「女だらけの戦艦大和」・内地の正月、○○決戦!1

「女だらけの戦艦大和」他艦艇は、十二月三十日の早朝呉港に到着した――

 

狭い第一艦橋に梨賀艦長、野村副長、森上参謀長以下各科長までが集まってひしめく中、内地日本の懐かしい姿がだんだん大きくなってくる。

内火艇の水先案内を受けつつ『大和』はその巨体を港沖合の浮標に接近。掌航海長と操舵員長の絶妙な操艦により、無事に浮標にその身を繋ぐことができた。第一艦橋の総員にほっと安堵の表情が浮かんだ。その様子を防空指揮所で見守っていた麻生分隊士以下の兵員にも安堵の微笑が浮かぶ。

「大晦日の一日前、しかも早い時間に内地に帰れてよかったね。――副長、この後艦内総点検。そのあと主計科長と今夜から明日明後日の食事の献立の打ち合わせをするように。各科長は各分隊長・分隊士を招集して点検に備えよ」

梨賀艦長の号令の声も心なしか弾んでいる。副長、それに各科長も張りきった声で「はい!」と返事をしそれぞれに散ってゆく。

森上参謀長が正面の窓に寄って内地の冬の姿に見入る。そして

「久しぶりだな、内地の正月」

とつぶやいた。それに梨賀艦長がそっとうなずき二人は顔を見合わせてふふっと微笑んだ。

 

副長の艦内総点検に先だって各科長は分隊長分隊士を集め「各分隊、持ち場の整理整頓を即刻するように。副長の点検がそのあと行われる。そのあとの作業については指示を待つように」と命令を下した。各分隊長分隊士はそれぞれ分隊員にそれを通知しに走る。

松岡分隊長は、片山航海長からの指示を受け航海科員を前甲板に召集し、航海長からの命令を伝えた。そして「解散」と言った後すぐに「あ、ちょっと待って」と言って走り出しかけていた皆はつんのめってその場に立ち止まった。マツコとトメキチがその様子を少し離れたところから見つめている。

麻生分隊士は前にいた小泉兵曹に思いっきりぶち当たって、小泉兵曹がその場に転倒。それを見張兵曹が引き起こした。分隊士は小泉兵曹に「すまんな、平気か」と声をかけてから

「いったいなんです?松岡分隊長。解散の後にすぐ『あ、ちいと待って』は止めてつかあさい!」

と怒って唸った。松岡分隊長は麻生分隊士に

「やだなあ麻生さーん。やっと内地に到着したんですからもっと機嫌よく笑いましょうよー!はい笑った笑った麻生さーん。――てな訳で、皆さんには私から嬉しい提案があります」

と言って皆は「なんです分隊長」「もったいぶらんと早う教えてつかあさい」とせっついて分隊長の周囲を取り囲んだ。

松岡分隊長はエヘンと咳払いをし、皆はごくりと喉を鳴らしてその顔に見入った。分隊長は皆をズイッと見回すと

「今は教えない」

といい、皆は一斉にコケた。それを見ていたマツコが大きなくちばしを広げて

「『今は教えない』ってもともとアンタの口癖だったじゃない?マツオカにも遂に伝染したのね。あんたって結構影響力あるのねえ」

と感心している。トメキチが、尻尾の毛並みを舌で整えながら

「うん、やられたッて感じかしら。でも、『嬉しい提案』てなんのことかしらねえ、マツコサン」

と言ってマツコの顔を見た。マツコはトメキチを見つめ返すと

「わからないわね。でもあいつの提案じゃあ碌なことじゃないわよ。みんな喜んでたら泣き見るわよ~」

と言って呵々大笑したのだった。トメキチが「・・・オバサン、人の不幸を喜んじゃ駄目よ」とそっとたしなめる。と、「また!アタシはオバサンじゃないって言うのにもう未だにわかんないのねこの糞ワンコ!アタシはマ・ツ・コ!!」とハッシー・デ・ラ・マツコはその大きな翼をめいっぱい広げると前甲板上にトメキチを追っかけて、トメキチは大喜びしながら走りまわった。

 

それぞれの分隊で、各分隊員は持ち場の整理整頓を終え、副長のお出ましを待っている。そこに副長が藤村甲板士官を伴ってやってきてあちこち検分する。

「よし。・・・ここもよし。何処の分隊も普段からきちんとしているようだね。特に注意点はなし」

副長はそう言って藤村少尉を振り返る。藤村少尉は

「しかし副長。一か所だけ不安があります」

とそっと副長を見つめた。副長ははっと思い当って小さな声でしかし、はっきりと

「野田のチェスト・・・だね」

と言った。藤村少尉が深くうなずき、副長は苦り切った顔つきで「見に行かねばなるまい。綺麗であろうが無かろうが。それが務めだからね」と言うと高角砲の居住区へ歩きだす。

この時、副長と藤村少尉にまたもや不幸が襲いかかってくるとは神ならぬ身の思いもよらぬところであり、野田兵曹にとって幸いだったのは生方中尉たちはじめ多くの分隊員が高角砲の点検で忙しく居住区まで手が回らなかったため「野田、貴様居住区よう見とけ」と任されたということであろう。

野田兵曹は、居住区を任された事に安堵していた。(分隊長たちがおらんで大騒ぎせんかったら副長もここまでよう見んじゃろ。きれいにしてある言えば納得しんさる)

変な確信がある。そこに突然指揮官付の綾瀬はる兵曹長が来て

「おい、野田兵曹。貴様チェストの中はどがいな?見せてみんか」

とやってきた。野田の心臓が驚きのあまり跳ねあがり、鎖骨にぶつかった。野田にとっては予想外の伏兵である。野田はしかし、心の中の動揺を気取られまいとしてチェストの前に立ちふさがり「きれいであります!」と怒鳴るように言った。普段の野田には無い妙な気迫がにじみ出て、綾瀬兵曹長は一瞬たじろいだ。

「そ、そがいなこと言うたって・・・貴様のチェ、チェ、チェストの中は海軍一汚い言うて有名じゃ。見せてみんか。うちは貴様のチェストが心配じゃけえこうして忙しい高角砲の点検を離れて来たんじゃ、汚れとったらうちの監督責任が問われる」

綾瀬兵曹長は上官の威厳を以て言ったが先にたじろぎを見せた時点で今回は綾瀬兵曹長の負けであった。野田は大きな顔にさらに妙な自信をみなぎらせて

「全く問題なしであります」

と言いきってしまった。綾瀬兵曹長は額に油汗をにじませ

「ほうね。ほいじゃあ今回は見んでもええが・・・もし!汚あにしとったら貴様正月の休暇、無うなるで!」

とそれでも最後は恫喝して足早に去ってしまった。

それをほっとした顔で見送る野田兵曹、(ああ焦ったあ。また今夜チェストの中をこっそりきれいにしとかんといけんなあ)と思っている。

 

そこに。

「副長、入られます!」

と藤村少尉の声が響き野田兵曹がハッと振り向けば今まさに野村副長と藤村甲板士官が入室してくるところであった。居住区には野田一人、それを少し不審げに見た野村副長は

「なんだ。ここは野田兵曹一人か?」

と言って眉根を寄せた。野田は自信満々の様子で胸を張ると

「はい!みな高角砲の点検で多忙ですけえここは私に一任されました!」

と堂々と言い放った。ほう、そうかと副長は言うなり一直線に野田のチェストの前に歩いて行った。そのあとを付き従う藤村甲板士官。と、野田兵曹はあわてて自分のチェストの前に立ちふさがった。

「?」

思い切り不審げな表情で副長は野田兵曹を見つめた。一呼吸置くと副長は静かに

「そこをどきなさい。野田兵曹、あなたのチェストを点検したい」

と言った。野田兵曹は静かな気迫に押されたが(ここは踏ん張らんといけん)と腹に力を入れた。綺麗になっとります、御心配には及びませんと言おうとしたその時。

「野村副長がご覧になりたいと仰せだ。どかんか!」

藤村甲板士官が大声をあげて野田兵曹は突き飛ばされた。そして甲板士官は野田のチェストの扉に手をかけた。

ギッ、と音を立てて扉が開いた――!

    (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

新年第一回目の「女だらけの戦艦大和」をお読みいただきましてありがとうございます、今年もよろしくお願いいたします。

と・・・その一発目から何やら騒動の気配がします。松岡分隊長はなにをたくらんでいるのかそしてあの野田のチェストから又何か出てくるのでしょうか。期待と不安に満ちた次回をこうご期待!

 

先日撮影した千葉の空と帰りの高速道路からの写真です。雲間から日が差しているのをレンブラント効果というそうですが私は『軍艦旗』と呼んでいます。
DSCN1287.jpg DSCN1290.jpg

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Comments 6

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見張り員  
ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
通常運転の日々が戻ってきました!盆休みとかと何かどこかが違う正月休み、暮れの忙しさとの落差が大きすぎ本当にゆっくりする間もなく終わるって感じですね^^。

一枚目の写真は、実家のベランダから撮ったのですがちょっときれいというのとは違うなあって思いますよね。まがまがしさを感じてしまいます。
二枚目は、東京へ帰る湾岸高速上です。変なオリみたいなものがある向こうは東京湾になります。こちらの方が空も明るくきれいでした。

今年何事もなく過ごせたらいいなあと思います。
事件等に巻き込まれる可能性は総体的に少ないですが天災にはかなりの確率で遭遇するんだろうなあと思うととても怖いです。

何もありませんように!!


2014/01/08 (Wed) 20:31 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
やっと内地だというのに一体何がどうしたのでしょう『大和』の面々。そして松岡の提案は――今回くらいまともであってほしいのですが(-_-;)。
野田は病気かもしれませんね、日野原軍医長の研究材料になるかもしれません!

この写真の雲は何か妙でした。そいえば今日(1月8日)朝から出かけたのですが地震雲のような雲が数条出ていました。
最近千葉県周辺を震源とする地震が多いので気になります。大ごとが来ないよう祈るばかり。

午後から雨になりました。とても冷たい雨です。
にいさまもご自愛くださいませ。

2014/01/08 (Wed) 20:23 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
ウダモ  
こんにちは!

やっと…というか通常運転ですねb
お正月気分も楽しいですけど、普通の日常が何より!と思うような歳になったウダモですw
見張り員さんの物語を読むと、なんだか『ただいま~』と言いたくなりますw
帰ってきたな…と。

千葉のお空、綺麗だなぁ…と思ってしまいましたw
軍艦旗というのですか、なるほど~。
一枚目のお写真は、確かに禍々しいですよね!
二枚目と同じ空、、ですか??
私は二枚目のお写真のほうが好きですb

今年はどうなる事やら…
前のコメントの方もおっしゃっていましたけど、私も心配です。
何事もなく無事に過ぎてもらいたいですよねb

2014/01/08 (Wed) 14:05 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  

呉に入港してもなかなか大変なこと続きですね。
松岡さんの「嬉しい提案」って何でしょう。サプライズ好きな人だけに騒動のタネにならなきゃ良いですね。そして性懲りもなく野田さんは。片付けがヘタっていうのも病気のひとつでしょうか。チェストからキノコの頭が続々と出てきたりして。

禍々しい雲ですね。何ごとも起きない今年であってもらいたいものです。
寒くなりそうな雨です。お体を大切にね。

2014/01/08 (Wed) 09:40 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
新年早々またもや野田のチェストで恐縮です(^_^;)。
一体今回は何が出るのか・・・かたずをのんでお待ちくださいませ!
どうも汚いものとか怖いものは、人って惹かれるようですよね。私も見たらいかんと思いつつ観なくてよいものを見て後悔しますww。

おかげさまで良い正月でした^^。
成人の日、来週ですね。娘はこの日は着物は着ませんが何かできたらいいなと思っています^^!

今日は本当に寒くて何か湯ざめのような感覚で気持ちが悪いです・・・オスカーさんどうぞご自愛のほどを!

2014/01/06 (Mon) 19:45 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  
Re:

新年最初のお話、野田さんの不思議イヤ不気味なチェストからはナニが飛び出すのかドキドキします! タコとか出てきたらイヤだな~もちろん食べる方の(笑)かといってものすごいハデな衣服やフ○ドシもなんか……美形男子が出てきたらイリュージョンですが、怖いもの見たさで楽しみ~!!
お正月は少しのんびりできましたか? お嬢さまの成人式もありますし、忙しくなりますね。お身体にはじゅうぶん気をつけて下さい。

2014/01/06 (Mon) 16:24 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)