2017-10

「女だらけの戦艦大和」・落し物あれこれ1 - 2013.12.05 Thu

「女だらけの戦艦大和」他の艦艇は内地目指して洋上を走り始めている――

 

今回はマリヤナ諸島を北上して小笠原諸島を伝って父島から西へ走る予定である。最初の寄港地はサイパン島である。ここで簡単な補給をした後小笠原諸島に向かう。

梨賀艦長は航海長に

「矢矧以下の艦艇に乱れはないかね?潜水艦もこの先から護衛に着くから安心だが念を入れて水上および対空見張りは厳にせよ」

といい航海長は掌航海長以下航海科員に艦長命令として知らせる。花山掌航海長は片山航海長の眼を見つめて

「わかりました・・・航海科員総員に周知徹底させます」

と言って艦橋を走り出て行った。

艦内に気持ちの良い緊張感が走り梨賀艦長はたいへん機嫌がよい。そして胸に下げた双眼鏡を手にとって前方を走る『矢矧』を見つめた。矢矧には古村水雷戦隊司令が座乗しその指揮をとっている。梨賀艦長は(呉に着いたら古村たちと酒でも飲みたいものだね)

そんなことを思いつつフッと横を見ればそこには愛しい副長がいて海図台に広げた海図を、航海長とともに見入っている。艦長は(そうだ・・・内地に着いたら今度こそツッチーと一緒に)などということも考えている。

それを知らない副長は航海長との打ち合わせを済ませると

「では私は艦内を見回ってきます」

というと艦橋を出て行った。艦長は何か残念そうな顔でそれを見送る・・・。

 

副長は、藤村甲板士官を呼びつけて「一緒に艦内を見回ろう。夜の巡検だけでは心もとない部分もあるからね」と言って二人で回り始めた。兵員たちは

「ありゃ、昼間っから副長の巡検かいね?どがいな風の吹き回しじゃろう」

と言って戦々恐々としている。が、普段から整理整頓にはきちんとしている『大和』乗組員のこと急に副長が来たからと言って恐れるものではない――たった一人野田兵曹を除いては。

「藤村少尉、野田兵曹のチェストを点検しなくていいのかしら?もうあれからしばらくたつじゃない?見に行った方がいいような気がするんだけど」

と副長は言って艦内帽の廂を右手でちょっと持ち上げて藤村少尉を見た。少尉は副長を見て

「そうですねえ・・・正直私あいつのチェスト見るの、怖いんですがまあそうも言ってられませんからね。行きましょう副長」

と言った。二人はうなずき合うと野田兵曹の居住区へと歩いて行った・・・

 

「野田、野田兵曹はおらんか」

高角砲の居住区入り口で藤村少尉は呼ばわった。ちょうど昼飯後で数名の食事当番の兵がかたづけをしていてその中に野田兵曹がいた。野田兵曹は突然の副長と甲板士官の訪問に驚きながら入り口まで出てきた。その兵曹に藤村甲板士官は

「貴様のチェストを点検に来た。内地に帰還の前に汚れたところがあってはならない、帝国海軍期待の艦の名折れである。ゆえに艦内で最も汚い野田のチェストを点検する。貴様のチェストを見せよ」

といい、野田兵曹は「わかりました・・・こちらへ」と部屋の隅のチェストへと二人を案内した。野村副長はチェストの前に緊張の面持ちで立って

「開けなさい」

と命じた。野田兵曹ははい、と殊勝に返事をし扉に手をかけた。ギイッと音がしてチェストの扉が開いた。副長と藤村少尉は思わず後ろに飛び下がったが中身は今度は拍子抜けするくらい大変きれいに整理されていて副長は感心した。そして

「なんだ、野田兵曹。やればできるじゃないか。この調子でずっときれいにしておきなさい」

と言って野田の肩をそっと叩いて、藤村少尉を促して居住区を出た。副長は

「あんなにきれいにできるのにどうして今まできれいにしとかなかったのだろうね、生方中尉も辟易していたじゃないか。でもこれで一安心だね」

と藤村少尉に話しかけた。が藤村少尉は小首をかしげながら

「はあ。でもきっとまた汚して大ごとになるような気がしますね。ああいう人間はなかなか懲りませんからね。生方中尉も困った部下を持ってお気の毒です」

と言って廊下をはだしでぺたぺたと音を立てて歩く。行きあう兵たちが敬礼で二人を見送る。

と。

「ありゃあなんでしょう、副長」

と、藤村少尉が行く手を指差して叫んだ。なになにどうしたの、と副長が言うと藤村少尉は駆け出して行く。はだしの足の裏がさらにぺたぺたと音を立てる。

少尉は上甲板に上がるラッタルの下に落ちていた何かを拾い上げた。副長が駆け寄って行きながら

「藤村さん、なに?落し物か」

と言った。少尉は手にしたものをひねくりまわしながら見つめていたが、副長の前にそれをそっと差し出した。

「なんだねこれは」

と副長が受け取ったのは封筒である。封もしていない。

「封筒か。しかし何も書いてないなあ・・・仕方がない、中を見よう」

副長はそういうと封筒の中に指を差し入れ中の便箋を引き出した。藤村少尉は「まさか何か変な文書だったらどうしよう・・・間諜の連絡文書だったりしたら・・・この艦内にスパイがいるなんて思いたくないなあ・・・」などとブツブツ言っている。その少尉を一瞬あきれたような瞳で以て見た副長であったが、便せんを開いてその文面に眼を走らせた瞬間、

「少尉、残念だったね。スパイの文書じゃなかったよ!やだなあ、誰だろう?しかも『恋しいあなた様』と書きたいんだろうがこれじゃあ『変しい』だよ、こんな間違い文字の恋文なんかもらってもうれしくないなあ」

というなりけたたましく笑いだした。その笑い方があまりにすさまじいので藤村少尉はびっくりして副長の手にした便箋を覗き込んだ。副長は便箋を少尉に差し出してなお笑い続ける。身体を前に倒して腹に手を当てて笑い続ける。

藤村少尉は便箋に視線を落とした、そこには

「変しい変しいあなた様。わたしはあなた様のことが何処にいても忘れられません。変するということがこんなにも狂しいことだとは。あなた様に振られたら私はもう屁寺に行って屁僧になるしかありません」

と書かれている。<狂しい>とは何だろう<狂おしい>ってことかしら、もしかしたら「苦しい」と間違いではないのか?その上「屁寺」とは、「屁僧」になるとは!?これは「尼寺」「尼僧」の誤りではないのか??

少尉は頭の中が混乱し始めて来たので副長の手から封筒を取るとその中に放りこんだ。そして

「副長、ではこれは私が預かっておくことでよろしいでしょうか」

と尋ねた。副長は笑いをやっとこさっとこ収めて涙を手の甲で拭いつつ「ああ、お願い。誰だか知らないが取りに来ればいいねえ」と言ってまだ頬が緩んでいる。

藤村少尉は

「そうですねえ。こんなに間違いの多い手紙を私は読んだことがないですね。あの・・・「屁寺」・・・」

と言った瞬間再び激しい笑いが湧きあがってきてしまい、同じく再び笑いの大波に襲われ始めた副長とともにその場に倒れ込んで笑い続けたのだった――

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

 

いよいよ内地へ向け航海の始まった『大和』他艦艇ですが、『大和』艦内では一体何が起き始めているのでしょうか。

今回のキーワードは「落し物」。この先何があるのでしょうか、ご期待下さい。

封筒です。封筒

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます^^
漢字、最近こうしてPCのキーボードをたたくようになってから紙に書くとき忘れたり「こうだっけ?それともこう?」と思うことが多くなりましたね。
そうそう、ケー隊の文字変換も「??」となること多いです(^_^;)。

艦内の落とし物。
実際の艦内生活でのお話ではあまり聞いたことがないですが絶対あったはず!
でももしかしたら(ものにもよるでしょうけれど)拾ったらインマイポケットしちゃった人もいたかもしれないですね。なんせ2千人からの人がいますから(^^ゞ
大きな海戦の前、露天甲板にどこかの神社のお守り袋が落ちていた、という話は読んだことがありますね。

寒くなって閉口です。オスカーさんも暖かくしてお過ごしくださいね。いつもありがとう!!

matsuyama さんへ

matsuyama さんおはようございます^^
大変珍しいことです、野田のチェストがきれいになってるなんて!!

会社などでデスクの上が「ちょっときれいにしたらあ?」と思うような人でも「私は俺は、この方が仕事がしやすいんだよね~」といわれると返す言葉がなかったりして(^_^;)
会社の整理整頓日w、でもきれいになるのはいいことでしたね。

こんな間違いだらけの恋文もらってもうれしくない・・・というか大笑いしてストレス解消にはいいかもしれませんが書いた本人の学力知力を問われそうですよねww。
「屁寺」「屁僧」と書かれた「尼寺の尼僧」さんの苦虫噛み潰したような顔がちらつきます・・・(-_-;)。

Re:

こんばんは。漢字っていざ書くとなると、これだっけ?となりますね~ケータイの文字変換もたくさんあると不安になってしまいます(;^_^A
落とし物は交番へ!ですが、艦の中に特別におまわりさんがいるとしたら犬のおまわりさんでしょうか?(笑)
夜は本当に冷えますね。お身体に気をつけて下さい!

野田兵曹のチェスト、整理されてたんですね。整理整頓されると気持ちいいんですよね。自分も会社ではいつも机の上が乱雑でした。上司に月1回会社の整理整頓日を設けられたのは、自分が原因だったのではないかと思ってます(アセ)。
それにしても間違い字だらけの恋文。よくありますね。尼寺を屁寺ですか。よく似た字ですものね。よく考え付きましたね。他にもありそうですね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
横っ腹は痛みませんか?笑いすぎにご注意であります^^。

「変しい」はホント、定番ですよね。私は昔、五輪真由美さんの「恋人よ」が流行った時歌詞を母に書いてあげた際「変人よ」と書いて笑われました。

「屁寺」「屁僧」・・・想像するとあたりが匂って来るようなそんな気さえしてきますね(-_-;)。

こんな手紙を書いたのは一体…?そしてまだ落し物がありそうです、次回をご期待ください!

NoTitle

あはは!!
朝から大笑いしてしまいました。もう苦しい。
変しい……、これは定番ですね。ところが見張り員さんは屁寺の屁僧にまで大躍進。もうたまりません。
一体全体こんな手紙を書いたのは誰なの?? 次が楽しみです。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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