「女だらけの戦艦大和」・花びらの向こうに|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・花びらの向こうに

2013.03.31(01:13) 652

アリューシャン列島を守備する「北辺艦隊」の一部の艦が交替の艦を迎えて、補修と乗組員の休養を兼ねて南下し、択捉島・単冠(ヒトカップ)湾で経由で横須賀にやってきた――

 

その中のある重巡洋艦の乗組員の岩崎少尉は、南下するに従ってその色を微妙に変える海と空の色に見入っていた。(内地はきっとすっかり、春ですね)と思う。その通り、日本列島を北から南に行くに従い、対岸の本州の景色が春に染まってゆく。

北海道、まだちょっと春には遠い。

三陸、そろそろ春がきそうな岸の緑。

福島・茨城、遠くに見えるのは梅の花だろうか?

岩崎少尉は艦橋で、見張りの双眼鏡を借りた。内地の様子が見たくなって矢も盾もたまらなったからだ。艦橋要員の太田兵曹は双眼鏡の場所を岩崎少尉に譲ると、

「今年は春が早いと聞きましたから房総沖に出ればもしかしたら桜が咲いているのが見えるかもしれませんよ?」

と言って嬉しそうに笑った。大田兵曹も他の乗組員も久しぶりの内地、それも春爛漫の内地に戻れるとあって心浮き立つのも当然だろう。アリューシャン列島のような極寒の地での勤務は正直つらい時もある。すさまじい吹雪の時もあれば一面霧に覆われ何も見えない時もある。それでも一瞬でも気が抜けないのだ。

鳴神島(キスカ)島、熱田(アッツ)島の両島には帝国海軍の守備隊が基地を作っており、列島のアダック島までは日本海軍が制覇しているがそこから先はまだアメリカとのにらみ合いが続く緊迫の海である。そんな中なので時折交替の艦が来るとほっとするのも当たり前だろう。

今度の内地滞在は少し長いものになるかもしれない、と少尉のそばで艦長が言った。ほんとですか?と尋ねる兵曹に艦長は、「この艦も新しい特殊塗装をするからね、その準備もあるから今回は長くなる。交替で来た艦隊も前に出て行ってからずいぶんかかったでしょう?あれは塗装に時間がかかったからだよ」と教えた。

大田兵曹は「そうですか、それなら思う存分内地の櫻を楽しめますね」とうれしそうに言い、艦長もうなずいている。

が、岩崎少尉の表情はすぐれない。(桜か。桜の季節は私には気分が重い季節だ)と思っている。岩崎少尉は後ろから肩をそっと叩かれて振り向いた、同期の高田少尉が「交代だよ岩崎少尉。・・・どうしたの、顔色悪いが?」と心配げに言ったが岩崎少尉は「平気平気、では、願います」というと居住区に降りる。少し、艦が揺れる。海が荒れて来たのだろうか。

 

巡洋艦の舳先が波を勇ましく切り、左右の随伴の駆逐艦や軽巡が遠くに見える。さらにその後ろに空母「凡鷹」が向かってきているのがわかる。堂々たる北辺艦隊の一部である。

眼を右舷側に転じれば懐かしき内地の岸が見え、もしかしたら大きな声でも出したら誰か気がつくのではないかと思うくらい、近く見える。

 

ガンルームで岩崎少尉はため息をついて椅子に座った。思い出したくない思い出が、否応なく胸の内を去来した・・・

 

岩崎ヒロ少尉は関東のとある場所の生まれ、6歳離れた兄と四つ下の妹との三人きょうだいである。ヒロは兄と仲がよくその友人とも仲良くしてもらったのだがそのうちの一人、折田とは特に相性がよく、学校に上がってからは勉強も見てもらうようになった。折田は、粗雑な兄の友人であるというのが信じられないほどのおとなしく、礼儀正しい少年であった。女きょうだいがいないという折田は、ヒロを実の妹のように可愛がりまた、ヒロも折田を本当の兄のように慕っていた。

そんな二人が、恋心をもつようになったのも自然の成り行きかもしれない。兄が就職で東京に出てゆき、ヒロが女学校の受験勉強をするのを折田は自分自身も大学受験で忙しいのに良く見てくれた。そして二人して合格するとひそやかな付き合いが始まった。しかし近所の目を気にして、歩く時も数メートル離れて歩く。映画を見る時も席を2,3席離してである。しかし若い二人にはそれが十分楽しく心躍る時間であったことは間違いない。

ヒロが女学校の二年生に上がる時、いつものように勉強を見てくれていた折田は真面目な顔で

「ヒロさん。・・・その、僕は将来官吏になるつもりで勉強しています。大学を出て官吏の登用試験に合格したら、ヒロさんは私と一緒に東京に来てくれますか?」

と言った。実質、求婚である。ヒロはそれがわからぬような鈍感な娘ではないからほんのりほほを染めると、

「はい。折田さんと一緒なら私、どこでも行きます。連れて行って下さいますか」

と言った。折田はうなずいて「では約束、一緒に行きましょう」と言って二人は微笑んだ。その後、二年して折田は官吏の登用試験に合格した。ヒロも、女学校を後一年残してはいたが「やめてでも折田さんと一緒になる」と決意していた。

が、折田は「ヒロさんはせっかく入った女学校を一年残してやめてしまうのはもったいない。僕はヒロさんと結婚したいので婚約しておきたい。その旨をヒロさんのご両親にお伝えしたい」と言った。確かにそう言わないと父親も母親も納得はしないだろう、ヒロも「では折田さんのお考えに合わせます。一年なんてあっという間ですものね」と納得した。

そして、桜花爛漫のあの晩。

折田はヒロの家を訪ね、父親の前に両手をつき「大学を終え、このたび官吏登用試験に合格しました。そしてもうずっと前前から考えていました、ヒロさんを私の嫁にいただきたいのです。本当は今すぐにでもと思いますがヒロさんもまだあと一年学校が残っています、卒業したらぜひにも」と平伏したまま言った。その横でヒロも居住まいを正して頭を下げている。

父親は二人をじっと見つめた。ヒロはそっと顔をあげて父親の顔を見た。隣では折田がまだ平伏したままだ。

と、ふうっと父親が息を吐いた。そして抑揚のない声で

「早すぎる」

といいさらに、

「そんな若くて結婚でもなかろう」

と言った。ヒロが「あの・・・」といいかけたのを遮って父親は

「折田君、官吏の試験に合格したと言っても君が本当に一人前の官吏になるまでにはまだ何年もかかろう。半人前に娘をくれてやることは出来ん」

というと立ちあがろうとした。ヒロは思わず、「そんな言い方、折田さんに失礼ですお父さん!」と叫んでいた。折田が頭をあげてヒロの片手をつかんで制した。が、ヒロは半泣きになって「お父さんは折田さんのことをずっと前からよくご存じのはずでしょう、なのにどうしてそんな・・・」と言ったが父親はもう聞く耳を持ってはいなかった。

そのまま座を立つと、次の間に消えて行った。

「ひどい、ひどいわ。お父さんたら・・・」

ヒロの号泣が部屋に満ちた。

 

それからしばらくして、折田を送りに出たヒロは先を歩く彼の背中を見つめていた。桜が満開でその枝の間に満月がかかっている。月明かりに櫻が壮絶と言っていい美しさを見せている。折田はその桜を見上げもせず歩く。

(折田さんを怒らせてしまった、もう駄目になった)

急にヒロの胸にせつなさと悲しさと、折田への愛おしさが募ると彼女は折田の背中にしがみついて、

「ごめんなさい、ごめんなさいね折田さん・・・あんな言い方、折田さんに失礼だわ」

と言ってむせび泣いた。折田の歩みが止まってヒロはその背中にしがみついたままで泣き続けた。しばらくして折田はヒロに向き直り、ヒロをしばらく見つめた。そして、

「いや、お父さんを責めたらいけないよヒロさん。お父さんのおっしゃることは尤もだろう・・・確かにそうだね、まだ海のものとも山のものとも付かないくせして娘をよこせ、なんてとんでもないことだよね」

と優しく言った。ヒロは涙を手の甲で拭きながら

「私、折田さんと東京に行きます。あの家を出ます。どうか、連れて行って・・・私、わたし折田さんが好きだから、離れたくない。お願いです」

と懇願した。もう、あの家には居たくない、父親の顔を見たくないという激しい感情がヒロを支配していた。が、折田は優しくその肩をたたくと

「ヒロさんはちゃんと勉強して学校を出てください。それがあなたの幸せの一歩になるでしょうから」

と諭した。が、ヒロは「私の幸せは、折田さんと結婚することしか考えられません」と食い下がった。そのヒロに折田は、

「少しだけ、少しだけ僕たちも冷静になって考えましょう」

と言って「さよなら」というと桜の花咲く道を走り去っていったのだった。彼の後ろ姿に桜の花びらが降りかかった。

ヒロはそれを「別離」の言葉と受け取った。春の夜風が、ひろの体を吹き抜けて行った。
すべてに絶望したヒロは女学校を退学し、「海軍兵学校へまいります」と宣言し一年後海軍兵学校の生徒となっていた――

 

(あの晩の櫻はことのほかきれいだった)

岩崎ヒロ少尉はそこまで思い出すと少し涙のにじんだ瞳を天井へ向けた。もう少しで涙がこぼれ落ちそうだった。

 

そして巡洋艦他は懐かしい横須賀に帰って来た。桜は満開で出迎えてくれた。皆は大喜びで、艦長以下甲板に整列して桜と内地の風景を瞳に焼き付ける。そのあと艦内の点検などを済ませた後、半舷ずつ休暇が出される。

岩崎ヒロ少尉は休暇が出ても家には帰りたくないと思い(ではどこで暇をつぶしたらいいのか)としばし途方にくれる思いでランチに乗り込んだ。波を蹴立ててランチは海面を走り、上陸場に着く。うかない顔の岩崎少尉が最後にランチを降り、衛兵所を敬礼で通り過ぎたその時。

「ヒロさん」

と声をかけられた。懐かしい声に岩崎少尉が落としていた視線をあげるとそこには――

なつかしい折田が微笑みながら立っていた。昔よりずいぶん男前になったみたい、もう立派な官吏の姿。そして彼は

「待っていましたよ、ヒロさん。今日はいい知らせ、あなたのご両親からお許しをもらってきましたよ。あの後冷静になって考えましたがやはり私の伴侶はあなたしかいない・・・」

といい・・・岩崎少尉は滂沱としてあふれる涙を隠すこともしないで折田の胸に飛び込んで行った。

桜の花が春の風に揺れ、花びらが二人を祝うかのように舞い散った。

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

切ない恋の話、それも別れの!?と思ったらこのような意外な結末でした。岩崎少尉、末長い幸せを^^。

この歌のモチーフは「春おぼろ」(岩崎宏美)です。



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コメント
オスカーさんこんばんは!
桜が咲くのが早すぎたような気がしますね(-_-;)。散り出してからこんなに寒くなって、もう悲しい~~~!

今回の話、たまには哀しい結末にしようか迷ったんですが春に悲しい話なんて嫌だなあと思ってハッピーエンドにしました。モチーフにした「春おぼろ」の歌はちょっと悲しい結末のようですね。

なんと、オスカーさんの兄上も出版社にいらしたことがおありでしたか!すばらしい!
「ランナーズ」!
スポーツ雑誌の棚に行くとどかんと目につくとこにおいてありますよね!今やメジャーなスポーツ、マラソン・ジョギング!!
私も中学の時少しやりましたが一ヶ月でリタイアしました・・・ホホホ…(-_-;)
【2013/04/02 21:08】 | 見張り員 #- | [edit]
こんにちは。今日は雨で寒いですね~本格的な春はまだ先かしらん…と思いますが、物語は春爛漫、幸せ満開!!花びらの向こうに愛しい人の姿が見える…!!私はてっきりお互い誤解しあったまま再会してムダな年月を過ごしてしまった…のカナシイ結末になるのでは…ウウッ!!と思っていたので、予想を裏切られ嬉しい展開でした!!
話はかわりますが、ウチの兄も出版社にいたことがあります。今はマラソン雑誌もたくさん見かけますが「そんな本は本当にあるのか?」と両親と話していました。田舎だから売ってなかったんですよ、『ランナーズ』という雑誌(笑)
【2013/04/02 09:07】 | オスカー #- | [edit]
まろゆーろさんこんにちは!
えへへっ、読まれちゃいましたね^^。
でもなんだかこの時期あまり悲しい話を書きたくなかったんです。二通りくらいほかに結末を考えていたんですが、やっぱりこっちにしました。
先に希望がないなんて、あまりに悲しすぎますものね。

アッツ島の守備隊の写真を見たことがあるのですが、兵隊さんがた背景に雪がしっかりある中で笑いながらおにぎりを食べていました…(-_-;)私は絶対、北はだめです。虫がいようがマラリアにかかろうが・・・南方がいいです!!

明日から四月、早いものだと思います。新年度ですね。こちらこそまたよろしくお願いいたします。
急に寒くなった東京です、そちらはいかがですか?御身大切になさってくださいね^^。
【2013/03/31 12:43】 | 見張り員 #- | [edit]
北上の桜に逆らうかのような重巡洋艦の南下。桜が逆戻りするのにも似ている岩崎少尉のつらい思い出。

ふふふ。私は見張り員さんのマジックに引っかかりませんでしたよ。咲き誇る桜が笑みをたたえるようにして祝福するような結末を必ず見張り員さんはこしらえて……、待っていると!!
横須賀の満開の桜と自信と希望に溢れた折田さんの晴れがましい姿……、やっぱり見張り員さんは用意していましたね。
錆びかけていた私のシックスセンスがドンピシャ!! 

それにしてもさすがに見張り員さんですね。南洋どころか北までしっかりとおさえていらっしゃるとは!!

さてと、明日からは4月です。今月もありがとうございました。来月も宜しくお願いします。そうそう、まずは体調管理に精を出して下さいね。頼みますよ。
【2013/03/31 10:05】 | まろゆーろ #- | [edit]
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