「女だらけの戦艦大和」・副長の園3

ある日、トレーラーに「『間宮』型艦船入港―!」の見張兵曹の声が響いた――

 

「おお、来たぞ『間宮』の新型艦!」

トレーラー碇泊中の各艦艇の見張り員が声をあげ、各主計長などは「まだ行っちゃいけないのかなあ~。早く給糧艦の艦長からOKが来ねえかなあ」などと言ってそわそわしている。

そうこうしているうち、「多羅湖」から乗艦OKの信号がでて各艦主計科長および主計科員はカッタ―をを漕ぎい出して「多羅湖」に殺到する。

無論、『大和』の石多主計長も兼ねてから準備してあった通りに主計科員数名とともにカッターを駆って「多羅湖」に血相変えて向かう。他の艦艇からのカッタ―を「どけどけぃ!我々が先に発見したんだ、一番乗りは我々だー」と蹴散らしながら。

そして石多主計長は主計科員を従えつつ他の艦からの主計科員をラッタルから突き落としながら「多羅湖」艦上の人となったのだった。突き落とされた主計科員は全身から海水を滴らせ「ひどいなあ、なんてことするんだろう」とふくれつつもやっと甲板に上がる。

石多主計長は「多羅湖」を見回しながら、

「ふーむ、『間宮』三番艦だけのことはあるな、すべて『間宮』にそっくりだね」

と至極当然のことを言い、主計科員に失笑されたのだった。

 

艦橋では、その様子を艦長の助平得露須が見ている。

艦橋の正面の窓にへばりついて「ふ~ん、主計長と主計科員ね。まあまあだわね、でも私はやっぱり――」と言って、窓に背を向けると「ウフフ。さ―てお楽しみは何時にしようかなあ」とひとりごちて笑ったのだった。その後ろでくすくすと笑う人影が一つ。

 

その日、主計長は羊羹五百本、まんじゅう千五百個を獲得して帰艦してきた。出迎えた副長に主計長は、「まあ『間宮』や『伊良子』とおんなじですね、違うのは乗組員の顔だけです」

と言って副長を笑わせた。梨賀艦長もそばにいて笑っている、そして「今度の艦はなんという名前だったかね?えーと・・・」と考え込む。その時主計長が「「多羅湖」です、三番艦は」と教えてやった。梨賀艦長は「ほう、「多羅湖」ね。しかし妙な名前!」と言って三人は大笑いした。

 

それから一週間後のある日。

トレーラー在泊艦艇の副長あてに「多羅湖」艦長から電報が届いた。

>明後日1700(ひとななまるまる)(17時のこと) 各艦の副長ハ給糧艦「多羅湖」ニ集合サレタシ

それを受け取った各艦の副長は「おいでなすったね。しかし、一体何の集まりなんだろうか?」と不思議がりつつも艦長に許可を取ってその日に備えるのだった。

そして当日、午前の課業がすんだあと『大和』の野村副長は私室に引き取ると箪笥から真新しい二種軍装を引っ張り出した。そしてそれに丁寧にブラシをかけた。誰が招集する集まりで、いかなるコンセプトがあるのかもわからない。が、久しぶりに会える同期の仲間もいると思うと、野村副長の心は弾んだ。たんすの引き出しからそっと化粧道具の入った箱を取り出して見た。

しばらく使っていなかった化粧道具の入った箱のふたを取るとそこにはおしろいや頬紅、口紅に化粧水が鎮座している。心躍るおしろいがほんのり香り、ふふっと微笑んだ副長はそれをいったんデスクの上にそっと置くとまず、顔を丁寧に洗い、歯を磨いた。そのあと防暑服を脱いで髪をとかし、化粧にかかった。「女だらけの海軍規定」で化粧をしていいのは準士官以上となっている。が、準士官でも松本兵曹長は「化粧だあ?そんなもんしてられかって言うんじゃ。うちらは油まみれが化粧がわりじゃ」とそっけないし、浜口機関長は「化粧か・・・化粧で化けて憲兵どもを脅かすのもいいかもなあ、ワハハ、ワハハ」とまともに考えていない。(オトメチャンが早く準士官になればいいのに。そしたら化粧を教えてやりたいなあ)

そう思う副長。

すべてを終えたのは、それから30分程あとである。野村副長は鏡の中の自分を見つめた。(ずいぶんと真面目に化粧しちゃったなあ。こんなにしっかり化粧したのは・・見合いの時以来かしら)苦い思い出の見合いをふっと思い出した副長であったがそんなものに浸っている暇はない。そして新しい二種軍装に手を通した。従兵がきちんとプレスしてくれたおかげで、ズボンの折り目もきっちりして気持ちがいい。

副長は軍帽をしっかりかぶって鏡の前でポーズを取った。(かーっこいい~、なんちゃって。こんないい女をもらい損ねたあの男は馬鹿だねえ。残念でした~だ)そう思ってあの失礼だった見合い相手に心の中でアカンベエをしたのだった。

 

1600(午後4時)になって副長は私室から出た。副長はちょっとドキドキしながら昼戦艦橋に向かう。(化粧なんて久しぶりだし、ちょっと恥ずかしいなあ)と思いながらも、皆の反応が知りたい。副長は足取りも軽く昼戦艦橋に入った。

と、まず森上参謀長がその姿に目をとめた。「おお!副長・・・」と言ったまま動きが止まった。次いで「どうしたの参謀長?」と言って振り向いた梨賀艦長も動きを止めた。野村副長は「・・・ど、どうしたの二人とも」と不安げな顔つきになった。まさか化粧が変なんじゃないだろうか、全く似合ってないとか?

副長の不安が最高潮に達した時、参謀長と艦長がもみ合うようにして副長の前に来た。そして、

「副長、素敵だねえ!とてもいいよ!」

「ツッチー、なんで今まで艦艇―ズでも化粧しなかったの?とてもきれいなのに!艦長感激~!」

と口々に叫んだ。そして副長の手を握って興奮した様子で喚き散らす。何事か、と入ってきた艦橋要員たちも綺麗に化粧した副長を見てはっと息を飲んだ。そして、「副長、きれいじゃわ。あがいに綺麗じゃったとは知らんかったのう」とか「綺麗なんはオトメチャンだけか思うとったが、この『大和』にもまだ居ったんじゃねえ。こげえに身近に居ったなんてねえ」と感嘆の声をあげた。

そんな賞賛の声に包まれながら副長は艦橋を後にした。最上甲板に降りた際、麻生分隊士と見張兵曹に会い、やはり二人とも「副長、きれいじゃねえ~」と声をあげ、松岡分隊長は「副長―、熱くなってますねえ!素敵ですよ、副長も今日から富士山だ」と叫んでマツコやトメキチとともに大騒ぎして副長は恥ずかしくてたまらない。

そこでさっさと待たせてあった内火艇に乗り込んで艇指揮をせかすと「多羅湖」へと内火艇を走らせたのだった。艇指揮の中尉も(副長がこんなにきれいだったなんて)と胸をときめかせている。

そして内火艇は「多羅湖」に接舷し副長は内火艇の艇指揮や漕艇員の敬礼を受けて「多羅湖」へと移っていった。その頃には他艦の内火艇も続々と接舷、副長たちが「多羅湖」へと移乗してゆく・・・

 

「多羅湖」の甲板に上がるともうそこには多くの副長たちが集合している。来た順に整列しているが列を乱さないように気をつけてそっと私語を交わしている。

野村副長もそれらの副長たちに会釈すると列に並んだ。中に同期もいたがここで立ち話はみっともないので互いに目礼する。そこに『武蔵』の加東副長が到着、野村副長の左に並んだ。そして「おお!」と大きな声を出し、「野村さんでしたか、いやーすっごいきれいで見違えましたよ!」と加東副長は叫んでいた。他の艦の副長がこちらを見て笑った。加東副長は野村副長の顔を見つめて、「いやあ、もともと野村さんは綺麗ですからね。それにしても美しいですねえ~、梨賀艦長もお幸せですね~」と感激している。野村副長は恥ずかしくなって「そんなことありませんよ、加東さんだって綺麗になさってるじゃないですか」と言って良く加東副長の顔を見れば化粧が下手なのか何なのか、まるでおてもやんのような顔である。野村副長は下腹に力を入れて笑いをグッとこらえ、

「加東さんも素敵ですよ、それこそ猪田艦長は素敵な副長をお持ちで幸せというものですよ」

と言ってやった。と、加東副長の顔がぱっと輝き至福の喜びに包まれたように見えた。見えた、のではなく加東副長は歓喜に包まれたのだ。野村副長はちょっと驚いた。が加東副長は

「そうでしょうか、そんなに・・・こんな私が・・・」

と言いながら感涙さえ浮かべている。野村副長は、加東副長が猪田艦長に恋をして先だって艦長がその恋を受け入れてくれたという話を聞いたのを思い出した。(そうだったか、それで)と野村副長は納得した。加東副長は問わずがたりに話し出す・・・

 

『武蔵』を出てくる前加東副長は慣れない化粧をした顔で猪田艦長の前に出た。どうも自信がなかった。本当は艦長に見せるのも嫌だったが艦長が「お化粧したら絶対見せて!」と言うので仕方がなく艦長を第一艦橋に訪ねた。すると猪田艦長は「ほう・・・」と感心したように座っていた椅子から腰をあげた。そしてそばに誰もいないのをさっと確認すると艦長は加東副長をそっと抱きしめて、

「副長。きれいですよ・・・どうか他の副長たちにモーションかけられても知らぬふりをしていてくださいね」

と囁いたのだった。加東副長は幸せな気持ちになってはい、というと艦長の防暑服の胸にその頬を当てた――

 

猪田艦長もあまり化粧に関して関心がなかったのか良く知らないのかわからないが、加東副長のおてもやん風の化粧を綺麗だと言ってくれた。でもそれが加東副長の幸せになったならいいわけである、と野村副長はそう思って納得した。

「それは良かった。艦長がお喜びならそれが何より」と野村副長は言い、二人は微笑みあった。

その間にも他艦の副長たちがやってきて、総勢二十人ほどになっていた。巡洋艦の副長の一人が「まだかなあ、随分待たせるなあ」とこぼしたその時、艦橋の方から二人の士官が歩いて来るのが眼に入った。

「来たぞ、あれ艦長だろう」

と誰かが言い、皆は一斉に姿勢をただした。そこに来たのは「多羅湖」の助平艦長。そしてもう一人がこの艦の副長・出庭 果芽(でば かめ)中佐である。彼女は助平の姪っ子である。その二人が副長たちの前に立つと、副長たちは一斉に敬礼。その彼女たちを見て満足げにうなずいた助平艦長は一歩前に出ると「今日は忙しいところ来てくれてありがとう~。あたしが「多羅湖」艦長の助平です。今日あたしがあなたたちをここに招待したのは、普段お疲れの副長さんたちにゆっくりしてほしかったからなのよ!さあ、皆さんさっそくこちらへどうぞ」

とあいさつした。そのあまりに海軍軍人らしくないあいさつに副長連は呆気にとられたが、野村副長は(助平?・・・助平って言えばいつか『大和』に来てオトメチャンを軟禁したあの人の親戚か姉妹か?)と思って少しいやな気がしたが(まあ同姓の人かもしれんし)と思い直し、助平艦長の後に着いてあるきだした。

 

一行は艦内の一室に案内された。そこは『間宮』にもあるような大きな部屋で畳が敷き詰められている。宴会が十分出来る部屋で『間宮』ではよく同期(コレス)会を催す海兵出身の士官たちも多い。野村副長は『間宮』での同期(コレス)会に出たことがなかったので心ときめいた。そっと隣の加東副長を見ると加東も、おてもやん顔を緊張させている。座卓の上にはすでに食事の用意がされている。

「皆さま、どうぞお席にお座りになって」

助平艦長の声に一同は座卓の前に正座した。そこに数名の兵たちが現れると各自の盃に酒をついで回った。助平艦長は皆に酒が注がれたのを確認すると、

「それでは副長会を始めます。どうぞご自由にごゆっくりお楽しみを」

と言って盃をあげた。副長たちも盃をあげ、ここに「副長会」は始った。

 

銃兵たちが次々に料理を運び、同期の仲間たちや顔見知りの副長たちが話をはじめる。和気あいあいとした雰囲気を艦長は嬉しげに見た後、その場を外した。出庭果芽副長もそのあとさりげなく出て行った。

宴会場の外で、助平艦長は姪ッ子の出庭副長に何やら耳打ちすると、出庭副長は「ウフフ。わかりましたわ、伯母さま」と言ってどこかに駆けて行ったのだった。

その場に残った艦長は嬉しげに両手を胸の前で合わせると、

「ああ~嬉しいわあ。今日はとても可愛い、素敵な副長さんがいるわねえ。ああ、楽しみだわあ」

と言ってその場でくるっとまわって喜びを表したのだった――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

 

野村副長素敵に変身。オトメチャンと「二大大和美人」と呼ばれる日も近い!?

そして助平艦長はいったい何をたくらんでいるのでしょうか。次回、明らかになります。

おてもやん、というと思いだすのがーーくまもん。あのほっぺが絶対おてもやんメイクだ!(画像お借りしました)
熊もん


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
恋をすると女は変化いたします。良くも悪くも変わりますね、でもそれなりに必死なんですよね~~^^。
さて『タラコ』での副長会、一人ウキウキ気分の助平さん。何か良くないことをたくらんでいますねきっと。
ご期待にたがわない場面が登場すると思いますので、心の準備のほうよろしく願います~~。

くまもんの経済効果、かなりなもののようですね。確かにあのかわいさではみなKOされちゃいますよね~、私ももう一遍くまもとに行きたいです(高校の修学旅行で一度行きました)。

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
加東副長の恋の相手はだれあろう猪田艦長!おてもやん風メイクではありますがきれいになりました。
猪田艦長確か娘がいたはずですが・・・もう大きい娘だから許してくれます。

くまもん、あのほっぺは絶対おてもやんですね、私は確信しています!そして最近どこでも緩キャラを持っていますね、練馬には「ねりまる」くんという、練馬大根をモチーフにしたへんなキャラクターがいますよ^^。

副長会、何やら妙なことになりそうな・・・ご期待ください!

NoTitle

一気に女性のしなやかさがプンプンと匂ってきましたね。
化粧をすると途端に女性は化身してしまうのでしょうか。恐ろしいやら可愛いやら……。
みんながほくそえんでいる理由。何やら怪しげなことに??
美しくもエッチな場面を期待しているのですが……。

くまもん。今や熊本経済の牽引力です。可愛い顔してしっかりと熊本に貢献しているのですから立派です!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
たらこ、たらこ・・・いったい何が待っているのでしょうか!?なんて言っても助平艦長ですからただじゃすまない気がしております~~^^ホホホ(マツコ風)。

くまもん、かわいいですよね~、ユルキャラの中ではとても好きです。そういえば西国分寺というところの緩キャラは『にしこくん』と言ってとても変ですw。
いつかくまもとに行ってくまもんに会いたいですね^^!

NoTitle

加藤副長はおてもやん風化粧できれいになりましたか。
女性は恋するときれいになるといいますけどね。恋のお相手は猪田艦長なんでしょうか。職場恋愛だったんですね。お二人とも隅に置けないですね(笑)。

くまもんのキャラクター、かわいいですね。おてもやんがモデルになってるんですかね。うちの田舎にもキャラクターあったんですよね。田舎特産のサーモン、鮭をモデルにしたサーモン君。知りませんでした。いろんな市主催のイベントには活躍してますよ。

さてさて副長会、どんなハプニングが飛び出すやら。

♪たらこ~たらこ~(笑)いやぁ、酒池肉林の世界が待っているのか?ときめく薔薇色…いや気高き百合の世界か?ドキドキしますね!!
ウチのダンナはくまもんが好きみたいです。絵本でもくまもんのスカイツリー案内とかあって大人気~!「森のくまさん」の歌とか忘れてしまいそう(笑)

すっとこさんへ

すっとこさんおはようございます。
ね、絶対くまもんっておてもやんメイクですよね~~ww!
しかしこんなメイクの女性っていますかねえ…(-_-;)いたらひくかも!

化粧で別人になる人ってたくさんいますね、よく日本で生息中の『電車やバスの中で化粧する人」を見てると「ほ~、こうやって化けるんか!」と感心します。(アメリカにも公共の乗り物で化粧する人はいるんでしょうか?)私はほとんど化粧をしてないのですがそれでも最近衰えが目立つのでそれなりに…でも下手だからきれいとか何とかとは全く無縁の世界です~(^^ゞ

さあ、いよいよ宴会が始まるようですが何が起きる『タラコ』艦内!こうご期待であります~~^^。

NoTitle

あはは!
おてもやんメイクのくまもんまでご登場で
しっかりくっきりイメージが湧きました!

お化粧、上手な人はかなり別人になれます
ものね!見張り員さんはお化粧どの程度
なさいますの?

しかし急におんな言葉で宴会が始まるとは
・・・・きっと得露須な展開ですよねっ。ね!
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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