「女だらけの戦艦大和」・南方の大茶会4<解決編>

マツコは猪田艦長の手元を覗いて大声をあげていた――

 

ナナがびっくりしてマツコのそばに駆け寄る。無論、猪田艦長他も驚いてマツコを見つめる。梨賀艦長が「何処に言ってたのかと思ったらここに来ていたのか・・・ああ、ナナに逢いたかったのかあ」

と言って野村副長に笑いかけた。

ナナが「どうしたのマツコサン」というとマツコはその大きなくちばしを震わせて

「みてよちょっと・・・これってさ」

と言って翼の先で猪田艦長が持っているものを指した。

「・・・なに、これ?」

ナナが言うとマツコはその金色の目を見開いて「いいこと?なにを聞いても驚いちゃいけないわよ、これはね」と言った。その言い方に悲壮感のようなものがにじむ。ナナは、ごくっと唾を飲む。マツコは、

「これはね・・・青虫の粉よ!」

と言い放った。とたんにナナは「ギャーーー」と叫んでその場に尻もちをつく。マツコはくちばしをガタガタ言わせて

「青虫の粉をどうにかしようなんてこの連中も野蛮よ!・・・この粉青っ臭いのよアンタ。とてもお湯に溶いたって耐えられるもんじゃあないわよ」

と言った。ナナは「ぐ・・ぐえええ」と戻しそうな雰囲気である。と、ナナは背後から加東副長に抱きあげられ、マツコは席を立ってきた古村司令に抱きあげられた。

古村司令はマツコを抱き上げてその場に座ると

「おお、心の友よ!君も今日はお茶会に参加かい?鳥とはいえ風流がわかるなんか、鳥にしとくのはもったいないねえ」

といい、猪田艦長がわきに置いた蓋のあいたままの棗を拾い上げた。そしてそれをマツコの前に突き出すと

「ほーら、いい香りでしょう鳥くん」

と言った。が、ちょっとだけ勢いがつきすぎたか中の抹茶がすこしマツコにかかった。マツコは「青虫の粉―!」と叫んでその場に昏倒せんばかりの衝撃を受けた。

が。

「あら。これいいにおいじゃない?」

と我に帰った。ナナが「どういうことマツコサン」と尋ねる。マツコは自分にかかった粉を、その舌を伸ばしておそるおそるなめた。とたんにマツコの金色の瞳が歓喜の色を帯びる。そしてナナを振り向いて

「これは青虫の粉じゃないわ、素敵な味がするわよナナ!」

と叫んだのだ。ナナは合点がいかないような顔つきであったが猪田艦長の横に来ると、古村司令の手にした棗の中のものの匂いを嗅いだ、そして「ああ!」と声を上げた。「ホントね、いいにおいがする」とナナもうっとりした表情。

猪田艦長がそんな二人を見て「なんだ。君たちもこれが飲みたかったのか・・・じゃあ、早いところ茶をたてようか」と言ってまず、『大和』梨賀艦長の茶碗に抹茶を入れて、しゅんしゅんと音を立てて沸く釜から熱い湯を柄杓で汲んで茶碗に注ぎこむ。そして茶せんでそれを混ぜる。

心地よい音が聞こえ、皆は艦長の手元に見入る。もちろんマツコとナナも。出来上がった茶は、加東副長が梨賀艦長のもとへ運ぶ。そして次々とその場の皆の茶が点てられそのたび加東副長が持って行く。

マツコとナナにも冷ました茶が運ばれる。マツコとナナはそれを飲んだ、「おいしいわ」「おいしいねえ」と二人はうなずき合う。猪田艦長はそれを嬉しそうに見つめていたが、梨賀艦長に

「では猪田さんと加東副長の茶は私が点てよう」

と言われて「それでは、願います」と席を交代。梨賀艦長が上手に茶を点て猪田艦長と加東副長はそれを喫して満足げな表情になる。そして猪田艦長は

「それではここからはご自由に茶を点てて楽しんでください、菓子はここにありますから」

といい、座が一気に和みを見せた。

「そういえばトメキチはどうしたね?」

と森上参謀長がマツコに言った。夢中で茶碗の底をなめていたマツコはハッと顔をあげた、そしてナナを翼の先でつつくと

「やだわ。アタシタチまだかくれんぼの途中だったじゃない!」

というとあわててトメキチを探しに走り出した。ナナが「待ってよう」とそのあとを追って行く。

マツコは「トメキチー。あんたどこ行っちゃったのよう?すねてどっか行っちゃったの?悪かったわようーごめんなさーい」と叫んで走る。ナナも「トメキチさん、どこー?」と必死にあちこち探す。

「何処行っちゃったのかしら」

マツコが途方に暮れたその時、前甲板から兵員嬢たちの黄色い歓声が聞こえて来た。何かしらとマツコとナナが走ってゆくと、たくさんの兵隊嬢や下士官嬢それに士官嬢たちが何かを取り囲んで騒いでいる。

マツコとナナがその間に身体をねじ込んでみると、そこには誰かの防暑服の中に入り込んで眠っているトメキチの姿があった。

どうやらトメキチは隠れ場所として誰かが脱いでおいた防暑服の中に入り込んでいるうちに眠りこんでしまったらしい。まるで防暑服を着こんでいるような格好になったトメキチはこの上なく可愛い。マツコは「ああ、よかった」と安堵して「トメキチ、起きてよ」とくちばしでゆり起した。ナナも防暑服に前足をかけてゆり起し「トメキチさん、起きて。お茶会始まったよ」と声をかけた。やっとトメキチは大きな伸びと欠伸をして目を覚ました。

そして防暑服から出ると後ろ足で耳を掻くと「ああ、寝ちゃった。なかなかマツコサンたち探しに来ないんだもん」と言って笑った。そして三人は「艦長さんたちのところに行こう」と言って歩き出したのだった。

『武蔵』艦上は茶を喫しては菓子を食べて笑いがはじけている。猪田艦長はその様子をときどき見て回っては加東副長に「いい催しになったね。これでみんながもっと今以上に結束が強くなってくれればいうことはないよ、ね」と笑いかけた。

加東副長も「そうです、きっとわが『武蔵』乗組員のことですから固い結束で頑張ってくれますよ」と答えた。

 

その頃、『大和』艦上。

前甲板通風口前では皆が茶碗を手に座り、松岡中尉のラケットの構造の講座を聞いている。『矢矧』の中尉が感心して、

「ほう、今日はとてもいい日だね。内地のおいしい抹茶や菓子が味わえる上にあのへんな中尉の変なラケットのこともわかったし。うん、いい日だ」

と言っては茶を干す。それを聞きつけた松岡中尉はラケットでその中尉を指して

「そこのあなた、いいですかあまり浮かれてこのことをあちこち言いふらしたら私は怒りますよ!このことがもし万一、敵に知られたらあなたは軍法会議に掛けられて銃殺ですからね。その辺よく考えて下さいよ・・・それから私は変な中尉ではありません。松岡修子海軍中尉ですからね、わかったら尻の穴を締めて熱くなれよ」

と怒鳴り、『矢矧』の中尉は「おお怖。はいはい、誰にも言いませんって。て言うか敵がこの話を聞いても絶対まともには受け取りませんよ。尻の穴もしっかり閉まってます」と言って皆は大爆笑した。

 

そんな爆笑の中、麻生分隊士は頬を染めて「恥ずかしい、うちは恥ずかしゅうていけん。穴があったら入りたいわ」とうつむく。その分隊士にオトメチャンは

「分隊士、ほいでもみんな松岡分隊長をあほじゃとは思うてないみたいですよ。『矢矧』の人たちみんな、分隊長の言うことを感心して聞いとられます。ほいじゃけえ、分隊士もっと胸を張って自信持ってつかあさい。うちは分隊士が哀しい顔をしとるんを見るんがつらいですけえね」

と慰めた。

麻生分隊士は「・・・オトメチャン・・・」というと茶碗を下に置き「オトメチャンはなんて優しいんじゃ。うちはオトメチャンみとうなええ部下を持って幸せじゃあ!」と叫ぶなりその場でオトメチャンを抱きしめ、『矢矧』の皆は

「わあ、これが噂に聞いたアレか!すばらしい、眼福にあずかれた」

とさらに大喜び。その歓声を、少し離れた場所で釜に湯を沸かしながら聞いていた主計科・福島大尉は傍らの烹炊員に

「良かったわねえ。みんなが喜んでくれて。・・・お湯沸いたら抹茶この中に入れて?はいじゃあ、混ぜるわよ!」

というと、烹炊所にあるような大きな釜の中にどさっと抹茶を入れさせ、湯を注がせると「さっき倉庫から持ってきたばっかの新品だからいいよね、だって小さいのじゃ間に合わないんだもん」と言って・・・箒で混ぜ始めたのだった。

福島大尉はにっこり笑い「いいこと。これは内緒よ」としかし、声だけはすごませて烹炊員たちに厳命したのだった。

何も知らず盛り上がる『大和』艦上・・・ともあれ猪田艦長の発案による「南方の大茶会」は成功裏に終わりを告げるのであった。

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

抹茶。あの香りはとてもいいですね。わたしも大好きで時たま点てて楽しみます。

しかしマツコ、どうしてあれを青虫の粉だなんて思ったのでしょう??色が似てるから?彼女の考えることはよくわかりませんね。ともあれ、いい集まりが出来たようで良かったとしましょう。

 

わたしもお茶を点ててみました!
DSCN1061.jpg DSCN1062.jpg DSCN1063.jpg

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
あし@、どうしたんでしょうね??私の方は何ともなかったですが・・・時折ブログやあし@のようなのが変になるとぎょっとしますよね。「やめろー!」と言いたくなります(泣)。

妙なお茶会の武蔵でした(-_-;)。
私は20代の初めに、ちょっとだけ表千家をかじりました、ホントにかじっただけなのでもうすっかり忘れてしまいましたがこうして簡単なお手前(とも言えませんが)を楽しんでいます。
そういえば、靖国神社でも裏千家のお茶の奉納があるそうですね。
英霊顕彰の思いを致しながら喫するお茶もいいものですね^^。

No title

あし@が狂ってしまって往生しました。
見張り員さんは大丈夫でしたか?? 感染させては申し訳ないとコメントを控えていましたがどうやらやっと復旧したようです。

艦上では大変なお茶会になった模様ですね。それに比べて見張り員さんのお点前、なかなかキレが良いようにお見受けしました。お茶碗にも心がこもっているし。折々にこのお茶碗でご英霊をお慰めするのも良いことかもしれないですね。
遠方から一服頂戴した思いです。ご馳走様でした。

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
上手な方が点てたお茶はふんわり泡が盛り上がって本当においしいんですよね~。
作法はホント難しいですが無駄な動きがない、次の動作に移るのに必要な動作しかないというのに気が付くと茶道の奥行きの深さに感動します。

子供って歩きながらも眠るし、一番子供を育ててびっくりもし笑いもしたのが食べながら眠っていたことでしょうか。大人にはできない芸当?ですね^^。

じわじわと暑さの疲れがにじみ出てきたようでだるくてだるくてたまりません。matsuyama さんもどうぞ御身大切になさってくださいね。

No title

お茶といえばあるイベントで野点のお茶会を見たことがあります。先生の点てたお茶を皆さん美味しそうに飲んでましたね。
見張り員さんもお茶を点てられるんですか。あの作法がちょっと緊張しますけど、見てると優雅でいいです。
秋は睡魔に追われることはあまりないと思いますが、この間3~4歳位の幼児が母親の手につかまりながら不審な動きで道を歩いていました。
よく見るとその幼児眠っているんですね。よほど眠かったんでしょうけど、歩きながら眠れるって、子供は器用なんですね。

夏の疲れが出てくる季節でもあります。体調には十分お気を付けください。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます!
おお、それはいいタイミングでしたね^^、写真ではありますがお抹茶をごゆるりとお楽しみください♡

箒でかきまわす、なんかあり得ませんがまあこの世界なのでw。巨大なしゃもじがあるくらいですから茶筅もと考えた時頭に浮かんだのが「箒」でした・・・(^_^;)。
ホントこれじゃあ魔女の怪しい薬ですねww。

あのはしびろには愛称ないんですね、じゃあ「マツコ」で決まりだ・・・!って、確か二羽いたっけ!

きょうはどんよりの一日みたいですね、お風邪など召しませんように!

Re:

こんばんは。『しゃべれどもしゃべれども』にもお茶の場面があって、だれかが自分のために心をこめてたててくれたお茶がのみたい!と思っていたので嬉しいです。それもステキなお茶碗で…大和魂も一緒にありがたくいただきます!
箒でかき回し~魔女が大きな鍋であやしげなクスリを作っているみたいですが、違うのは誰も不幸にならないことですね。みんなウグイスみたいな良い声になったりして!あ、ハシビロコウですが、特に愛称とかないみたいですよ。だからもうマツコ!で決まりだと思います(笑)
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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