「女だらけの戦艦大和」・内務科人事異動4<解決編>

岩井少尉は満天の星の下、松本兵曹長の胸に頬をうずめながら「うちの話しを今一度聞いてくれるかのう」とそっと囁いた――

 

「うちの昔話じゃ。ちいと品のない話もあるが今一度聞いて欲しいんじゃ。うちはもうこれ以上胸にしもうとくんはきついけえ」

岩井少尉はそういうと兵曹長の胸から頬を離した。兵曹長は少尉の両肩をそっとつかんでその瞳を覗き込むようにして

「うちでよかったら聞きますけえ、聞かせてつかあさい」

と言った。少尉は松本兵曹長をまっすぐ見つめると話し始めた――

 

うちが結婚をしたんは16の年じゃった。うちは海軍兵学校を目指して勉強中じゃったけえ、結婚なんぞしてしもうたら兵学校に入れんようになる。じゃけえ、見合い話が来た時『断って』と母親に頼んだんじゃ。ほいでも母親は『ええ話じゃけえ、会うだけ会うたらええ。いやならことわりゃええ』言うてうちを無理やり見合いの場に引っ張って行った。そしてうちを見た向こうの母親が『ええ子じゃ、ぜひうちの息子と一緒になってくれんかねえ』言うし、うちの母親も『あんたにはもったいないくらいの話じゃ、行きんさい』言うてあっという間に話は決まってしもうた。

ほいでも岩井のうちは海軍士官の家じゃし、野住の家は農家じゃ。すべてが違う。うちはどうもうまくいく気はせんかった。うちの父親は『そげえに急がんでもええじゃないか、しんはまだ16じゃ。それにしんにはやりたいことがあるんじゃろうが』と言ってくれたんじゃが母親は聞かんかった。『おなごの幸せは結婚じゃ、うちはしんの花嫁姿をはよう見たい」いうてね。うちは兵学校をあきらめて野住の家に嫁ぐことになったんじゃ。

農家のつらさはその経験のないうちには、言わんでもわかりんさるじゃろ?でもうちが・・・一番いやだったんは夜のことじゃ。結婚した最初の晩――うちは夫になったあん人に暴力で犯された。夫婦になったんじゃけそういう表現はおかしい思うかも知れんがうちにはそうとしか思えんかったよ。うちは当然初めてじゃった。でもあん人はそんとなこと、ちいとも考えても居らんかった。

うちを無理やり布団の上にねじ伏せて着とった寝間着をはぎ取られて、丸裸にされてしもうた。恥ずかしかった・・思わず「やめてつかあさい」いうたら『旦那のすることに文句いうんか、とんでもない女じゃ』言われて思いっきり殴られた。ほいでそのあと――。

ようようそのことが終わった後、あん人はうちから離れるとそのまんま向こうを向いて眠ってしもうた。初めてのうちにだって愛情のある行為かそうでないかくらいはわかる、あん人の行為は愛なんぞ無かった。そのあともうちが疲れとろうが具合が悪かろうがあん人の都合でうちを抱いた、抱いて自分が済んだらさっさと寝てしまう。

そんなじゃけえ子供も出来んかったんじゃないかとうちは思うんじゃ。姑からは『子供も出来ん、あがいな嫁は役に立たん』言われるし年上の小姑たちもうちと顔も合わせてくれん。うちを慰めてくれたんは小作の人たちじゃ。小作の人たちは『若奥さん、辛抱しんさいね。そのうちええことがあるけん。辛抱じゃ』言うて何度も慰めてくれたよ。あれはほんまに嬉しかったなあ。

で、三年ほど経った頃だったか、うちのお祖母さんがなくなった時をきっかけにうちは離婚したんじゃ。うちは実家に戻って海兵団に入ってそれからは兵曹長も知っての通りじゃ。

身体は楽になったが気持ちは晴れんかった、今の今まで――何かがこう、胸の奥につかえたような感じがあってなあ。でもさっき兵曹長にぶたれてうちは気がついた。

うちは一人じゃないって。

うちは今まで自分なんぞ一人じゃ、誰もうちのことなんぞ考えても思ってもくれんと思うとった。でもよう考えたら松本兵曹長が居る、それに内務科のみんなが居る。

一人じゃない。

うちは一人でも生きていける思うとったがそれは間違いじゃ、人間どがいに踏ん張っても一人では生きては行けんね。それを今夜ここであなたに教えてもろうた。うちは嬉しい、ありがとう。

 

そう、少尉は語ると松本兵曹長の肩にそっと両手を乗せてその耳元に口を寄せると

「うち・・・分隊士をお受けしよう思うんじゃ。出来そうな気がしとるんよ」

と言って兵曹長の顔を正面から見るとふふっと笑った。松本兵曹長は岩井少尉をグッと力いっぱい抱きしめて「出来ますとも。岩井少尉なら出来ますよ。出来んわかけがない」と言い、もう一度岩井少尉の唇に自分のそれを重ねた。

 

二日ののち、『大和』他の艦艇はサイパンに着いた。

内務長は自室に百川分隊長と岩井少尉を呼び

「岩井少尉どうかね、分隊士の件考えてくれたかな」

と切り出した。岩井少尉の顔を見た内務長は(岩井少尉の表情、あの時とは全く違うな、なにかこうふっ切ったような顔だ。何があったのだろう)と思ったが顔に出さないで微笑みながら岩井少尉を見つめる。岩井少尉の隣で百川分隊長が心配げな様子。

岩井少尉は一息大きく息を吸うと椅子から立ち上がり

「分隊士、お受けいたします。一所懸命、力いっぱい務めさせていただきます!」

と大きな声でいい、内務長も分隊長も思わす「やってくれるんだね、よかった」と叫んで立ち上がり岩井少尉の肩をたたいたり背中を撫でたりして喜んだ。

 

そして、彼女の分隊就任を喜んだのは内務科電機分隊の兵隊嬢や下士官嬢たちであった。彼女たちは口々に

「岩井少尉の方が分隊士に適任じゃ。うちはあん人のもとでなら死ねる!」

と言って大変喜んだ。

その姿をそっと見て(ああえかった。岩井少尉、これからが踏ん張りどころですよ。そして―ー呉に帰ったら退治せんならんものがありますけえね、がんばりましょう)と心のうちで岩井少尉を励ます松本兵曹長であった。

内地に着き次第、岩井少尉は正式に分隊士に着任する運びとなった。

 

――「女だらけの大和」、あと少しで懐かしい日本だ!

 

           ・・・・・・・・・・・・・

岩井少尉、言いたいことを吐き出してすっきりしたようです。

どんなつらい時でも人は一人じゃないし、一人では生きて行けないのです。大丈夫、かならず周囲には<誰か>がいます。

その存在に気がつくかつかないか、だと思います。

 

新妻聖子さん「アンダンテ」。映画「アンダンテ~稲の旋律~」の主題歌です。泣ける歌です、泣いてください!


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
岩井少尉はやっと人の温かみをつかむことができました。ひとはどんなに人に傷つけられても人と離れては生きられない。少尉はそれに気がつきました。
たまった思いの堰を切ることは時と死で大事ですね、うっ屈した思いは人を卑屈にさせます。

「女だらけの大和」久々に新年を日本で迎えます、いったい何が待っているやら?新しい年もどうぞよろしくお願いいたします。年内あと一回ほど「女だらけ~」の更新を予定しております。

「アンダンテ」、これは「andante~稲の旋律」という映画の主題歌でして映画は親の過剰な期待から大学を不登校からやがて中退し引きこもってしまった一人の女性が立ちあがってゆくその過程を描いた作品です。日本の農業問題も絡めて描かれたもので感涙必至です。
単館上映のような形で全国を回っていました、今はDVDが「ゴーゴービジュアル企画」から出ています。

堰を切るというのはこういうことですね。信じる人に何もかもを打ち明けて心が軽くなり、そして苦しみを共有してもらう。素晴らしい愛を見つけて良かったです。
これでしっかりと大切な仕事に励めることでしょう。自分が思っているほど世の中は捨てたものではなかったというほんとにハッピーな物語をありがとう。

女だらけの大和。もう間もなく日本ですね。
皆がそれぞれ楽しい思い出が紡げますように祈っています。
アンダンテ、素敵な歌ですね。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
本当に一年あっという間に過ぎたしまいますね(-_-;)・・・
こちらこそまた来年もよろしくお願いいたします^^、来年も頑張って記事を書きますのでまた読みにいらしてくださいね~♡

「稲の旋律」いい映画でしたね、あのロケ地のお近くでしたか!奇遇ですね!

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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