「女だらけの戦艦大和」・<あっち>の話。

「なあ、小泉兵曹」と昼食の時話しかけて来たのは石場兵曹であった――

 

「はあ、なんね?」

と小泉兵曹はホーロー引きの食器を手にとって中の飯をかきこんだ。そしてよく咀嚼した後茶を一口飲むと石場兵曹をみた。

石場兵曹はちょっとだけ声をひそめると「あんなあ」と小泉兵曹の耳近くでささやいた、「こんな時間にどうか思うがな、うちぁ気にかかってしょうがないことがあるんじゃ」。

「ほう、どがいなことね?」と小泉兵曹が言うと石場兵曹はあたりをさっと見回してから、

「たとえばじゃ。例えば松岡分隊長とか樽美酒少尉とか・・・あっちをどうしとるんじゃろう思うてなあ」

と言った。小泉兵曹はぽかんとして「・・・あっちって・・・どっちじゃ?」とわけがわからないと言った顔をしている。石場兵曹はちょっと苦い表情を作ると、「あとでする、この話はあとでするけえ。ええな」と言うと薬缶を取りに立った。

 

午後はいつものように体育の日課がある。

皆は「熱いのう、今日は午睡したいのう」と文句をたれながらも相撲や体操、剣道柔道にそれぞれにわかれて行く。

石場兵曹や小泉兵曹は剣道である。剣道の指導の岩井しん特務少尉が「今日は簡単な試合をしてみようか。そうだね、石場兵曹に小泉兵曹、貴様たち剣道は上手いけえ、今日は模範演技としてやってみてくれんか」と言って、石場と小泉は面をつけて互いに向き合い蹲踞の姿勢を取った。

立ち上がるといきなり石場兵曹が猛烈にうちこんできて、小泉兵曹はちょっと気圧された。竹刀が押しつけられ石場兵曹の面が至近に迫る。

と。

「なあ、さっきの話じゃけど」とつばぜり合いの形のまま石場兵曹が話しかけて来た。「は!?石場ちゃんあんた何の話じゃね!?」と面食らう小泉兵曹に石場兵曹はさらに顔を寄せて、

「たとえばじゃ。岩井少尉はあがいにサッパリした顔しとってじゃが、あっちの方の処理、どがいにしとってかなあ、思うてね」

と言った。小泉は、「なんじゃって!?」と叫ぶと、竹刀を持つ手の力が萎えた。そこを石場兵曹は狙って小泉の竹刀を薙ぎ払い、面を取った。

「面あり!石場兵曹」

と岩井しん少尉が叫んで皆は拍手。その中に見張兵曹がいる。見張兵曹はこの二人の間でなんのささやきがあったかも知らず、無心に感心して手を叩いている。

小泉兵曹は、脳天に一撃を食らいしばらく鼻の奥がきな臭かったがやっとそれも収まったので石場兵曹の右隣に座った。

そして、「いったい何を言い出すんじゃね、石場ちゃんは」というと石場兵曹は「じゃけえ言うとろうが、岩井少尉や松岡分隊長たちは<あっち>の処理をどうしとるんじゃろうなあって」と言い、それが聞こえたのか石場兵曹の左隣の砲術科の兵曹が最初びっくりしたような顔をしてこっちを見て、そのあといやらしい笑いを浮かべた。

「はあ、そっちのあっちね。う~ん、うちはようわからんが、上陸の時にでも行っとるんと違うかね?ほらうちらと士官じゃ店や慰安所も別じゃろ?」

小泉兵曹は、好きな話題なので話に乗り始めた。石場兵曹は面を膝の上に置いて頭から手拭いを取ると額の汗を手の甲で拭いた、そして上目づかいに空を見上げて

「まあ、上陸したらほうじゃろうがな。うちが気になるんはそういう時じゃのうて普段の話よ、ふ・だ・ん」

と言った、小泉兵曹は思わず笑いが噴き出しそうになるのを堪えた。「普段いうて、ようするに○○○・・・のことじゃな」そういうともういけない、前にいる岩井少尉の顔をまともに見ることがつらくなってきた。

石場兵曹はさらに続ける。「岩井少尉ばかりじゃないで。艦長やら副長やら参謀長やらのえらいさんじゃっておんなじじゃ、松岡分隊長なんぞあっちの方はちいとも感じさせんがのう。みんなそれなりに上陸でええ思いもするじゃろうがそれ以外の晩にふっと・・・欲しうなったりせんのじゃろうか」

小泉兵曹はもう横ッ腹がはじけるくらい痛くなってきた、笑いが止まりそうもない。すると石場の左隣の砲術科の兵曹が

「貴様んとこの松岡分隊長はええもん持っとるじゃないか。あれで<代わり>させとるんと違うか」

というとこの上ないいやらしい笑いをして顔を膝の上に置いた面に伏せて笑い続ける。

小泉兵曹は「ほう!松岡分隊長はあれがあったか。あの柄の太さはええじゃろうねえ~」ととんでもない夢想をしているようだ。

「で?」と石場兵曹が今度は砲術の兵曹に顔を向けると「ほんなら艦長や副長たちのえらいさんはどがいな。あの連中は松岡分隊長みとうなええもんはもっとらんじゃろ?」と真剣に問う。砲術科の兵曹――富島たけこ一等兵曹――はエヘンと咳払いをすると

「ほりゃあ貴様ら。あの連中は<トメキチ>を使こうてるんじゃ。きまっとろうが。うちはしっとるで、あそこに居るオトメチャンとかいうあのおぼこが飼っとるトメキチ。あれをよう艦長が部屋に連れとるじゃろ。あれはなあ、貴様らにはまだ分からんかもしれんじゃろうが、あの連中は<○○○犬>にしとってじゃ。・・・はああの犬もえらい難儀じゃな」

と言って横を向くとひきつったような笑いをした。

とたんに岩井少尉の「ほらそこ何笑っとる!人の試合も真剣に見んといけんで!」と叱責が飛んだ。

三人は肩をすくめて「はい!申し訳ありません」と謝るが・・・内心笑いが止まらず横っ腹が痛い。

 

午後の体操終了後、石場兵曹は「こうなったら、松岡分隊長にじかに聞いてやる。小泉ええか、貴様もついてこい!」と言って松岡分隊長を探しに第一艦橋に向かう。しかし第一艦橋には参謀長と副長、そして当直の見張りしかいない。

森上参謀長が「おう、イシバチャン。小泉も一緒でまたなんか悪さでもするんじゃないだろうな」とからかう。その参謀長に石場兵曹は、

「悪さは致しません。が一つだけお聞きしてええでしょうか!」

と大声を出した。その石場に参謀長は「ああ、何でも聞け。わからんことをそのままにしておくのは一番ようないからな。・・・で、なんだ?」と寄っていった。副長が「どうせ碌なことじゃないよ」と言って笑う。

胸を張って石場兵曹の前に立った参謀長を見てこれも胸を張って石場は、

「参謀長は<あっち>の処理をいかがなさっとられるのか、それをお聞きしたかったであります!」

というといきなり敬礼をすると「当直の時間であります、失礼いたします!」と怒鳴ると小泉兵曹の手を引っ張って艦橋を走り出てしまった。

参謀長はその場にぽかんとして立って、「あっち・・・あっちって、どっちのこと??」と首をひねっていた。副長が従兵から紅茶のカップを受け取ってそれを参謀長に差し出しながら、

「あっちと言えば、アメリカのことじゃないですかね。アメリカを占領したらどう対処するのか、ってことを聴きたかったんじゃないですかねえ?石場兵曹も松岡に感化されて熱くなり始めたってことでしょうな」

と言って大笑いしている。

 

「大和」のトップのトップに、松岡分隊長はマツコと一緒に座っている。指揮所には、見張兵曹と石川水兵長が双眼鏡を使っている。見張兵曹の足元には、トメキチが座っている。

石場兵曹が小声で「○○○犬・・・」とつぶやき、小泉兵曹はまたもや笑いをこらえるのに必死になった。

「松岡分隊長!お聞きしたいことがあるであります」

と石場兵曹がトップに向かって叫んで、松岡分隊長は「おう!なんでも聞いて熱くなってくれよ~」とラケットを担いで降りて来た。マツコもふんわりと降りてくる。

ラケットを担いだ分隊長に石場兵曹と小泉兵曹はならんで敬礼する。返礼した分隊長にいきなり石場が、

「分隊長、分隊長の<あっち>のことを教えていただきたいであります!」

といきなり尋ねた。松岡分隊長は「あっち、あっちというと・・・おお!あっちのことね!うん、私はだね、常に気持ちがよかった時のことを思い出しながらだよ。そう・・あの快感。アレが入る瞬間の軽い痛みとそのあとの快感!あれはいつ思い出しても興奮するよ」と一気に言った。

石場兵曹と小泉兵曹は目を丸くして聞き入っている、そしてはあ~と息を吐き出した。小泉兵曹はごくり、と唾を飲み込むと「ほいじゃあ、そのラケットはお使いになるんで?」と聞いた。すると松岡分隊長は満面の笑みを以て、

「あったり前じゃあないか!これがなくってどうしてできるんだね?ワハハ、熱くなるよこれは」

と大声で言う。石場兵曹と小泉兵曹は恐縮してその場を引きさがった。

松岡分隊長は「テニスのことだね。あっちだのこっち、じゃなくってテニスってもんだって何度も言ってるのに、あの二人はなかなかモノの名前を覚えなくっていけないねえ。ともあれテニスは快感だよ?ラケットに球が入ってくる瞬間の、手首に走る軽い痛みにも似た衝撃とそれを打ち返す時の快感。テニスにラケットを使わなくって出来るとでも思ってんのかなあ、あの人たち」と少し首をかしげつつ言って笑う。

そのあと、石川水兵長は見張兵曹にそっと「あのお二人が言うとられた<あっち>いうんはそのことじゃないですよ、兵曹。あのお二人の言うとった<あっち>は・・・」と耳打ち。

見張兵曹は「あっちは?」とおうむ返しに聞いた。石川水兵長は真面目な顔つきになると、「○○○のことですな」と言い見張兵曹は困惑の表情を浮かべた。石川水兵長は独り言のように、

「あの人たちは松岡分隊長に普段の○○○・・の処理の仕方を尋ねたんじゃと思います。が、分隊長はああいうお人ですけえ、勘違いなさったんですねえ。う~ん」と言って感心している。オトメチャンは、「うち、ようわからん・・・」とだけ言って双眼鏡に戻った。その兵曹の背中に石川水兵長はそっと「これじゃけえおぼこは困るんじゃ」とつぶやいた。

それを見ていたマツコとトメキチも「・・・うちらもようわからん」と言って首をかしげる。

 

勘違いのまま石場と小泉は「松岡分隊長の<普段のあっちの処理>はいつものラケットでしとる!」と言いふらし「これは準士官以上に言うたらいけんで!」と厳命、話は下士官兵の間だけでこっそり広まっていったのだった。

以来、どこの下士官兵も松岡分隊長と行きあうと妙な含み笑いをすることになったのだった。そしてまた、「トメキチは艦長以下の○○○犬」という大変不名誉なうわさも流れ・・・これはなぜかどうしてか直に艦長たちの耳に入る羽目になり、とある晩、艦内放送でこれを必死に否定する艦長の絶叫が流れたのだった。

それをベッドで聞きながら岩井少尉は(ふう。皆あれが好きなんじゃねえ。うちも嫌いではないが皆が騒ぐほど好きじゃない。それよりうちはまだ読みかけの本を読みとうていけんわ)と思いながら眠りに落ちていったのだった。

そしてまた、麻生分隊士は私室でオトメチャンを抱きながら(くっだらねえ!そんなことに血道あげてる暇あったら見張りの手伝いでもしてくれっての!そがいな噂、トメキチに失礼じゃわ!あっちでもそっちでもどこでもええわ)と思っている。

 

<あっちの話>のそれぞれの思いと勘違いを乗せて今日も「女だらけの大和」は眠りに着く――

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

またこんな変な話を・・・(-_-;)

男性ばかりの世界ならいくらでも書きようがある話ですが、どうも乙女ばかりの世界ですので(^_^;)

しかしいきなり石場ちゃんはなんでこんなことを思い始めたのでしょうね?イシバチャン自体が欲求不満だったとか??う~~む。
松岡さんとラケット

松岡分隊長のモデルの「松岡修造さん」とラケットです(画像お借りしました)



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Secre

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
ほう!さすが『海軍省』に<庭球場>があったなんて素敵ですね~~。

おじい様、きっと庭球をなさってらしたんですね、私はからきしだめなので教えを乞いたいくらいです。

「女だらけの~」は結構ヤラシイ話題も多いし、落ちがいい加減だったりするので・・・よろしくです!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
「あっち」「そっち」「アレ」…ほんと、みような想像をかきたてられるときがありますよね~~ww。
旦那さまの「彼女が水着に~」の話には笑いました!
「か?」でえらいことになっちゃいますよねww。しかも挿入と来たぜ!!

いろいろご心配いただきありがとうございました。今日無事にMRIを済ませました。あとは野となれ山となれです。
ちょっとだけ寄り道してほっとしてきました!

海軍省のコート

海軍省には庭球場が2面あったとか。
叔母は「ラケットが横須賀自宅ににあったヨ」と証言。
ですが、どうにも(あの感じだからだよなぁ・・)祖父が庭球をするイメージが湧きません!(しっかり)
テニスではなくて庭球。
どっちでもいいのですけど・・・
コメントは続きを拝読してからにいたしませう。
何だか落ちが・・・・デス。
楽しみです。

こんばんは。「あっち」とか「そっち」とか「あれ」とか…想像をかきたてられる言葉ですよね(笑)ちなみにダンナがおかしなアクセントで「“彼女が水着に着替えたら”挿入歌」の「歌」が「か?」になり…このヘンタイ!!と思ったことがあります。
今日はお天気になりそうですね。気をつけてお出かけ下さい。そしてどこかでのんびりお茶でもしてリフレッシュして下さいね。
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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