2017-10

「女だらけの戦艦大和」・幻の本1 - 2013.11.25 Mon

「女だらけの戦艦大和」以下数隻はいよいよトレーラーを抜錨し内地へと航海を始めた――

 

艦上配置のものたちはその場に立ってトレーラーとのしばしの別れを惜しんだ。

日野原軍医長は最上甲板に上がってきて遠くなり始めたトレーラー諸島・水島を見つめた。その視線の先には、海軍診療所があり――そこで看護婦見習いとして働き始めたキリノがいる。

キリノは父親の入院とともに診療所に行きそこで医官によって見出された逸材である。看護婦にならないかと持ちかけられたキリノとその父親はとてもうれしそうにして快諾したという。診療所の責任者のトレーラー艦隊司令部軍医長は『武蔵』の村上軍医長に

「この子を日本に連れて行ってきちんと試験を受けさせたい・・・この子は頭がよいからきっと資格を取れます。しかも性質がよいから患者に慕われる看護婦になりますよ。もうしばらくここで研さんを積ませてから日本に行かせたい」

と言ったと、日野原軍医長はあとから村上軍医長に聞かされた。村上軍医長はそのさい、

「出来ることなら私がその役目をしたいくらいですよ。あの子はいい子です・・・もしかなうなら、あの子が日本に行った時の世話をしたいくらいです」

と言ったのだった。その思いは日野原軍医長も同じである。そして軍医長は(そうだ、日本に帰ったら日本語の勉強のできるような本を買っておこう。またトレーラーに戻る時それをキリノにあげよう)と計画した。

(しかし、よい日本語の参考書と言うのか練習帳と言うのかそういうものはさすがに売ってはいないだろう・・では一つ)

自分で作るか、と日野原軍医長は楽しい思いつきに心も浮き浮きとした気分になると背伸びをひとつして医務科の部屋に戻ってゆく。

 

それからしばらくたったころ。

機銃分隊では長妻兵曹が平野少尉に

「少尉。字引をお持ちでしたら拝借できませんかのう」

と言った。平野少尉は機銃の手入れに余念がない兵たちの間を回っていたが長妻兵曹の声に

「字引ねえ・・・私はちょっと持っていないなあ。あ、そうだ。最下甲板のどこかに図書庫があるって聞いたよ?そこにないかなあ?あとで行ってごらんよ」

と教えてくれた。長妻兵曹は平野少尉に礼を言って、(今夜にでも増添でも誘って下に行ってみよう)と思った。平野少尉は去り際、

「そうだ、図書庫には幻の一冊があるらしいからそれも探したらいいかもね」

と言って笑った。長妻兵曹はぽかんとして「幻の一冊・・・いうてどがいな本なんじゃろう」とその後ろ姿を見送る。

 

その同じころ。

防空指揮所では見張り員たちがそれぞれの受け持ちの双眼鏡に就いて見張りに余念がない。その様子を後ろから麻生分隊士が見回って検分する。

五分置きの間隔でそれぞれの見張りから「異常なし」の報告が入り麻生分隊士は伝声管を使って第一艦橋に報告。これから夜になると『大和』『矢矧』以下十二隻の艦隊は発光信号を頼りに航行することとなる。

そこにマツコとトメキチを従えて、松岡分隊長が上がってきた。その後ろには珍しく樽美酒少尉がいて、風に栗色の髪を吹かせている。松岡分隊長は指揮所の一番前の囲いの前に立つと樽美酒少尉を呼び寄せ

「樽くん。当分トレーラーとはお別れですからね、十分にお暇をなさい。そしてまた、今よりもっと熱くなって戻ってくるよと言ってあげなさい。さあ今日から君も富士山だ!」

と叫んで随分小さくなったトレーラ諸島をびしっと指差して叫んだ。樽美酒少尉ははいっと言って分隊長と同じようにビッとトレーラーの方に指を指し腕をぴんと伸ばした。そして

「トレーラー、お世話になりましたあ!しばしのお別れですが、また来まーす!また逢う日まで逢える時まで、お元気でー」

と叫んだので指揮所の皆はたいへんびっくりした。麻生分隊士は驚きのあまりその場に立ち尽くしてしまうし、見張兵曹さえ双眼鏡から目を離して樽美酒少尉の方を見て

「いけんわ・・・あの樽美酒少尉がおかしゅうなってしもうた。困ったのう、こりゃあ大ごとじゃわ」

とひとりごとを言っている、その独り言を聞きつけた麻生分隊士はさすがにクスッと笑った。麻生分隊士は見張兵曹のそばにそっと寄ると

「樽美酒少尉もあんがい松岡分隊長みとうな<熱いおなご>なんかもしれんな。でなきゃあがいに叫んだりできんで。しかし・・・困ったもんじゃのう」

と囁き二人はこっそり笑った。その二人の前に松岡分隊長が突然立ったので二人はあわてた。話を聞かれてとがめられるのかと思ったが分隊長は咎め立てしようと思ったのではない。

「麻生さんに特年兵君。そして小泉君や石場さ~ん。それに谷垣君に石川君酒井君たち。いよいよ待ちに待った内地に帰れますね。というわけで内地で君たちの帰りを待っている日本へと愛情あふれる手紙を書こうというコンテストを私、松岡の肝煎りで行おうと思うのですよ。で、ただ書いたのでは芸がない、なさすぎるねということで字引を引いてきちんとした正しい文字と正しい言葉の意味で書きましょう。てな訳で皆さんさっそく今夜からでも最下甲板にあるという図書庫に行って字引を拝借してらっしゃいな」

松岡分隊長はいきなりのようにそんな宣言をして居並ぶ航海科員たちを驚かせた。

小泉兵曹が「あのぅ、松岡分隊長」とおずおずと声をあげた。松岡分隊長は

「ん?なんだね突撃隊員くん」

と小泉兵曹の方を見て言うと小泉兵曹は

「コンテスト、言うことは優勝をしたらなんぞ賞金みとうなもんが出る思うてええんでしょうか?」

と言った。すると松岡分隊長は

「小泉君!」

と大きな声で怒鳴った。とたんに小泉兵曹は体を小さくして「すみません。妙な事言うてしもうて・・・謝りますけえ罰直だけは勘弁してつかあさい」と謝った、が松岡分隊長は

「小泉君、君はやる気になってますねえ!熱くなっていますよ!そうです、この松岡修子主催の手紙コンクールに優秀した人には私から素晴らしい贈り物がありますからどうかみんなその気になって頑張ってほしい!熱くなれよー、今日から君も富士山だっ」

と言って片手を天に突き上げ「バンブー」と叫ぶ。そしてその場の皆も「バンブー」と叫んで片手を天に突き上げるいつもの光景。

そしてその場を去ろうとした松岡分隊長と樽美酒少尉であったが、ふいに松岡分隊長が立ち止まり皆を振り向くと

「そういえば・・・聞いた話だがね。ここの図書庫に<幻の本>があるって聞いたことない?私はちょっとこの耳に挟んだのだが・・・誰か知らない?」

と言った。が、皆一様に首を横に振る。松岡分隊長は「ふーん、だめだねえ。・・・それじゃ私は副長に聞いてきましょう。さ、樽くんも一緒に行くよ?」というとその場を走り去っていったのだった。

 

松岡中尉と樽美酒少尉、そして何か面白いことがあるんじゃないかとそのあとをついてきたマツコとトメキチは、副長を探して艦内を走り回った。そしてやっと主計長の部屋で副長を捕まえた松岡中尉は

「副長、毎日暑くなっている副長にものをおたずねしますが・・・ここの図書庫に<幻の本>なるものがあると聞いたのですがそれは本当でしょうかっ!?」

とそれは大きな声で副長に尋ねた。野村副長はその大声に閉口したように耳をふさぎながら

「幻の本ねえ。ああ、そういえば私がここに砲術長として着任した時当時副長だった佐藤中佐がおっしゃっておられたアレのことかしら?でも私も見たことがないんだよね。図書庫には何回か行ったことはあるけどそれらしい本は見たことがないのよね・・・あ、偽装の時からいる古い下士官なら知ってるかもしれないね」

と言った、すると主計長が

「なら副長。うちの森脇兵曹が儀装の時から『大和(ここ)』にいるから彼女ならきっと知っていますよ」

と言ってさっそく森脇兵曹が呼ばれた。森脇兵曹は副長の直々のお呼びと聞いて緊張しきって主計長の部屋に来たがその話の内容が<幻の本>のことと聞いてほっとしたような表情になり

「ああ、<幻の本>のことですか。ありゃあもともとは、各分隊に一冊から二冊はあったもんなんじゃが段々兵隊連中が私物化しよってですねえ。散逸してしもうたんです。ほいでも図書庫にはたった一冊だけ残っとるとうちは聞いとりますよ。ただし、図書庫からの持ち出しは厳禁じゃ、言う話ですがのう」

と教えてくれた。野村副長は「ほう、さすが儀装からの乗組員だね。『大和の生き字引』みたいだね」と感心しきりだし主計長は自分のところの下士官が役に立ったので鼻が高い。

松岡中尉は、森脇兵曹の両手をガシッと握ると

「ありがとう森脇さん。あなた熱くなっていていいですねえ~、さすがですよ!で、そんなあなたにお願いがあるんですが、我々その図書庫の場所を知りませんのであなたに連れていってほしいんですがねえ。お願いできますか?」

と言った。森脇兵曹はちょっと小首を傾げて考えると

「うーん・・・これから烹炊所で作業がありますけえ今からはちいと無理ですのう。ああ、でも夜ならええでしょう。巡検後、うちは烹炊所に点検に行きますけえその時行きましょう。じゃけえ松岡中尉、巡検が終わったらお手数掛けますが烹炊所まで来てつかあさい」

といい、松岡中尉は「ありがとう森脇さん。では巡検後熱くなりに行きましょう。この樽くんも一緒に行きますからよろしくね~、今日から君も富士山だ!」と叫んだのだった。

そして松岡と樽美酒、そしてマツコとトメキチは副長と主計長に敬礼すると部屋を出て行った。

森脇兵曹も「ほいじゃあ私もこれで」と出ようとしたが副長に「ちょっと待って?」と呼びとめられた。はいなんでしょうと言った兵曹に副長は

「その<幻の本>っていったいどんな本なの?」

と聞いた。

森脇兵曹は右の頬を人さし指の先でちょっとひっかきながら笑うと

「兵隊の為の教育の本、といいましょうかのう。野村副長、御存じないようですね。今夜ご一緒にいかがですか」

といい――興味しんしんの野村副長は巡検が終わったら烹炊所に行くことを約束したのだった。

 

その話は、なぜかどこからか水漏れのように伝わり――その晩の巡検後、烹炊所前には上は副長から下は水兵長までの十数名にマツコとトメキチまでが集合することになったのだった――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・

読書の秋・・・というには少し季節が進み過ぎた感もありますが本好きな私には年中読書の時です^^。

さて、『大和』艦底にあるという図書庫に鎮座する<幻の本>とは一体!?

次回を御期待下さい。

 

先日日本橋に行った帰りに秋葉原に行きこんなものを買ってきました!

本日はその一。「艦これ」クッキーですが…もったいなくってまだ食べてないw。
DSCN1241.jpg DSCN1243.jpg

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは^^!
お返事遅くなりましたことをまずお詫び申し上げます。

何やら最近忙しく、記事の更新もままなりません(-_-;)。
本当に寒くなりましたよね、朝晩の寒いったら!寒さに弱い(弱くなった?)私はいつも南の島を夢に見ながら仕事をしてますw。
いつもご心配をありがとうございます。

ホホホ…(マツコ調の高笑い?)
幻の本、なんていえば大抵が碌なものじゃないんですよね~w。さあどうなりますか^^ご期待を!

こんばんは!!
寒くなりましたが我が妹は息災にお過ごしでしょうか。
風邪など引かないようにくれぐれも用心して下さいね。

さっそくブレイク寸前の森脇さんの登場ですね。さすがに我が妹です。
「幻の本」、またまた何を企んでおいでるのでしょう。楽しみにしています。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんはー^^!
さあ、怪しい雰囲気が漂ってきましたね~~w、時間も時間ですし、そして幻の本と言えば・・・でしょうか!

同人誌だったらこりゃ面白いですね^^!そんな暇どこにあんの?みたいな。

アキバひっさしぶりに行きましたが人出が多くってびっくりしました。そして街も変わりましたね、私が若いころは純然たる電気街だったのに!

でも面白い街ですよ、ぜひお出かけください♡

Re:

こんにちは。夜の図書館に幻の本~おやぢの私には春めいたものしか浮かびません( 〃▽〃)スミマセン~人( ̄ω ̄;)
でも同人誌だったら嬉しい~「艦これ」みたいなカワイコちゃん←古い!満載の手作り和綴じ本とか!
艦これ、ねんどろいども可愛いですよね!ああ、私もアキバに行きたい(笑)


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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