2017-10

「女だらけの戦艦大和」・風雨の中に見たものは2<解決編> - 2013.05.12 Sun

機関科の手すきが必死で浜口大尉の部屋から消えたものを探している時、爆弾低気圧による風雨の中麻生分隊士と見張兵曹は必死に配置を守っている――

 

そんなころ、石場兵曹は居住区にいて防暑服のほころびを繕っていたが不意に顔をあげて周囲を見回し

「なあ、そういやあハシビロとトメキチは何処へ行ったんじゃろう?姿を見んが」

と言った。それに石川水兵長はああ、と言ってから

「さっき、言うても小一時間前ですが連中中甲板をあるいとってですよ?また何処ぞに菓子でも貰いにいっとるんじゃないですかのう」

と答え石場兵曹は「ああ、そうね。ほんならええわ、万が一外に出とってふっ飛ばされたらいけんでね」と言い、繕いものを続ける。石川水兵長もうなずいて厠へ立った。

 

松本兵曹長はあちこち走り回り、柱の後ろやそれこそ厠の中まで覗いて探したが・・・ない。はては機関科の兵員のチェストから二次士官室のテーブルの下まで。それでも見つからない。

松本兵曹長は途方に暮れた。(どうしたものか・・いったい誰が何処に持って行ったんじゃろう)しかし探すあては、もうない。

 

それと同じ時、防空指揮所では風雨に耐える二つの姿。麻生分隊士と見張兵曹がある。分隊士は見張兵曹の耳に口をつけるようにして、

「もうちいとで収まってじゃろう、あとしばらくの辛抱じゃ。頑張れ」

と叫んだ。見張兵曹も「はーい」と大声で返事をする。二人の防暑服はしとどに濡れ、顎紐をかけた艦内帽の廂から滝のように雨が滴る。あれほど暑かったのに、今では体の芯から震えが来るほどに寒くなっている。二人の身体のひっついた部分だけがほんのり温かい。

「いつになったら」やむんじゃろう、と上を見上げた分隊士と見張兵曹。その時ひときわまばゆい稲光が中天を走った。

と!

「はっ!!」

と二人は息を飲んだ。なんと、『大和』のトップ・射撃指揮所の上に――

「龍じゃ、龍が居るで!!」

分隊士がさすがに恐怖の叫びをあげると見張兵曹も分隊士にさらにしがみついて「いやじゃ、あげえなもん見たことがない!」と叫んだ。二人が見上げるトップには

まっ黒な雲と稲妻をバックにした「龍」と思しきものがその尻尾をたなびかせてとぐろを巻いていたのだった。二人は言葉もなくそれを見上げている。一層風雨が吹きつけた。

そこに「おい、だれか居るか」と声がして艦内帽を片手で押さえつつ副長が入ってきた。副長は天辰中尉からの報告で、指揮所に上がって様子を見ようとここに来た。そして激しく雨の叩きつける指揮所の床にへたりこんで、恐怖のまなざしで上を見上げる二人を見つけた。

「どうした!何があった、平気か?」

と副長は駆け寄って二人の肩に手をかけて揺すった。麻生分隊士がまず、おびえたような瞳を副長に向けた。そして見張兵曹が震える右手の人さし指でトップを指した。副長はその指先から指し示す先をたどってみた・・・。

「うわああ!」

副長も大声をあげ、すっかりぬれた床に腰を落としていた。副長が見上げる先、『大和』のトップには怖ろしい姿の「龍」がいた。

「逃げろ!麻生少尉、見張兵曹!取って食われるぞ」

副長は泡を食って二人を指揮所から押し出し、昼戦艦橋に逃げ帰った。その様子に、窓の外を見ていた梨賀艦長と森上参謀長は驚いて手にした紅茶のカップが大きく揺れた。中の紅茶がいくらか受け皿にこぼれた。

「どうしたの、副長。何があった、麻生少尉」

梨賀艦長は紅茶のカップを海図台に置いて尋ねた。参謀長が腰にさげていた手拭いを取って副長に手渡した。副長は手渡された手拭いを持ったまま、唇を震わして天井を指差した。艦長と参謀長が同時に天井を見た。

「天井が、なにか?副長」

そう問う艦長に、副長は激しくかぶりを振って「天井じゃない、天井じゃない!射撃指揮所の上に、上に・・・」と言って声が出ない様子だ。艦長は麻生少尉を見て「どうした?」と聞く。麻生分隊士はごくりと唾を飲んでから、

「りゅうが・・・」

と言った。艦長は「は?りゅう??」とわけがわからないと言った顔をした。その艦長の腕にすがって分隊士は涙を流しながら

「龍です、龍が居るんです、上に。ぎらぎら光る眼ぇ剥いてとぐろを巻きよってです・・・」

と言った。艦長と参謀長は「龍?龍って、あの龍かね?」というと分隊士も副長も、そしてオトメチャンも真っ青な顔でうんうんとうなずいた。艦長と参謀長はまさか、と顔を見合わせた。

妙な沈黙が流れたその時、艦橋に浜口機関長が松本兵曹長とともに入ってきた。参謀長が「おお機関長二松本兵曹長・・珍しいじゃないか。どうしたね」と声をかけると浜口機関長は、

「いやあ、ちょっと探し物をしてまして・・・。しかしこちらも何やら取り込み中のようですな」

としとどに濡れた三人を見つめた。その機関長の後ろから松本兵曹長が見張兵曹を手招くと、

「いったいどうしたんじゃね、こげえに濡れて・・・」

と聞いた。すると見張兵曹はそのかわいい唇を震わして、「龍が、龍が居ったがです」と言った。松本兵曹長は「は!?りゅう・・・いうてあの「龍」かね?」と少し頓狂な声を上げた。浜口機関長がこちらを向いた。何か、彼女は思い当たったような顔をしている。

機関長は「まだいるかね、その龍とやらは」というと分隊士は「はあ、まだ居ると思います」と答え、浜口機関長・松本兵曹長それに艦長以下も麻生少尉と見張兵曹の跡をついて指揮所に上がっていった。

その頃にはもうまっ黒な雲は徐々に遠ざかり北から青い空の切れ端が散見できるほどになってきていた。麻生分隊士はトップを指さし「あれですあそこに居ってじゃ」という、そこを見上げた浜口大尉は次の瞬間、

「あった―!!松本、あんなところにあったぞー」

ととてつもない大声をあげていた。松本兵曹長が「え?は?あ・・・あれ!?」と妙な声を上げた。他の皆が上を見上げるとそこには!

それは俺は大きな鯉のぼりの口に入りこんだハッシー・デ・ラ・マツコがいて、その横からトメキチが顔をのぞかせている。マツコは、

「誰よー大きな品のない声で叫んでるやつ・・・って『狂犬浜口』じゃないの!?見つかっちゃったわよ、トメキチ!」

と言ってホホホ・・・と高笑いをした。そこにはあはあと息を切らして浜口機関長が上がってきて、「このアホウドリ!貴様だったのか俺のものを勝手に持ち出したのは!」と怒鳴って、鯉のぼりごとマツコもトメキチもくるんで抱えると下へと降り、広くはない昼戦艦橋に投げ出した。そしてマツコの飼い主であり盟友である松岡中尉を呼びつけて話を聞きだした。

 

どうやらマツコとトメキチは天気が悪くなるのを察して艦内に入り、そうするうち浜口機関長の部屋の前に行った。すると機関長の部屋のドアがちょっとだけ開いていたので興味をひかれ――というより食べ物目当てで――中に入った。するとデスクの上に「ちょっと見てトメキチ!大きな魚が畳んで置いてあるわよ」となり、トメキチが「これ僕見たことある。お外でお空に泳がすの」と言って二人はそれを畳まれたまま抱えてトップまで抱えあげて来たのだ。そして折からの風雨の中「あたしが口を広げるからあんた中にいて魚がすっ飛ばないようにしててよ」となった。がいかんせんトメキチは小さすぎ鯉のぼりはトップに巻きついてしまった。

風にほんろうされ稲光に眼が光る鯉のぼりを麻生少尉と見張兵曹は『龍』と思いこんだというわけである。

 

「全く人騒がせな動物どもだ」

浜口機関長はそういったが顔は笑っていた。せっかくの内地の憲兵隊嬢からの贈り物を紛失したのでは海軍の沽券にもかかわるがそうでなかったのでほっとしたというのが笑顔の原因でもある。それを見て松本兵曹長も微笑んだ。

松岡中尉がマツコの頭をグイッと掴むと浜口機関長に向かって下げさせて「機関長、申し訳ありませんでした―!!」と大音声で謝った。マツコも羽を広げて斜め下へ下げた。マツコの謝罪のポーズである。トメキチも浜口機関長の前に座って「ごめんなさい」と謝った。

麻生分隊士も「えかったのう、うちはあげえな悪天候じゃけえ、本物の龍が出てきよったんか思うて腰が抜けてしもうたわ」と笑い、見張兵曹も「うちもです・・・目ぇが光とったけえ恐ろしゅうてよく正体を見極めんで。うちも不注意です」と言った。

艦長が「まあいずれにしても何事もなかったからよかった・・・浜口機関長、雨も上がったことだしどうだね、せっかくの鯉のぼりあげてみようじゃないか」と言い、浜口機関長は早速、鯉のぼりをマストに掲げてから防空指揮所に上がり機関科の皆を甲板に集め、

「機関科総員、気合いだ気合いだ気合いだー!!ワハハ、ワハハ、ワハハ、もっと笑え。おい変な鳥貴様も笑え」

と少し無理な注文もして喜んだ。

その鯉のぼりの大きさは特筆すべきものでそれを遠望した『矢矧』座乗中の古村水雷艦隊司令は

「いいなあ~。ここにもほしいな。おい、誰か内地に帰ったら憲兵たちにしかけてみないか?それで仲良くなれればああいうのもらえるかもしれんよ」

といい、周囲の士官や兵たちは血相変えて「そんな怖いこと出来ません!無理です」と即刻断られたという。

そして・・・小泉兵曹は麻生分隊士から「当直を独断でほっぽり出して行くとは何ごとじゃ、ええ加減にせんと貴様次の上陸はさせんで!」と叱られたという。

 

ともあれ、龍のような鯉のぼりは内地の五月を存分に偲ばせた・・・。

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんだ。

何かと思えばそんなことかあ~なんちゃって。でもどれくらいでかい鯉のぼりなのか想像するとちと怖いかも。そんなのが黒い雲をバックにしてとぐろ巻いていたらこりゃあ「龍」と思うかな?

オトメチャンもっと落ち着いて物事を見ましょう、見張りの鉄則です。

鯉のぼり。歌川広重の作。これはでかいぞ、もしかしたらこういうのかもしれない!(画像お借りしました)。
広重の鯉のぼり 

そして今日は母の日ですね。私も母にピンクの桜のような花のストールを贈りました。私には娘がスコーンを作ってくれました!写真はいくつか食べてしまったあとですが(^_^;)、特大スコーンがあります!
DSCN0822.jpg
母の日、たんに祝ってもらうだけでなく、自分が母としてきちんと生きているのかを問う日でもあると私は思いました。
私は母として、どのように娘たちの目に映っているのでしょうか…気になりますが自分が死んだ時『最高のお母さんだったね』と言ってもらえるようになりたいですね。


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
こいのぼりによる『事件』でした・・(-_-;)全くマツコとトメキチのコンビはしょうもないです(^_^;)。

五月ならではの風景、昨今見かけないですが時折派手に揚げてるおうちを見ると嬉しくなりますね。のぼりを上げてるのを見ると「おおー!」と歓声をあげてしまいますww。

美味しいスコーンでした、これが本当においしいのです。私には大変なごちそうです^^。

母の日とか父の日、子供による『評定の日』みたいな気もします・・・さて娘たち父の日はどうするんじゃろ???

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
本当に最近こいのぼりを派手に揚げてる家が無くなりました。そうか、子供がいるとわかると犯罪に巻き込まれる場合もあるんですね・・嫌な世の中です。
近所の公園の池にたくさんのこいのぼりをかけたと聞きましたので来年は見に行きたいです。

おいしいスコーンでしたよ!
特大は私が食べました^^!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
先週、実家から帰るとき電車の中でこいのぼりを見て思いついた話です^^。見ようによっては不気味に見えないかなあと思いまして…(^_^;)

私はそんないい母ではないと思うのですがそれでも娘たちは私をこうして愛してくれます・・・ありがたいことだと思います。

「四月七日の桜」はたくさんの人に読んでほしい本です。知ってほしいことがたくさんありますものね^^!

No title

そうでしたか。鯉のぼりでしたか。
人騒がせといえば人騒がせな珍事件でしたがでも微笑ましくもありますね。
我が家のある団地内では鯉のぼりは見かけませんが、ちょっと離れるとそれはそれは見事に派手な鯉やら幟があちらこちらではためいています。五月ならではの力強い風景ですね。

娘さんからの手作りプレゼント、素敵ですね。お母さんの後姿をしっかりと見てお育ちです!!
母の日、父の日って親の評価の日でしょうか。そう考えると恐ろしい!!

No title

昨今、鯉のぼりを上げてる民家は見かけなくなりましたね。手間暇かけて上げたり下ろしたりするのが面倒くさいですものね。
鯉のぼりを上げることでその家に小さな子供がいることを知らせるようなものです。昔はそれでよかったかもしれませんが、今はそのことで犯罪に巻き込まれる心配もありますからね。
今ではもっぱら企業や団体のイメージアップ、地方の観光誘致などに流用されるケースが多いようですね。
子供の成長を祝う鯉のぼりも活用方法が変わってきて、風情がなくなりましたね。

お嬢さんからの母の日プレゼント、嬉しいですね。やはり母親思いの娘さんは気が優しいです。

おはようございます。こいのぼり~たしかに大きさにより可愛くもブキミちゃんにもなりますね(笑)母の日のプレゼント、ステキですね。見張り員さまはステキな娘さんでありステキなお母さんです!!
日曜日の読売新聞に『四月七日の桜』が紹介されていました。またたくさんの人に知ってもらい読んでもらえるといいなぁ…と思いました。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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