2017-10

「女だらけの戦艦大和」・手紙<1>惑乱 - 2013.02.21 Thu

常夏のトレーラー環礁にその身を浮かべる「女だらけの大和」他の艦艇に、今日内地からの便りを持って輸送船がやってきた――

 

それぞれの艦に仕分けされた手紙や慰問品が、はしけに積まれて『大和』にやってきた。それを手すきの乗組員たちが総出で受け取り、各分隊ごとに仕分けしてゆく。大きく膨らんだ慰問袋やはちきれんばかりの封筒。びっしり細かい字で書きこまれたハガキ。それに小包。

各分隊ごとに仕分けされたそれは、担当者によって分隊に運ばれて行く。艦長や副長、参謀長や各科科長にはそれぞれの従兵が持って行く。見張兵曹も一応「艦長従兵」の肩書があるので今日は艦長のもとへと手紙の束や慰問品と思しき小包を抱えて持って艦長のもとへ。

梨賀艦長は「おお、オトメチャン。ありがとう」と喜んで、駄賃の代わりに大きな羊羹をくれた。見張兵曹は「艦長、私はこのようなものをいただいては・・・」と言ったが艦長は至極ご機嫌で

「いいのいいの。取っておいて。いつもオトメチャンには厄介掛けてるからね」

と言って笑った。見張兵曹はそこまで言われて断るのも、と思い「ではありがたく頂きます」と言って大きな羊羹を胸に抱えて艦長の前を辞した。艦長室のドアが小さな音を立てて閉まった。

艦長は手紙と小包を抱えてデスクの前に走っていって、その上に置いた。手紙の差出人を確かめると、懐かしい子供たちからである。小包は艦長の母親と姉妹からで、手紙はもちろん、手作りの干し柿、干し芋や内地の面白い雑誌、そして家族の写真ほかたくさんの品物。

(母さんたちには、子供を任せきりで迷惑をかけてるというのに)いつも何かしら送ってくれるのが少し心苦しいが内地の匂いのする小包はやはりうれしい。艦長は顔をほころばせてまず、封筒を手に取った。子供たちの連名できている。(末っ子もずいぶん字がうまくなったな)と思っていよいよ嬉しい。

封を丁寧に切って中の便せんをそっと引き出した。薄桃色の便せん、それを開くとまずは長男の文字。国民学校を来年卒業する長男は、書く文字も大人びて、文章さえ少し背伸びしているようで思わず微笑みが浮かぶ。

(「母上」、かあ。ずいぶん背伸びをしたもんだね)と笑いながら読む。この正月に起きたことが細かに書かれていて思わず引き込まれた。懐かしい我が家の風景が脳裏によみがえった。庭のつくばいの中を泳ぐ赤い金魚、それを見て手を叩いて喜んでいた小さなころの長男の姿が浮かんだ。

他の二枚は長女と次女のもの、まだ幼い二人は「おかあさん」とつたない文字の横に艦長の似顔絵を描いてきた。ふふっ、と艦長は笑った。(二人とも私を忘れないでいてくれてる・・・)と艦長は泣きたくなった。出来るならこのまま内地まで飛んで帰って、子供たちをまとめて抱きしめたい。前に内地に帰った時子供たちを抱きしめたあの感触が腕に、胸によみがえってきた。

梨賀艦長は小包や手紙を自分の前に引き寄せると、その上に顔を伏せて泣いた。せつなさがどっと胸にこみ上げ、艦長は声を殺して泣いた。

 

野村副長も従兵から内地からの手紙を受け取っていた。デスクの前に座り、(一体誰だろう)と差し出し人を見れば母親からである。何かあったのか?と手紙にしては少し張りのある封筒の口を丁寧に切って中身を引き出した。便せんとともに、薄い紙に包まれた何かが一緒に出て来た。ふん?と、まず手紙を開いて読む副長。読み進みうちに段々その顔の喜色が萎えて来た。そして薄紙に包まれたものを手にとって薄紙を開く。中身を見た副長、

「来たか、・・・もう私はいいというのに」

副長は大きなため息をついてそれをデスクの上に放りだした。放りだされたものは一枚の男性の写真。見合い写真である。副長の母親は「次子ももういい歳ではないですか?いい加減に結婚だけはしてください。どうか今年は真剣に考えるよう。老いた父母を安心させてほしいのです。写真の方はとても良い人で、次子の仕事のことを十分理解してくれた上で見合いをしたい、と言ってくれています。次回はいつ内地に帰ってきますか?その時は絶対見合いをしてください・・・」と書いてきた。

副長はふてくされたような顔でベッドに行きドスンと音を立てて寝転がった。そして天井を厳しい目つきでにらみながら、

(前の時も同じ文面だった。私の仕事を理解云々と言ってながらあの時の男は私が軍服を着て行ったら文句をつけて来たっけ。見合いの席ですよ、とか言って。私は軍人だ、海軍軍人だから軍服を着て行って何が悪いというんだ。またそう言う奴に当たったらと思うと、金輪際見合いなんぞしたくない。私はまだ若いもん、結婚云々言うなら参謀長の方が先だね)

と思った。あれこれ考えていたら眠気に襲われた。が、(いかんいかん。まだ運用科との打ち合わせがあったっけ)と起き上がりデスクの上に散らばった手紙を封筒に入れて引き出しに放りこむと部屋を出た。

 

森上参謀長への手紙は、石場兵曹が届けた。参謀長は「おっ、ありがとう!」と言って石場兵曹にチョコレートを差し出した。恐縮する兵曹に「いいから取っておけ。一人で食えよ」と言って兵曹の防暑服のポケットにねじ込んだ。

参謀長は「いったいだ―れだ、私に手紙をくれるのは?」と少し浮き浮きした声でひとりごちた。もしかしたら、結婚を約束したあの人からかも?と思いつつ差出人を見れば、がっかり、自分の姉の娘からである。

(なんだ・・・しかしいったいなんだろう、珍しい)

と封を切って中を読めば、『兵学校を受験したいのですがどうも成績がたりません。叔母さまのお力で合格させていただけないでしょうか』と要するに裏口入学をあっせんしてほしいという内容ではないか。最初はあきれて口をポカンと開けたままだった参謀長は、つぎに真っ赤になって怒りだし、

「ふざけるな、成績足りなきゃ勉強しやがれ!それでもだめなら海兵団からコツコツ上がって来いっ!」

と怒鳴るなりその手紙をびりびりに破り捨ててしまった。はあはあと怒りで息を切らしつつ参謀長は(全く。どうしてあいつは昔っから楽していい目に逢おうというクサッタ根性の持ち主なんだか!腹が立つ。俺に不正の片棒を担がせようなんて不届き千万だ)と、タバコを吹かしまくった。あっという間に部屋中に煙が満ちた。怒りのせいか、せっかくのタバコもうまくない。

 

花山掌航海長も久々に家族からの手紙をもらった。第二士官次室で、

「どれどれ、何を言って来たのかな?」

と手紙を開いた掌航海長、読むうちにハッと食い入るように便せんを見つめやがて「ええっ!?」と大声をあげた。たまたまその場にいた山本掌主計長が驚いて「どうしたね、花山さん?」と寄って来た。花山掌航海長は便せんをひらひら振って、

「全く、私の留守に私の許しもなく家族がひっこしなんぞしやがって・・・いままでの家が私は気に入っていたのに何だってそういう勝手なことをするんでしょうねえ!?」

と怒りにまかせてそれを床にたたきつけた。山本掌主計長がそれを拾い上げて丁寧に畳むと花山掌航海長に渡した。そして、「事前に相談はなかったのかね?」と聞いた。すると掌航海長は悲しげに、

「いつもそう、いつもみんな私に何の相談もなしに勝手に決めるんだ・・。家の件だってこれでもう二回目。それにね、勝手に見合いを設定されたことだってありますよ!私はこれっぽっちもそんな気もないってえのに、家族が勝手に盛り上がって私をはめようと・・・」

と言ってうつむいた。山本掌主計長は「え!見合い?ちっとも事前に話さえなかったの?」と言って気の毒そうな顔になった。花山少尉は「そうですよ、勝手に結婚させられるとこだったんだからね!結婚してもしも艦隊勤務が出来なくなったら私は堺川に身を投げて死んでやろう、そのくらい私はショックだったんだから」

とブツブツ言った。山本掌主計長は深いため息をついた。(どこにもそれなりに問題があるんだなあ。しかし気に言っていた家を黙って引っ越されたら、ちょっと悲しいな)

花山掌航海長はテーブルの上にうつ伏すような格好になって、「ああ、あの大きな芭蕉の樹・・・小さな池・・・美しかったつつじ・・・!ああもう別の家なんかに帰りたくなーい!」と泣き叫んでいる。

 

その騒ぎを、通りかかって覗き込んだ麻生少尉は(はあ家族だなんだいうてもいろいろあるんじゃねえ。うちはとうに家族から見限られたけえ、手紙も来ん。それはそれでもしかしたら気が楽なのかもしれん。それにしても、花山少尉は気の毒じゃのう)と思ってその場を去ろうとする。その後ろ姿を見つけて花山少尉は

「麻生少尉、待てえ!貴様の意見も聞きたい、この手紙を呼んでうちに感想を言ええ!」

と泣きわめく。こうなったらしばらくはいうことを聞いてやらないとだめだというのを麻生少尉は知っているので「はいはい。ほいじゃあ読ませてもらうけえ、ちいと待って・・・」と言ってテーブルの上にほっぽり出された便せんをまとめてそれに目を通す――。

 

うれし楽しいはずの内地からの手紙も、内容によっては混乱と騒動のもとになるのであった。

では、他の将兵たちはどうなのだろうか?

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

この頃Eメールが幅を利かせているからいわゆる手紙とあまり縁が無くなった感がありますね。でも手書きの文字にはなにか懐かしさが漂います。昔の同級生の手紙、あの頃と変わらない文字だったりすると可笑しさとともに懐かしさがこみあげますね。
手紙というとこの歌かしら!?

 

さて、次回は誰の手紙や慰問品が話題になりますか、ご期待を!


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
靖国神社に行くと遊就館に必ず行くのですが、そこには戦地で書かれた手紙などが展示してあり、その達筆さもそうですが家族を思う心の深さに打たれます。今のようにポストに入れれば必ず届くという時代ではなかったし戦地からの手紙は検閲もあったし、本当に書きたいことが書けていたのだろうかと思う節もありますが、それでも心打たれることは確かですね。

私も昔はよく手紙を書き、相手からの返信を心待ちにしていたものでした。
実家を「結婚」で離れてから祖母からの手紙の数通は今も私の手元にあります。その文字を見ると、祖母が語りかけてくるような気がしています。もう、泉下の人ですが懐かしい。

電話も、携帯とは違ってその場にいないとアウト!な時もありましたね(-_-;)。携帯だとホント、どこにいようとわかりませんもんね…(^^ゞ

かぎコメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
手紙というものを書かなくなって久しくなりました。皆さんそうなんですね、やはりEメールがほとんどになったのですよね。
年に一度の年賀状に「今年こそ」会おうね、と私も書いて書かれて・・・でも一度も叶ってないです。それがさみしいですね。

私も手紙書きたくなりました、昔…高校を出たころクラスメートや担任の先生に手紙書きまくっていたのがうそみたいです。

カーペンターズ、今聴いてもとても新鮮ですね^^。

それぞれに届いた手紙にはそれぞれの出来事や家族のニオイが伝わってきていますね。やはり子供に会いたい思いが一番に堪えますね。
携帯電話なんかもちろんあろうはずもない当時。このやり取りだけが愛する人たちや内地の人とのよすがになっていたのですから今の即行の便利さとは雲泥の差ですね。情緒や余裕が漂っていた時代と言えばそうかもしれませんが。
確かに私の大学生の頃も手紙が主流でした。母や祖母、おばたちからの分厚かった手紙は前回からの空白を埋めるような内容ばかりでした。そのうちに彼女からも来るようになって手紙の到来が待ち遠しかったものです。今でも当時の手紙を取っています。
寮を出て一人住まいするようになってから電話を付けさせられました。遠隔でありながらも親の監視下に置かれたということですね。夜8時にはしっかりとアパートに帰って電話を待ち、9時過ぎには出掛けていましたが。
アリバイ工作の簡単な今の携帯時代のなんと平和なことかと思っています。

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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