2017-09

「女だらけの戦艦大和」・内地の正月、○○決戦!4 - 2014.01.13 Mon

元日は、終日課業は休みである――

 

口の悪い古参の下士官嬢などは「うちらは訓練でも何でもしてええんじゃが、ほら、えらいさんたちが酒飲んでつぶれとってじゃろ、じゃけえ課業は出来んけえお前らも休みんさい言うて元日は休みなんじゃと」

と言っては笑う。

別にえらいさんたちも酒で酔い潰れている訳ではない、今回特に久々の内地での正月なので梨賀艦長や森上参謀長は上陸してあいさつ回りをしなければいけないという「お仕事」がきちんとある。梨賀艦長に至っては東京の海軍省(あかれんが)に出向かねばならず、数日留守にする。その留守は「私がしっかり預かります、ご心配なく」と野村副長が胸を張る。

梨賀艦長は艦長室で出かける準備を『手伝ってほしい』と副長を呼び大きなトランクにあれこれ入れさせながら

「ツッチー、私や森上が不在の間妙なことが起こらないか心配だ。ツッチに何かあったら私はどうしたらいいのか・・・かといって東京に行きませんというわけにもいかない・・・ああ、心配だ」

と部屋中をうろつく。副長は、艦長の新しい一種軍装を丁寧に畳んでその間に樟脳をそっと入れる手をとめて

「艦長。御心配には及びません、私がしっかり艦長の代理をお務めさせていただきますから。なにも悪いことなんか起きませんよ。艦長が御帰りまでは乗組員もまだ休暇にはなりませんし、まあ数名が緊急の用事で上陸するくらいだと思います。私のところに何名か、四日に上陸したいと願い出が来ていますから処理しておきました。藤村少尉も居りますし各科長との連携も出来てますし・・・平気ですよ、艦長」

と言って再び樟脳を服の間に入れ込む。その背後で艦長の足が止まり

「安心していいんだね、副長」

と艦長が言った。野村副長は軍装を薄紙に包み始めていたがその手をとめると立ち上がり艦長に向き直った。そして少し艦長をなじる様な声音で

「艦長、艦長は私を信用してらっしゃらないのですか?私が一人、この『大和』にいることがそんなにご不安ですか。・・・艦長に不安を抱かせるような副長・・副長として失格ですね。いいですよ私を退艦させて下すっても。艦長、ほかにいい人材に目をつけられてるんじゃないですか?」

と言った。副長の瞳が急速に潤みだし、艦長はあわてた。そして副長を抱きしめると

「そうじゃないそうじゃないって!どうして私がツッチーに不安を持たなきゃいけないの?私はいつだってツチーを信用している、ほかにこの職を任せられる人なんかいない。ツッチーは私の大事な片腕。あなたがいなきゃ、『大和(ここ)』は成り立たない・・・絶対何があってもツッチーは私のもとに置く!それだけは忘れるな」

と言って副長の唇に自分の唇をそっと重ねる。二人の、一種軍装の紺色の胸が合わさり、艦長の胸に副長の心臓の鼓動が伝わってくる。唇が離れ、二人は見つめ合いもう一度堅く抱き合ったその時。

「副長いらっしゃいますか!」

と艦長室のドアが叩かれ二人はあわてて飛び退いた。副長が頬を紅潮させたまま「どうした?」とドアを開けに行くと副長従兵嬢がいて何か大きな箱に入ったものをを差し出し、副長にささやいた。副長は頭を傾げたりうなずいたりしていたがやがて従兵嬢が去り副長は艦長のそばに戻ってきた。

その胸には、回覧板に様なものが何枚か入った箱が抱えられている

「なんだねそりゃ」と問う艦長に副長は変な顔をしながら

「妙な回覧板です。これを各分隊に回覧させたいので許可をくれと言うんですがこんなの初めてですよ」

と言ってそれをひとつ艦長に差し出した。艦長が見ると

<軍艦大和新年大企画!勝ち抜き羽根つき大決戦挙行!日時は一月三日一一三〇(ひとひとさんまる)より前甲板にて。誰でも参加可能、勝ち抜き戦により羽根つき大王決定スルモノナリ。優勝・準優勝・第三位には賞品あり。奮つて参加サレタシ>

と書いてありその一番下には<主催・航海科松岡修子中尉>としっかり書いてある。

「また松岡中尉か」

梨賀艦長は辟易したような声で言ったがふっと息をつくと「まあ、いいじゃないか。久々の内地だし日本の正月を楽しんでこの先への鋭気を養うきっかけになれば何よりだ。副長、許可してやりなさい」とほほ笑んだ。

副長は箱を艦長のデスクの上に置くと「はい」と返事をし、艦長が手にしていた回覧板を箱に入れたのを見て、もう一度箱を持ち上げようとした。

その手を艦長がそっと押さえ「?」とみた副長を再び、抱きしめた――

 

さて艦長副長の許可が下りた「羽根つき大会」の回覧板は各分隊に回され分隊員たちは何事かと競ってそれを手に取った。

「なんね、羽根付き大会じゃと」

「勝ち抜き戦かあ、うち出ようかな羽根つき上手いで」

「主催が松岡中尉ね。なんぞ裏がありそうじゃねえ」

等々、ささやきが交わされる。

航海科では麻生分隊士が「ほう、羽根つき大会ね。あん人もたまにやあええことを思いつきなさるね。ほいで?うちからは誰か出よるんかね」と言って居住区を覗き込んだ。すると中にいた見張兵曹と小泉兵曹が

「はあ、分隊からは総員出るいうことになりました。主催が分隊長じゃ、出んわけにもいかんでしょう」

と言って笑った。分隊士は「ほうね、ほんならええわ。いうて・・・練習もよう出来んからちいとやねこいねえ」などとブツブツいいながら「ほいじゃあうちは二次士官室に居る」と言って歩いて行った。

それと入れちがいに石場兵曹が戻ってきて「ああ、寒いわあ。内地の寒さを忘れとってじゃ」と言ってオトメチャンの横に座って

「前甲板に妙なもんが出来とるよ。相撲の土俵のもっと長細いようなもん。ありゃ一体なんじゃろうねえ」

と言った。小泉兵曹が

「石場さん知らんのね?松岡分隊長肝いりで始めとってよ、羽根つき大会するんじゃと。さっき回覧回って来たんに見とらんかったですかのう」

と教えた。石場兵曹は突然その暗黒の一重まぶたを重く垂らし始め、横に座っていたオトメチャンは何ごとね?とびっくりした。石場兵曹は

「そんとなええ話、うちに内緒にしとってかね?ええですかうちは<羽根つきの石場>言われてこの海軍広しといえども私の右に出るもんは居らんのです。優勝はうちのものですな、ハハハ!」

と笑い一重まぶたが元に戻った。石川水兵長が部屋の隅で羊羹をかじりながら

「ふーん。そんとな話うちは初耳じゃわ」

とつぶやき酒井上水に亀井一水も「ほうですねえ。まあ言わせてあげたらええですよ。正月じゃし」と言って三人はくすくす笑い合う。

「で?」

と石場兵曹はオトメチャンを見つめ「オトメチャンはどうなんです?羽根つき、したことあるでしょう。あなた意外と強いんじゃないですかねえ」と言った。オトメチャンは恥ずかしげに微笑みながら

「はあ、うちはちいとならしたことはありますが強いなんてことは。こう、羽子板に当てるんが精一杯ですけえね」

と言った。石場兵曹は「皆さん聞きましたか、これが謙遜言うものです。みなさんも見張兵曹を見習って謙遜の精神を学びなさい!」と言ってまた暗黒の一重まぶたを垂らし始める。

谷垣兵曹は本を読んでいたが顔を上げるなり

「なにが謙遜ね。謙遜するんは貴様のほうなが」

と言ったので石場兵曹以外は大爆笑となった。

 

そしてその日の午後には、工作科が作った羽子板と松岡中尉が発注した羽根が各分隊に届けられ

「さあ皆さん、これでしっかり練習して当日は熱くなりましょう!あきらめんなよ」

との松岡中尉の檄が飛ばされた。みんな大喜びで甲板上に出て練習を始める。羽子板が羽を打つ心地よい音が響き始めた。

 

松岡中尉は十枚の羽子板と三十個の羽を「大会用に」と別にして羽子板には妙な絵を書いている。

工作科の水木水兵長が

「なんですかそりゃ?・・・ああ!龍の絵ですかあ、正月らしゅうてええですねえ」

と言ったのへ松岡中尉は心外なという表情で

「水木さーんあなた見る眼がない!どうしてこれが龍なんです?これは馬ですよ馬!今年の干支です。みんな馬のように飛躍する年になりますようにとの願いを込めた私の絵をあなたは言うに事欠いて龍だなんてもう~、尻の穴を締めて下さいっ!尻の穴をきっちり締めて何事もしっかり見つめれば馬を龍だなんていうことなんかないでしょうに。あなた何でも妖怪とかもののけに見えるんですねまったくもう・・・」

と怒りだした。

水木水兵長はそれでも笑いながら

「ほりゃあ失礼いたしました、馬、ほうですねえ馬ですねえ。うちの目えがどうにかしとったですね。はいはい、松岡中尉手をとめないで次々書いてつかあさい。絵具が乾いてしまいますけえね」

と言って松岡中尉は「おお!絵具が乾いてはいけないねえ、水木さーん教えてくれてありがとう。ってなわけで私はあと九枚をガンガン書きますからね、邪魔しないでくださいよっと」と言って真剣に羽子板に絵筆を走らせた。

 

そしてその日の夕方近く、梨賀艦長と森上参謀長は内火艇に乗って上陸桟橋へと向かって行った。それを見送る野村副長は

(艦長、私はしっかりやりますからご心配なく。――でも早くお帰りになって下さいね)

と寂しい思いでそっと「帽振れ」で送ったのだった――

            (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ羽根つき大会が始まるようです。

艦長不在ではありますが無事に済んでほしいものです。次回をお楽しみに!


馬の歌。松岡の下品な歌のもと歌です・・・(-_-;)


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● COMMENT ●

いなばさんへ

いなばさんこんばんは!
ようこそ!今年もまたよろしくお願いいたします^^。

そうです、松岡中尉の下品な歌はまさにご指摘のそれです。
この歌、私の伯父が酒に酔うと必ずと言っていいほど歌った歌です(-_-;)。伯父曰く「俺はこの歌しか知らない」、マジか!?

私も「日本人はなぜ特攻を選んだのか』を読みたいです、でも読まなきゃいけない本が積んであって・・(^^ゞもうちょっと先になるかしらw。

遅くなりましたが…、今年も拝読させていただきます。(^o^)
松岡中尉の下品な歌‥。もしかして「うちの~父ちゃんと‥♪」年明け、早々に書店で「日本人は なぜ特攻を 選んだのか」黄 文雄 著 が出ていましたので、即購入。少しづつですが読んでいます。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
馬というもの、さて絵に描こうとするととっても難しいですね(-_-;)。私は龍にこそなりませんが半分豚の半分牛になります・・・キメラか??
いつも一緒にいるからこその成果ですね、競馬学校生徒さんならではの特技でしょうね、うらやましい。
松岡を競馬学校にひと月くらい行かせたいですねw。

さあ、決戦が始まります。誰が優勝して何をもらうのか?ご期待ください!

こんばんは。利用する駅の構内に競馬学校の生徒さんの版画作品が飾られています。日頃から人馬一体なのでスゴくウマいです(笑)松岡さまに見習ってほしいですわ!!
いよいよ決戦の時が…ドキドキ! 優勝したらナニがもらえるのかな~ドキドキ! 楽しみにしてます!

荒野鷹虎さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは!
お体の調子はその後いかがでしょうか、決してご無理なさいませんようお願いいたしますね。

こんな物語でも昔の軍人たちの苦労などを思いやるよすがになればいいなあと思っています。話の種探しは難しいこともありますが楽しみながらやっております。
まだまだ先の長い航海です、これからもどうぞよろしくお願いします^^。

見張員さんへ!!

今年も早一月中旬で艦隊勤務は丘が恋しくなることでしょうね^^。
長い作家生活はそれ以上の苦労といつも感心しています。
漸く旅の疲れも収まり身体は無理ですが平常心に戻りました。
不戦を誓う意味で、若い人には貴重な小説と感銘いたします。どうか継続の長からんことを祈り致し初春のお喜びを申し上げ致します。!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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