「女だらけの戦艦大和」・トレーラーのお化け屋敷1

常夏のトレーラー、水島に上陸して行った『大和』の乗組員の一人が病気になった――

 

その人は、高角砲の野田兵曹。兵曹は人づてに「急に腹が痛くなって帰れなくなりました。誰か迎えに来てほしい」と言ってよこした。その知らせを受け取った高角砲の生方中尉は、

「腹が痛い・・動けないとなるともしかすると虫垂炎など悪いものかもしれないな。仕方がない、軍医長にご相談して誰か衛生科員を同行してあいつを連れ帰ろう」

といい、高射長の河崎中佐の了解を取り付けると日野原軍医長を訪ねた。軍医長は私室で医学書を読んでいたが「おう、生方中尉。どうしたのかな」と部屋に招じ入れてくれた。そこで生方中尉がこれこれこうだ、と話をすると日野原軍医長は読みかけの医学書をぱたんと閉じ、デスクの前から立ち上がった。

「そういうことなら、名淵大尉に一緒に行って貰おうか。彼女は緊急手術もできるやり手だよ。一応手術道具を一式持たせるからお願いな」

そういうと日野原軍医長は医務室に歩きだす。そのあとを生方中尉もくっついていきながら「では軍医長。他に助手も数名必要ですね」というと軍医長は振り向いて、

「いや?助手なんかいらないよ。彼女はやり手だからねえ、まあ虫垂炎くらいなら一人で出来るよ。大丈夫大丈夫。ハハハハ!」

と高笑いして再び歩き出す。生方中尉は(本当かいな。一人で手術を出来るなんか、ハッタリじゃないか?)と不安に思っている。医務室に行くとちょうど名淵大尉が数名の衛生兵曹を相手に手術の講義をしているところだった。名淵大尉他は日野原軍医長に気がつくと一斉に敬礼して迎えた。それに返礼しつつ日野原軍医長は

「名淵大尉、面倒かけてすまないがこの生方中尉と一緒に上陸して、高角砲の何とかいう下士官を連れ帰ってほしいんだ。なんでも腹が痛くて帰れんのだそうだ。もしかしたら虫垂炎かもしれん・・・診察して緊急を要するようならその場で手術をしてほしいんだ。頼めるかね?」

と名淵大尉に話した。と、名淵大尉の顔が至福の輝きを帯びたのを生方中尉はしっかり見た。名淵大尉は<緊急><手術>の言葉にものすごく反応したのだ。

「き、緊急手術ですかあ!行く、行きますとも軍医長―。ぜひ私に行かせてください願いますっ!」

名淵大尉は日野原軍医長の前にひれ伏さんばかりにして一気に言った。軍医長はうんうんとうなずいて、

「それでこそ名淵大尉だね。じゃあ、早いとこ頼むよ。もうそろそろ陽が落ちてしまうからね」

というと名淵大尉はそばにいる衛生兵曹たちを促して手術道具をそろえ始めた。名淵大尉は生方中尉を見返ると

「ちょっとだけ待っててね、すぐ用意するからさあ~」

ととても弾んだ声で言って、生方中尉は思わず笑ってしまったのだった。

 

さて、二人は副長の許可を得るとランチを仕立てて水島上陸場へと急いだ。生方中尉は日が傾いた水平線を見つめて、

「全く野田の野郎、もっと早く言ってくればいいものを。夜になってから行く我々の身にもなれって言うんだ」

とブツブツ文句を言った。その中尉を楽しげに見ながら名淵大尉は「いいじゃあないか。もしかしたらずっと前から連絡したくても出来ない状態だったのかもしれないしね。ともかく早いとこ診察して手術をしようと思うよ、私は」と言って肩を揺すった。生方中尉は(この大尉は手術が好きなタイプなんだな。いっそ野田も頭の中身も手術してもらったらずっときれい好きにならんかなあ)と思って小さくため息をついた。野田兵曹の<汚いチェスト>はもう、艦の内外に知れ渡っているほどで河崎中佐も手を焼き、副長も何度も「きれいにして!『大和』の名折れだわもう!」と怒り狂っているが肝心の野田兵曹に片付ける気が全くないという状態である。

ともあれ、ランチはすっかり暗くなった水島上陸場に着いた・・・

 

「で。その野田兵曹とやらは何処にいるんだね?」

ランチから降りながら名淵大尉は生方中尉に尋ねた。生方中尉は、手術道具の箱を抱えておりながら

「はい、水島の繁華街を抜けてしばらく行ったところにある古い民家らしいです。何でもあいつ、その民家を借りてるらしいです」

と言った。名淵大尉は「へ?民家を借りてる?」とちょっとびっくりしたような顔をして生方中尉を見た。中尉は箱を抱え直してから「はい。あいつなんでもここで商売していた日本人家族と仲良くなったらしいんですがその家族が内地に帰るという時、その家族の家を託されたらしいんです。またいずれその家族はここに戻ってくるからそれまで上陸の時にその家を使ってほしいと」と言った。名淵大尉はふうーん、とうなずいて、

「そうか。確かに家はひとが住まなくなると荒れるからね、道理だね」

と言って「さあ、その民家とやらに急ごうじゃないか」と生方中尉を励ました。生方中尉ははい、と返事をすると歩きだす・・・

 

その民家は繁華街をはるかにあとにした、他に家もない暗い場所にあった。かすかに星明かりに浮かぶ日本家屋の民家はなにか薄気味悪ささえ感じさせる。生方中尉は箱を抱え直してごくり、と唾を呑んだ。名淵大尉が暗闇の中で中尉を見て、

「ここかなあ。ね?生方さん」

と言った。生方中尉は「はい。ここですね・・・しかし、明かりも何もついていないですね。真っ暗で・・こんな中に野田の奴いるのかなあ」と最後は独り言のように言った。名淵大尉は「懐中電灯を持ってくるべきだったな。まさか明かりなしとは思わなかった。しくじったね」と笑って、「じゃあ、行こうか」と日本家屋の民家の玄関の引き戸に手をかけた。

戸は、簡単にガラガラと音を立てて開いた。中はもちろん真っ暗である。生方中尉は「おい、だれか居らんか。野田、野田兵曹居らんか」と言って先に立って家の中に入る。真っ暗で足元に何があるかわからないから、二人とも靴は履いたままである。名淵大尉は「あとできちんと掃除したらいいよね。なんせ明かりがつかなきゃ危なくってねえ。我々ケガするわけにゃいかんからね。ハハハ!」と何か嬉しそうな調子で生方中尉のあとを歩く。

長い廊下を、すり足であるく二人。突然生方中尉が「うわっ!」と叫んで名淵大尉が「あーん、どうしたね?」と後ろから声をかける。生方中尉は胸の鼓動の激しさを抑えつつ、

「すみません・・・蜘蛛の巣が顔にくっつきました」

と言った。名淵大尉は「ほう、蜘蛛の巣か。そんなものが張るなんて、掃除をしてないのかねえ?」と少しあきれたように言う。確かに、他人の家を託されていながら掃除もしないとは・・・

「しかし名淵大尉。あの野田兵曹は掃除をせんことで有名ですからね。蜘蛛の巣くらいは当たり前かもしれませんね」

生方中尉は、闇を透かして行く手を見ながら言った。名淵大尉は自分の背後をちらっと振り返りながら「そうか。しかしまあ、その家族という連中も良くそんな人に大事な家を任せたもんだねえ」と言ってぐすっと笑った。

すり足で家の中を歩き回った二人だが、どうも暗さに負けて自分たちが何処をどう歩いているかさえわかりかねる。生方中尉はもう一度、

「野田、野田兵曹。どこにいるんだー」

と怒鳴った。その後ろで、名淵大尉が何かにけっつまずいたような音がした。大尉は「・・・痛たた・・・なんだかよく見ないといろんなものが置いてあるみたいで危ないよ生方さん」と注意した。中尉は、

「わかりました。名淵大尉、けがはしなかったですか?お気をつけて下さいね」

と言ってさらに闇を透かすが何も見えない。

―――いや、何も見えないというのは正確ではないかもしれない。

生方中尉が眼をこらして見つめる先には、何か・・・えたいのしれないものが待ち構えているのだった。

 

長い廊下を手探りで右に曲がった。

何やら妙なにおいがして来て生方中尉は二種軍装の袖で鼻を覆った。名淵大尉も「なんだか臭うねえ。妙なにおいがするよ。いやなにおいだね」と言って真っ暗な周囲を見つめる。

眼が慣れるということのない暗闇、手探りで進む。生方中尉は抱えた手術道具箱に気をつけつつ壁にそっと手のひらを当てつつ進む。

と、生方中尉の靴のつま先が何かにゴトッと当たった。

その瞬間。

ザザザザーッ・・・

と何か、よくわからないがまるで何かをこぼしたかぶちまけたような音がして二人の士官はさすがにぎょっとして立ちすくんだ。

「い、今のは一体何でしょう。名淵大尉」

生方中尉の声が震えを帯びてその場に響いた。名淵大尉は生方中尉の声を頼りにその肩に手を置いた。そして

「皆目わからない。でも何か・・生き物がいるような気配がするよ」

と言った。生き物?生方中尉は背筋がぞっとするのを感じた。生き物って、一体何だ・・・?

その時さらに――!

 

      (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

夏真っ盛りと言えば、そう!階段ではない、怪談ですね~~。

野田兵曹はいったいどうしてしまったのでしょうか。そして二人の士官の運命やいかに??次回緊迫の事態があなたにも迫る・・・かも!?

ご期待下さい。

蜘蛛の巣。好きではない…(-_-;)


蜘蛛の巣
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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
人間暗闇というものは本当に怖いものですよね。今の日本、いや世界は夜でも明るすぎますね。だから闇の神の怖さを知らない連中が跳梁跋扈して悪いことをするんじゃないかと思うことしばしばです。

この話は、「とくだね」のお化け屋敷の特集を見ていて思いつきました。さあ、どうなることでしょう・・ワクワク。

今日の暑さはまさに異常でした。外に出ると肌が痛いんですもの。直接日差しが当たってないのに、ですからね~(-_-;)なんだか怖くなりました。

山梨行きは、実家の両親とともに参ります。父があんな具合ですからどうなるかちょっと…ですが環境が変わればまた違うかな~と淡い期待を持っております。

にいさまも御身大切になさってくださいね!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
まあ、野田ですから・・・(爆)!

携帯変えたんですね!今の携帯はいろんな機能、顔文字も含めていろいろあって楽しいですね。でも私はなかなか使いこなせないのが苦痛・・(-_-;)。どんな携帯になさったのでしょう、今度教えてね~♪

戦争を美化してはいけません。でも国を護るというのは一番大事なことですよね。国がなければ我々の生活なんか無いわけだから・・・
その心意気はずっと持って行きたいと私も思います!

体調は今のところまずまず、何故か熱中症にもならず?頑張っています。いつもご心配をありがとうございます。オスカーさんも御身大切になさってくださいね♪

NoTitle

真っ暗というのは本当に恐ろしいですね。これから何が起こるのでしょうか。きっとあらぬ方向へと進んでいくのは間違いなかろうと楽しみにしています。

今日は格段と暑かったですね。お体は大丈夫ですか。
ご実家には行かれないのですか。様々に無理をしないようにして下さいね。溜め込むのもご法度ですよ。

こんにちは。お化け屋敷かゴミ屋敷か、あのチェストの一件を思い返すと((((;゜Д゜)))←ケータイを変えたら顔文字がふえました(笑) お身体の調子はいかがですか?ムリなさらないで下さいね。戦争を美化するつもりはないけれど、大事な人を国を護ろうとする気概だけは持っていきたいですね。そのためにはたくさん学ばなくては!よろしくご指導下さいませ!
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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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