2017-10

「女だらけの戦艦大和」・怪談、毛布をふるう音6<解決編> - 2013.09.09 Mon

野村副長は藤村甲板士官からそれを受け取った――

 

甲板士官は副長のあられもない姿を見ていたので気を利かして副長の部屋のチェストから防暑服の上着もひっつかんで持ってきた。それを副長の背後から着せかけた。副長はそれに無意識に袖を通した。そして眦を決して巨大化したきのこを睨みつけた。きのこの下にはオトメチャンが下敷きになってもがいている。

「ツッチ・・・」

と艦長が声をかけたが副長はきのこと対峙したまま。やがて甲板士官から受け取ったそれ――副長自慢の軍刀――の鞘を抜き放った。シャアッと鞘走る音がして抜き放たれた刀身が、艦内灯に鋭く光り居合わせた乗組員たちはごくりと唾を呑んだ。松岡中尉がトメキチとマツコを「危ないからこっちに来なさい」と抱えて退かした。

きのこは副長を見るような格好になって動きを止める。まるで副長の出方をうかがうような。

副長は低い声で「その子を離せ」と言った。きのこは「いやだね」とでもいうようにその身を振った。そしてさらにその体重をオトメチャンに掛けた。ぐうう、とオトメチャンがうめいて麻生少尉が「オトメチャン!」と叫んで駆け寄ろうとしたが後ろから花山掌航海長に羽交い絞めにされた。

花山掌航海長は麻生の耳元に「気持ちはわかるがここは副長にお任せしろ。辛抱のしどころじゃ」と言い聞かせ、麻生少尉は悔しげにきのこをにらんだ。

副長は軍刀を水平に構えズイッと一歩、前に出た。皆はその姿に圧倒されている。副長は防暑服に両そでを通し前は開いたまま、そして下帯だけの姿であるがそれが戦いの女神のように神々しく美しい。森上参謀長でさえそれには眼を奪われている。

「ここを帝国海軍・軍艦大和の艦内と知っての狼藉か。即刻立ち去るなら咎めなし、立ち去らぬならここで成敗する」

副長は低いがよく通る声で言ったがきのこは挑発的な動きをやめない。その下に組み敷かれたオトメチャンはもう息も絶え絶えでもがく力さえなくなってきたようだ。マツコがくちばしをガタガタさせて

「あの小娘、まずいわよ。死んじゃうかもしれない・・・」

と金色の目をトメキチに向ける。トメキチもその眼に涙をいっぱいためて「・・・トメさん、死んじゃいや」とつぶやく。麻生少尉が「オトメチャンー!」と叫び皆の間に悲壮感が広がったその時。

「天誅!」

と副長の大声が響いた次の瞬間。軍刀が一閃した。皆がはっと息をのんだ。

副長は軍刀を左から右に払って片膝を床に着いたその姿勢のまましばし動かなかった。どのくらいの時間が流れたのかわからないが、突然、きのこが真半分になってその場に倒れた。ドタン、と重い音がしてきのこの上半分が後ろに落ちた。

我に帰った麻生分隊士と花山掌航海長それに航海科の数名がオトメチャンに駆け寄った。副長はやっと立ち上がり、足元に落ちた鞘を拾い上げると刀身を戻した。皆がわっと副長の周りに集まり歓声をあげてこの化け物を退治したことを喜んだ。

「オトメチャンは、どうした?大丈夫か」

と副長は日野原軍医長に抱えられている見張兵曹のもとに寄って言った。日野原軍医長は副長を見上げ「気を失っておりますが命に別条なしです。ご安心を」というと彼女を抱えて医務室へ向かう。麻生少尉がそのあとについてゆく。

それを見送った副長はふうーと長いため息をついた。急に全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。その彼女を梨賀艦長と森上参謀長が抱え起こした。艦長は「副長、よくやった!」とその身体を揺すって喜び、参謀長は「かっこよかったぞ野村―!」と言って副長の頭をごしごし撫でた。

その間にきのこをしげしげと見つめあれこれいじくっていた工作科の水木水兵長が

「ありゃ、このキノコは」

と素っ頓狂な声を上げたのでみなはいっせいにそちらを見た。梨賀艦長が水木しげこ水兵長のそばに走り寄り「どうしたね、何があった?」と聞いた。水木水兵長は艦内一いや海軍一の妖怪研究家であり妖怪退治の使い手でもある。もしかして妖怪の仕業かと聞いた艦長に水木水兵長はきのこの下部分から何やら引き出して見せた。

「艦長、きのこはこれを栄養源にして大きくなったもののようですね。そしてこれに残った念のようなものがきのこを動かしていたようであります」

と言って水木水兵長が差し出したものこそ――薄汚れた褌である。マツコが「ギャッ!」と叫んだ。梨賀艦長が「なんだあこりゃあ」とそれを広げたが、

「うわああ!きったねえ褌だ、しかも名前が書いてある!」

と叫んでその場にほっぽり出した。え?褌だってと数名がそれを取り囲んでこわごわ指先でつまんでみると・・・

「高角砲 上曹 野田佳子」

の文字が。高角砲、と聞いて生方中尉があわてて走り寄って来た。「どれ、ちょっと見せんか」と兵隊嬢から受け取るとまごうかたなき部下の野田兵曹の褌である。生方中尉の顔に朱が差した、次の瞬間生方中尉は「のだああああー!」と大音声。びっくりした野田兵曹が飛び出してきたところを、生方中尉はいきなりその大きな頭をひっぱたいた。そして「この、この、高角砲の面汚し!貴様のおかげでもう何回恥かいたと思ってる!いい加減にしないと貴様艦から降ろすぞ!こい、貴様のチェスト今から点検だっ」と怒鳴り野田兵曹の襟首をつかんで去っていったのだった。

その場の皆が「ウェ・・また野田兵曹か」と辟易した表情をしたのに、マツコだけが「気の毒しちゃったわねあの顔の大きい人に。あとで謝んなきゃ」と恐縮している。

 

「褌にきのこが生えるなんぞ今まで聞いたことがなかったね。驚いたよ」

森上参謀長が言うと皆も激しく同意した。副長も「ええ、驚きました」と言ったがハッと気がつけば自分はなんという格好なのだろう。ほとんど裸と言っても差し支えない状態。副長の全身を羞恥が支配し、彼女は顔を真っ赤にしてあと言う間に走り去ってしまった。その場の兵隊嬢たちも

「ほいでもまあ、あの妙な音の原因が退治されてえかったね」

というと皆は散開した。

 

梨賀艦長は皆と別れて急いで<婦人科診察室>へ取って返した。(なんの後始末もしないで来てしまったから、あそこにはツッチーの服がまだあるはず)と思いだしたのだ。大急ぎでしかし、足音は極力控えて診察室へ。

そっと覗けば室内はさっき出て行った時のまま。艦長は散らばった副長の防暑服の上下をそっと拾い上げて部屋を出た。しっかり鍵も閉めて。そして副長の部屋に行き服を返しその晩はゆっくり眠ったのだった。

 

 

翌日<婦人科診察室>に入ってきた人二人、誰かと言えば日野原軍医長と婦人科専門の海原軍医少佐である。二人は明後日に迫った婦人科検診に備えてこの部屋の清掃と器具の点検に来たのだった。海原少佐がモップで床を拭き、日野原軍医長が戸棚の器具の点検を始める。

「あ!」

と海原少佐が声をあげ、軍医長が「どうしました?なにか」と顔をあげると海原少佐は床にかがみこんで何かを摘まみあげた。「なに?」と寄っていった軍医長に、少佐は摘まんだものを手のひらに乗せて軍医長に見せた。

「軍医長、これ。中佐の襟章ですね」

「どらどら・・・おお、ほんとだ。一体だれのものだろうか。それよりここ使った中佐って誰かいた?」

二人は考え込んだが――それが昨晩副長の襟から飛んで落ちたものだとは知る由もない。そしてまた同じころ副長は昨日の服を洗濯に出そうとして(え、襟章がない!)と気がつき大変あわてていた。(たぶん、診察室に落としたんだろう。まずいなあ)と思ってその日、医務科周辺をうろつく副長であった。

 

そして――居住区にぶら下がったままの鈴であるが――誰も通らない触れない風もないのにチリン・チリンと鳴って皆の恐怖心をあおっておるという。

「だったらはあ、取ったらええでないか。もう化け物は居らんのじゃけえ」

そう言って麻生分隊士は口をひん曲げた。その分隊士に「麻生さーん、あなたきれいだねえ。ちょっとこっちに来ないかな?」と冗談とも本気ともつかない言い方誘い方で麻生少尉を怖ろしがらせる松岡中尉。それを見ていた小泉兵曹は「なあ、あれからちいと変じゃろ?もしかしたら分隊長、きのこの毒を吸うたんじゃないかねえ」といい、見張兵曹も「ほうじゃねえ。うちは何やら気味悪いわ」といい心配げである。

 

それから一番気になる巨大キノコの末路であるが、あれはあの後さらに細かく切り刻まれ『大和農園』の肥料になったという。福島主計大尉が「もったいないわねえ。これお味噌汁に使えない?」と言ったというが烹炊所員が「いけません大尉、あれには野田のケツのエキスがしみこんどりますけえ。食中毒を引き起こしたらこの艦は総員アウトであります」と猛反対したのだ。

切り刻まれたきのこは、「野田、貴様の不始末は貴様がしろ!」と生方中尉に命令され野田兵曹がランチに乗せて『大和農園』に埋めに行ったのだった。マツコがそれを憐れみ「悪かったわ、アタシのせいでこんな目にあわせちゃって」と一緒に着いて行ったのだった。無論「僕も行くよ」とトメキチもくっついて。

 

後日。飛行科の林家へゑ一飛曹がいつの間にか撮影したきのこ写真が艦内に張り出され、キャプションに<フンドシタケ>と書いてあり皆は大笑いした。

 

なんだかんだの大騒ぎを経て妙な音から始まった怪談は終息したのだった。

今日も『大和』艦上には訓練に励む将兵嬢たちの声や足音が響いている――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・

なんだかどうしようもない話でした。

しかし福島大尉こんなものを食材にしたらいけませんよ!「ケツのエキス」・・・言葉がありません。お下劣ですねハハハ・・・(^_^;)

 

靖国神社で以前買った『大和』の艦バッヂ。なんか妙にリアルでかっこいい~。DSCN0903.jpg
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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
世界の三船、かっこよかったですね。
あの頃いわゆる時代劇が花盛りでわくわくしたものですが最近はとんと…(-_-;)。ああいう手に汗握らせる立ち回りをできる俳優さんがいなくなったのでしょうか。さみしい・・・

化け物キノコは弱かったですね。でもまあ、妙な菌を吐いたりしないからよかったとw。

ふんどしキノコのエキスをすった野菜・・どうなるかしら。おお、またそれで話が書ける!!
ある意味放射能より怖いかも・・・ガクブル…

NoTitle

副長の太刀裁き、恰好いいですね。
ついつい映画の三船敏郎を思い出します。あの素浪人の決闘シーンは手に汗を握って見ていました。
お化けキノコ、あっさりやられちゃいましたね。まっ、これで大和にも平和が来るか。
褌キノコの味噌汁食べたくないけど、農園の肥料になったキノコで育った野菜などもちょっと避けたいな。放射能は含まれてないんでしょうけどね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
美味しいきのこなら歓迎~ですがふんどしに生えたキノコはノーサンキュー~♪ でも考えるとやはり、気分悪くなりますね。
ケツのエキスですもん…(-_-;)
ウヘッ・・・ww。

おかげさまでめまいは治ってきました!どうもこの夏の疲れもあるようです・・・もっと気合いを入れねば、ね❤

いつもご心配をありがとう、オスカーさんも無理なさいませんようにお過ごしくださいね^^。

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
いつも読んでくださてありがとうございます^^。
さてこのバッヂのイラストホントにリアルなんですよね~。そしてご指摘のようにこのアングルから見た『大和』ってあまりないので感激ものでした。

15日に靖国に行ってきますのでまだあるかどうか見てきます!

涼しさもつかの間また明日から暑くなるとか。もう辟易の私です、酔漢さんも御身田正切になさってくださいね♡

Re:

こんばんは。♪きのこ ノコノコ~ 美味しいきのこは「ほくと」ですが、ブキミのなのは大和ですね……うう、白雪姫に食べさせる毒リンゴをつくる継母が喜んで買いとってくれそうなデンジャラス茸 (´~`;)
お身体はいかがですか? 休める時にしっかり休んで下さいね!

バッジのイラスト!

本文は、拝読させていただいておりますよ!
でも、最後のバッジのイラストは、これ良いですねぇ!
以外に軍艦は右舷側から見る事は少ないです。
ですから迫力があるのかも・・・・。
本文と違ったコメントでごめんなさい。
まだあるかなぁぁ・・ほしいなぁ。野津さんへも送ろうっと。
本当にすみません・・でした・・。

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
フンドシタケ。
お茶を吹きそうに・・・やけどしないように願いますよ~(^_^;) 想像するとチョーきもいキノコです。おけつにじかに触ったふんどしから生えるんですから・・・雑菌だらけじゃ!おええ~って感じですね(-_-;)。

やっとめまいが抜けました。やはり更年期障害ですね(^_^;)、何とかごまかしごまかしやって行きたいと思います。
私にも一刻も早く・・・安泰の日が来ますよう~~!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
良い気分転換になってよかった、書いた甲斐がありました^^。
そう、副長にギリシア神話の戦いの神を投影しました。

野田はもうどうしようもない女です。猛省を促したいと思います!!

またなまめかしい場面をお送りしたいと思います、ご期待ください^^。

なんちゅうキノコや!

うっわ~~~~

艦を揺るがした大騒動もこれにて
一件落着、ですね。

し・し・しかし・・・
怪しいキノコの命名が

フ・ン・ド・シ・タ・ケ・ って
可笑し過ぎて飲んでたお茶を吹きそうに
なりましたよん!

ご体調はいかがですか?
無理なさらんでね。お大事に。
(というても無理せんとこなせん毎日でしょうね、
自分も見張り員さんの年代のときはそうでした。
いつか安泰の日々が来ますからね・・・・)

NoTitle

いやぁ、気分転換させていたきました。爽快です!!
副長、かっこよかったですね。褌ひとつの裸体、まるでギリシャ神話の勇者でした。
オトメチャンも無事で何よりでしたが、野田のびったれが引き起こした騒動。人の忠告を軽く考えるからこんな騒ぎになるんですよね。反省しなきゃ。

素敵な描写の次回を楽しみにしていますよ。決して欲求不満のはけ口だなんて思いもしません。なかなか胸キュンですよ。

れい姉さんへ

れい姉さんこんばんは!
「けつのエキス」…考えるとゾッとしますねw。絶対食いたくない、食ってはいけない食品の「裏部門」にエントリーですな。

医務室でのいけないこと。それをしちゃうのが特権乱用というものでしょうか…(-_-;)…

こんにちは(=゜ω゜)ノ

ケツのエキス入りなキノコは、確かに喰いたくないですなw。

そして、公共の医務室でいかがわしいマネは如何なものかと…ww。



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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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