2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内務科人事異動3 - 2013.12.26 Thu

松本兵曹長は流れ星の去った後の夜空に手を合わせていた――

 

兵曹長が下甲板へ戻ろうかと思ったその時、向こうから一つの人影。それは誰あろう岩井少尉であった。岩井少尉はこちらを透かして見ているようだったがその相手が松本兵曹長だと確認すると

「ああ、松本兵曹長」

とほほ笑んで歩み寄ってきた。兵曹長は一礼をしてから

「先ほど流れ星が見えましたよ・・・まだ見えるかもしれんけえ見てみませんか」

と言って夜空を指差した。岩井少尉は興味をそそられたか「ほう、流れ星ね」と言うと砲塔の前に言ってそこに座りこんだ。傍らに工具箱を置いて。

その隣に兵曹長も座って胡坐をかく。

しばらく黙って波の音を聞きながら空を見上げていた二人だったが、最初に沈黙を破ったのは岩井少尉であった。

「今日・・・うちの分隊長と内務長に呼び出されたんじゃ」

松本兵曹長は(内務長の言うとられた<責任ある立場>のことじゃな)と思ったが素知らぬふりで「分隊長と、内務長にですか?なんぞあったんですかのう」と尋ねた。すると岩井少尉は胡坐を組み直して

「なんでもうちに分隊士をやってほしい、いうんじゃ。猪瀬分隊士が分隊士を解任されるんでその後任にうちを、いうんじゃ」

と言った。松本兵曹長は

「ほう、猪瀬分隊士が解任・・・ほいでも少尉にはええお話じゃないですか!ぜひお受けしたらええと思いますよ」

と言った。すると岩井少尉は小さくため息をついて

「ほいでもねえ、うちがそげえな大任、ひきうけるんは気が重い。うちはまだまだ分隊士になるような器ではないけえね」

と言った。何処となく力のない口調が、兵曹長には気になった。がそれを気取られぬように

「・・・お断りになるんですか?もったいない、うちは岩井少尉は分隊士になるべきお人じゃ思いますが?なんでいうて、岩井少尉ほど信頼の厚いお人はいませんからのう。岩井少尉が分隊士になられたら喜ぶ兵がぎょうさん居ると思いますよ」

と言ってやった。岩井少尉がこちらを顔を向けた。数瞬の後岩井少尉は

「うちが分隊士になったら・・・喜ぶもんが居るじゃろうか」

と言った。兵曹長がうなずく前に岩井少尉は

「うちみとうなもんが分隊士でええんじゃろうか?うちはなにをさせてもよう出来ん。うちはなにをしてもさせても・・・らちもなあ人間じゃ。そげえなもんに分隊士をさせようなんか変じゃ!・・・うちはほんまはいらんのじゃろ?うちをみんなで・・おちょくっとるんじゃろ!分隊士にして失敗したら笑うて

てやろう、叱ってやろう思うとるんじゃろう!

もううちは・・・うちはもう、はよう死にたい!」

と堰を切ったように言うと顔を伏せて号泣し始めた。そして身をよじって、

「うちはもういやじゃ!うちはもう死にたいんじゃ、なのにみんなでうちにあれこれさせて、失敗させようとしとるんじゃろう!ほいでみんな楽しんどるんじゃろう!――いつだってそうじゃ、みんなでうちをいじめて楽しんどる・・・いやじゃ、いやじゃもう・・・うちは内地になんぞ帰りとうない・・・うちは、うちはもうどうしたらええかわからん・・・じゃけえ死にたい!!

と吼えた。松本兵曹長はその岩井少尉の両肩を渾身の力で以てつかんだ、そして

「なにを言うとられますか、しっかりしてつかあさい岩井少尉!」

というと思いっきり少尉の身体をゆすぶった。それでも岩井少尉は身をよじり何やら叫びながら泣いている。艦内帽が床に落ち、まとめ髪が大きく左右に揺れる。いやじゃいやじゃ、もう死にたいと叫びながら泣く少尉の肩をしっかりつかんでいた松本兵曹長であったが段々心のうちに抑えきれない激情が湧きあがるのを感じていた。

少尉の肩をつかむ手に、さらに力がこもる。

そして

「岩井少尉、前にも私は言いましたが――あなたはここに必要なお人です。内務科電機分隊になくてはならんおひとです。ですけえ今回分隊士に、言うお話が来たんと違いますか?いらん人だったらそげえな話なんぞきやせんです。百川分隊長も、林田内務長もみな少尉が一番適任じゃけえお願いに来たんと違いますか?もっと自信を持ってつかあさい、岩井少尉。うちだって・・・うちだって少尉が分隊士に適任じゃと思うとります」

と諭した。時折岩井少尉を激しくゆすぶりながら。

しかし岩井少尉は泣き続ける。まるで駄々っこかなにかのように左右に身をよじって嫌じゃいやじゃと泣く。

そして、松本兵曹長のうちなる感情が遂に沸点に達した――。

岩井少尉の肩から手を離した松本兵曹長はいきなり少尉の頬を思いっきり、ひっぱたいたのだ。

鋭い音がして、岩井少尉は甲板にあおむけざまにひっくり返った。松本兵曹長はその岩井少尉の上にまたがった。そして岩井少尉の、少尉の階級章の付いた防暑服の襟の折り返し部分をひっつかむと

「少尉、少尉にはこれだけ言うてもまだ分からんのですか?みんな岩井少尉が必要で大好きなんじゃ!誰ひとり少尉の事を嫌いじゃとか要らん人じゃとか思うとらん!なのに少尉は自分の思いこみでそげえなことを言うてうちの必死な言葉を聞いてもくれん!うちは、うちは他の誰より少尉が好きじゃ、好きなんじゃ!

死にたいいうて、うちじゃって死にたい思うた事は何度でもあります。ごく最近までうちなんぞ居らんでも『大和』の機関は動くんじゃ。うち一人おらんくてもええじゃろう思うてました。ほいでもそげえな考えはえらい謝りじゃいうんがわかりました。わからしてくれたんは浜口機関長や分隊の連中、そしてあなた岩井少尉です。

そのあなたが自分は要らん人間じゃ、死にたいなんか・・・うちは悲しい。もっとうちらを、うちを信用してつかさあさい。

うちは――岩井少尉が大好きなんじゃ!」

と一気に言い、そして岩井少尉の上に自分の身体を重ねると少尉の唇に自分のそれを重ねた。暗い甲板での激しい口づけ。岩井少尉の閉じた眼から次々と熱い涙が流れる。

やがて岩井少尉の両手がそっと、松本兵曹長の背中に回った。唇が離れた。松本兵曹長は熱に浮かされたような瞳で、少尉の服のボタンに手をかけ「ええですか」と言った。少尉がかすかにうなずくと兵曹長の手が動き、ボタンをそっと外した。

星明かりに、岩井少尉の白い胸がほんのり映り兵曹長はそのそれぞれのふくらみをそっと大きな手のひらで包み込むと優しく揉んだ。岩井少尉の顔が今までの表情は全く違った表情になり、やがて小さなため息が漏れた。

松本兵曹長はもう夢中で岩井少尉の胸をまさぐり、やがてその先をそっと口に含んだ。兵曹長は岩井少尉の悲しみや悩み苦しみを吸い取るかのようにその部分を強く弱く吸う。

少尉のため息がだんだん大きな喘ぎに変わってきたので兵曹長は唇を重ねてそれを消した。そして二人はしばしの間、そこで絡み合っていた・・・

 

どのくらいたったか、松本兵曹長はやっと岩井少尉からその身を離した。そしてそっと手を差し伸べ少尉を引き起こした。岩井少尉は自分の防暑服の乱れを恥ずかしげに直している。その少尉の前に松本兵曹長はガバッと両手をついて平伏した。

「どうしたんじゃね、松本さん」

そっと問う少尉に、平伏したまま松本兵曹長は

「なり行きとはいえ、上官の顔を張ってしまいました。しかもあのようなこと・・・上官侮辱罪ですね。少尉、うちのことを分隊長と内務長、それに機関長に言いつけてつかあさい」

と言った。先ほどの荒々しさはすっかり消えてしまっている。岩井少尉は服のボタンをかけ終えると兵曹長の前に座った。そして憑き物が落ちたまるで少女のような可憐な瞳で兵曹長を見つめると

「ええんよ。うちはどうかしとったね。ああしてくれんかったらうちは目えが覚めんかったよ。うちの曇った目えを覚ましてくれたんは松本兵曹長じゃ。ほいじゃけえ告げ口なんぞせんで?やっぱり松本兵曹長はうちの恩人じゃ。ほいで――分隊長や内務長がうちの分隊士を勧めてくれたんは、兵曹長とうちのことで話をしたんじゃね。いや、ええんよ、うちの過去を話したことをとがめたりせんよ。だってそうせんかったらどうにもしようがなかったんじゃもんね。

ありがとう、兵曹長。うちの恩人。うちも松本さんが大好きじゃ、これからも、どうかうちと一緒に――」

そこまで言うと今度は岩井少尉が松本兵曹長に抱きつき熱い涙を再び流した。

今度の涙は、少尉の生きる希望に満ちたものである。

少尉を抱きしめながら、松本兵曹長は

「もう何があっても怖がったりあとじさりせんでつかあさいね。いつでも困ったときにはうちが居りますけえ。うちは岩井少尉を困らしたりいじめる奴は懲らしめてやりますけん、心配なしでおってください」

と力強く言った。少尉は兵曹長の大きな胸の中に抱きしめられながら、うなずいた。

満天の星が一段と輝いた――

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・

松本兵曹長の必死の呼びかけが功を奏しました。

岩井少尉、これで分隊士を受けてくれるでしょうか。自信を取り戻せ、岩井少尉!次回をお楽しみに。

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
時に――人間ってどうしようもないなあと思う時がありますね。自信がなくて歪んだ心になったり自分の心がわかってながらかたくなになったり。
そばにわかってくれる人がいたら素直になれる…そんな思い、願いを込めました。
一つの艦にずっと一緒に生活している間柄ならではの友人・上司の関係でしょうか。

今の現実日本にこういった関係を結べる人がいたらいいんですが…ね・・・(-_-;)

自信のなさが人の心を歪めてしまうこともありますが、それに気付いていながらもいよいよ意固地になることも。そんな心のヒダをまっすぐと伸ばしてくれるのが同じ釜の飯を食っている大切な仲間ということですね。生まれ変わらせてくれる力があるということでしょうか
お互いの本性というか素顔を知っているからこそ分かり合える真の魅力。
今の日本人にこんな人たち、いてくれるでしょうか。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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