2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地へ1<岩井少尉の場合> - 2013.10.27 Sun

その知らせを受け取った時、喜びとともに(困ったどうしよう)という思いにとらわれたものが数名いた――

今日はその中の一人のお話。

その知らせが全艦に行きわたったその晩の巡検後、機関科・松本兵曹長は最上甲板の第一主砲付近で内務科・岩井しん特務少尉と行きあった。岩井少尉は何処となく沈んだ表情なのが松本兵曹長には気にかかった。そっとそばに寄って行き

「岩井少尉」

と声をかけた。岩井少尉は松本兵曹長の顔を認めると「ああ、松本兵曹長」と言って嬉しげに微笑んだ。二人の間を涼しい風が吹き抜け、岩井少尉は「ここに座らんか?」と兵曹長を誘ってその場に胡坐をかいた。兵曹長もそれに倣い胡坐をかいて夜空を見上げた。

「岩井少尉、『大和』は内地へ向かうそうでありますね」

兵曹長の声に岩井少尉は

「ほうじゃねえ。もうずいぶん久しぶりの内地になるけえ・・・楽しみだねえ」

と言ったがその声に嬉しげな張りはない。憂いを含んだ声音である。ハッと、松本兵曹長は思い当たって「岩井少尉、例の件ですね・・・」

と口にしていた。岩井少尉はそっとうなずいた。

岩井少尉は以前に、離婚した元・夫からの衝撃的な手紙を受け取っていた。その内容は、元・夫はまだ岩井少尉を愛している、母親(姑)も亡くなったからよりを戻したい。しかしそれがかなわないなら次に帰って来た時少尉の身体を一日好きにしてから別れたい――という自分勝手なもので松本兵曹長は少尉のその手紙を見せられてからたいへん憤慨していた。

その元・夫を何とかして撃退したい・・・と兵曹長は暇さえあればその方法を考えていた。しかしその方法の一番重要なことは、岩井少尉も元・夫という男のどちらも傷つかないように――特に肉体的精神的に――しなければならないということであった。

松本兵曹長はそれを岩井少尉に伝えた。岩井少尉はそうだねえとうなずいてから

「しかしね、兵曹長。あなたの気持ちは大変うれしいが・・・どちらかが、それとも両方が傷つかねばこのような話にはけりはつかん、思うんじゃが」

と言って兵曹長を見つめた。兵曹長は「どちらか、あるいはどっちもが・・・ですか?」とつぶやいた。

岩井少尉はうんとうなずいてから

「ほうじゃ。こういうややこしい話には犠牲がつきものじゃ。あの人が傷つくか、うちが傷つくか。それとも二人ともか。どっちも傷つかんと終わるいうような虫のええ話と違うけえ今回は。うち一人が傷ついて終わるんならそれもええが・・・」

と言った。松本兵曹長は「少尉・・・」と言ったまま黙ってしまった。岩井少尉のなみなみならぬ決意がにじんでいてその悲壮な思いに兵曹長もうたれてしまった。

しかし岩井少尉が傷ついてということはとりもなおさず少尉が元夫のいいように玩具にされるということではないのか。

「うちは、耐えられません。少尉があの男のええようにされるんは」

松本兵曹長は視線を甲板上に落として言いきった。岩井少尉が自分の方を見つめているのを感じながら松本兵曹長はこぶしを握った。こぶしが震えた。

岩井少尉はそんな兵曹長を見つめつつ、言葉を継いだ。

「うちはいろいろ考えて悩みもしたが、もうええと思うたんじゃ。いつまでもこげえなことで心乱されるんはもう正直ごめんじゃわ。じゃけえ、あん人がそうしたい、そうして忘れてくれるんなら一日くらいえかと」

するとそれを兵曹長の叫びが遮った。

「岩井少尉!そげえなことを言わんでつかあさい!少尉はあきらめがよすぎます。なんで少尉があがいな男の犠牲にならんといけんのですか?うちはあん男がそれで少尉をあきらめるとは思えんのです・・・もしかして少尉・・・」

不意に兵曹長の声が途切れた。岩井少尉は静かに兵曹長の顔を見つめている。兵曹長の顔が悲痛に歪み、

「岩井少尉、まさか少尉は・・・そのあと」

と言って再び絶句した。岩井少尉は兵曹長から視線を外し

「そのまさかじゃ。ほうじゃ、そのあとうちは自決するよ。うちは自分の意に反したことをして生きていとうはない。ほいでも・・・うちが自決したら皆に迷惑をかけてしまうことになる。そこが気になるところじゃが」

と遠いところを見つめて言った。

「ほんなら!!」

と兵曹長がいきなり大声を出し少尉の両肩をつかんで叫んだ。

「そこまで、ほかの人間のことまで思いを致すなら、少尉!自決なんぞ考えんでつかあさい!少尉に死なれたらうちは困るんです、どうか死なんでつかあさい!願います!」

最後には少尉の防暑服の肩をきつくつかんでゆすぶった。が、岩井少尉は松本兵曹長から視線をはずしたまんまである。松本兵曹長は少尉の肩をつかんだままで息荒くその顔を食い入るように見つめている。不意に岩井少尉が大きなため息をついた、そして兵曹長の顔を見ると

「ええんよもう、うちなんぞ居ってもおらんでもどうでもええんじゃ・・・じゃけえこげえにしていやな目に遭うんじゃ。うちははあ、はよう死んでしまいたい」

と一気に言い、そして泣きだした。松本兵曹長は、あの手紙を受け取ってからこちら、どれほど岩井少尉が内心苦しんで悩み抜いてきたかを悟った。

兵曹長は「うちを見てつかあさい、岩井少尉」というとその肩を今度は優しくつかんで言った、「ええですか少尉」。

岩井少尉は涙にぬれた顔をあげて兵曹長を見た、兵曹長は

「岩井少尉はこの『大和』には欠かせんおひとです。居っても居らんくてもええ人なんぞこの世には居りやせんですよ?みんなこの世に居る人は、おるだけの理由があってじゃけえ存在しとるんじゃとうちは思います。岩井少尉にはたくさんの部下が居ってじゃないですか。彼女らは皆、少尉に心酔しとります。誰ひとり少尉が居らなんでもええなんか思うとりゃせん。それに――」

と言って言葉を切った。

岩井少尉が兵曹長の瞳を覗き込むようにしたその時、松本兵曹長は

「うちの大事な、お人ですけえ。岩井少尉は」

というと少尉を力いっぱい抱きしめていた。岩井少尉は、自分より背の高い松本兵曹長の胸に抱きこまれ、熱い涙を流した。少尉も兵曹長の背中に手をまわしてその大きな体を抱いた。

そして

「ありがとう、兵曹長・・・うちはこげえに嬉しいことは初めてじゃ。うちも兵曹長が大好きじゃ」

と囁き、松本兵曹長は抱きしめる腕を一旦緩めると――岩井少尉の唇を奪ったのだった。

 

長い口づけのあと、岩井少尉は恥ずかしげに兵曹長から身を離した。兵曹長は「少尉、申し訳ございません」と謝ると頭を下げた。その兵曹長に岩井少尉は

「なんも謝ることなんぞないで?言うたろう?うちは嬉しいって。うちの心を一番ようわかってくれるんは、松本兵曹長じゃ。うちはほんまに嬉しい」

と囁いた。岩井少尉の瞳が星の明かりを受けてきらめいたように兵曹長は感じた。少尉の瞳には涙があふれんばかりに盛り上がり、それに夜空の星明かりが映っていた。

「岩井少尉・・・」

もう一度そう言って少尉の身体を抱きしめる兵曹長。その心の中に

(内地に帰ったらうちは少尉の為にあん男を絶対撃退して見せる!)

という決意がわき立っている――

   (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

『大和』久々に内地に戻れるようですが、そうすると問題のある人もいるようです。岩井少尉にはけっこう深刻な問題がありますが、松本兵曹長はどう対処するのでしょうか。

次回は花山掌航海長の出番です。


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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
ホントにこういうあほ馬鹿男は鳴門のうず巻きにでも投げ込んでやりたいですね!
自分勝手な男は男の風上にも置けないですよ!

天誅、いずれ下りますよ。

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
男性のmatsuyama さんからご覧になっても身勝手な!と憤るほどの岩井少尉の元・夫には天誅が下るようにせねばなりませんね。
ここ何年も新聞紙上やTVをにぎわす?元夫婦や元恋人などのストーカー事件も、何か筋違いのことをしている果てのように感じてなりません。
自分勝手はまず相手を不幸にし、そして自分を取り巻く人まで不幸にしてしまうということを考えねばなりませんよね。

岩井少尉、強く生きてほしいですね!たぶん大丈夫、強い味方がいるから・・・!

Re:

こんばんは。読みながらこのバカ男を海に投げ込みたい!と思いました。本当に自分勝手が肉体をもったという感じ…早く成敗してもらいたい!

No title

男の身勝手さというのはこのようなことなんでしょうかね。同性でありながら腹が立ちます。
離婚してながら、事情が変わったからよりを戻したい、願わくば元妻の身体を好きにもて遊んでから別れたい。どういう心境なんですかね。
まずは別れたことへの謝罪をし、もう一度やり直したいというのが筋じゃないんですか。最近はこういう筋の通らない男が増えてきているような気がします。相手への思いやりがない、身勝手ということですよね。
岩井少尉、そんなことで自決しないでください。見張り員さん、自決させないでください。もっと強く生きることを切望します。
そこまで決意してしている少尉のように、思い悩む女性は少なくなりました。離婚してもあっけらかんとしている女性がいる中で、女の鏡です。
まっ、自分も人のことを批判できるような人間じゃないですけどね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
松本兵曹長と岩井特務少尉の愛は無償の愛と言っていいかもしれませんね。
いつか、その愛が成就する日がくるかもしれません。
そして元・夫をどう撃退するか??
この辺に松本さんの手腕が問われます・・・お楽しみに^^。

台風が過ぎ、やっとこの季節らしい気温になりました。たまった洗濯物に辟易ですw。

両親のもとへはかなかいけませんが母とは来週、娘の成人の着物の試着の時会う予定です。親が歳をとると心配が増えますよね。すぐに行けるならこれほどいいことはないのですが…響きになることのひとつです。

No title

美しい!! なんと美しい愛だろう。混じりっ気のない純愛ですね。このふたり、どうか添い遂げさせてあげたいです。
そして身勝手極まりない男への撃退。如何なる手でそれを敢行するのかとても楽しみです。傷つけまいとする思いは崇高ですがこんな男こそ二度と女性を愛せないくらいにこてんぱんに……。見張り員さんの優しさではそんな酷なことは出来ませんよね。
ふたりの愛のこれからと元夫への仕置き、さてどうなるか。

良い季節になりましたね。ご実家のご両親の許へは行かれないのでしょうか。気にはなりつつ自由に出来ないお体ではないかと思っています。
折りをみて是非とも行ってあげて下さいね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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