2017-09

「女だらけの戦艦大和」・軍医長たちの挽歌2<解決編> - 2013.05.05 Sun

翌朝、飯がすむと軍医長以下衛生科員は内火艇やランチに分乗して上陸して行った――

 

それを防空指揮所から見ていた見張兵曹は双眼鏡をつかんだまま「ありゃ、あれ日野原軍医長じゃ。何処行くんじゃろうねえ。大勢で内火艇に乗っとりんさるわ」と言った。小泉兵曹が「どれ」とやってきて「おお、ほうじゃのう。あがいな大人数で何しに行きよるんじゃろ?」と首をひねった。

石場兵曹も囲いから乗り出すようにして内火艇とランチの後に視線を走らせ、

「なんじゃ・・・えらい大荷物も積んどるのう。もしかして」

と言って目を閉じると腕を組んだ。見張兵曹が「もしかして、なんじゃとお思いです?石場兵曹」と尋ねた。石場兵曹はその<暗黒の一重まぶた>を重々しく開くと白目をむいて、

「あれは大宴会ですね。医務科の大宴会じゃろうきっと。大荷物は菓子だの酒だのいろいろ持って行ってじゃ。きっと絶対そうじゃわ」

と言った。見張兵曹も小泉兵曹も「だ、大宴会かね!?」と声を上げた。石場兵曹はまだ半分白目をむいたまま

「そうです。大宴会です・・・普段なかなか一同に会して宴会のひらけない医務科の皆さんの為に、きっと艦長の思し召しでしょうね。だから皆さん、見て見ぬふりで笑顔で見送ってあげんさい。楽しんでいらっしゃい、と」

そう言ってやっと普通の目に戻った。見張兵曹も小泉兵曹も小さくなった内火艇に視線を当てて「愉しんでらっしゃいませー」と小声で言ったのだった。

 

さてその『大和』からの内火艇の中で、日野原軍医長は昨日よりさらに浮かない顔でいる。畑軍医大尉は「日野原軍医長、もうこうなったら腹をくくりましょう。助手は私が勤めますから、一蓮托生。死ぬも生きるも一緒です。頑張りましょう」

と言って軍医長を元気づける。その周りで他の衛生科士官たちが気の毒そうな顔で見つめている。百川軍医中尉がすまなそうに、

「畑大尉・・・私は来年こそそのお役目いたします。ですから今回私は見学ということで同席してよろしいでしょうか。手を下せないのが残念ですが」

と尋ねる。畑大尉は声を励まして「おう、助かるぞ。来年からは百川中尉と私で出来れば軍医長のご負担が減らせるからね。しっかり見ておくんだよ」と言った。軍医長はまるで死にに行く前のように悲痛な表情でいる。

 

そんな光景は『武蔵』からの内火艇でも。

村上軍医長は朝から「胃が痛い」と言って食事をとらない。黒村大尉が心配して「では軍医長、お背中を押しましょうか」と軍医長の背中、胃の裏側あたりを指圧する。うう~、気持ちいいなあと唸る軍医長に黒村大尉は

「来年は私が軍医長の代わりを務めます。そして私の代わりを中島中尉に。さすれば軍医長のご負担は軽くなるであります」

と言って慰める。村上軍医長は青ざめた顔をあげると黒村大尉を見つめほんのり涙ぐんで、

「ありがとう黒村君。あれは他の衛生兵には簡単にさせられないのが痛いところだ。早いところ下士官たちにあの技術を仕込んでおきたいものだね」

と言って「うう・・・」と唸った。そうとう胃が痛むらしい。黒村大尉は彼女の背を押しながら「軍医長・・・御いたわしい」とこれも涙ぐむ。そしてキッと顔をあげると、

「軍医長、この夏までにあの技術を下士官に仕込みましょう!」

と宣言した。村上軍医長はうつむいたままであったが「そうだね黒村君。そうしよう、そうしよう」と苦しげに言う。

内火艇は軽快に海上を走ってゆく。

 

その頃、トレーラー水島の艦隊司令部の前庭に大勢の人が集まっている――

 

上陸場に、各艦艇からの内火艇・ランチが終結し軍医長たちが次々降りてゆく。衛兵所を通過する際、衛兵所長が気の毒そうな、そうでないような・・・実に複雑な表情で一同を見たのが印象的である。

『大和』の日野原軍医長はいつもの快活さが消え悄然として歩く。『武蔵』の村上軍医長も背中を黒村大尉にさすられながら歩き、『矢矧』の神木軍医長・『朝霜』の浅野軍医長他もうなだれている。そして衛生士官たちはその後ろを神妙な顔であるいてゆく。罪人が死刑台に向かって歩くようにさえ見える。

そしてランチから降り立った衛生兵曹・衛生兵たちは大きな荷物を抱えたり衛兵所で借りて来た大八車に乗せて引いてゆく。士官以上とは違って下士官以下の彼女たちは何処となく楽しげで遠足気分である。なぜなら彼女たちは、軍医長たちの心のうちまで読むことはできないからだ。

 

やがて一行は艦隊司令部に着いた。門の前の衛兵に敬礼され、一行は前庭に入った。果たして前庭には大きな天幕が張られその前には大勢(・・)()男性(・・)たち(・・)()待って(・・・)いた(・・)

 

そう。これが「あの(・・)()」の光景。

今日は年に一回の「性病検査」。女兵士たちと遊ぶ場所に働く男性たちに義務つけられた全員の検査で、これにはいつからかトレーラー碇泊の艦艇の軍医が当たることになっているのである。性病検査とは言うがそれだけではなく内科の検診もある。それらは医師の免許を持つ士官が主にあたり、衛生兵や下士官が助手に当たる。男性たちは最初に内科の検診を受けた後、真打ちの性病検査を受ける。まず彼らは軍医長と助手の尉官の前で素っ裸になり尻を向ける。

軍医長は彼らの尻を見て痔疾患がないか診察する。そのあと――。

 

さあいよいよ年に一度の通称・性病検査が始まった。軍医長以下は白衣を身につける。

男性たちは番号札を手渡され、その番号に従ってそれぞれ仕切られた部屋に入る。軍医士官に内科検診を受けて、異状なしのものから次の部屋で軍医長に尻を見せることになる。

 

『大和』日野原軍医長は、畑大尉を助手にして男性の尻の穴を検分した後「よし。痔はないね、それでは」と言った、するとやおら男性は前を向き、彼のイチモツを軍医長に御開帳した。日野原軍医長はちょっとだけ顔をしかめると

「そんなに突き出さんでもいい。普通に立ってなさい」

と軽く叱って、手術用のぴったりとしたゴム手袋をつけると彼のモノをガーゼに包むようにして手に取った。畑大尉の顔もしかめられ、日野原軍医長の顔はさらに歪む。

軍医長の手が男性のものをグイッとしごいた。男性が「うっ!」とうめいて畑大尉が顔を横に向けた。日野原軍医長がガーゼの中を確かめてから「はいよし!もういいぞ。早くしまいなさい」と言ってこれも横を向いた。男性は痛みをこらえる顔で「ありがとうございました」と言ってパンツをさっと穿くと出て行く。

日野原軍医長も村上軍医長も・・・駆逐艦の軍医長たちもこの作業をさせられた。一体何人の男性の尻の穴を見つめ、イチモツをしごいたことだろう。

(仕事とはいえ・・・どうして私が男のアレをしごくんだ?やはりこれは正直嫌だ)

皆そう思ってはいるが露骨に顔には出せないで粛々とその作業をこなす。午前中早い時間から始めた検診ではあるが、昼の休憩をとるころには軍医長たちの右手はすっかり感覚を失うくらいになっていた。

そんな軍医長たちを尻目に衛生兵曹や兵たちは「ええなあ、軍医長は。男のアレをつかめるんじゃろう?しかも白昼堂々とじゃ。ええのう」と全くベクトルの違う感想を持っている。たんに掴むだけならどれほど楽な仕事だろう。そうではないから軍医長たちは鬱々としているのに。

と、一人が不思議そうな顔で、医療用具の箱の中からガラスの細長い棒を引き出すと神木軍医長の前に突き出し

「神木軍医長。これはいったい何でありますか??」

と尋ねた。神木軍医長は思いっきりいやな顔を作るとその衛生兵に向かい、

「それはね、男性の()に突っ込んで治療をする棒だよ。ガラスの先に薬を塗ってだね、それを突っ込んで治療するんだよ」

と教えてやった。衛生兵はさらに「突っ込んで、ですか。はあ~、痛そうですねえ。で、それは一体何の治療でありますか」と聞いて来る。神木軍医長に代わって村上軍医長がちょっとだけやけっぱちな感じで、

「淋病だよ淋病。あれは厄介な病気だからね、治療も厄介だよ。まあ最近はこれ使ったことないけどね、それだけが救いだわ全く」

と言った。衛生兵嬢はガラス棒を眼の前に持ってきて眺め、指先でひねくりまわして「ふーむ、そうですか・・・」と感慨深げにうなった。

そしてそのあと皆は、艦隊司令部が用意してくれた弁当を食い、さらに午後の検診を行ったのだった。

 

一六〇〇(午後四時)、ようやっとすべての男性の検診が済んだ。日野原軍医長はすべての軍医長を集めて「今日はご苦労だった。内科の方はこれから結果を出すが性病に関しては心配あるものはいなかった。ガラス棒をつかわなくて済んだのが幸いだった。お疲れ様」と訓示。そのあと衛生兵嬢たちを集め、

「皆ご苦労であった。慣れない作業をしたものもあったと思うがこれが我々の任務の一つでもある。また来年行うがその時はまたよろしく。お疲れであった」

と訓示し皆帰途についたのだった。

道々、衛生兵嬢たちは言ったものだ。

「男のあれをじっくり見られる軍医長はいいなあ。私たちは上半身だもの。明るい場所であれを見られるなんていい眼福だよね」

それを聞きつけた黒村大尉は(実態を知らないから言えるんだよ。アレをグッとしごくなんて全くいやな仕事だよ。時に何を勘違いしたかデカくなる奴だっているしさ。もし膿なんか出てきたらと思うとぞっとするね。・・・でも私来年はしごき役だ。ああ、何事もありませんように)と祈ったのだった。

 

『大和』他各艦艇へ戻る医務科の皆、特に軍医長の背中と右手には大変濃い疲労が漂っていたのだった。

そして、長妻兵曹と小泉兵曹は松本兵曹長の部屋に呼びつけられ兵曹長の「一番感じること」、つまり「機関の音の異常とそれに関する原因」についてを長々と聞かされたのだった。しかも、正座のままで。

医務科の皆を乗せたランチや内火艇はそれぞれの艦へと走ってゆくーー

 

          ・・・・・・・・・・・・・・

 

いやはや大変な思いをした軍医長たちでした。役得と思うのは下士官や兵だけ!じったいをしらないからこそでしょうね。まあ確かに病気の検査でアレを・・・というのは嫌ですな。

実際の海軍でも性病対策はしっかりと講じられたようです。淋病なんぞにかかるとアレにガラス棒を突っ込まれ地獄の苦しみだったとか???

日野原軍医長、そんな風景を見なくて済んでよかったです。 

日野原軍医長のモデル、聖路加国際病院の日野原先生です!(画像お借りしました)。
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● COMMENT ●

性病 検査キット さんへ

性病 検査キット さんこんにちは
>人に言えない事件
なんでしょうw?人に言えないけどそれとなく知らせたいってことはありますね^^。

過去記事へを読んでくださってありがとうございます、またぜひいらしてくださいませ~!

No title

ホントに共感出来る内容だったので、ちょっとメッセージつけちゃいますね。

先日、私には人に言えない事件が起こりました。
これは私の心の中だけに留めておいてお墓まで持って行くつもりです。
それならコメントなんて入れる必要ないじゃん!と思われるかもしれませんが、コメントだからこそ書きたくなりました。

ちょくちょく訪問させてもらいますね。
更新を楽しみにしています!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
ウホウホ、男性の検査でした~♡ 軍医長たちは女性で、女兵士の健康診断では平気でも、男性のものを白昼堂々と見つめる、握るとなるとこれは・・・ですね^^。

尿道カテーテル。
私もお産の後したことがありますが痛いですね・・・泣。女でもかなりな痛さなのに男性なら・・・!お察しいたします・・・。
そうですね、カテーテルよりおむつのほうがよろしいかと私も思います。
痛みに身をよじって・・ではあまりに哀しいです。

でも・・・「死んでゆく」のはまだまだずっと先ですのでね、にいさま!

日野原先生大変ご高齢でありながらはつらつと診察なさっていらっしゃる。私はその爪の垢を煎じてわが父親に飲ませたいくらいです・・・。

No title

ははは。やっぱり!!
でも、てっきり女性陣の方の検査とばかり思っていました。確かに禁断の世界ですもんね。男のなんてと敬遠するのも当然かと。
でも尿道にガラス棒なんてと思うと同朋ながらゾッとします。自慢じゃありませんがこの私。胆のう摘出手術のあと尿道に突っ込まれていたカテーテルの激痛で麻酔から目が覚めたのです。ですから万が一にでも倒れることがあってもカテーテルよりもオムツをと息子たちに申し渡しております。あんな異物をあんな粗末なモノに……。チ〇チ〇の痛みに苦しみながら死んでいくのはご免です(笑) 末代までの恥になりますわ!!

日野原先生のお顔を見るたびに心が癒されます。まさしく医は仁術ですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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