2017-09

「女だらけの戦艦大和」・松岡分隊長作文指導する。 - 2013.12.17 Tue

「いよいよ内地へ一時帰れる時が来た。

久しぶりに故国で正月を過ごすことが出来る。私の心は嬉しさに弾んで居る。懐かしいふるさと、懐かしい人々、それらが私を優しく包んでくれるその時がやがてやってくる。

あの懐かしい故郷の山川、子供のころ遊んだ野の花咲く原。幼馴染と駆けまわった山の小道。それらがまた私を優しく「お帰り」と包んでくれる日がもうそこまで来ている。

そして私の大事な父上母上そしてきゃうだいたち。この大事な人たちが私を待っていてくれる。

私はこの大事な人々を守るため戦う。そしてその目的を達するためには命をなげうってもまったく悔いはなひのである。

大事な祖国での新しい年を、心も改めて迎えやうと思ふ。(谷垣兵曹)」

 

「今私の乗る艦は内地へと航海中です。

懐かしく久々な内地の風景を心のうちに描く時私の胸は期待に高鳴ります。呉の町並み、人々が活気あふれるあの往来の風景を思い浮かべると自然、微笑みが浮かんできます。

私には帰る家はもう無ひけれど、しかし呉の町はそんな私にも両手を広げて迎えてくれます。そんな温かひあの町が私は大好きです。

そしてあの町の片隅には、私の生みの母親が眠ってゐます。顔も覚えてはいない母ではありますがきっと、母は今日も私の帰りをあの場所で待ってゐてくれていることでしょう。

私はあの町に帰ったら真っ先に母のもとを訪ねやうと思っています。(見張兵曹)」

 

「大好きな日本に帰へる日がそこまで来てゐる。

私は親に勘当された身であるから実家には帰へれない。が、日本の国はこんな私でもしつかり迎へてくれる。日本といふ国の懐の深さやありがたさを今しみじみと思ふわたしである。

四季をりをりに綺麗な姿を見せてくれる我が祖国日本、その国があるといふだけで私は実家に帰へれなくとも私の気持ちや身体は十分に休まるのである。日本といふ国そのものが私の実家と言ってもいいのである。

ありがたき日本の国、未来永劫の弥栄を祈る。(麻生少尉)」

 

松岡中尉は、分隊員たちから提出された「日本への手紙」を読んでいる。ここまで谷垣兵曹、見張兵曹そして麻生少尉の文を読んで

「熱くなってますねえみんな!谷垣さん、特年兵君、麻生さーん!すばらしいですよお三方。しかし・・・特年兵君も麻生さんもあまり身内には恵まれないようでちょっと気の毒ですね・・・ふむ。

さて、ほかのみんなはどうかな」

とブツブツ言っている。

そう、これは以前に松岡中尉が分隊員たちに宿題とした日本への思いの文章である。図書庫から字引を借りてきて書きなさい、間違いなどもってのほかですよと言っておいたので今のところ字の間違いもおかしな表現もない。

「いい傾向じゃないですか・・・てわけでハイお次はーー」

松岡中尉は次の原稿を手に取った。

 

「美しい日本。四季に彩られる日本の国、私はそんな日本が大好きだ。

そして日本の国に住まふ日本人の心の美しさはこの四季を映してをるかのやうだ。そして日本の男性はこれまたたいへんりりしく雄々しい。私は日本の男性のあのりりしさ雄々しさが好きである。以前布哇におひてかの地の男性と関係を持つたことがあつたが男も、かの地の料理と同じで大味であつた。繊細さがなひのが惜しまれるのである。かの地の男性の持ち物はたいへんに立派で素晴らしいのであるがどうにもかうにも繊細さに欠け私は不満足である。

やはり男性は日本に限る。(小泉兵曹)」

松岡中尉は「なんですってこれは一体誰なんだよ!こんな下品なものを書くなんて、うーん・・・小泉君はあれですね、その道の達人なんでしょうね。しかし私が言った趣旨とは全く違ってるじゃないですか!誰かあとで小泉君に私のところに来るように言ってちょうだいな!」とさすがにあきれ顔である。

 

そのあとも他の分隊員の作文を読んだ松岡中尉であるがあまりの内容のなさについに放りだしてしまった。そしてその晩、分隊員を前甲板に呼びだした。当直員以外はすべて集まり、

「松岡分隊長直々の呼び出しなんと。いったい何があったんじゃろう」

とか

「松岡分隊長のことじゃけえまた『熱うなれ!尻の穴を締めえ』ッて言われるんと違うかね」

などと軽口を叩いては笑っている。しかし、海上での呼び出しは少し気味が悪いものがある、艦の舳先に波が当たる音が否応なしにその雰囲気を盛り上げる。

「もしかして」

石場兵曹が暗黒の一重まぶたも重々しく呟く。その顔に、月光が当たって石場兵曹の表情をいっそう壮絶なものにしている。見張兵曹がごくっと喉を鳴らして石場兵曹の顔を見ると

「もしかして・・・なんじゃとお思いです、石場兵曹」

と問うた。石場兵曹は暗黒の一重まぶたをそっと開くと見張兵曹に

「それはね、オトメチャン。松岡分隊長は普段からよくやってくれたものに何か・・・褒美を下さるんじゃないか思うんじゃ。褒美をもらえるんはほりゃもう」

とそこまで言いかけた途端、横から小泉兵曹が

「ほりゃもう、うちにきまっとろう!ねえ石場兵曹。うちはいつもようがんばっとるけえ松岡分隊長もうちを評価しとってくれとるんでしょうねえ」

と言ってガハハと笑った。麻生分隊士があきれたような顔をして天を仰ぎ、石場兵曹はたいへん不機嫌な唸り声をあげるとその暗黒の一重まぶたをさっきより重々しく垂らして

「小泉兵曹。あなたはどうしてそう自分優先にものを考えるんじゃね?そういうのを僭越とか出しゃばりとか言うんです・・・たいがいにせんとしばきあげるで?貴様あ!!」

と最後は怖ろしい形相で怒鳴った。これにはみな――麻生分隊士も――たいへんにびっくりした。小泉兵曹はヒャッと叫んで、「すみません、許してつかあさい」と頭を下げた。石場兵曹は鼻息も荒く暗黒の一重まぶたをまだ重く垂らしたまんまで白目を剥いている。

とそこに「おーい、みんなあ。待たせてしまったねえ」と大声が響き、例によってラケットを振り振り松岡中尉のお出ましである。松岡中尉は月明かりに照らされた甲板の上を足取り軽く小走りに来て皆の前で立ち止まった。皆が敬礼した後松岡中尉は

「こないだ提出してもらった作文を読ませてもらいました」

といきなり切り出した。皆は少し緊張――不安と期待の入り混じった――して姿勢をただした。小泉兵曹など(うちの書いた作文が一番ええ、言うてなんぞ褒美をくれるんじゃな。うちは昔っから作文がうまあて学校の先生にもほめられたもんじゃ。じゃけえ今回も)とそこまで思ったその時。

「小泉君!」

と松岡分隊長の大声が轟いた。小泉兵曹は満面の笑顔で以て「ハイーッ!」と返事をするなり前に一歩進み出た。

次の瞬間。

バチーン!

小泉兵曹のほほが鳴り、彼女は三メートルほど先にすっ飛んだ。麻生分隊士以下が「はっ!」と息をのんだ。見張兵曹は息をのんで傍らに立っている分隊士の防暑服の袖にすがった。

小泉兵曹は大きな音を立てて甲板上に転がってしばらく動かなかった。石場兵曹と石川水兵長が彼女を抱き起こした。やがて小泉兵曹は「うーん・・」と軽くうなって眼を覚ました。

すると松岡分隊長はそっと小泉兵曹に歩み寄った、そしてその傍らに膝をつくと

「あなた、なんで私に殴られたかわかっていますか?」

と尋ねた。小泉兵曹はまだぼんやりした頭を軽く振って

「はい。――いいえ、あのその」

と言った。松岡分隊長はそんな彼女の肩をつかむと

「いいですかあなた。あなたの作文はあまりに品がないですよ!私は愛する祖国日本への愛情込めた手紙を書きなさいと言ったはずです。なのにあなたのあの作文はなんです?男がどうしたのこうしたの・・・その上ハワイの男と日本の男のいやらしい比較。いいですかそんなことを書くなんか大和をとめの、いや帝国海軍軍人の風上にも置けませんよ?

麻生分隊士や特年兵君や谷垣さんの高尚な作文をよく読んでから書き直しなさい!「

と諭した。やっと意識ははっきりした小泉兵曹は恥ずかしさで頬を染めながら

「ごめんなさい。もうあがいな恥ずかしいこと書きませんけえ、もう一度機会をください」

と言ったのだった。

 

そのあと小泉兵曹はきちんとした内容に書きなおし、松岡分隊長はそれをガリ版で印刷し冊子にまとめて航海科員に手渡した。

そのあとそれを艦長・副長・参謀長も手にして「素晴らしいね、さすが松岡中尉。考えることが違うよ」と絶賛され、松岡中尉は「いえいえ。私はただ思いついただけ。素晴らしいのはこれを書いた麻生さんたち航海科のみんなですよ」と言って、ますます松岡分隊長の株は上がったのだった。

 

マツコが艦長と副長のそばにいてそれを聞いて

「そうよ、マツオカのすることに間違いはないわよ。だって――アタシのマツオカだもの!」

と言って嬉しげに松岡中尉に頭をすりつけ、トメキチは

「トメさんの書く文章はいつも素敵。だって――僕のトメさんだもの!」

と言って見張兵曹のほほをぺロリ、なめたのだった。

       

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そういえば図書庫で幻の本云々と言った時、松岡分隊長は航海科員にそんな宿題?を出してましたっけ。それにしても小泉兵曹、そりゃないだろうという内容です。正直私は恥ずかしいです。

それにしても松岡中尉の愛の鉄拳、痛そうです・・・。

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
小泉兵曹の頭の中はこんなことで一杯なのです。ですから「信なくば立たず」なんて言葉は彼女の脳内では『珍なくば勃たず』に変換されているのです!

私は結構こうした下ネタ系が大好きで時折こういうものが見られるサイトですとか、書物をこっそり見ています。そう、スケベです。中学時代は同級生男子から「むっつりスケベ」という尊称(?)を奉られたこともありますw。

浮世絵展・・・観てみたいものです!とくに春画は・・エヘヘヘww。
何かで見たことがあったのですが「こりゃすごい」って感じのあり得ないほどのでっかいモノがご開陳されていてまさに目を食いこませて見入っていましたw。

バルセロナ娘さん、(もしかしてこのニホンジンも!?)と思ったのでしょうね、え?期待外れってことはないでしょう~~ww!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
作文って言葉は学生を卒業するとあまりほとんど縁が無くなっちゃいますね。私は小・中・高と作文は苦手でした。なにかこう…書けませんでした。
小泉の作文は見方によれば「ワンダホー!」なんでしょうがいかんせん、海軍軍人としてはいかがなものかという評価に落ち着いてしまいますね(-_-;)。でも自分を素直にさらけ出してるところを評価してやってほしいところです!

今日の寒かったことったら・・。オスカーさんも御身大切になさってくださいね。
酒粕てらを食べていれば元気100倍!

小泉さんったら何を考えてんだか。
元総理の純一郎さんは酒席後の取材で「信なくば立たぬ」と言っておりました。
立つ、勃つがどうも頭のなかでシャッフルしております。
それにしても見張り員さんも研究熱心で。どこで覚えて来たんでしょう(笑)
バルセロナのピカソ美術館に行った時、ちょうど浮世絵展が行われておりました。
「お~~~!!」、日本人の僕でも恥ずかしくなるようなご立派な珍品描写が。
バルセロナの若い姉ちゃんが、もちろん僕らを見ておりました。期待外れなのに!!

Re:

こんにちは。作文という言葉も懐かしいですね!遠足やら運動会やら絵とセットで書かされた小学生の頃を思い出しますわ。
しかし…日本への想いが「ウタマロ」的なところがスゴい作文でしたね( ̄▽ ̄;)平気でスラスラ書けるところが素直でよろしい!なのかしら(^.^)
寒い日が続きます。お身体に気をつけて下さいね。私は毎日酒粕てらをちょっとずつ(笑)食べて元気です!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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