「女だらけの戦艦大和」・招かれざる大佐4

野村副長、藤村少尉そして見張兵曹の三人は微笑み合った。とそこに時ならぬ大声が響いてきたーー

 

 

「な、なんだ」と藤村少尉が振り向くと、向こうから血相変えた「虎乃威」の高飛車艦長がまなじりを決してこちらに走ってくるのだ。

「あの人、われわれに用事があるのか?」

と野村副長が周囲を見回した。がほかに誰もいない。ということは、「私たちに御用じゃ、言うことですね」と、見張兵曹が言った。

副長が

「ああ、そのようだが一体・・・」

と言いかけた時高飛車大佐は三人の前にふうふうと荒い息をついて立ちはだかった。

そして副長を指さすと

「なんだ貴様、その髪は。そんなに長くしていいと思っているのか?ええ?」

と、どすの利いた声で言った。副長は防暑服の体を正面に向けると相手をじっと見つめた。そして、

「私は海軍規定を守って伸ばし、かつ管理しております…あなたに文句を言われる覚えはありませんが」

と静かに言った。見張兵曹は少し体を震わしてこの状況を見守っている。

すると高飛車大佐はいきなり副長の服の襟をつかんだ。副長のつま先が床から少し離れた。ハッとする藤村少尉と見張兵曹をしり目に高飛車大佐は

「なんだとこいつ、貴様の階級はなんだ?…ふん、中佐か。中佐ずれが私のような大佐、艦長を務めるものに何をぬかすか!なら、仕置きだ。貴様らもよく見ておけ、階級が上の者に逆らうとこうなる」

というと副長を甲板に投げ出した。

副長はドン!と大きな音を立てて甲板上に転がった。藤村、見張が駆け寄った。副長は腰を打ったかその場に転がっていたがそっと起き上った。

と。

高飛車大佐は自分の服のポケットから大きなはさみを取り出した。それを妙な笑いでもって見つめた高飛車大佐は

「これで貴様のその髪、切ってやる」

といった。

三人の背中に冷たいものが走り・・・次の瞬間三人は「ぎゃーー!」とものすごい叫びをあげて走り出していた。

副長は藤村少尉と見張兵曹の手を左右に掴んで「いいか二人とも!この手を絶対離してはいけないよ」と叫んだ。藤村・見張は必死に「はいー!」と返事をする。

がその間にも「待てというのに、貴様ら軍法会議にかけて銃殺だ」という恐ろしい叫びが追いかけてくる。副長はもう必死で、「みな、下甲板に逃げるぞ」というと通称・艦長ハッチと呼ばれる下甲板へ通じるハッチを必死で開くと、オトメチャンと藤村少尉をそこに投げ込むようにしてそのあとに自分も続いた。

が、悪魔の形相の高飛車大佐は追ってくるーー。

 

その騒ぎを「大和」トップのトップからマツコとトメキチが見ていた。最初に発見したのはトメキチ、

「ね、マツコサン。あれ何をしてるのかなあ?あの人あの怖い大佐さんじゃない?後の三人は・・・」

というとマツコはその金色の目をしっかり見開いてはるか下の様子を見つめた。そしておもむろにその大きなくちばしを開くと

「野村に、ニワトリ。それにあの小娘ね。いったい何をしてるのかしら」

と言った次の瞬間マツコは大きな翼を思い切り広げると「ちょっとあんた、アレまずいわよ」と叫んで「あたしに乗りなさい」というとトメキチを乗せて宙に舞った。

マツコがその騒ぎの上空を舞うと顔を出したトメキチが「見てマツコサン、あの偉そうな人刃物を持ってるわよ」と叫ぶ。マツコが目を凝らすと下では高飛車大佐が何やら光るものを持って副長たちを追いかけまわしている。そして副長たちは高飛車から脱兎のごとく逃れ、甲板上にあるハッチのふたを持ち上げその下へと消えていった。

「マツコサン。どうしよう」

トメキチの震える声にマツコはちょっと振り向くと後はしっかり正面を向いて「どうしようもこうしようも世話になってる副長たちの一大事よ。斬り込みに行くわよ!」というと一気に甲板に舞い降りるーー

さあ、下甲板では必死に逃げる野村副長・藤村少尉そして見張兵曹。それをはさみを振りかざして追う高飛車大佐の追いかけっこが繰り広げられている。途中行き会う兵隊嬢や士官嬢たちは「うわあああ!」と恐怖の叫びをあげてこれも逃げ惑う。

高飛車大佐は兵たちを「邪魔だっ、どけっ」とド突き倒しながら廊下を走り副長たちを追う。

その騒ぎをガンルームで聞きつけた松岡中尉が、ラケットを担いで見に来たが副長たち三人が血相を変えて逃げまくりそのあとを高飛車大佐がはさみを振りかざして追うのを見るなり、

「高飛車大佐―、そういう熱くなり方はいけませんねえ。・・・よし、私が「大和」での正しい過ごし方を教えてあげましょう」

というとラケットを担ぎ直し、高飛車大佐の後を追い始めた。

そのころになると『大和』全艦で高飛車大佐が副長たちを追いかけているという話が駆け巡っている。高飛車大佐が走り去った後、手近の部屋の伝声管を使って、

「おおごとじゃ、あの大佐が副長を殺そうとしとってじゃ」

と叫んだ兵がいて、それを昼戦艦橋で聞いた梨賀艦長と森上参謀長はあわてて下甲板へすっ飛んでゆく。その間にも、「副長を救え」と浜口機関長や松本兵曹長、それに椿於二矢子兵曹、さらに内務科の岩井しん特務少尉などが下から駆け上がってきた。自分たちの敬愛する副長の一大事に黙っておれはしない。

副長を救えの掛け声で集まってきた兵たちの数はだんだん増しつつある。

 

副長たち三人は、下甲板の前部に追い詰められている。

いよいよ先がなくなり、高飛車大佐は残忍な笑いを浮かべるとまた一歩前に出た。副長は両手を広げて藤村少尉と見張兵曹をかばいながらごくりと喉を鳴らした。

高飛車大佐の持ったはさみがきらりと光り、見張兵曹は副長の背中にしがみついた。藤村少尉が小声で「副長・・・何とか逃げられませんか。ここは私と見張兵曹でなんとかしますから」という。オトメチャンも覚悟を決めて「副長、あの人から何とか逃げてつかあさい」という。

しかし副長は、前を向いたままで首を横に振って、

「いや、君たちに怪我はさせられない。そして私も逃げない。髪も切らせないよ」

といった。副長の、一つに束ねた髪が背中で波打つ。その髪の先まで副長の決意のようなものがみなぎっているのを、藤村少尉も見張兵曹も気が付いている。

高飛車大佐がはさみを持ったままで副長の前に歩み寄り、その襟をつかんでそして乱暴にゆすった。副長の艦内帽が床に落ちた。高飛車大佐は副長の縛った髪をつかむと

「この中佐野郎、生意気だ。こんな髪、切ってやるからそう思え。大体が生意気だ、何が『大和』だ、弩級戦艦だ。いい気になるな」

というとはさみを副長の髪にあてがった。ああ!と見張兵曹が目をつぶってしまったとき。

「はいー、そこまでですよ。大佐ドノ」

という大きな声がし、高飛車大佐が後ろを振り向くとそこにはーー

 

松岡中尉、浜口大尉、松本機関長や岩井少尉ほか大勢の下士官兵嬢や士官嬢たちが高飛車大佐をにらみつけて立っているではないか。その迫力たるやまるで仁王様がいくつもたっているようなすさまじさ。

そしてその真ん中から梨賀艦長と森上参謀長が兵たちをかき分けて出てきた。今まで見たことがないような険しい顔つきで高飛車大佐をにらみつけている。

「高飛車。その手を離せ、副長から手を放すんだ」

梨賀艦長が大音声を発した。森上参謀長が「離せ、もういい加減にせんか」という。居並ぶ皆の視線が厳しさを増す。高飛車大佐は精神的に追い詰められ始めた。

「さあ!」

と梨賀艦長が鋭く言ったその時、高飛車大佐は「やかましい!」というとはさみを握り直した。副長の後ろにいたオトメチャンが「いけん!」と叫ぶとそのはさみの開いたところに自分のこぶしをあてがった。

「危ない、見張兵曹!」

と大声が飛んだ、それと同時に何かが艦長の後ろからブンブンと音を立てて飛んできた。

――ゴツン!

と鈍い音がしたと思った次の瞬間。

高飛車大佐はその場に昏倒していた。そしてその横に音を立てて転がったのは、松岡修子中尉の大事な大事なラケットであった。大佐の手からゴトンと音を立ててはさみが床に落ちた。

とたんに、皆が一斉にわっと声を上げて副長たちのもとに駆け寄った。副長が急に力が抜けたようになって床に膝をついてしまった。艦長が駆け寄って抱き起した。

松本兵曹長が「トメ、手ぇ平気か?」と言ってオトメチャンの手を見た。指の背にはさみの刃で出来た傷ができていて少し血が出ている。松本兵曹長は腰の手拭いを取るとそれを裂き、オトメチャンの傷に巻きつけた。すぐに手拭いに血がにじんだ。

そこに兵たちをかき分け麻生分隊士がやってきて「どうしたオトメチャン?」と顔を覗き込んだ。緊張がほどけて顔色を青くするオトメチャンの代わりに松本兵曹長が

「さっきはさみをこぶしで受けたんです。ほいで指の背ぇに傷がついてしもうたんです」

と答えた。麻生分隊士は「そうか・・・兵曹長すまんのう」というと兵たちの集まりの中に「おーい、衛生兵おらんか?」と声をかけ、はいっと出てきた衛生兵層にオトメチャンを託した。

 

高飛車大佐はそのあと、梨賀艦長と森上参謀長から厳しい尋問を受けることとなった――

    (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

危ないところでしたが何とか収束のようですね。

次回は「始末編」ということで、高飛車大佐の驚きのその後が明らかに!ご期待くださいませ^^。


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Comments 6

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見張り員  
matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
怒りに我を忘れるタイプはちょっと困りますよね、時として身の危険を感じますからね・・。

オトメチャンは我が身を持って副長を守りました。はさみだって立派な刃物ですから正直怖いですが彼女は尊敬する副長のためにはけがさえいとわないのでした。
ここ一番というとき身を挺して人を守る・・日本的な行動だと思いますね。

さて高飛車大佐のその後には驚きの、衝撃の末路が待っています。ご期待くださいね^^。

2013/07/09 (Tue) 20:36 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
七夕も曇りのまま終わりましたね…(-_-;)でもきっと地上からみられることがないので彦星と織姫は心置きなく…楽しめたでしょうね、って麻生とオトメじゃないってww。

高飛車大佐はヤバイ系ですね。こういう人がそばにいたらどうしようと思いますね。はさみだなんて・・○○○に刃物、って言葉もありましたが(^_^;)。
暴走もエガちゃんとか石原都知事クラスならまだいいんですがね~ヤバイ人はほんと困りますね。
水戸黄門様の一声が欲しいですね^^

何とかまだ実家にてやっております。
本当に暑いですね、オスカーさんもお気をつけてくださいね。いつもありがとう!

2013/07/09 (Tue) 20:30 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
こういう人間は本当に腹が立ちますね、実際に私の身近にいるので書いていて腹が立ってきましたよw。
世間にはきっとごまんといることでしょうね・・タメイキ・・・

「大和」乗組員は人格も最高の連中だと思っております、時には熱暴走みたいなこともありますが根底に流れる心は優しく思いやり深い心です^^。

七夕、いい行事ですね。旧暦の七夕までこの背景にしたいと思っています!

大変暑いですがくれぐれも御身大切にお過ごしくださいね^^。

2013/07/09 (Tue) 20:21 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
matsuyama  
NoTitle

いますね、こういうヒステリックな人間。危ないですよね。危険人物です。頭に血が昇って善悪の判断がつかなくなっちゃうんでしょうね。
それにしてもオトメチャン、勇気ある行動ですね。優しいばかりじゃなかったんですね。普段おとなしそうでいても、ここぞという時の勇気。日本人は見習ってほしいものです。

さてさて次回の厳しい尋問、高飛車大佐の行方はどうなるか。心身共にお疲れだと思われる見張り員さんの構想は決まっていると思いますが、期待に沿う審判を心待ちにしています。

2013/07/09 (Tue) 20:08 | EDIT | REPLY |   
オスカー  

こんばんは。七夕ですね。曇り空で月も星も見えませんでしたが、どこかできっと天の川でデートするふたりがいるはず!!
高飛車サン、危険人物すぎますね。自分の気に入らないことがあるとアタマに血がのぼりすぎて暴走!同じ暴走でもエガちゃんとは違いすぎて…!
水戸黄門ではありませんが「大和の皆さん、懲らしめてやりなさい!!」ですね。
お身体はいかがですか?暑い中大変だと思いますが、皆さまの回復と健康をお祈りします。

2013/07/07 (Sun) 23:22 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  
NoTitle

余所に来て好き勝手な傍若無人さって本当に腹立たしい。もしかしたら高飛車のような人、今の世の中にいっぱいいるかもしれないですね。
それに反して大和の人たちの人間味あふれる優しさに拍手喝采したい思いになりました。すべての人たちがそうですから、さすがに天下一の大和に乗っている人として優れた人たちばかりですね。アッパレです。
胸が空きました。ありがとうございました。

七夕の壁紙が素敵ですよ。

2013/07/07 (Sun) 19:59 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)