「女だらけの戦艦大和」・二航戦の人々<飛龍>1

二航戦の『飛龍』『蒼龍』は懐かしの祖国日本の風景を遠望している――

 

『飛龍』艦上にあって山口たも司令官は傍らに立つ加来止代艦長に「横須賀に入港するのは久しぶりだねえ。皆も楽しみにしてるんじゃないかね?」と言った。その顔は嬉しそうにほほ笑んで、加来艦長は(司令官、お子様に久しぶりに会えるのがうれしいんだなあ)と思う。

遠くに富士山がその姿をりりしく見せ始めている。

艦長は「は。皆若干浮足立ったような印象を受けます。でも横須賀入港まであと二日ありますから気を抜かぬようしっかりさせます」と答える。

山口司令官はうなずいて

「そうだね加来さん。浮足立って怪我でもしたら困るからね・・・でも、最初の予定の佐世保に入らないからがっかりしてる者もいるんじゃないかねえ?」

というと笑った。加来艦長は少し困ったような表情をしてエヘンと咳払いをすると

「圓藤(えんどう)大尉のことですね」

と言った。

 

この圓藤大尉というのは『飛龍』飛行隊艦爆部隊の指揮官の一人である。なかなかいい女で飛行隊員の憧れでもある。気質は豪放磊落、気持ちのいい女で誰とでもわけ隔てなく付き合い、上官からは愛され部下からは慕われる海軍軍人の鑑のようである。

が。

一つだけ悪癖があった。それは――

無類の男好きということ。兵学校卒業後からその本領を発揮し出して内地外地を問わず男をあさりまくっているらしく、

「噂によれば、泊地ごとに<旦那>がおるようでございます」

と加来艦長は言った。山口司令官はさすがに驚いて「なに、<旦那>が?泊地ごとにかね?」と声を上ずらせた。加来艦長は至極真面目な顔でうなずいて先を続けた。

 

圓藤大尉自体はまだ独身をかこつている。「結婚すりゃあいいのにねえ」と山口司令官は言うがそこが生来の男好きの悲しい性なのか、一人の男では我慢ならないらしい。あちこちに艦が入港するたびにそこで<旦那>を作ってしまったらしい。

「佐世保。横須賀、呉は当たり前。南方にも数名おるそうです」と加来艦長は言ってため息をついた。山口司令官は「南方の・・・その<旦那>は現地の人かね?」と問うのへ、

「いえ。日本人だそうです、彼女日本人じゃなきゃだめなんだそうです」と艦長は言って少し笑った。司令官は「そうか、それならまあ・・・まだいいか」と言った。不用意に現地の人とそういう関係になって要らぬトラブルを起こされては困ると思ったのだがどれはどうやら杞憂らしい。

「なんでも、」と加来艦長は思い出し笑いしながら話し続ける、「男なら日本人のそれ(・・)が一番具合がいいそうです。自分の器にあっているとかで」。

山口司令官はさすがに顔を赤らめた。艦長はさらに続ける――

 

圓藤大尉がまだ少尉時代のこと・・・彼女はとある南方の基地でその時零戦搭乗員として研さんを積んでいた。その基地には時折現地の人が遊びに来ては「ニッポン、さすがね。カッコイイネ!強い、カミサマミタイネ!」と言っては搭乗員たちと交流を深めていた。そして時には搭乗員たちは彼らの集落に招待されて彼らと一緒に食事をすることもあったという。

そんなある日、集落の長老が彼女たちの前に来ると「ニッポンノパイロットの皆さん、トテモ頭がよくて優秀ネ!アナタガタノ一人を私ノ息子の嫁サンにシタイです。ドナタカお願い!」とその場に土下座するではないか。びっくりする隊長、しかし普段から親交を重ねてきた集落の人々の願いをむげにするのを・・・と思ったかいきなり隊長は圓藤を指差すと、

「ここにいいのが居ります!――貴様いけ!貴様は今日からこの人の息子の嫁だ!」

と言い放った。圓藤少尉(当時)は「ヒエッ!なななんで私が?(一人に縛られるの嫌だっていうのに!それにわたし日本人じゃなきゃだめなんだよう)」と言ったが隊長は有無を言わさず圓藤藤少尉を前に押し出して「この少尉をあなたの息子さんの嫁に」と言った。長老は大変喜んで「コンナニ綺麗なヒトヲ!サンキュー、サンキューアリガトウ隊長サン!」というと泣きそうな顔の圓藤少尉の手を握って集落へと連れ帰ったのだった。その後ろから悪乗りした他の搭乗員たちが「お幸せに~」とか「旦那様に尽くせよ~」とか「新婚初夜見に行っちゃろうか~」などという冷やかしの言葉を投げかける。

防暑服に飛行帽の「花嫁」はその晩、椰子の葉でふいた小さな新居の中に新郎とともに押し込まれたが、なんというのか事実は小説より奇なり、新郎となった男性のことを前々から好きだという同じ集落の娘が押しかけて来た。圓藤少尉はもっけの幸いとあれこれ言い含め二人をくっつけ自分は夜陰に乗じてすたこらさっさと基地に逃げ帰って来た。翌日長老は花嫁がすげ変わっていることに気がついたが息子から「神様ノトウジョウインガ、この娘とイッショニナレとオッシャッタね。ソウスレバみな幸せニナルッテおっしゃたネ」と言われ「神様ノトウジョウインノお告げ!アリガタイ~!」と感謝して基地にやってきて圓藤少尉はかの地では<神様>と呼ばれるにいたった。

 

「――らしいですよ。結構きわどいところまで行ったらしいんですが」と加来艦長は言葉を継ぐ、「圓藤大尉はその男性のそれを見たらしいんですが、やはり自分には合わないと思ったらしいですね。で、乱入してきた娘と彼をくっつけるために<お告げ>とやらを言ったらしいですね」。

そして艦長は愉快そうに笑った。山口司令官はその頬を赤らめたままうなずき、艦橋の窓の外遠くを見つめた。

そしてふと思いついたように艦長を見返ると、

「待って、圓藤くんは零戦の搭乗員だったはずじゃない?それがどうして艦爆の人になったの?」

と問うた。艦長はちょっとあたりを見回してからそっと司令官の耳元に口を寄せると

「あまり大きな声じゃ言えませんが・・・大尉はあまり零戦の操縦はうまいことなかったみたいです。よく着陸の際逆立ちさせていたみたいですから」

と言ってククク・・・と笑った。司令官は情けなさそうな顔でほほ笑んだ。

 

艦橋でそんな話をしているころ、飛行甲板下の居住区の一角、士官室では圓藤大尉が大きなくしゃみをしている。それを見た安藤中尉が

「あ!圓藤大尉。誰かが噂してますよ?」

と言って笑う、ほかの士官連中も笑った。圓藤大尉はもう一度くしゃみをしてから

「誰だ一体・・・。しかし佐世保に行かないのは残念だったなあ。てっきり今回佐世保に入って一休みしてから横須賀だと思ったのに。ざーんねん」

と本当に残念そうに言った。安藤中尉がウヘヘと笑って

「ホント残念でしたねえ。佐世保の旦那さんと・・ウフフ・・・出来なくってほーんと残念ですねえ」

といやらしい笑い方をしてその場の士官たちがどっと笑った。圓藤大尉は「この馬鹿もん」と笑いながら叱って、「それでも今回はどうして佐世保に入らないんだ?」とひとりごちると横から伝馬少尉が

「なんでも一航戦がインド洋から帰ってきて佐世保に入ったそうなんですよ。ですから・・・だそうです」

と教えてくれた。圓藤大尉は「ふーん、一航戦がね。それじゃあ仕方ないか。今回は横須賀で羽伸ばすか!」といい一同笑った。

 

「そうか・・・。いずれにしても皆にはゆっくり休んでもらいたいね。皆よくやってくれたものね」

山口司令官はそう言って加来艦長と一緒に飛行甲板へと艦橋を出て行った。『飛龍』のあとを『蒼龍』が続きその周囲を重巡が守る陣形で、艦隊は横須賀目指してゆく。

(待っていてね。もう少しで逢えるから)

山口司令官の胸は嬉しさで震えている。司令官の脳裏には4人の子供たちが駆け寄ってくる風景が描き出されている――

    (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

おなじみ『飛龍』の風景です。

山口たも・二航戦司令官と『飛龍』の加来艦長のやり取りから意外な人物がいることがわかってきました。さあ、次回はどんな人が??

 

こんな動画を見つけました。ミッドウエー海戦・・・わしこの海戦嫌いじゃ!!


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Comments 2

見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
よくそういう話とか歌を聴きますよね!船乗りは港港に女が待ってる~♪、みたいなw。

彼女たちは「男」を待たせています。どんな男を待たせているのでしょう・・・今回その真実が明らかに!なんて大げさですが、またあのシーンも展開しますのでお楽しみに^^。

台風の影響はないでしょうか、何事もなく過ぎますように!

2013/10/04 (Fri) 19:54 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

世界の海を股に掛ける船乗りはそれぞれの港に女がいると言いますがオトコでしうか。
それこそ品定めされ吟味された日本の男を待たせる女ってかっこいいですね。

さてこれからこの人とこの物語はどうなりますことやら。最近ご無沙汰だったアッチの展開を密かに楽しみにしている私です。だって見張り員さん上手なんだもん(笑)

2013/10/04 (Fri) 12:08 | EDIT | REPLY |   

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)