2017-10

「女だらけの戦艦大和」・風雨の中に見たものは1 - 2013.05.10 Fri

内地で薫風の五月を迎えている時、常夏のトレーラーでは――

 

浜口機関長は、内地の憲兵隊嬢たちから贈り物をもらっていた。浜口機関長は内地に帰れば日課のように憲兵嬢たちを追いまわして時には呉の堺川にたたき込んだりぶん殴ったりということをしていた。しかし浜口機関長にして見ればそれはいじめや暴力ではなく「親愛の情を示してるんだ、気合いでな!」ということらしい。そして当の憲兵嬢たちも「あの人は我々に遊んでほしいらしい。遊んでやりましょう」ということにいつしかなって、もう何年だろう。

その内地の憲兵嬢たちから「内地の五月をこれで」しのんでほしいということである物が浜口機関長に贈られてきたのだ。包みを開いて

「ほう!これはいい、あいつらも気がきくなあ。ワハハ、ワハハ」

と浜口機関長は笑いながらそれを自室の机の上に広げると、次の日曜あたりに・・・と考えたそこに、松本兵曹長が「機関長、ちいとええでしょうか。椿兵曹が機関の音が変じゃ言うとるんで見てもらえませんでしょうか」と言ってきたので「おう、行くぞー!」と答えて部屋を出たのだった。

 

それから小一時間後、ドアの少し開いた浜口機関長の部屋の前を通りかかった影が二つ。その影たちは機関長の部屋のドアをそっと開け中を覗き込んだ。そしてその身をするりと中に滑り込ませた。

しばらくの間機関長の部屋で何かしていた影たちはやがて・・・

 

その頃、防空指揮所の小泉兵曹が「おい、あれなんじゃ」と声をあげていた。見張兵曹が「どうしたんね?」と小泉兵曹のそばに立つと小泉は双眼鏡から眼を離し、

「この先にえらい黒い雲みとうなんがあるで・・・距離にしたら5㎞。台風かそれとも低気圧じゃろうか」

と緊張した声を出す。「どれね?」と見張兵曹がその横の双眼鏡で検分すると確かにトレーラー環礁北方に黒い雲が湧いている。「ほんまじゃ、こっちに来とるで。いけんのう、すぐ航海長に連絡せえ」と見張兵曹は言って双眼鏡をのぞき続けた。その間に小泉兵曹が艦橋の航海長に連絡、航海長は気象班の天辰中尉を伴って間もなく指揮所に上がってきた。

「あれです、航海長」

と見張兵曹が指差す方を小泉兵曹も見つめる。天辰中尉が双眼鏡をのぞいてじっくり見つめるとやがて

「あれは低気圧ですね。珍しい。ちょっと荒れるかもしれませんね、雨風が一時強くなるかもしれません」

と言って航海長を見返った。片山航海長は「全艦に注意喚起しよう」というと副長を探しに下へ降りてゆき、やがて令達機から「低気圧通過の予報、強風・強雨に注意せよ」と副長の声が流れ、総員に緊張が走る。

 

それから一時間ほどで『大和』の上空が真っ黒い雲に覆われ始めやがて天辰中尉の予報の通り風が強く吹き始め雨さえ混じり始めた。防空指揮所にいた小泉兵曹は「いけん、来よったで」というと頭を抱えて中へ入ってしまった。見張兵曹は

「ほいでもここに居らんと、何か来たらどうするんね!」

と叫んでそのまま残った。雨が激しくなりはじめ、見張兵曹の艦内帽や防暑服に点々と雨の跡がつく。そしてそれは間もなく土砂降りとなって兵曹の服を濡らすにいたる。

そこへ麻生分隊士が風に抗いつつ指揮所に入ってきて、

「オトメチャン、なにしとる、入らんか!」

と怒鳴った。怒鳴らなければ聞こえないほどの風と雨、そして雷鳴さえ轟き始めている。麻生分隊士は見張兵曹の腕をつかんで艦橋へ降りようとした。が、見張兵曹はかぶりを振ると

「いけんです、分隊士。うちは今ここの当直時間ですけえ、持ち場を離れるわけにはいけんのです」

と言った。空の暗さが増して麻生分隊士の見つめるオトメチャンの顔が暗さにかすみだす。麻生分隊士は「ほいでも鳴神がなっとるけえ、危ない。万が一のことがあったらうちは困る」

というといきなりオトメチャンを抱きしめた。オトメチャンは抱きしめられながらも「お気持ちは嬉しいです。ほいでもうちはここを離れるわけにはいきませんけえ」と分隊士の耳元で囁いた。分隊士の、オトメチャンを抱きしめる腕の力が強くなると、分隊士は

「よし。ほいじゃあこのままうちもここに居るで。オトメチャンを一人にさせられんからの」

というと抱き締める腕を解いて指揮所の壁に貼りつかせた。「こうしとったら平気じゃ。飛ばされんようにせんとな」

二人はそうして低気圧が去るのを待つことにした。その間にも黒い雲が次々やってきて雨と風が吹きつける。そして時折まばゆいほどの稲光。見張兵曹はその恐ろしさに必死に耐えた。(平気じゃ、分隊士が一緒じゃもん・・・もううちは鳴神なんぞ恐ろしゅうないで!)そう思い、いつまで続くのかわからない悪天候の中、オトメチャンは分隊士と二人で指揮所で風雨に翻弄される・・・

 

そんなころ、浜口機関長は松本兵曹長と一緒に自室へ向かっていた。椿於二矢子兵曹が指摘した機関の音の原因は突き止められ、大事に至らずに済んだ。浜口機関長は、「あの椿兵曹いうんはなかなか使えるな。あの音を聞き分ける何ぞそう簡単に出来るものじゃないぞ」と感心している。松本兵曹長もうなずいて、「ほうですな。彼女が来たときははあ妙なおなごが来よってこりゃあ難儀じゃ思うとたんですが、まああの子にもいろいろあってですね・・ほいでも皆と心通わしたらもう昔っから『大和』に居ったような感じで、ええ感じにやっとります」と言った。浜口機関長は満足そうにうなずいた。

そして二人は浜口大尉の自室の前に来た、松本兵曹長がさっとドアを開けて機関長を待つ。機関長は

「おお、すまんなあ。・・・机の上に例の物を置いてあるんだがまあ、見てくれよ」

と言って兵曹長を手招きした。松本兵曹長はちょっと姿勢をただすと「では、ちいとお邪魔いたします」と言ってから部屋に足を踏み込んだ。そして、

「しかし内地の憲兵隊も気のきいたことをしてくれますな、まあそれも浜口機関長の御人徳いうもんですかのう」

とちょっとお世辞を言った。機関長はワハハ、と笑うとその太い腕で兵曹長の背中をどやしつけて

「いいこというじゃないか、松本―!」

と言ってさらに愉快げに笑った。松本兵曹長どつかれた背中の痛みをこらえつつ「ほ、ほりゃあもう。機関長の御人徳の高さは全海軍ばかりでのうて憲兵隊はおろか陸軍にまで広まっとりますけえね」とさらにお世辞を言う。

「松本―、貴様嬉しい事言うなあ!」

とさらに背中を二、三発どつかれる松本兵曹長。うう―、ともだえるようにして痛みをこらえる。痛みが去ったところで

「ほうじゃ、機関長。肝心のあれはどげえなもんですか?うちに早う見せてください」

というと機関長は「おお、そうだそうだ。これを見てくれよ松本」とデスクに寄っていく。兵曹長もデスクのそばに行くと大きなデスクの上には機関長の書いた「『大和型』機関に関する一考察」という難しげな論文の原稿が置いてある。松本兵曹長はそれを見て「ほう、機関長ともなればこげえな研究もせんといけんのですか」と感心する。

「これだ」

と機関長は論文をどけるとその後ろの箱を引き寄せた。そしてふたを開けた瞬間機関長は「あれっ!」と声をあげていた。松本兵曹長が驚いて「どうされました機関長?」と尋ねると機関長はちょっと顔色を変えて、

「ない・・・消えている。この中にしっかり入れてあったのに」

と声を震わした。松本兵曹長は「まさか、盗まれたと・・・?」と言ってから「すぐに機関の手すきから集めて事情聴取しましょう。犯人が居るかもしれませんけえ」というとあっという間に部屋を走り出た。

あとに残された浜口機関長は「妙だ・・・どうして?」とその太い腕を組んで考え込んでいる。

 

松本兵曹長は機関室や缶室の手すきを集めると「機関長への贈り物を盗んだもんは居らんか?今なら許すけえ、正直に出てこんか」と言ったが皆一様に「やっとりません。いうか機関長のお部屋に行くひまなんぞありやせん」と却って反発も招きかねない表情になる。兵曹長も「うむ、確かにうちらには暇な時間はないしのう。みんな交代時間には居住区で寝よるから、そげえなことをする暇もなかろう」と思い直した。

「で、兵曹長」と椿於二矢子兵曹がおずおずと尋ねた。「なんじゃ、椿兵曹」という松本兵曹長へ

「機関長への贈り物、言うて大きいものですかのう?こまいものですかのう?」

と椿兵曹は尋ねた。松本兵曹長は「大きい言うたらほりゃあ大きいで。でもな、畳んで来たけえこの程度の大きさじゃと機関長は言われたが」と言って畳んだ大きさを両手でしめして見せた。

椿兵曹は「ほう、ほいじゃあたとえば服の中に隠していうんも無理ですね・・・ふーむ」と考え込んだ。兵曹長は「ともかくじゃ、誰かからそげえな話を聞いたらすぐに俺に言うて来い。ほいでこの話をここに来られんかった連中にも言うておいてくれ。浜口機関長はえらいお悲しみじゃけえな」というと走り出した。

椿兵曹や他の兵員は「困ったのう、誰の仕業じゃろう」などと言いながら持ち場に帰り、仕事中の仲間に伝えたのだった。

 

外ではまだ、低気圧による暴風雨が吹き荒れている――

 

            ・・・・・・・・・・・・・

 

いったい何が消えたのでしょう?大体浜口機関長は何を内地の憲兵隊嬢からもらったのかもわからん・・?そして爆弾低気圧に翻弄される麻生分隊士とオトメチャンはどうなるのでしょう?

次回をこうご期待!

『海軍機関学校校歌』を見つけました。


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ウダモさんへ

ウダモさんこんにちは!
嵐の中の抱擁・・・憧れますね!すさまじい嵐の中屈強な男性に抱きしめられて守られたい。これはきっと女性の永遠の憧れかもしれませんね^^。

デビルマン、いいかも!!しっかり抱きしめてくれますよね♡
わたしはそうですねえ~~~やはり「山口多聞さん」・「森下信衛さん」にぜひお願いしたいです。が、きっと「いやだ!」と逃げられるでしょう(-_-;)。

ロマンチック路線もいいかな~と思いつつ解決編では結局おバカ路線に軌道修正?なのであります。が、きっとまた素晴らしいロマンチックなお話を書きます!!

No title

嵐の中の二人を見ていて、自分だったらどんな男性に抱きしめてもらいたいかなぁ…うひひ♪…とかなんとか、想像しながら読んでいましたw
(今のところ、デビルマンかファイナルファンタジーのセフィロス様)←

そういや、嵐の中の抱擁って女性の憧れかもですね~^^b
鉄板すぎるけど、これだけは時代が変わろうと、やられて怒る女性はいないと思いますよw
ただし、好きな人に、ですけどね(笑)

なんだかここ最近、ろまんちっくすぎてドキドキしながら読んでますw
オトメちゃんの初めての時とか思い出しながら読んでますw
⇑思い切りヨコシマでスミマセンwww

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
浜口と言えばあのかた・・・ww!
天辰と言えば字は違いますがあの方・・・w!

オトメチャンと分隊士の愛は不変です!何があっても離れません。そんな一途な愛・・・うらやましいですよね^^。

畳んでこのくらいの贈り物は・・・いったい何でしょうか、ご期待を!

No title

おはようございます

浜口……、誰かと思えば!! 天辰……、これまた!!

オトメチャン、大荒れの天気の中とはいえとっても幸せそうですね。相思相愛って羨ましい。たとえ嵐が来ようともふたり手と手を携えてどんなことでも乗り越える。やっぱり羨ましい!!

さてさてどんな贈り物だったのでしょうか。畳んでこれくらいとは??


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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