2017-10

「女だらけの戦艦大和」--<ギンバイ>しよう! - 2009.09.14 Mon

ある晩のこと―――

一つの人影が、人通りも絶えた艦内を小走りに走る。時折、立ち止まってはあたりの様子をうかがっているようだ。

たまに艦内を見回るのか、それとも厠に行くのか、足音がするたびに人影は壁にピタッと張り付いてやり過ごす。

―――やがて、その人影はとある部屋に滑り込んだ。そっと扉を閉めて、その場はしんと静まった。

その人影が次に出てきたのは、おおよそ10分も経つか経たないか、、くらいだろうか。何かを抱えて脱兎のごとく走り去った―――。

 

その人影が、ハアハアと言いながらやっとの思いで上ってきたのは『防空指揮所』。その後ろっかわで数人が座っていた。

「持ってきました」

「間違わなかったろうな?」

「はい、間違いありません」

何やら不穏な会話がこそこそと交わされている。そこにいる人間たちこそ、<航海科見張り員>の数人、さっきの人影は航海科の見張りの一人、亀井一水。小さい人の輪の中に抱えてきたものをそっと置いた。

「よーしよーし、、、よくやった。いいか、このことはだれにも内緒だぞ、しゃべりやがったらぶん殴って海に浸けるぞ、いいな!」亀井一水の持ってきたものを広げながらいう声は、だれあろう「見張兵曹」。

亀井一水が持ってきたのは、大きめの玉ねぎ3個に醤油瓶。それに<花かつお>状態になった鰹節。

「おお、すっごい!こんな鰹節あったんだ!?――亀井一水お手柄じゃん!」見張兵曹と、小泉兵曹は上機嫌になっている。

これこそ、「海軍名物」?<ギンバイ>行為である。

見張兵曹、小泉兵曹は、自分たちの食欲を満たそうと、まだあまり艦内事情に詳しいとはお世辞にも言えない亀井一水を脅して、主計科からの<ギンバイ>を命じたのだ。

で、彼女らの班員でその戦利品をいただこう、とこうして集まっている。

「でも、、こんなとこじゃ危なくないですか、、、見つかったらいやですよ、私は」と、小沢水兵長がむくれる。

「だーいじょうぶ、大丈夫。その時は我々が被る!かわいい貴様らに罪は着せんよ、ハハハ!!」豪快に笑う小泉兵曹は頼もしい、、、この人女じゃもったいない感じだ、と見張兵曹は思うが思うだけ。口に出したらそれこそ何をされるか、、、、。

さてその玉ねぎは、小沢兵長の小刀で皮をむき、薄く切って誰かが持ってきたアルミの皿に載せ、醤油・花かつおで味付けされ皆の胃袋に―――。

「おお~~~~、、、、うまいいぃぃぃぃ~~~」と、見張兵曹の口から、絞り出すような声が漏れる。

続いて小泉兵曹が「た、、、たまらないぃぃぃ~~~」と、次々に至福の呻きが漏れる。

「さあ、お前たちも食え。遠慮すんな!」小泉兵曹が自ら兵たちの手のひらに玉ねぎを取ってやる。

ああ、、、なんて優しくも慈愛に満ちた上官なんでしょう―――

やがて、小さな<宴>は終わり、皆三々五々と居住区に散っていったのだが。

 

翌朝。

「だれだーーーーーっ!!こんなとこで玉ねぎ食った奴はあぁ!!」と、麻生分隊士のでかい声が指揮所に轟いた。

見れば、、、昨晩見張兵曹たちが秘密の晩餐をしたあたりにこんもりと玉ねぎの皮が、、、。

「あんのやろう、、、しっかりかたずけないで行きやがったなあ、、、」と、自分たちが指導しなかった落ち度も忘れて、見張兵曹、小泉兵曹はわなわなと怒りに震えた。

麻生分隊士が二人につかつかと近づいて「お前ら、これやったんと違うか?」と機嫌が悪い時の癖で思いっきり口をひん曲げていう。

小泉兵曹は「私たちではありません、、、そんなことはいたしません、、、あ!!」と突然声を上げた。

「どうした、心当たりがあるか?」麻生分隊士の問いに、小泉兵曹、「そういえば夕べ、うちの班の亀井一水のポケットが異様に膨らんでるとは思ったんですが。―――ああ、まさかこんな情けないことをしてるとは夢にも思いませんでした。これというのも私と見張兵曹の監督不行き届きです、いかようなおしおきでもお受けいたします」と、思いっきり殊勝な感じで訴えた。

麻生分隊士の良くないところはこういう泣き落としにコロッとだまされることで、すっかり小泉の芝居にしてやられた。

「お前らかあ!!」―――と、わけもわからずその場に立ちすくんでいた亀井一水たち下っ端兵員は麻生分隊士の逆鱗に触れ一週間、酒保の利用をストップされて泣きの涙だったとか?

「<ギンバイ>なんてみっともない真似すんじゃねえよ!」―――麻生分隊士は吐き捨てるように言ったが、その舌の根も乾かぬうちになんと、見張兵曹と一緒に牛肉をギンバイしたのは秘中の秘。

一番割食ったのは亀井一水だが、その亀井一水もやがてこの上官たちの良くないところをしっかり吸収して要領のいい下士官になっていくのであった―――。 が~~~ん。

 

          ――――――――――――――――――――――――――

 

<ギンバイ>行為は、どこの艦でもよくあったようです。「大和」ではトラック諸島に停泊中の年末、餅をついたそうですが、それを主計科の冷凍庫に入れるまでに相当数<ギンバイ>されてしまったそうです(笑)。

文中の「玉ねぎ」をスライスして食ったのは「大和」での実話です(見つかって云々、は見張り員の創作です)。

きっと麻生分隊士のような人はいなかったと思います。みんなきっと公然の秘密というかそれ以上のものだったのでしょう、楽しみのうちだったのでしょうね。

「牛肉のギンバイ」もあったそうで、洗面器に入れてろうそくの火で焼いて食ったそうです。人目を忍んでこっそり食べる牛肉はきっとおいしかったことでしょう、、、、。

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● COMMENT ●

参謀 さんへ

こんばんは!!

コメントありがとうございます。
本当につまみ食いは楽しく美味いものですよね~~。「大和」は、飯のうまい海軍に会ってもなお、おいしかったそうですが、、、そこはやはり訓練で疲れた若い体の男性(このサイトでは女性ですが)には、ちょっと足りない、、、のですね。
おそるべし、食欲!!

松ちゃんさんへ

こんばんは!
まさにその通りで、兵員たちのちょっとした肝試しでもあったようです。またこのギンバイの上手な兵は「ギンバイ長」と名をもらって下士官たちのお覚えもよかったとか。さらに、甲板整列でも手心が加えられたり、と役得があったようです。

うちもギンバイ行為が横行しています。私が買ってきてそっと冷凍庫に入れたアイスがギンバイされるは、饅頭は当たり前のようにギンバイされます。
まあ、、、仕方ないけど犯人が<憲兵氏>だとむかつきます(笑)。

nicoさんへ

こんばんは

ホント、あの玉ねぎのスライスにしょうゆ、、というのはたまりませんね。当時「大和」でこれを食べた人の回想ではとても刺激的な味、だったとか。
牛肉はこれはもうたまらんでしょうね、こっそり食べる快感、、味わってみたいですね(笑)。

毎回楽しく拝見させてもらってます。つまみ食いは男女関係なく楽しいですいね、でも大和はご飯が美味し艦だったと聞きますが・・・足りませんかね

見張り員さん、こんにちは。 ギンバイ行為は狭い艦の中でスリル満点のリクレーションだったようですね・・・海軍では恒常化していたのは知りませんでした。 婆様が寝ている時、婆様のおやつ箱から美味しそうなものをこっそり失敬するのもひとつのギンバイ行為ですね、あはっ!

わたしもタマネギのスライスにかつおぶし、好きですね。
この時代からあったんですね、この食べ方。
牛肉のギンバイ、内緒の味は美味しいでしょうね。スリルもプラスされて。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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