2017-09

「女だらけの戦艦大和」・番外編 箸取らば・・・ - 2012.12.14 Fri

――いつものように、「女だらけの大和」では食事の時間が始まろうとしている。

今日の昼のメニューは「魚の煮つけ」!乗組員たちの好物の一つである。兵員たちは「いただきます!」の声も勇ましく、そして箸をとるとそっと魚の身に箸を入れる。柔らかく煮た魚の身はホロリと崩れ煮汁につけて口に入れればとろけるようなおいしさが広がる。

見張兵曹も、小泉兵曹も夢中で食べる。

彼女たち兵員の食事は官費による「給食」である。

 

そして準士官や士官たちも別室で食事中。

彼らは兵員たちとは違って自腹で食費を払うのでそれなりに豪華な食事をとれるのである。昼食に人気があるのはオムライス。グリーンピースを奇数個乗せて、ふんわりとした卵が食欲をそそる・・・

 

麻生特務少尉も運ばれてきたオムライスと紅茶(紅茶はなみなみとカップに注がれ、少尉のこのみの数の角砂糖――彼女の場合は二個――がソーサーに添えられている。

麻生分隊士はそれを食しながら(こげえにうまいものを食える毎日。感謝感謝じゃ)と思う。やがて食べ終えると分隊士は紅茶のカップに角砂糖をそっと入れて、スプーンでそおっと混ぜる――

 

そのあと、当直で指揮所に上がった見張兵曹は麻生分隊士と逢った。

分隊士は「オトメチャン達の昼飯はなんじゃったね?」と聞いてみた。オトメチャンは嬉しそうに、

「はい、お魚の煮つけでした。それにお豆、お漬物。うちはどれも好きじゃけえおいしかったですよ」

と言って笑った。麻生分隊士はオトメチャンにうなずいてやってから、

「ほうね。ほりゃあえかった。ほいで最近ちいと気になっとったんじゃが、みんなきちんと食事のあいさつをしとるかね?」

と聞いてみた。オトメチャンは「食事のあいさつ、でありますか?うちの班や他の班でもきちんといただきます、言うとったですが?」と言った。

分隊士は「ほいならええんじゃが。なんだか最近あいさつせんで食う奴が居ってじゃ聞いてのう。航海科にそがいな奴がおったら困る思うて聞いてみたんじゃ。居らんならそれでええ」と言って微笑むとオトメチャンをそっと後ろから抱きしめた。

・・・それをトップから見下ろしているハッシ―・デ・ラ・マツコと松岡分隊長。松岡分隊長はマツコの耳にそっと「いいかい鳥くん。今は静かにしてあげよう、あの二人は割なき仲と言ってね、他人が邪魔しちゃいけないんだよ。昔から言うだろう、『人の恋路を邪魔するものは三式弾で死んじまえ』って。だからいいかい、鳥くんもこういうのを見たら黙ってなきゃいけないよ」と囁きマツコは松岡分隊長を見つめると、

「マツオカ~、あんたって本当にいいこと言うわねえ~。わかったわ、あたしも今後あいつらのHな姿を見ても黙っててやるわ」

と言った。大きなくちばしがガタガタ鳴った。その時松岡分隊長が大きなげっぷをした。

「お―っと失礼!今日のお昼は私の大好物でね、ちょと食べすぎちゃったみたいだ。ワハハ。食事の時も熱くなるのが松岡流なんだよ鳥くん」

少しいやな顔をしたマツコに分隊長はそう言って笑った。下ではまだオトメチャンと麻生分隊士がひっついている。

そこにトコトコとトメキチが上がってきた。口には誰かにもらったらしいハムをくわえている。分隊長はトメキチがそのままハムを食べるものと思って見ていると、トメキチはハムを床に置くと居住まいを正すと

「いただきます」

とでもいうように声を出して前足を合わせた。松岡分隊長はそれを見て「おお!すばらしいぞ犬くん!」ととてつもない大声を出した。マツコがびっくりして羽をばたばたさせる。「何よマツオカ、びっくりするじゃないのよう」と文句を言う。

さすがにその声に、下にいたオトメチャンと麻生分隊士も顔をあげた。

「どがいしたんです、分隊長」

麻生分隊士が問うと、分隊長は感涙にむせびつつラケットをひと振りして、

「見ましたか麻生さんと特年兵くん!今この小さな犬くんは食べ物を前にして両手を合わせたんですよ!これこそ<いただきます>の真摯な姿!熱くなってますよ、犬くんは!さすが大日本帝国海軍のマスコットだけありますね、今日から君も富士山だー!」

と叫んでラケットでトメキチを指して喚いた。

それを聞いた麻生分隊士はエヘンと咳払いをすると松岡分隊長に

「お言葉でがありますが、分隊長は今頃気がつかれたんでありますか?うちはもう、とっくのとうに知っとりますが」

と言った。なんだって麻生さーん、と分隊長は言って下に降りて来た。そしてラケットを担いで二人の前に立つと「ね、どういうこと?麻生さん」と聞いてきた。

分隊士は誇らしげに見張兵曹を見ると、

「トメキチが行儀がええんはこのオトメチャンの薫陶によるものでありますよ、分隊長。オトメチャンはトメキチを連れてきてからそれはきちんとしつけておったがです。食事のときはいつも<あのことば>を教えとりましたけえ、きっとその言葉をトメキチは言うとるんじゃと思います」

と言った。

「なんとー!」

松岡分隊長は麻生少尉の言葉を聞いて卒倒せんばかりに感激した。大事なはずのラケットを足下にガランと落とし、オトメチャンの両手をガシッと握って振った。そして

「えらい、えらいよ特年兵くん。さすがあなたも小さいとはいえ帝国海軍の一員、そして皇国臣民の一員ですね!あなたがしっかりしてるからあなたの犬くんもしっかりしてるんだね!なんて熱くなってるんだ、素晴らしい!

と叫ぶように言った。麻生分隊士はもうひとつ咳払いをすると、

「見張兵曹は特年兵ではありませんからお間違いなく願います。そして分隊長、あなたのハシビロも物をもろうたり食事をするときはきちんと会釈しとります。それもきちんと見てやってください。ハシビロは、あの鳥は天性の行儀良しですけえ」

といい、マツコはハッとしてくちばしを大きく開けた。

「・・・アソウ。あいつ、いやあの人アタシのことちゃんと見てくれてたのね」

そうつぶやくマツコの金色の目から涙が流れて落ちた。トメキチはそれを見て「よかったじゃない、マツコサン。麻生さんてたくさんの人を指導する立場の人だから、僕やマツコさんのこともよく見てくれてるんだよね」と言って笑った。

「で」と松岡分隊長はラケットを拾い上げると麻生分隊士に言った、「<あのことば>って、なに?」。

すると麻生分隊士はオトメチャンをそっとつつくと「オトメチャンから言うとええよ」といい、うなずいたオトメチャンは

箸取らば 天地(あめつち)御代の 御恵み 君と親とのご恩味わえ

と述べた。この言葉は子供のころ学校に行かせてもらえなかったオトメチャンが、ちょうど弁当の時間に学校の前を通りかかった時教室から聞こえて来た言葉である。いたく感動したオトメチャンは家に帰ってから一人で貧しい食事をとる時この言葉を言うようになったのだった。

オトメチャンはそんな昔話をしてから、

「どがいな飯であっても食べることができるんは幸せですけえね。感謝せんと罰があたります」

と結んだ。

「えらい、えらいぞ特年兵くんー!」

松岡分隊長の絶叫が、トレーラーの青い空に轟いた――

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

この頃では学校給食の時間に「いただきます」を言わせるとはおかしい、みたいなことを言うそれこそおかしい親がいるそうですがいったい何を考えているんでしょう。

「いただきます」は食事のときの基本です。作ってくれた人への感謝はもちろん、自分の命を養うために奪った命への感謝でもあるのです。

その美しい言葉を言わずしてご飯を食べるような人はご飯を食べる資格などないですね。

もう学校でも、「箸取らば」を唱和させたらいいんですよいっそ。日本人の心を取り戻そう!

 

・・・うちの姑殿は、そういえば「いただきます」を言いません・・・マツコとトメキチ以下じゃないか!?まずいぞ!!

 

さあいよいよ『海きゃん』取材班最終章が華々しく始まります、次回をご期待下さいませ。



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● COMMENT ●

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
士官は食器も自費で購入して転勤の際も持って行ったという話を聞いたことがあります。だとしたらいったい何枚持って行ったのか??
陶器の食器だから持って行くと言っても結構重いんじゃないかなあ~と思いますが?今のように宅配みたいのもない時代だから大変だったんじゃあないかしら、と心配?です。

私は是非、山口多聞さんや森下さんたちとディナーをしたいですね。もちろん『大和』で!

実費。ナイフとフォーク

士官食は、実費。そして洋食が基本でした。調べてみますと、かなり豪勢なメニュー。「親切丁寧」。大和厨房の看板を思い出します。さて、良い話しだったなぁ。

いなばさんへ

いなばさんこんにちは!
私も会社勤めのころ、社員食堂で「いただきます」と手を合わせていたら奇異な目で見られたことがありました。
でも本来そうすべきなんですがね・・・

「巨人の星」・・あのちゃぶ台返しですね。あれも「あれは一徹の手がたまたまちゃぶ台にかかってしまいひっくり返ったもの。一徹が愛娘の作った食事を粗末にするわけがない」という解釈がありますがどうも見ているとそんな感じは受けないんですよね~。
インドは食べ物を大事にしますから(って世界で日本くらいでしょう、食べ物を粗末にするのは)あのシーンは嫌いますね。

ともあれ最近の日本はおかしいです、変ですよね。今までの常識が通らなくなっているということをどう考えたらいいのか。そしてこの先の日本を思う時心中穏やかならぬものがあります。

小沢昭一さん、彼も海兵だったんですか・・・あの軽妙洒脱な、人を傷つけないトークがもう聞けないのはさみしい限りですね・・・。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
いただきますを言わない、言わせないという感覚自体がすでに理解できませんね(-_-;)どうしたらそんなこと思えるのでしょうね??
生きている命を自分のためにいただくのですから当たり前の言葉です。かの宮沢賢治さんはご自分が重篤な病に倒れた時、蝮の生き血を盃に入れたものを勧められたそうですがそれをたたき落としてつぶやいた、「私はほかの生き物を殺してまで生きたくない」と。
農業に生き、岩手の地のすべての生き物を愛した彼らしい話です。
「いただきます」というのはとても真摯な日本人ならではの言葉です。それを否定するような連中を私は日本人と認めたくはないですね。
ホント「てめえら人間じゃねえ!」ですよ。

道徳の教科書・・・私たちのころはあったけど今はないのですか!?・・・日本人の心がすたれるわけですね(-_-;)

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
やはり人が生きる上で大切なのは「感謝」の心だと思うのです。昨今の日本はどうかしています、食べ物を粗末にはするしものはすぐ捨てる。そして命さえ・・・。

まずは自分を生かしてくれる「食事」に感謝をすることが人として生きる基本だと考えてこの話を書いた次第です・・・というとカッコいいですが実は姑が私や娘が食事を作っても「いただきます」さえいうことなく黙って食べるのに大変腹が立ったからというのが事実であります(^^ゞ
いくら普段仏壇に祈っては見ても肝心な部分が抜けていたら仏様は相手にしてはくれないでしょうね。

最近の若い親のものの考え方もさっぱりわかりません。いただきます、のどこがいけないのか?そういう連中は自分たちも親にいただきますという言葉を教えられなかったのでしょうね。
そういうことだときっと、天罰を食らいますね。食べ物はそこら辺から湧いて出るものではない、ということが理解できないんでしょうね。真性のバカと言っていいでしょう。
こういう連中が跳梁跋扈する日本を正さないといけません。

「女だらけの大和」の面々はその辺はきっちりしています・・この日本中にばらまきたいですよホント(-_-;)

昔、会社の食堂で手を合わせて弁当を食べる子がいたのを思い出しました。反対にアニメ「巨人の星」は大嫌いです。とくにオープニング。漫画(原作)には、このシーンはなく、アニメ制作会社の捏造みたいです。インド版「巨人の星」(野球に、似たクリケット)インド側から、食べ物を粗末していると言うことで、別の物にしているそうですが、制作会社は、こだわっているみたいです。(だから、変な親が出来る訳です。)
俳優の小沢昭一さん
いつも、ほのぼのしたラジオ番組のトークが好きでした。最後の海軍兵学校出身者でした。

こんにちは。いただきますを言うのがおかしい…この考えはどこからやってくるのでしょうか?信じられないですね。この前読んだ「食堂かたつむり」ではペットとして飼っていた豚を解体から調理、食事…と一連の流れが書かれていましたが、命をいただき、それを大事にして生きるという姿勢がありました。マタギの方々も山の神に祈りを捧げてから狩猟をする。ただ食べるだけって…「てめぇら人間じゃねぇ!」って気分になりますね。
今日も素晴らしいお話、ありがとうございます。今はないみたいですが、道徳の教科書に載せたい!!(笑)

素敵な話でした!!
心が行き届き、そしてそこにいる居るみんなが幸せになれたような温かさ。感謝するということは大切なことですね。すべての基本じゃないでしょうか。
「いただきます」に反旗を翻している若いバカ親たち。作っている人に感謝はもちろんですが、材料となる糧にも心が向かないのでしょうか。大切な命を頂いているのに。
ひいては給食費を払っている我が身すらも子供から無視されるって気付かないのでしょうか。
こんな親がいることに不快になり、こんな親から育てられている子供たちの行く末が不安になります。

願わくはオトメチャンのような、いやヤマトの皆さんのような人たちこそこの汚れまくった今の世に居てもらいたいですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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