2017-10

「女だらけの戦艦大和」・大相撲トレーラー場所6<解決編> - 2013.08.03 Sat

とうとう、『大和』『武蔵』両横綱の登場と相成った――

そこに遅れてやってきた古村水雷司令。梨賀艦長の後ろにそっと身を沈める。

 

『大和』の芽多保山こと浜口大尉、『武蔵』の薄毛山こと高見中尉はそれぞれの場所から土俵に上がる。それを見ていた見張兵曹が誰に言うともなく『大きいですねえ、お二人とも。山みとうですねえ」とつぶやいた。すると彼女の右隣に陣取っていた剣道の主将・柳生大尉が、土俵上から目を離さないままで

「ああ。本当に山のようだな」

とこれも誰に言うともなく応える。そのくらい、この二人の力士は大きい。浜口大尉は全体にまんべんなく大きく、高見中尉は特に上半身がでかく下半身は比べて細めである。それを見ていた森上参謀長が、

薄毛山は下半身が弱そうだな。上手いこと足をかければ勝てるかもしれんぞ」

とひとりごちる。その横で「しかし・・・」と野村副長がこれも独り言のように言う、「そううまく行きますかねえ。上手くゆくよう祈りますが」。

古村司令はふーむと唸って力士たちを見つめ、「そうだな、勝負は時の運というしなあ。いずれにしても楽観はいかんぞ」とつぶやく。

土俵上、二人の力士は塩を捲いて土俵を清める。薄毛山に『武蔵』の力士から声がかかる、

「高見中尉、遠慮なしにやっておしまいなさい!あんな果たし状渡されて黙ってなんかいられません、ギタギタにしてやってください!

と。それを聞きつけた梨賀艦長は「果たし状?果たし状って何のこと??」とハッとしたように言って猪田艦長の方を見たが猪田艦長は全く気にしていないで、

「ほら加東副長。すごいねえ二人とも、なんておおきんだろうか。いいねえ、大きいことはいいことだよ、ね!副長」

と傍らの副長に話しかけている。梨賀艦長は、まあいいかと口の中で言って土俵に目をやった。

二人の力士は土俵で、四股を踏んでいる。その浜口大尉の足の間を心配そうにのぞきこむ野村副長に、森上参謀長は「副長はいったいどこを見てるんだよ?変な奴だな」と言って笑う。すると副長は軍帽の下の綺麗な顔を軽くゆがめ、

「浜口大尉はまわしをしっかり締めてない事が多いんですよ?こないだ艦橋で四股踏んだ時見ませんでした?緩いまわしから股の間が丸見えだったのを。私は許せませんよ、ああいうの。だからさっき取り組みが始まる前確認してきたんです。だって、いやでしょう?『大和』の横綱が股の間丸見えにして相撲したなんて。『大和』の名折れですからねえ、もう全く・・・」

と文句を垂れた。森上参謀長は「そうか・・そうだね全くだよ野村さん」というと土俵に目をやった。

行司の花山掌航海長が「時間です!」と叫んだ。満場に緊張が走る。芽多保山薄毛山はもう一度土俵に塩をまくとまわしをボンボンと叩いて気合いを入れ始めた。古村司令が「おお、いい音を出すね」と感心する。

「浜口機関長・・・」

松本兵曹長が両手を組んでまるで教会かどこかで祈るような格好をして土俵上を見つめる。他の『大和』の力士たちもかたずをのんで見守っている。

そして、両力士が仕切り線に手をついて・・・

激しい激突が始まったのだった。

二人は大きな音を立ててその肉体をぶつかりあわせ、がっぷり四つに組んだ。しかしこれこそ互角な力の為か、微動だにしない。二人の顔だけが真っ赤になってゆく。

「はっけよーい!」

と行司の花山掌航海長が水を向けるがなかなか二人は動かない、動けない。薄毛山が一瞬、仕掛けにかかるが芽多保山に抑えられる。満場、大歓声が飛び交う中両横綱はなかなか動かない、動けない。

そんな中芽多保山の浜口大尉が「うおおっ!」と叫んで薄毛山を寄り倒そうとした。が、薄毛山もそうはさせじと一気に押してきた。わああ、と『大和』『武蔵』の皆が大声を上げた。

見張兵曹が「浜口大尉、負けんでつかあさい!」と叫ぶ。すると浜口大尉の芽多保山は土俵の縁――剣が峰――まで押されていたものの今度は一気に薄毛山を巻き返しにかかった。薄毛山は反対側の土俵際まで押されていった。

「おお!どっちも頑張れ」

皆はもう、夢中で声援を送る。二人の力士は、顔をさらに真っ赤にして息はハアハアと激しくつき、それでも互いのまわしからは手を離さない。動きが止まり、時折どちらかが相手を投げようとしかけるが、全く動きのないまま時間だけが経って行く・・・

「どうしたんじゃ、浜口機関長。全く動かんぞ。『武蔵』の中尉もちいとも動かん・・・どうしたことじゃろう?」

麻生少尉が腕を組んだまま土俵を見つめて唸った。その横で、柔道の主将の山下大尉が

「うむ。お互い間合いを図っているんだろうが、どうにもこうにもあの二人は力の具合が全く同じと見た。これは、どっちにとってもえらい取り組みだなあ」

と麻生少尉を見て言った。麻生少尉もうなずいてまた土俵に視線を戻す。

動きのない事5分が過ぎ、行司の花山掌航海長は「水入り」を宣言。『大和』艦長・副長、『武蔵』艦長・副長がそれぞれの足の位置などを行司とともに確認した後、二人は一旦離れた。

花山掌航海長は二人の疲労の様子を見て、「十分間休憩します」といい休憩に入った。

浜口大尉は息を荒げたまま土俵下に座り、松本兵曹長から大きなコップに水をもらった。松本兵曹長は掛ける言葉もなく大尉のそばに控えている。

反対側では『武蔵』の高見中尉も同じようにコップの水をあおって黙りこんで座るだけ。

周囲だけが盛り上がっている。

松岡中尉はマツコとトメキチに、

「いいですか君たち。力士は集中力が大事なんだよ。だからあまり周りで騒がんようにしないとね。わかったかい?」

と説教している。マツコとトメキチは浜口大尉のそばに行こうとしていた腰を、その言葉で下した。「そうね、マツコサン。その通りだと思うわ僕も」トメキチはそう言って、今度は猪田艦長の方を見た。今日はナナが来ていないようだ。ちょっとがっかりしてトメキチは視線をマツコに戻した。

マツコはその金色の目を浜口大尉に注いでいたがやがてくちばしをガタガタ言わせて

「この戦いは・・・決着つかないわよ。あたしはそうにらんだわね。あの二人強すぎる。だからどうにもならないで決着つかないわよ。あたしは、そう思います」

と言った。トメキチはマツコの顔をじっと見つめて、「おばさん、もしかして予言者なの?」とつぶやいた。そのトメキチにマツコは

「また!あたしはマ・ツ・コでしょっ!・・・なによヨゲンシャって。あたしはマツコよ、もう!」

と怒っている。そのマツコに「おおーい、鳥くん~、犬くーん」と古村司令が手を振ってマツコとトメキチは「あ、古村さんだ―」とそちらへ走ってゆく。

10分がたち、花山掌航海長の行司は「取り組み再開」を宣言し芽多保山薄毛山は水入り前の状態に戻した。そして行司と双方の艦長・副長の確認の元

「はっけよい!」

となり、再度取り組みが開始された。

10分の休憩は、どちらにも活気を取り戻させたようで今度は激しい張り手の応酬。その激しさには、さすがのマツコとトメキチも「・・・怖いわ、怖いよう」と真っ青になって古村司令の陰に隠れる一幕も。しばらくの間、張り手をしあっていた二人もまたもがっぷり組み合うと互いに投げよう、払おう、寄り切ろう・・・とし、またも長い時間がたとうとしている。二人の激しい息遣いは末席に座を占めるものにさえ手に取るように聞こえて来た。

「がんばれ芽多保山―!」

「しっかり、薄毛山!

見物客から悲鳴に似た歓声が起こった。正直もう、皆は見ていられなかった。二人の力士は精根尽き果てている。一体、取り組み始めてからどれほどの時間が経ったのか、なんだか夢を見ているようで時間の観念さえなくなってきている。

「よーい、はっけよーい!」

花山掌航海長は軍配をかざし、声を励まして二人の意気をあげようとした。見張兵曹は食い入るように二人を見つめ、胸の前でしっかり両手を組んでいる。

『大和』『武蔵』双方の相撲部員たちも、もう声もなく見つめるだけである。

「よーい、はっけよーい!」

再び行司の声が響き、同時に芽多保山 薄毛山がそれぞれの上手をつかんだ。皆があっと声を上げた時芽多保山薄毛山を寄り切ろうとした。

「ギャーーー!」

皆が一斉に叫んだその時、二人(・・)()身体(・・)()土俵に落ちた。――しかも全く同時に。

花山掌航海長の行司が大きな声で、

「同時に土に着いた、引きわけ、引き分けだああ!」

と叫んだ。

すると見物客から「ギャーーッ!」「うわ――ッ!」と大声が上がり・・・座布団ならぬ<艦内帽>がたくさん宙を乱舞した。

歓声に邪魔されながらそれぞれの艦長たちも「異議なし!」と大声で叫んだ。土俵上の二人はその場に倒れたまま動かない。すぐそれを見て医務科の日野原軍医長が数名の衛生兵たちと土俵に駆けあがり両力士の手当てを始める。歓声は止みそうにない。

満場騒然とする中、日野原軍医長の手当ては続く。

 

それから小一時間ののち、『大和』『武蔵』の相撲部員の総員が土俵上に整列した。主催者側として梨賀艦長が表彰をする。

「・・・今回の相撲大会は両艦の親善を深めるのが目的であり、勝敗よりもいかに正々堂々と戦ったかを競うものであります。お互いよく健闘しました。大変素晴らしいシーマンシップだと思う、ゆえに今回両方の相撲部員たちに賞金を与えます。良くやりました、この調子でお互い仲良くし、敵撃滅に向かってまい進しようではないか!」

すると周囲から「わーっ!」と称賛の声が上がった。皆手を叩き、「すばらしい」とか「さすがだ、艦長」とか「そう来なきゃ!」などと喚き散らす。

艦長が下がった後、写真班の林家へゑ飛行兵曹と篠山きし少尉による写真撮影。そのさいインタビューされた浜口大尉は

「いやあ、高見中尉は本当に強い。私はもう正直力が続かないと思った。あれは本当に同時だったのだろうか?高見中尉の勝ちではないのだろうか」

と言って首をひねり、高見中尉は

「いや、浜口大尉の方が力量はずっと上でおられる。あれは浜口大尉の勝ちではないかと私は思います。しかしよい経験になりました。またいつかこうして試合をしたいと思います。その日まで、錬磨を怠らないで私はもっと強くなっていたいと思います」

と言った。どちらもさわやかな試合後の談話となった。

 

さて。

その日から二日ほど後、野村副長は松岡中尉のポケットから落ちた紙を拾ってみれば、なんとそれは『武蔵』に宛てて出した、果たし状の写しであった。

「なんだこれ!マツオカ貴様、『武蔵』に喧嘩売りに行ったのかてめえー!しかもこの文面だと私が一枚かんでるみたいじゃないかっ!」

副長は頭に血が上って絶叫、それをなだめる艦長は大ごとであったという。そして肝心の松岡中尉は

「ケンカですって。副長は間違ってらっしゃいますねえ、喧嘩なんて下品な。そんなこと私がなんで?喧嘩ではないですよ、決着をつけようって話ですからね」

としれっとして言い、副長は「同じことだあ!!」と怒髪天をついたという。だが『武蔵』猪田艦長は「果たし状?ああ、そんなこと言ってる連中もいたが、だからどうだというんだね?このところたるんだ我々にはちょうどいい刺激だったよ?」と意に介していないし、送られた『武蔵』相撲部も過ぎてしまえば「面白い趣向だったねえ。適当に頭に血が上って良かったんじゃない?」とこちらももうどうでもいいようだ。

 

ともあれ、相撲部員たちにはすがすがしい試合であったことには間違いなく今日も両艦では午後のひと時、相撲に励む部員たちの姿が――。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

長い話でしたがこれにて相撲のお話は終了です。

しかし、熱い中で相撲だの体操だのとやるのも一苦労ではなかったかなあ~と思うのでした。

 

さあ、明日は久々の靖国参拝だー!


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
まろにいさまもおなかに力が・・・!腹筋にご注意であります^^!

松岡の出した迷惑な果たし状もなんだか分からないうちに幕となってよかったです・・ホッ。艦は違えど同じ目的に向かって進む「女だらけの海軍」のみなですから禍根を残さないのが彼女たち流です^^。

今日は久しぶりに靖国参拝に行ってきました。
後ほど記事を書きますね!

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
腹筋が痛くならないといいんですが・・・w。
力と力の激突、他に含むところがないとすがすがしく終われますよね!

私も毎日精一杯激突してすがすがしく一日をおわりたいと思います(って一体何と激突するのだろう??・ww)!

いやはや暑いなか、目の前で熱戦が繰り広げられて思わず下腹に力が入りました。
マツオカの果し状も宙に浮いたような、なかなか気持ちの良い試合でしたね。

今日は靖國参拝でしょうか。ご英霊に様々を預けて再生して帰ってきて下さいね。

こんばんは。こちらも読みながらお腹にチカラが入ってしまいました(笑)正々堂々と力と力でぶつかり合うってこそ、得られる感動と清々しさですね。見張り員さまの毎日も清々しく晴れ晴れでありますように。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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