「女だらけの戦艦大和」・落し物あれこれ3<解決編>

「ねえ見て藤村さん、こんないいものが――」と野村副長が拾ったものを藤村少尉に差し出した――

 

「今度はなんでしょうか」

と恐る恐る副長が差し出したものを藤村少尉は覗き込んだ。副長は何やら上機嫌で「ほら見て藤村さん、こんなに高尚なものだったよ、さすが『大和』乗組員だねえ。どんな場面でも知識の吸収に余念がないんだね。ただ惜しむらくはこういう大事なものをこんなところに落っことすってところかな。きっとおっちょこちょいな人だね」と言った。

藤村少尉は差し出されたものを手に取った。

「書籍でありますか・・・」

そう、落し物は書籍・本であった。タイトルは

<走れメロス>

藤村少尉はああ!と言って言葉をつづけた、

「名作でありますね、私も読んだことがありますよ。メロスの友人を思うあの挺身!我々も見習わ」

突然そこで言葉が途切れた。野村副長は「?」と藤村少尉の顔を見つめた。藤村少尉はゆっくり顔をあげて副長を見て

「これ・・・違いますね題名が」

と言って本を副長に返す。

「違うってなにが?題名がってあなた」

副長はそう言って軽く笑って本の表紙をよく見つめた。と!

「これなに!<走れエロス>って・・・メロスじゃないじゃん!」

副長の口から叫びが飛び出した。藤村少尉は「そうです・・これは本物じゃないですよ、あの高尚な文学作品じゃないでしょう?これって・・・」と言って不安げに副長の顔を見る。副長は「貸しなさい」と言って少尉の手から本を取った。

「走れ・・・エロスだと!?まったくふざけて!」

副長は高尚な文学を汚されたような気がして不機嫌な声になりその表紙をめくった。

「ハッ!」

副長が息をのみ、藤村少尉は副長の手元を覗き込んで「わあ!」と叫んでいた。その本の中身は、高尚な文学とは全く違う――春画風挿絵満載の官能小説だったのだ。

副長は怒りにわなわなとふるえた、そしてそれを手から取りおとした。ドサッ、と本が床に落ちた。

「誰だ一体!あの名作をこんな形で穢しやがって!こんな、こんな・・・」

と大声で叫んだ。その時向こうから見張兵曹があるいて来たのに気がついた藤村少尉は床に落ちた本を素早く拾い上げ後ろ手で隠した。見張兵曹は二人の前に来ると几帳面な敬礼をした。副長は防暑服の襟を直しながら

「見張兵曹。珍しいねここで会うとは」

と怒りのあまりに高まった胸の鼓動を抑えつつ言った。何も知らない見張兵曹は可愛く微笑んで

「はい、ちいと借りたものを返しに友達を訪ねたところです。さっき何か大きな声が聞こえたと思うたんですが何ぞあったんですかのう」

と言って周囲を見回すような格好をした。副長はあわてて

「ないない、なにもないよ!あ、さっきのね?藤村少尉がくしゃみしたんだよ。それを声と聞きちがったんじゃないかな」

と言った。見張兵曹は少し目を見開いて

「あがいに大きなくしゃみを・・・藤村少尉、お風邪を召したんと違いますかのう?どうぞお大事にしてつかあさい」

というともう一度一礼してその場を去った。その姿が最初の角を曲がって消えた時藤村少尉は「ふーっ」と大きなため息をついて後ろ手にして隠した本を身体の前に持ってきた。副長がそれに視線を落として

「こんなものをオトメチャンに見せるわけにはいかないからね」

といい、「それにしても」と言葉を継いだ。

「いったいどこの分隊の誰がこんなくだらないものを。これは調査しなきゃいけないなあ」

そう言って副長はその本を腰に下げた手拭いでくるみ、少尉の持つチンケースの中にそっと入れた。どんな中身でも本だから粗末にはできないのだ。そして副長はおもむろに少尉を振り返って

「さあ・・・もうちょっと。行こうか」

と少尉を促してまた歩き始めた。

 

そして二人が下甲板に入った時。

あわてたように向こうから走ってくる松本兵曹長が目に入った。藤村少尉は

「松本兵曹長、血相変えてどうした?」

と声をかけた。すると松本兵曹長は「ああ!甲板士官・・・副長も、ちょうどええ所で会いました」と言って大きな身体を揺すって駆け寄ってきた。

松本兵曹長は

「焼却炉の前にえらいたくさんのゴミがあってです。しかもどれもこれも私物らしいがです。しかもですね・・・」

と言いかけてから

「ほうじゃ、うちがあれこれ言うより実際に見てもろうたほうがええ。ご一緒に願います!」

と言って走り出し副長たちもあとを追い廊下を走る。

 

件の焼却炉の前に機関科の数名が集まってワイワイと騒いでいた。そこに松本兵曹長が「どいてくれ、副長と甲板士官のお越しじゃ」と割って入る。野村副長が

「私物があるというがいったいどういうことなの?」

と機関科の兵員嬢たちをかき分けると、そこには――

紙切れ、汚い布、腐った食べ物らしきもの、古褌などなどのゴミがぶちまけられてる。しかもそのうえ、

「見てつかあさい、ここ。これはうんちとちがいますかのう?」

と椿於二矢子兵曹がごみの上を指差した。副長が「へ!?ウンチ?」と素っ頓狂な声を出し、藤村少尉が顔をそっと近づけてじっと見入った次の瞬間

「わああ!ほんとだうんちだ!」

と大声をあげてその場に腰を落としてしまった。機関科の兵曹が助け起こす。副長は

「いったい誰だろうこんなところにゴミ、しかも私物のゴミをこんなにほったらかすとは」

と憤慨していたが、はたと思い当たったように藤村少尉を見下ろすと

「藤村さん、そういえば野田兵曹のチェストはいつからあんなにきれいになっていたんだろうか」

と尋ねた。藤村少尉はやっとこさっとこ立ち上がると

「私にはわかりかねますが・・・高角砲の生方中尉を呼んで聞いてみましょうか」

と言って急ぎ、生方中尉が呼ばれた。息せききって走ってきた生方中尉はその場の惨状に肝をつぶしていたが副長の問いに

「野田のチェストが綺麗に?ですか??まさか、私は昨日『綺麗にしろ』と言ったばかりですから、あいつがそんなに急に綺麗に出来るとは思いませんが」

と言ってそのゴミを見ようとかがみこんだ。そしてそのゴミをおそるおそる一つ一つ手でかきわけようとして椿兵曹に

「生方中尉、気いつけんとそこにうんちがありますけえ」

と注意され「ぐわっ!」と叫んで尻もちをついた。そして「早く言ってくれえ、そんな大事なこと」と泣きそうになった。

が、気を取り直してもう一度そのゴミを見たが突然

「副長、これは野田のやつのものであります!見覚えがあります。ただこのウンチはどうかわかりません」

と言って皆を見渡した。副長は「決まったな、誰か野田兵曹を呼んできなさい」と言い、機関科の兵曹の一人が走って行った。

やがて機関科の兵曹とともにその場にやってきた野田兵曹は、さすがに顔色も悪くなっている。藤村甲板士官、そして野村副長の怒りに満ちた表情に野田兵曹はすっかり縮み上がっている。

副長は、野田の前に足音も荒く来て腕を組んでたつとその大きな顔を睨みつけた。そして

「野田兵曹、貴様なんでここに呼ばれたかわかっておるだろうな?先ほど貴様の上司の生方中尉に聞けば貴様昨日生方中尉よりチェストを片付けよと命令されていたらしいではないか。そして今日ここに散らかしてあるゴミは貴様のものだと生方中尉から聞かされたが・・・それに相違はあるまいな?」

と語気荒く詰め寄った。藤村少尉もはだしの足音をぺたぺたとさせて野田のそばに寄ってくる。野田は観念したのか

「ごめんなさい、すみません!生方中尉からはよう片付けんと海にたたき込む言われてはあどうしたらええかわからんようになって、昨夜みんなが寝静まったのを見測ろうてここに置きました。ほいでもいくつかが行方不明になっとって。何処ぞで見ませんでしたかのう、うちの褌と本」

といい、その褌と本をチンケースに収めて歩いてきた藤村少尉は

「き、き、き、・・・貴様のものだったのかあ!あの間違いだらけの恋文と小汚い褌と名作を気取ったあのヘルブックの落とし主、いや持ち主は!」

と叫び、生方中尉は「えっ!褌はいつものことだが・・・間違いだらけの恋文に名作を気取ったヘルブックとは何だ。甲板士官、見せてほしい」と言いチンケースの中から取りだされた恋文と<走れエロス>を見て激怒。

しかもこれ、どっちも内容がひどい。

「恥を知れよッ!」

 

野田兵曹はトレーラー碇泊の艦艇仲間の間でひそかに出している本(「同人誌」というのか)を買うのが好きで最も好きな一冊が<走れエロス>などの、高尚な文学から題名をいただいた過激なエロ小説。それのほかにも数冊買ったのだが生方中尉の目が恐ろしくどこかに隠そうと他のゴミと一緒に持って歩くうち<エロス>を落としてしまったのだ、と野田は言った。

「で?」

と甲板士官は言った「本のことはわかった。が、このウンチをどう説明する?まさか貴様がこいた糞じゃあるまいな」。

野田兵曹はびっくりして両手を顔の前で振って

「とんでもない!いくらなんでもうちがこんなところでくそ何ぞひったりしません。ほんまです、信じてつかあさい~」

と最後は泣きそうになった。しかし疑心暗鬼にかられる一同――するとそこに

「やあみなさん、熱くなってますねえ!」

と聞きなれた大声が響き一同がそちらを見るとラケットを担いでトメキチとマツコを従えた松岡中尉が立っていた。松岡中尉はずかずかと皆の前に歩いて来るといきなり足元にいたトメキチを抱き上げると

「そこのウンチですがねえ、実はこの犬くんが我慢ならずにここで漏らしてしまったらしいんですねえ。ここにうずたかく、布やら紙切れが積んであったから犬くんは厠と勘違いしたんじゃあないですかねえ。鳥くんは止めようとしたらしいですが、ま、出物腫れもの所嫌わずの言葉通りでね。

というわけで私の部下の不始末を謝りに来ましたー!さあ犬くん私と一緒に謝りましょう、どうもすみませんでしたあー!」

と大音声を発した。これにはみな一様にびっくりした。野村副長は

「松岡中尉はトメキチの言葉がわかるのかね?それにハシビロとも話が出来るのかしら、すごいねえ」

と感心している。藤村少尉ははあー、とため息をついてから

「わかりました松岡中尉。トメキチのうんちについては不問にしましょう。それでいいですよね副長。だが、野田兵曹。貴様は不問に付すことはできないぞ。ちょっとこのまま来い!」

と言って野田は藤村甲板士官に引っ立てられて行ったのだった。その後ろをたいへん怖い顔つきでついてゆく生方中尉。

 

そのあと野田兵曹は藤村甲板士官の監督の元、生方中尉に間違いだらけの恋文を直させられた。そして

「いったいどこの誰に出すつもりだったのか?白状せよ」

と責められたが、これだけは頑として口を割らなかったのだった。

ともあれ不可思議な落し物事件はこうして何とか幕を下ろしたのだった。

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・

なんだか変な話でしたw。

野田兵曹、チェストをきれいにしたんだあ、と思ったのもつかの間夜陰に乗じてこっそり捨てに行くとは言語道断ですね!

そして「女だらけの海軍」では同人誌が流行ってき始めたんでしょうか?いいのか悪いのか、わかりませんね。

 

この春娘が京都旅行に行って私に買ってきた土産です(『渡すの忘れてた~』とかで先日もらったものです。

君が代、と書かれた側を開くと「君が代」の歌詞が。日の丸の側を開くと「日章旗」が現れるものです。
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Comments 4

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
ホントにどんぴしゃな土産物です^^。よくこのようなものを見つけたなあと感心しました!

とんでもない落し物騒動でした(^_^;)、極めつけに「うんち」なんて。
野田の恋文の相手は一体誰なのでしょう?近いうちわかるかもしれません、どうぞご期待くださいませ^^。

寒さがとてもきつくて閉口です。今日は風も強く体感温度はとても低かったと思います。大分はどんなでしょうか?にいさまも御身大切にお過ごしくださいませ^^。

2013/12/13 (Fri) 22:14 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

さすがに見張り員さんの娘さんだけあって常人には気付かないお土産でしたね。国歌と国旗がコンパクトに一体になっているなんて、よく見つけたものです。

何だか大変な騒ぎになっていますね。不思議な落とし物騒動に当のご本人たちには申し訳ないことながら楽しく読ませてもらいました。
ところで誰に宛てた恋文だったのでしょうか。いつか教えて下さいね。

寒さが増してきています。どうかお体を大切に。

2013/12/13 (Fri) 20:14 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
この土産、京都のどこかで買って来たらしいです代w、今頃出してくるのでびっくりしましたww。

「女だらけの海軍」にも同人誌のブームの予感です。各鎮守府で即売会…なんてことにならんとも限りませんぞ~。

二人の誕生日が過ぎ、その成長に嬉しく思ったり半面さみしさも感じています。
なんだかんだいいながら二人仲良くしている姿に「姉妹っていいなあ」と一人っ子の母はうやらましく感じています。

しかし…「家」としては男子がほしかったようです・・・(-_-;)

2013/12/12 (Thu) 21:01 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  
Re:

おはようございます。
お嬢様のおみやげ、どこで売っていたのか気になります~スゴい! 時間がたっても大丈夫なものでよかったと話を読んだ後なのでほっとしました(笑)
同人誌ブーム、よろこばしいことです♪はやく即売会を!と期待してしまいますわ~!
今月はお嬢様ふたりともお誕生月で見張り員さまには忙しくも嬉しい師走になりましたね。下の娘さまも毎日たくさんステキな出来事に出会えますように。姉妹仲良く見張り員さまをサポートして下さるでしょう~やはり女の子がいたらよかったかな!?

2013/12/12 (Thu) 08:08 | EDIT | REPLY |   

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)