「女だらけの戦艦大和」・招かれざる大佐2

高飛車大佐の乗る「新型航空戦艦」他の練習艦隊がいよいよトレーラー諸島にやってきた――

 

沖の浮標に係留された新型航空戦艦を見つめ浮かない顔の梨賀艦長、その横に顔色のなんだかよくない野村副長が立っている。その副長の横顔を見つめた森上参謀長は笑いを必死にこらえる。

笑いの気配を察した副長は自分の左に立つ参謀長を見つめた、そして

森上(・・)大佐(・・)。何がそんなに可笑しいんです?」

と問い詰めるような口調で参謀長に言った。森上参謀長は「ほう、野村が私を『大佐』と呼ぶなんか珍しいねえ。初めて会った時以来だね」と言って副長に向き直る。副長は、エヘンと咳払いをしてから

「何がそんなに可笑しいのですか?笑いをこらえてらっしゃるでしょう?例の高飛車大佐が来て何か起きるのをもしかして・・・実は期待されてるのではないですか、森上大佐は!」

と最後は怒鳴るように言った。艦内帽の廂が作る影が、副長の目元に陰気な印象を与える。あわてた梨賀艦長が小声で「ツッチー、どうした?」と言って副長の防暑服の袖を引いた。しかし森上参謀長は機嫌を損ねることなく、いや却って上機嫌で

「ああ、可笑しいよ。何かとてつもなく面白いことが起きそうな気がしてね。でも笑ったら副長がどうにかなりそうな顔をしてるから笑うのを堪えてるの。野村中佐、そんなに気を張らないで迎えようじゃないか・・・きっと君が思うより事態はいい方へ行くと思うがね」

と何か意味ありげなことを言った。副長は少し口を開けて森上参謀長の顔を見つめる。そうしてから

「参謀長は・・・何か、起きるという確信があっておっしゃってるのでしょうか」

と尋ねた。しかし参謀長は笑ってタバコをくわえると、

「さあね。確信なんかこれぽっちもないよ。ただ、何か面白そうな予感はするけどね」

というとタバコに火をつけうまそうに吸った。

 

練習艦隊のトレーラー入りを防空指揮所で見張兵曹も発見していた。

「前方に練習艦隊入港・・・『新型航空戦艦』と思しき艦影あり」

と報告すると麻生分隊士と松岡中尉が下から駆けあがってきた。トメキチとマツコもそのあとを追っかけて来た。松岡中尉はラケットを振り回し「アレがそうか新型艦か!熱くなれよーッ」と叫び、そのラケットの直撃をからくもかわした麻生分隊士は

「全く危ないねえ、このラケット!何回言うたらわかるんじゃね!?」

と怒った後で「どれどれ、どれがそれじゃね」と双眼鏡をのぞいた。双眼鏡の中に『新型航空戦艦』がその姿を見せている。見張兵曹が

「『伊勢』によう似とりますね。『伊勢』の同型艦か・・」

とつぶやく。小泉兵曹も来て艦内帽の廂の下の目を細め、「おう、そうじゃの。新型~いうても『伊勢』そのまんまじゃな・・・どがいな艦名なんじゃろうね」という。

麻生分隊士が「しかし問題は、あの艦から来んさる艦長いうお人じゃな。どがいな艦長なんだかもう一つわからん・・・うちは何かいやーな予感がしてならん」と口をひん曲げて唸る。

すると松岡中尉がまたラケットをひと振りして「麻生さーん!」と怒鳴る。麻生分隊士がびっくりして「はいっ」と返事をすると松岡中尉は、

「あなたそんな気の弱いことでどうします?うちはいやーな予感がしてならん、ですと?そんなものは単なる思い込みですよ思い込み。人間そんなものに取り込まれてどうします。身動きとれませんよ?さ、麻生さん。あなたも尻の穴をきっちり締めて熱くなってそんなくだらない『予感』なんか吹き飛ばして下さいよ。あなたは分隊士、みんながあなたを頼りにしてるんですからね、肝心のあなたがそんなこっちゃどーしようもないよねえ?さあ、わかったら大きな声で言ったんさい?『俺も今日から富士山だ―』って」

と話しだし、麻生分隊士はしばらく考え込んでいたが次の瞬間顔をあげると

「わかりました分隊長。うちがまちごうてました。そうですとも、くだらん根拠のない予感なんかに支配されかけた私があほです。よーし」

というとでっかい声で

「俺も今日から富士山だ――っ!」

と叫んだ。見張兵曹、小泉兵曹が「分隊士かっこええ」と拍手。それをじっと見ていたマツコは「ふーん。マツオカってときにはいいこというじゃない?ラケット振ってるだけの変人じゃないってことね。マツオカのことアタシ、もっと好きになっちゃったじゃないの~」と言ってその大きな両方の羽をバサバサとさせる。

トメキチは「そうね、マツコサン。でも僕あの『尻の穴を締めろ』って言うのが恥ずかしくってちょっといやだな」と言って自分の後ろ脚をなめた。マツコが「この、ぶりっこ犬が!」と舌打ちする。

 

そんなことがあった二日後。

トレーラー艦隊司令部にあいさつを終えて、新型航空戦艦艦長の高飛車大佐がいよいよ「女だらけの大和」にやってきた。艦長以下各分隊長までが二種軍装に身を固めて、舷門近くに居並んで待ちかまえる。梨賀艦長が「あの性格治ってるといいなあ」とつぶやくのが聞こえ、次いで副長の深いため息、さらに森上参謀長の「フッ」と笑いを漏らす声が聞こえ・・・いやがうえにも皆の緊張感は増してゆくのだった。

そして高飛車艦長を乗せたランチが『大和』に接舷し、問題の艦長が上がってきた。高飛車艦長は舷門当直の兵の敬礼に大変ぞんざいな返礼――まるで招き猫のような――をし、居並ぶ佐官・士官たちの度肝を抜いた。

(か、感じ悪う・・・この女)

皆の間に共通な感情が流れる。そして高飛車大佐は梨賀艦長の前に立った。手を後ろ手に組んで皆を、そして『大和』を睥睨している。梨賀艦長は(お前から何か言え、言わんか)とイジイジしている。しかし高飛車大佐は何も言わないで皆を眺めまわすだけ。梨賀艦長は心を決め、

「ようこそ『大和』へ」

と言った。すると高飛車大佐はにこりともしないで

「ああ」

とだけ言った。副長がむっとした気配を、参謀長は感じていた。(野村はこういう女は絶対受け入れないな)と思う。いや今や野村だけでなくここに並ぶすべての士官たちがこの大佐に反感を持っている。じりじりと甲板をくトレーラーの日差しが痛い。凝然として立ちつくす『大和』艦長以下に高飛車大佐は

「いつまでここに立たせてるんだ?お客様だぞ、早く艦内に案内しろよ。梨賀」

と言い放ちさすがの梨賀艦長も高飛車大佐を軽くにらんだ。すると高飛車大佐は

「なんだ貴様、俺がせっかく来てやってんのに。いいか俺は今回新型航空戦艦『虎乃威(とらのい)』の艦長を拝命したんだからな。それなりに扱え」

と言って梨賀艦長を下からねめあげる様にして見た。副長が腹を立てているのがよくわかる・・・握りしめた両手のこぶしが細かく震えているからだ。いや、体さえ震え始めている。

列の終わりの方に立っている松岡分隊長は(はあ、これは一筋縄ではいかないお人ですねえ。熱くなっているというより何か履き違えてますよこの人!)とあきれている。松岡分隊長がそっと居並ぶ分隊長クラスから上の階級を見ると、浜口機関長が鼻息荒く顔を真っ赤にして怒りに震えているのが眼に入った。

(ありゃあ~。これは困りましたねえ、浜口大尉の導火線に火がつき始めちゃったじゃないですか。あの人の導火線は普通より短いんですから。そうですねえ、浜口さんの導火線はまあ三㎝もあれば長い方じゃないですかねえ。私は長いですよ~、日本列島くらいありますから。余裕ですね)

松岡分隊長は意外に冷静に、この場と他人と自分の分析をしている。

と、列の前の方でドタン!と大きな音がして皆が一斉にそちらを見ると憤激に耐えきれなくなった副長がぶっ倒れていたのだった。

高飛車大佐は「なんだこいつ。熱さに耐えらんねえのか。情けねえ女」と吐き捨てるように言うと、「さあ、梨賀に森上。案内しろよ」というとさっさと歩きはじめる。

あわててそのあとを追う参謀長と、「副長をよろしく!」と必死な形相で言いながら二人のあとを追う梨賀艦長。日野原軍医長が副長を抱き起こし、肩に担ぐと医務室に小走りに行く。そのあとを皆がぞろぞろついてゆく。

その様子をはるか上から見ていたオトメチャン、

「なんかおかしなことになっとるよ。あそこで倒れとりんさるんは副長じゃろう?」

と言って下をそっと指差した。石場兵曹、石川水兵長、小泉兵曹などが寄ってきて「ありゃ!」「えらいことじゃのう」「どうなっとるん?」とそれぞれ声を上げた。

麻生分隊士も乗り出しその状況を見て、

「ありゃ・・・いけんねえ。どうしたんじゃろう、何かいやな予感がしてならん」

と唸る。その嫌な予感は少しずつ当たり始めている。

 

野村副長は、日野原軍医長に担がれて医務室に運ばれ診察台に寝かされ、まず血圧測定を衛生下士官がした。その間軍医長は副長に呼びかけながら脈を取る。その周りを不安げに各科長や分隊長たちが取り捲いている。衛生下士官が、

「軍医長、血圧は上が百九十、下が百十であります」

と報告、日野原軍医長は「なんだちょっと高すぎるなあ。副長よほど頭に来たんだろう。あの高飛車とか言う大佐がここにいると、他にもこういう患者が出やせんかね?・・・ともあれだ、副長はしばらく安静にしとかないと」と言って衛生大尉や中尉などに手によって、担架で私室に運ばれていった。

そのたんかを見送っていた片山航海長が、

「軍医長・・・私もあの人がいる間、正気でおられるかどうか自信がありません」

と正直な心情を吐露し、そのあと「私もです」「私だって自信がない」と皆がつぶやき始める。高飛車大佐が『大和』に乗ってまだ一時間経つか経たないうちに、士官たちの間には不穏な空気が漂ってきはじめる。

その空気はすでに、下士官兵たちの間にも立ち込め始めている。

 

「なんじゃーあの大佐は!うちらの敬礼、しかとしよってじゃ。しかも見たか、うちらを汚いもんでも見るような眼ぇでじろっと見よったんじゃ。いやな奴じゃのうー!」

「ほうほう、艦長にもぞんざいな口きいとってじゃもんね。何様のつもりかいね?」

「聞いた話じゃがの、あの大佐下のもんにはぞんざいじゃが上の人にはヘエコラするんじゃと。ええ加減な奴じゃ、うちは好かんなあ」

「うえっ、そんなんが艦長ならあの艦の兵隊は気の毒じゃなあ」――等々。

下甲板の将兵の動揺、いらだち、憤激はやがてオトメチャン達のいる防空指揮所まで伝わってきた。オトメチャンは不安そうな顔で、

「松岡分隊長。あの高飛車大佐という方はいったいいつまで『大和』に居られるつもりなんでしょうか?」

と松岡中尉に尋ねていた。オトメチャンの後ろには同じ思いらしい小泉や石場、谷垣兵曹たちが立って分隊長を見つめている。

分隊長はラケットを担ぎなおし、皆の顔をひと通り見つめてからふうっとため息をついた。皆はこの威勢の良い分隊長がこういうため息をついたのを初めて目撃し驚いた。

分隊長は深いため息をついてから、

「正直わかりませんね。しかしあの人も艦長という立場ならそう長いこと艦をお留守には出来ないでしょう。まあ遅くとも明日の朝には帰艦されるでしょう。みんなそれを祈ろうじゃないか。熱くなってくれよ」

といい、その場の皆はうなずいて心の中で(はよう帰れ、はよう自分の艦に帰らんか)と必死で祈り始める。

 

そしてその翌日から本当の「試練」が『大和』の皆に襲いかかるのだった――

    (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

牙をむき始めた高飛車大佐です。

さすがの梨賀艦長もたじたじですが、そんなこっちゃ困るではないですか?そして何でしょう、副長メンタル弱いのかしら??そんなことでこの先やっていけるのでしょうか・・・。

そして皆に襲いかかり始めた試練とは?

「憤激の」じゃない進撃の巨人だ!壁を護るもの、壊すもの・・・

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Comments 2

見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
「女だらけの大和」に混乱と混沌の予感がします・・・ひっかきまわされて泣き寝入りしてしまうのでしょうか、それとも何かがあるのか!
ご期待ください^^。

いよいよ明日から7月ですね、一年なんてあっという間だと思う昨今です。夏越の祓の今日、この半年を猛省し明日からの残り半年を心穏やかに過ごせればなあ~と思います。
明日夜から千葉に行きます。2日の父の手術、3日の母の検査に備えます。
更新も訪問も向こうからいたしますね、よろしくお願いします^^。

2013/06/30 (Sun) 11:39 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  
No title

なんだか大変なことになりそうな雰囲気がいきなりですね。こりゃただ者ではないような虎乃威に乗ってやって来た高飛車大佐。大騒動が予感されます。麗しのオトメチャン、高飛車な態度の高飛車大佐の餌食にならないように祈っております。
こんな時まずは高みの見物の立場のマツコやトメキチは気楽で良いですね。

梅雨も本番のここ数日ですが体調をしっかりと整えて明日からの七月を大過なくお過ごし頂きたい。そう願っています。
今日は半年間の清算の日、夏越しの大祓いです。明日からの為に今日を境に心も体も入れ替えたいですね。

2013/06/30 (Sun) 09:42 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)