2017-10

「女だらけの戦艦大和」・もったいないもほどほどに<1> - 2013.11.07 Thu

「女だらけの大和」は、内地への出航を一週間後に控えていた――

 

医務科の日野原軍医長も一週間後の出航に向けて医薬品・衛生用品の受領や病室の整理整頓に忙しい。医務科の士官から下士官・兵隊嬢まで動員して作業を進める。

「今はきついがこれが済んで内地に帰ったら休暇が待ってるからね、しっかり頼むよ」

日野原軍医長はそういいながらみんなの間を回って歩く。上は軍医尉官から下は一等衛生兵までが「はい!頑張ります」と言って作業にいそしむ。その皆を満足げに見回してうなずいてから黒川軍医大尉に

「じゃあ私は『武蔵』の村上軍医長と会う約束があるから出かけて来るね。戻るのは・・・そうだねえ、一八〇〇(ひとはちまるまる、午後六時のこと)くらいになるかなあ。ちょっとの間だがよろしくね」

と言って彼女は内火艇に乗って上陸場へと向かっていった。

 

日野原軍医長は、『武蔵』の村上軍医長との待ち合わせの料理屋・禿勝(はげかつ)に向かった。女将に案内されて入った座敷には村上軍医長が待ち構えていて

「おお、日野原さん・・・このたびは内地へ御帰還とお聞きしました。今日はささやかですがお餞別として一席設けさせていただきました」

というと礼をした。日野原軍医長も座布団の横に座ると、

「どうもありがとうございます。いやあ、久しぶりですねこうしてあなたとゆっくりお話しできるのは。内地に帰る前の嬉しい時間ですよ」

と言って頭を下げた。村上軍医長は「ささ、どうぞ座布団へ」と座布団を勧め日野原軍医長は座布団に座る。

女将が入ってきてまず茶と菓子を持ってきた、その女将に村上軍医長は何やら小声でささやくと女将はうなずいて

「わかりました・・ごゆっくりなさいませ」

というと部屋を出た。村上軍医長は日野原軍医長に微笑んで

「しばしトレーラーをお離れになる日野原さんに御餞別の料理を用意させました。どうぞご堪能下さい」

と言った。日野原軍医長は「ありがとうございます」と言って二人はまず、茶を喫した。

 

そのあと二人はこの「禿勝」自慢のてんぷらや刺身などをたくさん食べて飲んで、そして楽しく語り合って別れた。別れ際料理屋の玄関で村上軍医長は、日野原軍医長と握手を交わし

「出航は一週間後でしたね。くれぐれもお気をつけて、また逢う日を楽しみにしています」

と言った。日野原軍医長も相手の手を握り

「本当にありがとう。今度会った時は私に御馳走させて下さい」

と言った。そこに禿勝の女将がそれはそれは大きな包みを抱えて来た。これは日野原軍医長が食べきれなかった大量の料理をお重に詰めてもらったもの。

「食べきれなかった分はいただいていいでしょうか。もったいないので」

と日野原軍医長は言って、女将は喜んで重箱に綺麗に詰めてくれたのだ。しかし料理が多かったせいかたいへん大きな包みとなった。

女将は「重いでしょう。うちのものに持たせますので」と言ってここで働いている現地民の女の子に持たせて、女の子は二人のあとをついて上陸場まで来ることになった。

日野原軍医長も村上軍医長もこの子に興味を持って道々あれこれ話しかける。女の子は大変機嫌のよい陽気な子で話しかけにも進んで応じた。もともとこの子は禿勝の従業員ではないのだが、漁師である父親が仕事で骨折をしてしばらく働けないので知人のつてを頼って禿勝で「アルバイト」として雇ってもらっているらしい。

「ほう、骨折か。それはいけないね。きちんと医者に診てもらってるのかな?」

日野原軍医長が問うと、女の子は笑って「イイエ。うちはオカネないからお医者さんカカレナイネ」と言って大きな包みを抱え直した。村上軍医長が

「それはいけないなあ。骨折した部分が変にくっつくと本当に働けなくなるかもしれない。君、明日にでも海軍診療所にお父さんを連れて来なさい。これをそこの受付に出してわたしからの紹介だといいなさい」と言って名刺を女の子のポケットにそっと入れた。

女の子は最初びっくりしたような顔をしていたがその顔に満面の笑みが浮かび、瞳には少し涙がにじんだ。そして「軍医サン、アリガト。・・・コレデまたお父さん、海にデラレマス。モッタイナイことです」というと何やら現地の言葉の歌を上機嫌で歌い出した。少しここの言葉がわかる村上軍医長は、日野原軍医長にそっと

「二人の英雄がわたしのお父さんを救ってくれた、と歌っています」

と囁いた。日野原軍医長はちょっと笑って「私たちが>英雄<か・・・」と言った。少しくすぐったそうな表情である。女の子は嬉しそうな顔のまま日野原軍医長を見上げて

「ソウデス、あなたがたワタシのヒーローね!」

というと足取りも軽く歩いてゆく。衛兵所がもう先に見えてきている。

 

衛兵所の門の前で二人は女の子と別れる。村上軍医長が「じゃあ、かならず明日お父さんを海軍診療所に連れて来なさい。禿勝の女将にはわたしが連絡を入れるから安心しなさい。いいね、かならずだよ」と言ってから「そうだ、君の名前を聞くのを忘れていたよ」。

すると女の子は笑って

「ワタシ、キリノといいます」

と教えてくれた。軍医長二人は「キリノ、いい名前だね」と言って、キリノは大きな包みを日野原軍医長にそっと手渡した。そして

「マタ会えるとイイデスネ」

というとほほ笑んだ。軍医長たちは心からキリノとの別れを惜しみながら、桟橋へと降りて行った。キリノが門の向こうで大きく手を振るのが見えた。

 

日野原軍医長は、村上軍医長と桟橋で別れて『大和』への内火艇に乗り込んだ。そして『大和』に着くと医務科の皆を呼んで

「土産だ、皆に回るかちょっと心配だが食べてほしい」

と言って重箱を差し出した。下士官兵たちがわあっ、と歓声をあげたが士官連中に遠慮したか手を伸ばそうとはしない。と、畑軍医大尉が士官連中にそっと目くばせすると医務科士官たちはさりげなくその場を去ってゆく。

日野原軍医長は(これを下士官兵たちに食わせようとの心遣いだな)と畑大尉たちに感謝した。軍医長は「さあ、皆。遠慮しないて食べなさい」

と五段にも重なった箱を一つ一つ手近の兵隊嬢たちに手渡していった。それを「いただきます、日野原軍医長!」と押しいただいてから食べる下士官兵嬢たちの表情はとても明るい。その顔を見ていた軍医長もうれしくなる。

その喧騒を後ろに聞きながら士官室や二次士官室に引き取った士官たちは

「私たちは上陸すれば食べられる。でもあの子たちはあれほどの見世にはまだ上がれないからね・・・喜んでくれればそれでいいよ」

と言ってタバコを吸ったりトランプゲームに興じる。

 

その翌日のこと。

『大和』『武蔵』他、トレーラー在泊中の艦艇の副長に緊急招集がかかった。何事かとおっとり刀ですっ飛んで行ったわが『大和』の副長、血相を変えて『大和』に帰艦するなり

「軍医長、日野原軍医長を呼んで!」

と叫びながら医務科診察室に走り込み、これも何事かと飛んできた日野原軍医長を引っ張って艦長室へと飛び込んだ。

艦長と、日野原軍医長を前にした野村副長はハアハア吐息を荒げつつ

「とんでもないことが・・・起きました」

と言った。その額には汗が一筋流れ、防暑服の背中も汗のシミがにじむ。日野原軍医長が「とんでもないこと・・・とは一体なんなんです?」と不可解そうな顔で尋ねる。梨賀艦長が冷水の入ったコップを差し出した。

そのコップの水をぐうっと飲んでから副長は二人を交互に見つめた後言ったことに、艦長も日野原軍医長も大変な衝撃を受けることになった――

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

日野原軍医長と村上軍医長、しばしの別れを惜しみました。現地の女の子とも知り合いになってよかった・・・と思うのもつかの間、一体何事が起きたというのでしょう?もうすぐ内地へ出向だというのに??次回をお楽しみに。

「ヒーロー」「英雄」がつく歌を集めました。



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● COMMENT ●

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
何となくわかりましたか?w予想が当たっているといいですね^^。

昔ですがまだ若いころ友人とTDLに行って二人でしこたま食べました。その帰りの電車の中で激しい胃痛に苦しんだ思い出があります。ほどほどといい言葉を知らなかった、いや知らん顔していた若気の至りです。

そういえば、会食が始まったばっかりでタッパーをテーブルに置く人がいてげんなりしました。そんなことされうと食べにくいですよね。てか、「食うんじゃねえ」って言外に言われてるみたいで気分悪いですよね。
もったいない、とは別次元ですよね(-_-;)

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!

これぞ本来の日本人!というのを表現したかったのでした。自分本位・自己チュウ大手を振ってまかり通る今の時代に反撃の一矢です^^。

いやいや・・・私自身そんな気配りの出来る方ではないんですよ(^^ゞだから…こういう情景を書きたいのかもしれないですね(^_^;)自分への戒めとして。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
お休みの今日、ゆっくり過ごせましたでしょうか?人生いろいろあるものですがめげないで生きてゆきましょう!!

女だってヒーローになれる!
そう思うと何か勇気がわいて生きる力になるようなそんな気がしております^^。

さあ一体何が起きるのでしょうか、ご期待ください。

寒くなりますね、くれぐれもご体調に注意なさってくださいね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
とんでもないこと…ホントにとんでもないことなんです(-_-;)!
それは次回明らかにーー!

いやあまろにいさまにこんな拙文を褒めていただけるとは、嬉しい限りです^^。書くときにはその情景を頭に描き出しながら書いています。
観たことが無いはずの艦内とか南方の景色も思い浮かべつつ書くと楽しいし筆が進みますね。この物語、なかなか終わりそうにありませんw。

もう外は風が冷たくなってきました!明日は相当の寒さを覚悟いたしましょう(^^ゞ。
にいさまも御身大切になさってくださいね。

タイトルから察すると…w
なんとなくわかっちゃいましたww
ドンマイです(^_^;)
お腹をこわさない程度…が、食べるにしても持ちかえるにしても、いいのかもですねw

つい最近までは、外国人のお客さんがレストランで食べ残したものをタッパー(持参のもの)に詰め込んでもらう…というのを目にしましたけど、今でもやってるんでしょうかねw
確かにもったいないけど、タッパーを持ってこられると、食べているこちらも箸がすすまないというか、なんというかw
持って帰る気満々だと、一緒に食べているほうは遠慮しちゃいますね(笑)

骨折した父親に代わってアルバイトをする若い娘に診療所の紹介。
困ったことがあったら黙ってはおけない、日本人の気質ですね。そういう方がまだおられるということは嬉しいですね。同じ日本人として鼻高々です。
日野原軍医長の気配り。アルバイトの女の子へもそうですが、下士官へのお土産。普段食べれないような料理のお裾分けなどは、下の者への心配りですね。繊細な心配りができる方、なかなかお見受けしないです。
このような状況をさりげなく文章に表現できる見張り員さんは、気配りのできる方なんですね。素晴らしいです。見習いたいものです。

Re:

こんにちは。いろいろご心配をかけましたが、今日は休みでひとりのんびりしています。見張り員さまのお話もゆっくり楽しく読ませていただいています。
ヒーローと言えば甲斐バンドが思い浮かびますが、♪恋する女は夢見たがりのいつもヒロイン~でいたいですねぇ(笑)
またまたひと騒動ありそう…ワクワクしながら次を待ちますわ!

「とんでもないこと」とは!?
我が母同様に食あたりだったりして。かっこいい士官たちの思いやりが仇にならねば良いのですが。

見張り員さんの文章には臨場感というか、それぞれのシーンが思い浮かばれる力がありますね。説得力というのでしょうか。素晴らしいことですよ。きっとそれは見張り員さんの血がこのブログに注がれているというまぎれのない証拠かもしれません。

ちょこっと寒くなりそうな週明けとか。どうか風邪など引かぬようにお過ごし下さい。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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