「女だらけの戦艦大和」・怪談、毛布をふるう音1

――たとえば・・・百人のうちの九十九人までが忘れ去っていることでもたった一人が<そのこと>を覚えているということは・・・往々にしてあることである――

 

ハッシー・デ・ラ・マツコは軍艦大和の防空指揮所で子犬のトメキチと遊んでいる。マツコは

「いやーよ、じゃんけんなんて。アタシいつだってパーしか出せないんだから。あんたはいいわよ、最近腕あげてちょ気も出せるんだからさあ~」

と文句を言いながらそれでも楽しそうだ。やがてそこに麻生分隊士と見張兵曹が上がってきて、トメキチとマツコはその二人にまとわりついて甘える。見張兵曹はトメキチを抱き上げ、マツコの頭をそっと撫でた。そして、見張兵曹は

「ハシビロもトメキチもいつもええ子じゃねえ。こげえにおとなしい犬や鳥はうちはほかに知らんわ。ねえ、分隊士?」

と麻生分隊士に同意を求める。分隊士も二匹を見ながら

「ほうじゃね、うちの家のそばに居った犬なんぞ人の顔を見るたびに吠えつきおってなあ、全くいつもうちは石を投げてやったわい」

と言って笑った。トメキチは「い、石!?」とびっくりして分隊士の顔を見つめるしマツコは羽を下方向に広げて「あんた、あんまり麻生に反抗しない方がいいわよ。石投げられて殺されるから」と震える。

そんな二匹を眺めて麻生分隊士は

「そげえな顔せんでも、うちはお前たちに石なんぞ投げんけえ安心せえ。お前たちみとうなええもんに石投げたら、罰が当たるわい」

と言って笑った。ほっとしたマツコとトメキチは、そういえばさっき副長に『後で私の部屋に来てね。いいものあげるから』と言われていたので下に降りてゆく。

その後ろ姿を見た麻生分隊士、やおらオトメチャンを抱きしめてその唇を奪ったのだった・・・。

 

マツコとトメキチは副長の部屋を訪ねて、おいしいお菓子をもらった。マツコはせんべいを砕いてもらってそれをくちばしいっぱいに頬張って副長に大笑いされトメキチはせんべいを前足で持って食べて副長は

「ほう、トメキチはせんべいを持って食べるんだねえ。大したもんだねえ」

と感心した。そして二人はお茶を飲ましてもらい副長の部屋を辞した。副長の部屋を出た後、マツコは「あたしはちょっと行くところがあるから」と言ってトメキチと別れた。トメキチはそのまま今度は艦長室へ。

 

マツコはそっと、長官室に向かった。そこは普段使われていない。でもかぎが掛かっていないを知っているマツコは、くちばしでそっとドアノブをくわえ、舌を使ってノブを固定するとそっと回した。カチ、とかすかな音がしてドアは開いた。

マツコはちょっと周囲を確かめるとさっと部屋の中にその身を入れた。そしてまたそっとドアを閉める。そしてマツコは部屋の中にあるべつのドアを開き、さらに奥の部屋に。そしてまたそこの部屋の中のドアを開き<長官寝室>に入った。そしてそこのチェストを開いた。

 

と。

マツコの金色の目が大きく見開かれた。そしてそのくちばしも大きく開かれ、狼狽したような声が漏れた。

「な、ない!何処行っちゃったのよ!」

マツコはあわてて長官寝室を飛び出して行った。そしてマツコは艦内中を――それこそ上から下まで――駆け巡って「ない、ないないない・・・いったいどこに行っちゃったのよう~」と叫んで走り回ったのだった。

 

さてそんなことがあって数日あとの巡検のすんだあと。

「なあ、最近夜なかに変な音せんか?」

兵員居住区で一人の一等水兵嬢が仲間にささやいた。ささやかれた水兵嬢は「へ?音てどがいなね?」と尋ね返した。一等水兵の犬山は

「ここ数日じゃが、うちが夜中厠に起きたらなあ、この先の廊下の方でぼさぼさ、言うてなんやら毛布を振るうみとうな音がしたんじゃ。一体だれがこげえな夜なかに?思うて音の方を見たんじゃがなんも見えんのじゃわ」

と言って首をかしげた。

「ほうね、ほりゃあ妙じゃのう」と猫田一水も首をかしげる。それを聞いていた雉川一水は笑いながら、

「それは寝ぼけとったんやな。犬山、貴様寝ぼけよったんや。そやけん別の音がみょ―なもんに聞こえたんと違うか」

と言って寝床に入りなおして向こうを向いて眠りに入る。犬山一水は「寝ぼけ・・寝ぼけとったんかのう、うちは。しかし」と考え込むが猫田一水に

「犬山よ、貴様最近睡眠不足と違うか?ほいじゃけえ、妙な音を聞いたなんかいうんじゃ。明日の当直までよう眠っとかんと、体に障るで」

と諭され素直に寝床に入る。

 

さて兵員居住区でそんな話をしている最中のこと。

艦長は自室をそっと出て副長の部屋のドアをそっとノックし「梨賀だ」と言った。なかから「はい」と野村副長の声がしてドアが内側から開かれた。副長は、艦長の顔を見ると何かほっとしたような微笑みを浮かべてドアを大きく開いて

「艦長、どうぞ」

と梨賀艦長を招じ入れた。艦長は「すまんね、貴重な休憩時間を邪魔してしまって」といいながら部屋に入る、背後で副長がドアを閉めた。艦長はドアに向き直ると鍵を締めた。副長はそれを見て少し緊張の表情をしたが、艦長をデスクの前に導いて椅子に座らせた。副長は書類を差し出して、

「艦長、巡検異状なしでした。明日は午前中はいつもの通り。午後は対空戦闘訓練を行います・・・」

と巡検の報告と明日の予定を伝えた。梨賀艦長はおもむろにうなずいてから

「副長・・・いや。ツッチー。ツッチーはもう風呂に入ったかい」

と聞いた。副長は「いえ、私はまだ」というと艦長は椅子から立ち上がり、いきなり副長を抱きしめると「じゃあ、いっしょに入ろうじゃないか。もう、風呂は湯が張ってあるんでしょう」

と言った。副長は艦長の胸の中で少しあわてたように

「え、艦長と?は、はい。湯は従兵は張ってくれてありますから・・・あの、艦長本当に?」

と答える。その彼女を愛おしげに見つめて艦長は抱きしめた腕を緩め、副長の防暑服のボタンをはずす。そして「本当だよツッチー。こんなこと冗談でなんか言いやしませんって」というとすっかり裸にした副長を抱き上げて艦長は浴室へ。

浴室のドアが閉まり・・・中から何やらなまめかしい声が漏れだしてくる。

 

二人は風呂を使い、そのあと副長のベッドで戯れた後艦長は名残惜しげに副長の部屋を出る。もう寝まきの二人はドアの前で「では・・・また明日」とあいさつを交わした。

その時、二人の耳に何やらボサッ、ボサッとまるで毛布でも振るうような音が聞こえて来た。副長があたりを見回して

「なんでしょう艦長あの音は?誰がこんな夜中に毛布を振ってるんでしょうか」

と言った。艦長もあたりを見たがそれらしき人影も、否、人の気配すらない。艦長は笑って、

「もしかしたら森上が何やらしてるのかもしれないよ。あいつのことだ、また煙草の灰を毛布に落として振りおとしてるんじゃないかねえ」

といい、

「いや笑い事じゃない。火事にでもなったら大ごとだ・・・ちょっと注意してこよう」

というと副長を促して参謀長の部屋のドアをどんどんと叩いた。しばらくして眠たげな、怒ったような参謀長がドアを開いて「なんだ一体!」と唸った。梨賀艦長は「森上、また煙草の灰を毛布に落としたんじゃないのか?火事になるとこまる、寝たばこはやめんかね?」と注意した。

すると参謀長は今度はしっかり目を開けて

「何言ってんだよ。俺は寝たばこはしないよ、そんな危ないこと誰がするかね。灰なんか落とさないし、第一灰は何時も従兵がきれいにして帰るんだからな。落ちるわけないじゃん」

と反論した。艦長は「・・・あ、そう」と少し拍子抜けしたようだ。その背後の副長も同じような顔つき。その二人を眺めた参謀長、ニタリとすると

「梨賀・・・今夜はツッチーの部屋にお泊りか?」

といい、艦長も副長も真っ赤になって「そんなわけないでしょう!じゃ、お休み!」というとあわててそこを立ち去ったのだった。

そしてその言葉に誘発された艦長、副長の部屋にそのまま入って行ってしまったのだった。そして二人は毛布を振るったような音のことはすっかり念頭から失せて、二人きりでさらに親交を深めたのだった。

 

そんなころ、『大和』の昼戦艦橋ではマツコがトメキチのお尻に頭を乗せて

(困ったわねえ・・・どこ行っちゃったんだろう、アレ。誰かがもってっちゃったとしたら・・・ああ、困ったわあ)

と悩みつつ夢の世界に運ばれようとしていた――

      (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

 

久々のマツコ登場です!

そしてまた<毛布をぼさぼさと振るうような音>とは?謎が謎を呼ぶ女だらけの軍艦大和です。次回をお楽しみに!


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ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
お返事遅くなってごめんなさいね。

マツコ・・・ハッシーも御本家も私は好きですね~なんかそそられます^^。

ポーターラビット、かわいいですよね~。このキャラクターのマグカップと小さなお皿がたからもののひとつです。


極限状態、特に命の危機が顕著になる戦場ではそういうことあるでしょうね。
人間そういう場面になると子孫を残すという方に本能が向くんでしょうか・・・

本当に「人間」「人体」って不思議ですよね…。

こんばんは☆彡

マツコ好きだあww
あっちのほうもマツコも(笑)

ところでテンプレート変えられたのですね^^
これすごく見やすくていいです!

そしてピーターラビットというのがまたw
このテンプレは見たことがないので、すごく新鮮です☆彡

極限状態になると、兵士は勃起する事もあると、海外のテレビで見た事があります。
これは種に対する本能らしいです。
人体って不思議ですよね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます^^。
そう、若いころって直球勝負!で、Hな表現も度ストレートな方が良かったりしますがある程度人生経験を積むと「紗をかけたような」ほうがそそられることが多くなりますね^^。

私も時折思うんですよね・・・命を張った世界ですからもしかしたら・・・あったのではないかなあと。
実際従兵という役職にあった兵隊さんが(わりと可愛い系の男性があてられたらしいですよ!)、背後から抱き締められてキスされた、という話も残っています(^_^;)。
人は極限状態になると肌のぬくもりが恋しくなるのかもしれませんね。
そしてそれがにいさまのおっしゃるように「心を欲しがり」心まで合わせたくなるのかもしれませんね。

あの暑かった東京も朝夕は涼しさを感じるようになりました。
そちらは台風接近でちょっと心配ですね・・・くれぐれもご注意願いますね。

いつもご心配をありがとうございます、にいさまも御身大切になさってくださいね^^。

NoTitle

秘め事が艶めかしくて心臓がバクバクしております。
この年になるとストレートな描写よりも紗をかけたような世界の方に心ときめくものです。さすがに見張り員さん。ツボを心得ていますね。

でもふと思うのですが、本当の戦争中でもこのような世界があったのだろうかと。
いよいよ明日の命も分からない時に人間は何を求めるのでしょうか。もしかしたら人の肌の温みを通して心を欲しがるのかもしれないなぁなんて思ったりもしています。

少しだけ秋めいてきましたね。
体調管理を万全にしてお過ごし下さい。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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