが始まった――!

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

なんと見張兵曹が勝ち残り、怖い内田水兵長と対戦へ!

階級こそ一つ上のオトメチャンですが相手は年上で威圧感十分の内田水兵長ではちょっと分が悪いか。さあどうなる?羽根つき大会の行方は?

次回「羽根つき決戦」最終話です、御期待下さい。

 

前にアップした「帝国陸海軍クッキー」の中身です。少し食べてしまいましたがクッキーの表面に「桜に錨」「旭日旗」「大和」「零戦」「九七式中戦車 チハ」がプリントされています。おいしい!

DSCN1301.jpg
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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは^^
ホント、ゆっくりクッキーでも食べながら読書三昧したいですぅ~。
羽根つき大会大ごとになりました!

こんばんは。クッキーを食べながら読書をしたい(笑) 羽根つき大会、もう気力・体力・知力・念力~なんでも使って勝ち抜くぞ!な勢いが勝つのか、純粋に楽しむ心が麻生さんの愛の後押しで勝つのか~気になるので、続きを読みにいきます!


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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