2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地へ4<長妻、増添兵曹の場合> - 2013.11.04 Mon

久々の内地を心待ちにしている兵隊嬢がここにも一人、いや二人――

 

機銃分隊の長妻兵曹と同期の中の増添兵曹は、長妻兵曹の持ち場の機銃座にいて何やら楽しげに話しこんでいる。

長妻兵曹は二日ほど前に内地の姉からの手紙を受け取っていた。長妻兵曹の姉は昨年呉海軍工廠の技術士官と結婚しこの秋に第一子を出産予定であった。姉からの手紙にはこの9月の末に女の子が生まれたということでお宮参りの際の写真が同封されていた。

幸せそうな笑顔の姉と姉が抱く赤子、そしてその横に立つこれも幸せそうなりりしい技術士官の夫。長妻兵曹は

(ええなあ姉さんは。ええ旦那さんと一緒になって赤ちゃんももうけて。うちも姉さんみとうなええ旦那さんが欲しいもんじゃのう)

と思って隣に座りこむ増添兵曹に「ほら見い、うちの姉さん一家じゃ。新しい家族が増えて幸せそのものじゃ。うちは早う姪っ子にあいたいわ」と写真を差し出した。

差し出された写真を見て増添兵曹は

「ほう、・・・ええのう~。おなごいうんは最終的にはこうなるんが一番幸せなんじゃろうね。ねえさんはお幸せでええのう。うちもあやかりたいわ」

というと写真を拝むような格好をしたので、長妻兵曹は笑った。

不意に増添兵曹は真顔になると

「そういやあ貴様、あん人とはどうなったんじゃね?」

と聞いてきた。あん人とは、長妻兵曹がよく利用する料理屋の男性で兵曹とは恋仲の男性である。しかし、兵曹と彼は道ならぬ恋でもある。兵隊から士官に至るまで「女だらけの海軍」では遊ぶなら玄人(ブラック)だが、マリる(結婚する)なら素人(ホワイト)でなくてはならない、という不文律のようなものがある。だから、

「いくら好きでも一緒にゃなれん。じゃけえそれがうちにはせつない。まあ・・・向こうもそれはしっかりわかっとるがのう」

長妻兵曹の声は少し湿り気を帯びた。増添兵曹は戦友の横顔を見つめて

「まあ、向こうは商売上の関係じゃと割り切っては居るじゃろうが、貴様はそう簡単にはあきらめきれんかもなあ。・・・なんでかいうて貴様、あん人と時々何処ぞでええことしとったじゃろ?」

といい半分笑い半分同情のような複雑な顔をした。とたんに長妻兵曹の顔が真っ赤になり、

「ど、ど、何処ぞでって・・・なにいうとんの」

としどろもどろで否定しようとしたが増添兵曹は今度はいやらしい笑いを浮かべて

「貴様なあ、楽しむんはええけど後始末はきちんとせいや?ようスケベえな連中がつこうてるあの草っぱらに貴様らのあとに言った奴がこぼしとったぜ、『長妻の彼氏にゴムを持ち返って捨てるよう言うとけや!』って。男の方もええことして頭がぼーっとしとったんか知らんが自分のつこうたもんくらいきちんと始末させろや」

と軽く叱った。長妻兵曹の顔がさらに真っ赤になり「ウウウ・・・」と唸り始めた。思い当たることだから、図星だから返す言葉がない。その兵曹を見て、増添兵曹は

「よいよ困った連中じゃ。なあ長妻、玄人の男性に入れあげるんもええがええ加減にせんと嫁入りに差し支えるで?貴様が思うより向こうは貴様には入れあげとらんのと違うかのう?なんていうてもありゃあ商売男じゃし。そろそろ貴様も里のご両親に縁談の一つも頼んだらええ」

と諭した。こういう時――普段なら『なにを偉そうに言うとんじゃ、この女ハゲの分際でうちに説教するんか!』とかみつく長妻兵曹が今回はおとなしく

「ほうじゃな。うちもそろそろ潮時じゃろうか」

と言ったのには増添兵曹はちょっとばかり驚いた。どがいな心境の変化なんじゃろうかといぶかる増添兵曹に長妻兵曹は

「うちも、<エンゲ>(士官隠語で婚約者)が欲しゅうなった。確かにあん人とはええ仲かもしらんが添えはせん。今はええが後々のことを考えたら、のう」

といい少しさみしげな表情になった。増添兵曹はその顔を見て何かふっと胸をよぎるものがあった。

(もしかして、こいつのええ人いうんは心変わりし始めとるんじゃろうか)

確かに彼は、その手の料理屋で女兵士たちを慰めてくれる男性である。長妻兵曹といい仲になったからと言っても他にも相手をする兵隊嬢はたくさんいて時には全く他の艦隊や航空部隊も来ることがあるのだから心変りもあるのは至極当然かもしれない。

長妻兵曹は常夏のトレーラーの何処までも青い空を見上げるとふーっとため息をついてからつぶやいた。

「頼みがたきはひとの心・・・男心と秋の空」

姉の幸せに比して妹は道ならぬ恋に悩み、そしてやがてそれをあきらめようとしている。

二人は押し黙ったまま青い空を見上げている――

 

増添兵曹はそれから少し時間がたった後、長妻兵曹に「増添兵曹は、御実家はその後どがいなね?」と聞かれて我に返った。

長妻兵曹は以前に聞いていた実の母と義姉の確執のその後を聞いたのだった。増添兵曹はおお、と笑って

「母さんは姉さんとなかようなってくれてなあ、ひと安心じゃ。母さんもいろいろあってなあ・・・姉さんを嫌いとか何とかいう話ではないんじゃがなにぶんにもあの母さん言う人は意固地で頑固なところがあったけえ、姉さんも大変じゃったろう思う。ほいでももう心許しあったけえうちも気分良う帰れるわ。ありがたいことじゃ」

と言った。長妻兵曹は

「ほりゃあえかった。一家仲良いんが一番じゃけえね。なら、はように帰りたいのう」

と言った。増添兵曹はうんとうなずいてから自分の頭の前髪あたりを撫でて

「ほうじゃ、それに髪の毛ももう元通りじゃけなーんも心配せんでええもん。うちはねえさんと母さんの間も気になとったが自分のココもきになっとったんよ。いくらなんでもうちを可愛がってくれとるねえさんにハゲをさらしたら余計な心配かけるけえねえ。母さんにも心配は掛けとうないし。

これで今度休暇が出て帰っても堂々と一緒にふろも入れるわ、ハハハ!」

と朗らかに笑った。

「えかったのう、増添さん」

長妻兵曹はそう言って戦友を祝福した。なんだか胸の奥がほっと温かくなるような気がして嬉しくなった。そして

(うちはこれを機にちいと考え方を変えよう。いつまでも男の尻を追っかけまわすようなことはしとられんもんな。あん人が他のおなごを好きになったらそれでええ。うちはうちで他の生き方を探すんじゃ。今度内地に帰ったらそれを探してみる)

と思う。

 

長妻兵曹、決意の秋(とき)のようだ――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

長妻兵曹と増添兵曹のお話でした。

長妻兵曹あんなに好きだった、思い合ったあの人の心変わりを察知したのでした。人の常であってもせつなくさみしいものですがそれをばねにして長妻兵曹、いい御縁を探しましょうか。

そして増添兵曹は髪も元通り、心機一転故郷で母と義姉に逢う日が楽しみです。

「女だらけの大和」、内地に向けて走り出しますーー!

男性の心変わり?を歌った「秋の気配」オフコース。


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
やはり恋をするにも古い感覚ではありますが「身分」みたいなものがあるのでしょうか・・・長妻さんの場合はその道の人ですから許されざる恋ですし…ちょっと切ないです。
確かに結婚ってつり合いが大事ですよね、今までの生活の180度違うとホントしんどいです(自分の体験からw)。

女長妻、決断の時!!

「秋の気配」懐かしいです。
男女のわかれ、勘もありますね!たしかに!!

色々とあってお疲れのことでしょう、無理なさいませんように^^。

やはりその道の人に惚れてはならないということでしょうか。一途に心を寄せようとも所詮相手は……、そう思うとつらいですね。
結婚は釣り合いだとも言いますが、それを踏み外すとしんどい人生になるのでしょうね。
ここが長妻さんの分岐点。可哀そうですが決心せねばならないようですね。

「秋の気配」、男子の浮気や気まぐれではなく動物的な勘で別れを招くことも……、あるのではと思いました。
懐かしい曲に疲れた気持ちが落ち着きました。ありがとう!!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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