2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地の正月、○○決戦!3 - 2014.01.12 Sun

「羽根つき大会をやるんですよ!」

松岡修子中尉のその宣言を、その場の皆は最初ぽかんとした表情で聞いていた――

 

梨賀艦長がやっと口を開いて

「松岡中尉、それをどこでやるつもりなのかね」

と尋ねた、すると松岡中尉は「そりゃあ艦長」と言ってから手にしたラケットをブンとひと振りした。そして

「決まってるじゃあないですか、『大和(ここ)』の前甲板っていいところがあるじゃないですかあ」

と言ってにっこり笑った。ほう、と声を上げた艦長そして副長がたちあがって服についた埃を両手でパタパタと払い落としてから「でも松岡中尉」と口を挟んだ。松岡中尉は至極機嫌のよい顔で「なんでしょうか副長」と返事をした。

副長は松岡中尉の振り回すラケットに気をつけながら

「大会と言うからにはそれなりの数の羽子板だとか羽根がいると思うんだが、どうやって用意するつもりなの?松岡中尉」

と尋ねた。すると松岡中尉は再びラケットをブンと振ってから

「そうですねえ羽子板は予備も含めてざっと二千もあればいいでしょう。羽根はおおよそその半数。しかしご心配なく、工作科のみなさんが作ってくれます、羽子板については。で、羽根は」

と言って何気なくマツコの方を見たのでマツコは

「いやーよアタシ、いくらアタシのマツオカの頼みでも羽根をそんなに引っこ抜かれたらアタシ丸裸じゃないのよう」

と言ってあわてて部屋の中を走り回る。それをちらっと見た副長は軽くため息をつくと

「松岡中尉は簡単に言うが――工作科だってそれほど大量のものを作るのは至難の業ではないか?中尉はあまりにも楽観過ぎるよ、ちがうかしら」

と言った。麻生分隊士や見張兵曹が軽くうなずいて同意の意思を示した。すると松岡中尉はピンと背筋を伸ばすとラケットを天井高く突き上げた。天井にむき出しの配管にラケットが当たって大きな金属音が響いた。梨賀艦長がそれを心配そうに見つめる。配管に傷がついたんじゃないか?そんなことには構いなしに

「楽観的ですとこの私が!?違います副長、私は楽観的じゃありませんよ。楽観なんです楽観してるんですよ、<的>は要りませんよ。私はね実はこの計画をトレーラー出航前に思いつきましてですねえ、ひそかに材料を積んでいたんですよ。そう羽子板用の板っきれをね。ですから羽子板の二千や三千くらい屁でもないんです。しかもわが精鋭の揃った工作科では羽子板なんぞあっという間に作って見せますと言ってくれましたからね。――え?羽根ですか、羽根は私の友達が広島にいますから彼女に手配したらあっという間に届きます。彼女玩具の問屋の娘ですからねえハハハ!」

と一気にまくし立て、そのあとあっけにとられている艦長以下を見返ると

「ではわたくしはこれで失礼いたします。まだまだ雑用がたくさんありますから。ではごきげんよう」

というなりマツコとトメキチを両脇に抱えるようにしてあっという間に走り去ってしまった。

副長がぼそりと

「艦長、ああ言ってますけどどうします?」

とだけ言った。沈黙がその場を支配している。誰ひとり身じろぎもせずその場に立ち尽くしていた。たった十数分ほどの間にあまりにもいろいろなことがあり過ぎて頭の中の整理がつかなかったのだ。そして・・・その傍らにある野田のチェストの少し開いた扉からはその様子をじっと見つめる六つの小さな瞳があった――。

 

そして。

「女だらけの大和」は新年を迎えた。この日は朝六時に総員起床。最上甲板に集まって「宮城遥拝」「君が代斉唱」の後艦長の新年の祝辞。それからそれぞれの居住区や士官室、二次士官室にて乾杯と相成った。乾杯の後みんなが楽しみにしていた朝食であるが今日は元日だからおせち料理に雑煮。

主計科が腕によりをかけて作ったおせちと雑煮に艦内で歓声が沸く。見張兵曹も居住区で皆とおせちをいただきながら嬉しげにほほ笑んでいるし麻生分隊士も二次士官室で花山掌航海長やほかの特務士官たちと祝いの盃を交わしている。

普段一人で食事の艦長も今日は副長や参謀長、各科長たちと祝いの宴を囲む。

「いやあ、内地での正月は何年振りだろうねえ」

艦長が皆を見回して盃に満たした酒を一口飲んだ。片山航海長がとなりの日野原軍医長の盃に酒を注ぎながら

「そうですねえ、ざっと二年でしょうか。しかし、トレーラーで迎えた新年より内地でのほうが当たり前ですがそれらしいですね。いいものですね――自分の国は」

と言って皆同意の顔でうなずいた。それからも皆はおせちを摘まんだり酒を飲んだり楽しく語り合う。久々に心から楽しい時間が高級将校にも訪れて来た。

 

さてそんなころ。

前甲板では松岡中尉とハッシー・デ・ラ・マツコにトメキチと数名の工作科の兵隊嬢たちが何やら始めている。工作科の兵隊嬢は「この辺でええでしょうか?」とか「ちいと上の方がええんじゃないかねえ」などと言いながら何かを作っている。

そう――松岡中尉提案の羽根つき大会の試合会場作りである。一人の工作科員嬢が松岡中尉に

「松岡中尉、この大会をどうやって皆に周知するんです?」

と尋ねた。すると松岡中尉はニィ~っと笑って

「そりゃあ君。今から<回覧板>を回すんです。各分隊にね。だから君たちに羽子板のほかにバネみたいのがついた板を作って貰ったでしょう?あの板のバネ部分にお知らせの紙を挟んでそれぞれに回覧させるんです。そしたらいちいち私たちが知らせに行く面倒はないでしょう?分隊長に渡しておけば自然と下まで回ります。さあこれであなたもまた一つ賢くなりましたね。私と一緒に仕事をするとみんな賢くなるんですよねこれが!だからごらんなさい、航海科のみんなは前よりずーっと賢くなったでしょう」

と言ったので工作科兵嬢は思わず笑った。するともう一人の工作科の水兵長が

「松岡中尉、予選はどうするんです?こげえにこまい場所では一分隊ずつしか予選試合も出来んでしょう」

と心配げに言う。それに松岡中尉は

「なに、予選なんてしなくていいです。時間がもったいないですから出場希望者をその場ですべて勝ち抜き戦方式でやりゃあいいんです。そしたら面倒なくっていいでしょう」

と答え、工作科水兵長は(ずいぶん行き当たりばったりなやり方じゃなあ。そんとなことでええんかなあ)と心配になったがそれこそが松岡流なのだと思って黙った。

マツコがそばでそれを聞いていてその灰色がかった青い羽根をくちばしで撫でつけながら

「さすがあたしのマツオカね。やる事がでかいわね。トメキチアンタ、マツオカの偉大さがこれで分かったでしょう?軍艦に乗る様な女はこのくらいスケールのでっかいことをしなくちゃだめなのよう。アタシの目に狂いはなかったわね」

と言ってホホホ・・・と笑った。

そのそばで工作科員の腕に抱かれていたトメキチは

「ふ~ん、そういうものなの?僕松岡さんって単なる大雑把な人かと思っていたけどマツコさんがそういうならきっとスケールの大きな人なのね」

と納得した。マツコは勝ち誇ったような金色の瞳でトメキチを見つめると

「アンタももっと尻の穴、しっかり締めてかかんなさい。あんたの尻の穴、少し開いてんじゃないの?だから人を見る眼が育たないのよ」

と言ってまたホホホ・・・と笑う。

そして会場の準備ができた松岡中尉はマツコ、トメキチと工作科の皆を促して下甲板へと降りて行ったのだった。あとにはマツコの高笑いが風に乗って流れて来る――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんと。羽根つき大会だそうです。

松岡中尉自身は羽つきが出来るのでしょうか?テニスのラケットと羽子板では随分勝手が違いますからもしかしたらこれは松岡中尉を負かすいいチャンスかも???

次回をお楽しみに!
羽子板と羽根

(画像お借りしました)

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● COMMENT ●

鍵コメさんへ

鍵コメさんこちらこそ本年もよろしくお願いいたします^^。

こちらは成人式は明日ですね^^。娘は式には出席はしないのですが先に撮っておいた写真がそろそろできるころですので楽しみです^^。
どんな大人になってゆくのか、親としては大変心配です。でもそうおっしゃってくださるととてもうれしいです。何よりのお言葉です!
あるがとうございます、皆様によろしく!!

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オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
私は小学生の低学年のころ冬休みに入るとすぐ友達と凧上げと羽根つきを楽しんだものでした。墨がなかったからクレヨンの黒で顔にぺけを書いたりしてw、通りがかりのおばさんに「あらあら」と笑われたのが今もいい思い出。

今日、靖国神社を参拝してきました。
塚本太郎さんのご遺書も読んできましたが、オスカーさんもおっしゃるように「(両親の幸せから)太郎を早く除いてください」には親として本当に辛い言葉だと思って泣けました。
田端の太郎湯、有名だったと聞いていますが今ではもうなさっていらっしゃらないのではないかと思います。
彼らを思う時今のはたちは本当に恵まれていると思います。
どうか新成人はこういう日本の歴史――それもたった70年ほど前――のことを知ってほしいと思いますね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
発想の転換の得意な?松岡中尉ならではの羽根つき大会です^^。一体どんな羽根つき大会になりますかご期待くださいませ。

本当の戦時下では、心行くまで祝うどころではなかったでしょうね、祝えたのはきっと昭和17年の正月くらいまででしょう、あの年の6月にはもう日本海軍はミッドウエーで大敗して形勢大逆転でしたからね(-_-;)。この話の基本は「戦死者がいない」こと、あの戦争では日本の将兵さんたちはあまりにも多くの人が死んでしまいすぎました。ですからこの物語の中で(女性にしてしまったのはちょっと・・かなあと思いましたが)楽しく過ごしてほしいと思ったのです。
あんなこともしたかったんじゃないか、もしかしたらこんなことも?と思いつつ書いています。そしてこの話を通じてあの大戦の中に散華した将兵のみなさんに心はせてくれる人が一人でも増えてくれたらと願って書いています^^。


今日は靖国神社に参拝してきました。
若い英霊たちの遺書を読んでいたらその場に伏して泣きたいくらいぐっと来てしまいました・・・。

こんにちは。お正月に羽根つきや凧上げをする子どもたちを見なくなりましたね。古きよき日本の風景がよみがえりますね!楽しみです~お顔が炭だらけになるのは誰かしら(笑)

お話はかわりますが、成人式のところも多いですね。区長や市長が太平洋戦争で散華した若者たちの遺書を挨拶の中に取り入れたりしているようですが、聞いている時には涙しても一歩外に出たらもう記憶にないんだろうなぁと思います。

私は回天の塚本太郎少尉の遺書を読ませていただきましたが、その中にある「ご両親の幸福の条件から太郎を早く除いて下さい」哀しすぎます…! 塚本少尉の名を取り、命日に開業した東京田端の銭湯「太郎湯」は有名…との記事も目にしたのですが、今はないのでしょうか? まだまだ知らないことばかりなので、見張り員さまに多方面からいろんなことを教えていただきたいです。

テニスを羽根つきに変えるなんてさすがに松岡さんですね。みんなの心配をよそにこれからどんな展開になるのでしょう。新年早々賑やかなことで結構ですね。

2年ぶりの内地での正月ですか。本当の戦時中はもっと大変だったでしょうね。
「女だらけの戦艦大和」のもっとも素晴らしいのは、死の恐怖がないことです。安心して、時には笑えることのできるストーリーが良いのです。きっと泉下の英霊たちも喜んでおられるのではないかと思っています。自分たちがなしえなかった穏やかな暮らしというか仲間との平和な日々をつくってくれていることに。
誰でも出来る技ではないですね。見張り員さんだからこそ為し得る心技です。ますますノッて下さいね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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