「女だらけの戦艦大和」・幻の本2

その晩、巡検後の烹炊所前に集まったのは――

 

「な、なんじゃ。野村副長が居ってじゃ」

と驚きの声を上げたのは石川水兵長である。航海科からはこのほかに松岡修子中尉に樽美酒ゆう少尉そして分隊士の麻生太特務少尉、その恋人の見張トメ二等兵曹、その友人の小泉純子二等兵曹や谷垣一等兵曹、それに暗黒の一重まぶたも重々しい石場茂子上等兵曹などが烹炊所前に集合して、なぜかマツコとトメキチもその後ろにくっついている。

そのほかに機銃分隊の長妻昭子二等兵曹、増添要子二等兵曹などもいてお互い瞳を見かわしては(なんでここに副長が居るんじゃろうねえ?)と思っているし、副長は副長で

(一体なんだあ?なんでこんなに下士官や兵隊が来てるんだろう?なんかこの中で私ヘンに目立っていないかしら。って言うかこの連中も例の<幻の本>を見に?)

とそわそわしている。

とそこに「お待たせしてしまって」と汚れた前掛けを外しながら主計の森脇兵曹が現れた。そして一行をざっと見まわすと

「では、図書庫へまいりましょうか?よろしいですか」

と言って皆を先導するように歩きだした。副長も、松岡中尉も樽美酒少尉も・・・皆期待に胸ふくらませている顔であるきだす。

その道々、麻生分隊士はこっそりオトメチャンの耳に

「なあオトメチャン。<幻の本>いうてどがいなもんじゃと思うね?」

と囁いた。オトメチャンは歩きながら腕を軽く組みながら

「ほうですねえ。きっと綺麗な絵本みとうなもんじゃないかとうちは思いますが。いうてうちはあまり絵本を見たことはないんですが」

と言った。麻生分隊士は(オトメチャンは絵本を見たことがないんじゃな・・・かわいそうじゃのう)と湿っぽい気分になったが(ほうじゃ、内地に帰ったら綺麗な絵本を買うてオトメチャンに贈ろうか)と思いついた。

その後ろをマツコとトメキチが歩きながら、「ねえトメキチ、一体どこに何があるって言うのかしらねえ」「そうねえマツコサン。<まぼろしのほん>て言うんだけど<ほん>ってみんなが時々開いてるあれのことかしら?」「あれって何が書いてあるのかしらねえ」「わかんない。でも時々絵の書いてあるのもあるわよ」などと話している。二人、もとい二匹の胸も期待に膨らんでいるようだ。

 

一行は、最下甲板の前方の一角にたどり着いた。普段あまり来ないところで、さすがの副長でさえ「ほう、こんなところがあったのか」というくらいである。森脇兵曹は慣れた手つきで扉を開けた。

ギッと鉄の扉が鳴って、森脇兵曹がまず身体を部屋に入れた。中に電燈がつき兵曹が皆を招じ入れた。入った皆は「わあ、えらい数の本があってじゃ」と声を上げた。松岡分隊長がまず、本を並べた棚に走りよって本の背表紙を眺める。その分隊長にマツコがまとわりつき「ねえ、なにこれ。なんて書いてあるの?」という。

そのマツコに松岡分隊長は

「鳥くん、君も本を読むかい?この本は<イワシの馬鹿>という本だよ。こっちは<カラシーゾフの兄弟>というどっちも外国の本だねえ。でも君には難しいかもしれないよ」

と言って他の棚を見に歩く。

そんな分隊長を尻目に、麻生分隊士やオトメチャン、それに野村副長たちは例の<幻の本>探索にかかる。八列ほど並んだ大きな本棚、その間を経巡って上の方まで見上げてみたり下の段をしゃがんで覗いてみたり。

麻生分隊士は森脇兵曹に

「森脇兵曹、その<幻の本>言うてどがいな本なんじゃ?その・・なんていうたらええんか・・本の表紙やらなんやら」

と問うた。森脇兵曹は麻生少尉のそばに駆け寄ると

「うちも記憶がおぼろげでありますが、まるで自分たちで作ったみとうな感じでありました。売っとるような本とはちいとちごうておりましたね。いうて中身は見てはないんじゃが」

と説明した。麻生分隊士は「ほう、普通の本とはちごうてか。ほんなら探しやすいかもしれんのう」と言って本棚を見つめる。

野村副長はオトメチャンと「本棚ばっかり探してもなさそうだわ。見張兵曹、この部屋の隅に何やら箱が置いてあったよね、その中に入ってないか見て見ない?」と部屋の隅に置いてあるいくつかの箱を二人で引きずり出してくる。

石川水兵長や樽美酒少尉、谷垣兵曹に石場兵曹などが手伝う。「重いのう―」「ああ重いのう―。この中に<幻の本>が入とるんかねえ」などと言いながら。大きな箱は全部で七つにも及んだ。それらを図書庫の広い場所に出してきて、

「野村副長、さっそく熱くなってください。さあ、副長あなたも今日から富士山だ」

と松岡分隊長の叫びで野村副長が埃だらけの箱のふたをそっと開いた。ボハッ、と埃が舞い上がりまず副長が「げほっ、ぐへっ!」と咳をしてそのあとまるで伝染したかのように見張兵曹から麻生分隊士、谷垣石場石川樽美酒森脇・・・と咳をした。マツコとトメキチさえ大きなくしゃみをした。

が、一人松岡中尉だけが咳もくしゃみもしないでラケットを振りながら

「さあ、全部のふたを開けて下さい副長!熱くなりましょう」

と檄を飛ばす。しかし激しく咳こむ副長は片手を横に振り、それを見た石場兵曹は暗黒の一重まぶたも重々しく

「松岡分隊長、副長は『開けるなら貴様がやれ』というておられます。ですけえどうぞあとはすべて分隊長が開けてつかあさい」

と言ってそれは大きなくしゃみをした。そのくしゃみがあまりにも可笑しく、皆はどっと笑った。

松岡中尉はラケットをブン、と振ると

「なんとこの私がその役目を。これは光栄ですね、樽美酒くん私が開けていいかな?いやだと言っても無駄ですよ、私がもう副長からその役目をいただいたんですからね」

と話しだして止まらない。麻生分隊士が「松岡分隊長、ええ加減にしてはよう開けてつかあさい」と怒鳴って松岡はやっと話をやめた。そして埃を派手に吹き飛ばしながらの箱のふたを次々開けた。

埃が落ち着いたころを見計らって居並ぶ副長以下が箱にわっと取りついて中の本をドンドンと箱の外に出す。谷垣兵曹が本の表紙を見ながら

「なんじゃどれも<幻>には程遠いのう。普通の小説本に料理の本。それになんじゃこれ、見い!誰かの日記じゃ、ワハハハハ!」

と騒ぎ出す。すると「どれどれ、うちにも見せんか!」と皆がそれに群がる。が、日記と言っても一ページの半分に<今日から日記を始めます>と書いてあるだけで駆け寄った皆は一斉にずっこける。

「なんじゃ、つーまらん」

と石川水兵長が言って次の箱を引きよせる。そこにマツコが来て「アタシにも探させてよう」と言って大きなくちばしで箱の中の本を摘まみだす。トメキチがそれをくわえて床に放りだす。オトメチャンが

「ハシビロ、トメキチもそがいに本を粗末に扱うたらいけんで。本は大事なもんじゃけえね」

と注意した。マツコとトメキチは作業を止めて「はい、わかりました」と言って今度は優しく本を扱う。それら箱から出された本を一つ一つ、丁寧になめるように皆は見て行く。が、<幻の本>らしいものは見当たらない。麻生分隊士が

「森脇兵曹、ほんまに<幻の本>があるんか?何かの間違いじゃあるまいな?」

と少しいらだったような声で言った。彼女はひどい埃で喉と鼻がひりひりして咳きたいのを必死でこらえているのだった。「うちは餓鬼の頃気管支が弱あていたんじゃ。またあれがぶり返したらたまらん」とブツブツ言っている。その向こうで野村副長がまた激しく咳きこんでいる。

麻生少尉は副長に

「副長、大丈夫でありますか?ちいと外に出てきれいな空気を吸いませんか?」

と声をかけた。副長は涙のたまった眼で少尉を見て「そうだねえ、ちょっと外に出ようか?喉の奥が変になってきたよ」と言って二人は扉を開けて外に一旦出ようとした。

と。

「あ、なんじゃろうこれ!」

というオトメチャンの大きな声に二人は、いやその場の皆が「なになに!出たか<幻の本>が」と叫んでオトメチャンのもとに駆け寄る。

オトメチャンの手には、埃をまとった厚手の古びた封筒がありその封筒の表には何やら難しい文字が書かれている。さっそく森脇兵曹がそれを手にとって熱くかぶったほこりを「フーーッ!」と吹き飛ばした。とたんに集まった総員が「グヘッ、げほーッ!」と激しく咳こむ。

森脇兵曹は何食わぬ顔でそれを手に取り封筒の口に手をそっと入れた。皆が固唾をのんで見守る中、一冊の<本>がその姿を見せた。

「森脇兵曹、これがその――あれでしょうかのう」

オトメチャンが小さな声で言うのへ、森脇兵曹はそれをすっかり封筒から出し表紙をじっと見つめると言った。

「ああ、ほうじゃ。これが<幻の本>じゃ。間違いないわ」

一同の間に緊張と期待が電撃のように走った――

   (次回に続きます)

 

     ・・・・・・・・・・・・・・

いよいよその姿を現した<幻の本>です。

一体何が書かれているのでしょうか?あんなことでしょうかそれとも、こんなこと??

次回どうぞご期待下さい。

 

「艦これ」グッズの続きです。クッキーを買ったのと一緒にこんなカップも買いました。

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Secre

ウダモさんへ

ウダモさんこんにちは^^!
ご体調いかがでしょうか?どうかご無理なさいませんよう願います!

物語は進んでおりますが、どうぞゆっくりお付き合いくださいね^^、
いつもありがとうございます、笑いは生きる力の原動力です!お互い時には心も頭も空っぽにして笑いましょうね!

くれぐれも御身大切になさってね!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは^^!
にいさま、ここもあそこも期待に膨らんでらっしゃることと思いますww!
期待を裏切らないようにしますのでこうご期待であります。

このカップの「さあ、私と夜戦しよ!」ってちょっと思わせぶりで・・♡♡ですね、男性なら高ぶりを覚えて当然のフレーズですねw。
野戦、でないところがいいところでしょうか^^?

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは^^!
まぼろし・・・なんかちょっと見には儚げな感じもしますが、どっこい!という感じで行きたいなあと思っていますw。
アヤシイ艦の本これからも出てくるかもですぞw。

艦これ、そういう視点から見ると一層萌えますね、ウヒョー!!

お久しぶりです(^^ゞ

寝込んでましたorz
…って、物語が進んでるっ!当たり前ですよね←
前の方のコメントを読んで笑っている場合じゃない!はやく読まなきゃ!!…とか言いつつ、とりあえず急ぎご挨拶まで←

また来ます~泣

固唾をのんでその時を待っている大分兄です。
期待に胸も……、どこもここも膨らみそうです(笑)
でも記事にひけを取らない3枚目の写真の、「さぁ、私と夜戦しよ!」のフレーズに奇妙な高ぶりを覚える僕です。

Re:

こんにちは。幻・まぼろし・マボロシ~どの文字もあやしさいっぱいなので、漢文かな文字に横文字とか……ワクワクしますね!どんな内容だろう?謎解きの絵文字とか?他の艦にもアヤシイ本がたくさんないかなぁ(笑)と期待しちゃいます!

艦これ、麻生さんとかオトメちゃんに似てる!とか言ってハマりそう!
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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