2017-09

「女だらけの戦艦大和」・増添兵曹衝撃の夜2<解決編> - 2012.10.28 Sun

増添兵曹は、平野少尉からもらった「毛はえ薬」を手にとってしげしげと見つめたーー

 

「激萌弾」(げきもえだん)とすさまじいネーミングである。しかし兵曹は(これをつけたらきっと!)とその胸をわくわくさせている。瓶の後ろを見るとラベルが貼ってあってそれには

<今マデ薄毛・ハゲニ悩ンデイタ 紳士淑女諸君モ

コレヲ付ケタラ 明日カラフサフサノ

頭髪ガ生エル事 ウタガイモナシ!

と書いてありなお一層、兵曹の胸は躍った。まあ、いきなり明日から<ふさふさ>になるというのはありえないが(きっと素晴らしい効果があるんだろう)と増添兵曹はひとりうなずいていた。

これで前髪部分をもっと増やし、髪の質も良くなればもう部分かつらの世話にならなくてもよいだろう。この部分かつらとはもう一心同体の様な気持であり、いざ別れるとなれば寂しい心持ではあるが、いつまでこれを装着しているというわけにもゆくまい。それに、

(ねえさんにこがいな頭を見せて心配さすわけにはいかんけえ。それに兄貴もいつうちのこの秘密をねえさんにばらすかわからんけえ、きちんと髪を生やしておかんと。それにもしもこれを母さんが知ったら大ごとじゃ)

と実家の心配もしているけなげな増添兵曹である。

 

ともあれその晩。

増添兵曹は下士官浴室に行き、体を洗う。今日は作業が多かったので他の分隊の下士官たちも幾人かいていつものようにあわただしい入浴ではあるが、海水風呂であろうが何であろうが体を洗えればそれなりに気分がよい。最後に洗面器いっぱいの真水で海水を洗い流す。

「さて」と増添兵曹は体を拭き、服の中に隠しておいた「激萌弾」を取りだした。そしてそれを洗面台の前の棚に置いて、ごしごしとタオルで頭をこすった。しかし地肌に余計な負担をかけないように加減をしつつであるから結構大変ではある。部分かつらをそっと外してそこも優しくこすった。

他の下士官たちは<見て見ぬふり>である。これはもう艦内での約束事の一つで、<増添兵曹が入浴時に部分かつらを脱着の際には見つめないこと>というものである。これは以前に増添兵曹に同情した日野原軍医長が、直々に副長に進言してできたいわば<艦内民事法>の様なもの。

それがあるため他の分隊の下士官も兵も士官も・・・皆増添兵曹の頭に関して無遠慮な視線を当てる者はいない。

そうして丹念に頭皮と髪の毛の水分をタオルで拭き取る兵曹の隣に誰かが来て体を拭き始めたようだ。増添兵曹はそれを察して、

(おう、あんまりぐずぐずしとったら他の連中に迷惑かけるな。「激萌弾」を早いとこ頭にかけて行こう)

と思い、頭をこすりながら前の棚に手を伸ばし、「激萌弾」の瓶をつかんだ。そしてキュキュッとふたを開けて、それを逆さに持って頭に振りかけた。

(ん?なんだか変なにおいじゃなあ?)

兵曹は自分の鼻腔に流れ込んできた異様な硫黄の匂いに一瞬不審を覚えた。(まあ、よう効く薬言うんはこがいな臭いかもしらんな)

そう思った時、「わああ!あなたそれうちの瓶じゃ、まちごうてますよ!」と大声がした。増添兵曹が「え?」と声の主を見れば隣にさっき来た兵曹が、増添兵曹の持った瓶を指差している。

「あなたの瓶はこっちじゃないですか?」

そう言って兵曹は棚の上に置いてあるもう一つの瓶を指した。その腕が毛深い。増添兵曹は昼間の作業中、自分の配置の後ろの方で「毛が多い」と話していたのはこいつだったのかも、と思った。おお、おなごでもこがいに毛深いもんがおるんじゃな。ある意味うらやましいのう。

「おお、こりゃあ申し訳ない。よう前を見んで使うてしまって・・・」

と増添兵曹は謝って、その瓶を返そうとした。そして手にした瓶のラベルを見て愕然とした。その瓶のラベルには

抜毛隊」(ばつもうたい)

と書いてあるではないか。増添兵曹はその文字に愕然とし、震える手でそれを隣の兵曹に渡した。

そして、同じく震える声で

「あ、あのこれ・・・<抜毛隊>いうて、ど、ど、どがいな薬ですかのう」

と聞く。その頃には毛が多い兵曹――小倉久子――にもその兵曹が例のかつらの兵曹だとわかってきたのでもう何も言えないくらい恐縮している。

そしてうつむき加減で恐る恐る言った、

「除毛剤・・・つまり・・・毛を抜くための薬です・・・・」

 

え・・毛を抜くための薬?私は生やす方の薬を使うというのに・・・これをつけてしまって、明日、いや今夜中にもこの前髪がベッと抜け落ちてしまったら・・・

増添兵曹の視界が白っぽくなってきた、次の瞬間。

 

増添兵曹はその場に大きな音を立ててぶっ倒れていた。

 

増添兵曹は、医務室のベッドの上で気がついた。周囲には平野少尉や長妻兵曹、それに小倉久子兵曹やなぜか松岡中尉もいる。

増添兵曹は最初ぼんやりとした視線を皆の間に漂わせていたが、急に体を起こすと自分の前髪部分に手をやってたしかめた。

「ある・・・髪の毛、ある・・・」

増添兵曹はほっとしたように言って再び体をベッドに倒した。平野少尉が、

「増添さん難儀だったなあ。<激萌弾>と<抜毛隊>は作ってる会社が一緒なんだって。だから瓶も同じような大きさ形でこりゃあ間違えるなって言う方が無理だよね。でもまあ、これは頭髪には作用しないから大丈夫だって軍医長がおっしゃってらっしゃるから気にすんな。な?」

と必死に慰めた。小倉久子兵曹も泣きながら

「すみません、申し訳ありません!私が増添さんの瓶の隣になんぞ置いたからこげえなことになってしもうて・・・許してつかあさい!」

とその場に土下座して謝る。増添兵曹はベッドから身を起こしその肩に手を置いた。小椋兵曹の肩の揺れがふっと止まった。

増添兵曹は

「謝るんはうちの方じゃ。すまん、うちが小倉兵曹の大事な薬を無駄にしてしもうた。うちの不注意じゃ。許してつかあさい」

とこれもその場に手をついて謝り、平野少尉は二人の肩をそっと叩いて「よーし、これでもう水にしよう。これから先もう恨みっこなしでな!」と言ってその場の長妻兵曹だの松岡中尉は喝さいした。松岡中尉は「いいですねえ二人とも!熱く生きてる証拠ですよ~!さあみんななかよしになって米英撃滅に邁進だ!そしたら髪も生えるし腕の毛も薄くなるぞ!!」と叫んでラケットを天井に突き上げる。

一同大笑いのうちに、医務室を後にしたのだった。

 

その後。

平野少尉は可愛い部下の為に、<激萌弾><抜毛隊>のメーカーに「あの二つの薬は中身が正反対なのに同じような瓶では事故のもとである。早急に瓶を違うものにせよ!」と投書し、それは早速採用されたらしい。

 

「大和」では今日も増添兵曹が<激萌弾>を軽快に頭に振りかけている・・・

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・

 

すさまじい名前の毛はえ薬<激萌弾>に、除毛剤<抜毛隊>!

どっちも効きそうな感じですが効果が激烈でないことを祈るばかり^^。しかしなんか、<激萌弾>というと別の薬の名前でもよさそうですね・・(^_^;)

 

今夜は十三夜でしたね。でもあまり天気が良くなく写真を撮ってもぼやけてしまいましたので代わりにこれを・・・私の「大和」「武蔵」にお月見団子のお供えをしました!

DSCN0600.jpg

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● COMMENT ●

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
昭和19年のお月見・・・なんだか目に浮かぶようです。
叔母様の脳裏にはしっかり刻まれてらっしゃるのですね。

親子ではないが「なんでこんなに似てるんだ!」という親族はいますよね。
でも・・・頭も・・・ですか!?
おお~う、それは是非拝見したい・・て何を言うのだw。

流体力学!
こういう関係は私が最も苦手とする分野ですね~(-_-;)

お供え・・・・

昭和19年のお月見は、横須賀で。
叔母が、遠足の帰りだったと殊更印象に残っていたそうです。

さて、お話しの結末。
祖父も艦内の床屋さんに通っていたと。これは簡単に想像できますよね。
あっ!必要なかったかも!
実は・・従弟(祖父長女の長男)が、祖父と瓜二つ。
若い頃の祖父にそっくりでした。
頭も・・・・デス。
驚きますよ!って、どうやって紹介しましょう。
考えておきます。彼は、流体力学の権威だったりします。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
いや~ん、まろにいさまも好きねえ~♡なんちゃって。
でもそれは本当なんでしょうか・・・その、禿は精力絶倫であくなきHを求めるというのは!?(って知ってどうするのだ??)

増添兵曹の驚き、さもありなんですね。一所懸命増やしてる最中にこれじゃあ・・・(^_^;)

このような悲惨な事故のないよう、「育毛剤」「養毛剤」をお使いの紳士・淑女の皆様にはご注意ねがいます!w。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
そうそう!ふさおとめって銘柄のお米、千葉県が誇る?おいしいお米ですね^^。
そのパッケージに、髪の長い乙女の絵が書いてありますので「これを食ったら!」の気になっちゃうかもしれません(って私だけかww)。
本当に髪の毛とは多くても少なくても気になってしまう厄介者であります・・・(-_-;)

月、というとあのミッドウエー海戦で空母「飛龍」に残った山口多聞少将が同じく艦に残った加来艦長と甲板で「月見をしよう」と言って名残の月をみた・・・というあのシーンが思い出されます・・
月の光は海の底までは届きませんがせめて思いは届け、と思って。

今日は壱日雨もよいの日でした(泣)。

いやぁ、きっとアチラの方のお薬かと思いました。だってハゲは精力絶倫で、しかも飽くなきエッチを求めると言いますから。
しかし、またとんだ災難が降りかかってきましたね。きっと奈落の底に突き落とされたような気持であったことでしょう。
私も他人事だと思えない悲壮な心持で拝読いたしました。

こんにちは。前の記事にコメントした後、そう言えば千葉のお米に「ふさおとめ」ってあったよなぁ…と(笑)コレを食べたらフサフサな髪の毛の乙女になるとか!?などとアホなことを考えてしまいました。髪の毛って多すぎても少なくてもとにかく気になるモノですよね~!本当に真っ黒な髪の毛の人を見るとドキッ!!とするようになりました(笑)
お団子をお供えした写真、見張り員さまのお気持ちにうるっ(T-T)としました。明日は晴れるといいですね!!


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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