2017-09

「女だらけの戦艦大和」・子守唄<飛龍の涙>解決編 - 2012.10.19 Fri

帝国海軍・聯合艦隊旗艦『長門』はその身を広島県・柱島に置いている――

 

山本いそ聯合艦隊司令長官はこの『長門』にあって作戦の指揮などを行っている。山本いそ司令長官は今までに帝国海軍が占領した各所を、敵が再び奪還してくるような気配がないか、各地の基地司令と細かい連絡を取り合って確認を怠らない。

「今のところは平穏だ。しかし、油断は禁物だ」

というわけで『長門』は連日の猛訓練を欠かさない。

対空戦闘訓練はもちろん、瀬戸内から外海に出て対潜水艦訓練や主砲発射訓練等、余念がない。もちろん『長門』単独ではなく重・軽巡洋艦に駆逐艦などで行うのだから訓練とは言え堂々たる威容である。

『長門』艦橋で山本いそ長官は訓練艦隊の威容を目の当たりにして満足そうにうなずいている。各参謀たちも胸を張ってそばに控えている。

『長門』の早川艦長は、乗組員の機敏な行動にも満足の表情を表している。(さすが、聯合艦隊旗艦の『長門』の乗員だけある、すべて最短時間ですませることができている。これなら『大和』『武蔵』に全く引けを取らないな)

早川艦長は、略帽の下の瞳を輝かせている。そこへ通信参謀が「山本長官」とやってきた。長官が振り向くと参謀は、

「機動部隊から連絡です。二航戦の「飛龍」「蒼龍」ならびに五航戦の「翔鶴」「瑞鶴」の4隻が明日にも高知沖に到着とのこと。長官、明日は機動部隊とともに大掛かりな訓練ができます!」

と言ってわらった。その顔を見た山本長官も

「おお!本格的な訓練で皆腕が鳴ろう。今日は早めに切り上げて明日の為に兵に休息を取らせないといけないよ。・・・主計長、今日の夕飯は何だね?」

と今度は主計長に話しかける。主計長は、

「はい、今夜は皆の好物のカレーライスです」

と答える。長官は「そうか。それなら良いな」と言ってうなずいた。そして「二航戦は訓練後作戦行動ではなかったか?」と聞く。

作戦参謀が、「はい、二航戦は訓練後佐世保に帰港。そのあとインド洋に向かいます」と答え、長官は「インド洋か。長旅だね。山口くんは意気軒高だな。彼女最近ずいぶん痩せたが、病気とかではないんだろうね」と二航戦の司令官・山口たも少将を気遣った。

早川艦長が、「山口司令官なら、痩身をされて見違えるように綺麗になられました。お体の具合も以前より良いと伺っております」と言い、山本いそ長官は「痩身か!たもさんは以前はまん丸だったものな!それはいいことだ」と言ってその場の皆は笑った。

しかし内心で山本司令長官は(たもさんも、子供たちを四人内地に残しての出撃はもう何度もあったことだがそのたび心痛む思いをしていることだろうなあ)と思う。その思いはそのまま山本いそ司令長官の思い出もある。

長官も子供たちを家に残してきている。見てくれる身うちがいるとはいえ(やはり自分が育てたいものだが)、海軍軍人のみではそれもままならぬ。

(山口さん、ここは踏ん張ってがんばるんだよ。いつかこの戦争が終わればまた家族一緒に過ごせるから)

山本いそ司令長官は、参謀たちの笑い声を遠くに聞いていた――

 

機動部隊との訓練は上首尾に終わった。

山口たも少将の座乗する「飛龍」は、その日のうちに佐世保に回航する。

加来艦長が艦橋に上がってきて山口司令官に、

「山口司令官。お疲れではないですか?佐世保に着くのは明後日になりますから今日はどうぞゆっくりなさってください」

と言った。その艦長に山口司令官は微笑んで、

「ありがとう加来さん。乗組員たちは疲れてないかね?もう皆夕食を終えただろうか」

と聞いた。艦長はうなずき、

「もう当直以外は終えております。司令官もお食事をいかがですか?」

と聞いた。山口司令官は「そうだね、じゃあ加来さんもまだみたいだから一緒に食べようじゃないか。そのあとちょっと飛行甲板を歩いてみようかと思うよ」と言って二人は艦橋を出る、入れ替わりに鹿江副長が上がってきて敬礼で二人を見送る。

艦長室で二人は楽しく食事をとった。が、最近は山口司令官は食事の盛りも少ない。加来艦長が「司令官、もっと召し上がりませんか?」と気を遣ったが山口たも少将は笑って、

「いやもう沢山いただいたから結構だよ。満腹、満腹!少し食休みしたら歩こうね」

と言い加来艦長は「わかりました。ではそろそろ食後のコーヒーを持ってこさせましょう」と従兵にコーヒーを頼む。

二人は運ばれてきたコーヒーを静かに喫した。

ふっと顔をあげた山口たもは、

「インド洋だね。残ったイギリス艦隊を叩くのは容易だろう。しかし慢心は禁物だよ。しっかり褌をしめてかかろう」

と言い少し遠い目をした。加来艦長は「はい」と一言言うとコーヒーを飲み干した。

 

巡検後の、夜風の吹く飛行甲板を山口たも司令官と加来止代艦長はゆっくり歩いていた。

人影はほとんどない、見張りの当直の兵の姿が見えるくらいである。

タバコ盆出せの号令はあったが明日に備えて早く寝に着いたのだろうか。だとしたらあまり歩きまわるのもよくないだろうか・・・

そう二人が思った時どこからかかすかに歌声が流れて来た。

「?」

と山口司令官と加来艦長は互いに顔を見合わせた。そこで声の出所を探さんとそっと歩きだした二人であったが、後部の連装機銃で一人の特務少尉が何かを手にし、それを高く掲げながら歌っているのを見つけた。子守唄だ。優しい母の声で子守唄を歌っている。

そして手にしたものをそっと下ろすと、いとおしそうにそれを指先で撫でているようだ。時折、涙を手の甲で拭っているようだ。

山口司令官がそれに見入っていると、加来艦長がそっとその肩を叩いて向こうへ行きましょうと手で示した。

少し離れた場所に行くと加来艦長は

「あれは機銃の畑中特務少尉です。彼女・・・内地にまだ小さい子供を残していましてね、ほとんど毎晩ああして一人になって子守唄を歌いながら子供を思ってるんです。・・・子供の噛み跡のついた小説本を見つめながら」

と言って少しせつなげな視線を司令官にむけた。

山口司令官は「そうか・・・そうだったのか」とうめくように言った。さっきの機銃のあたりを見ていると、畑中少尉がその場を出てゆくのが見えた。胸に大事に子供の噛み跡の付いた本を持って。

山口司令官は、「子供も母親の帰りを待っていることだろうね。彼女ももちろん・・・。彼女のような士官や兵もきっとほかにもいることだろうね。早く、一刻も早くこの戦争をどうにかして終わらせて彼女たち母親を子供のもとに返してやりたいものだね」と言って瞑目した。

加来艦長も「全くです」というと夜空に向かって顔をあげた。

流れ星が一筋、光の尾を長く引いてそして消えた。
まるでそれは、この「飛龍」が流した涙のように--

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

帝国海軍の「子守唄」でした。

山本いそ聯合艦隊司令長官も、山口たも二航戦司令官も「母」なのでした。「母」だけに分かる心情があるのです。

子供の噛み跡のある本を夜空に掲げて子供を思っていた少尉、どんな気持ちだったのでしょうか。


飛龍
空母・飛龍です!

「飛龍」艦長・加来止男さんです。
加来止男さん



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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
先の大戦中、乳飲み子をおいても戦場に赴いたのはあの「日赤」の従軍看護婦さんたちでした。彼女たちは家庭の事情がどうあれ、従軍命令が出たらすべてを捨てて戦場に赴きました。
中にはまだ未婚の若い看護婦さんもいらして、無残にも南方の戦場で患者である傷病兵たちと枕を並べて戦死なさった方もいらっしゃると聞き及んでいます。
また、広島で爆死された看護婦さんの話を本で読み、いたたまれない気がしたこともあります。
この話を書くに、そうした人々の存在も頭をかすめました。

子供は、できるだけ母親がそばにいて育ててほしいものだと思います。これだけ女性が働くようになって、家計を支える重要な存在になるとなかなか・・・でしょうがでも私は自分の子は自分の手で育てたいと思ってきましたが、自営でも子供は二番にせねばならないことが多く今でもそれは子供に申し訳なかったと哀しく思います。
世の中が一大変化を遂げてそのつけが「子供」という時代を担う存在に回されてきているのを憂慮するばかりですね・・・

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!

想像するとなんと美しくも哀しい風景なのだろうか・・・
自分で書いていてなんだか涙腺が緩んでしまいます。

母親ならではの感情でしょうか。
否、人間ならだれでも!--と思いますね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!

母の愛は海より深く山より高い・・・子供というものは母親の血肉をすり減らして作り上げ生みだすものですから本来はとてもいとおしいものだと思うのですが最近はそうではないと見えますね。
自分の快楽のために子供を捨てたり殺したり情けない日本になってしまいました。
そんな日本への警鐘のため、というとかっこよすぎますがこんな話を書いてみました。

そうですよまろにいさまのおっしゃる通りで母親がまともじゃないから子供もまともじゃあないんですよね。生むだけでは本当の親にはなれないんですがそれがわかってないし、生んだ以上責任が生じるのにそれさえわかっていない。
子供を産むのも「国家試験」が必要になるかもしれないですねこのままじゃ。せっかく生まれても殺されたり虐待される子供、浮かばれません。

私の体調をお気にかけていただきましてありがとうございます。
24日に頭部MRIの検査に参ります。が、そう大ごとではなさそうなのでまたご報告いたしますね^^!

まだ年端もいかない子供や乳飲み子を置いて戦場に赴くお母さん方、大変な重責だと思います。戦力不足もあるかもしれませんが、子供が一定の年齢に達するまでは地上勤務という事は出来ないもんですかね。
現代でも共稼ぎの夫婦では子供を保育園に預けて仕事をされているお母さんもおられるようですが、自分個人としては子供が小学校入学までは、何とかお父さんに頑張ってもらいたいな、と思いますけどね。もっともお父さんと離別した場合は別ですが。
子供の養育に不安を感じるから、若いご夫婦は子供を望まないケースが増えてるように思えます。子供が出来ても安心して養育できる福祉の環境を整備する必要があるんではないでしょうかね。
このままでは日本の人口は高齢者ばかりがどんどん増え、生産者人口が衰退していくばかりです。昔のようにピラミッド型の人口構成を形成してほしいものですね。

泣ける…

>>子供の噛み跡のある本を夜空に掲げて子供を思っていた少尉、どんな気持ちだったのでしょうか。

この1行だけで、泣けますホント。

母の愛ですね。子供恋しさに狂う母だっていますからこの光景は身につまされました。幻想的というか……悲しいなぁ。でも皆さんがそうだったのですね。
望んでいないのに我が子と別れて遠い海の上。どこかのバカ母は子供を捨てて異世界に身を投じて……、情けない!!
母親がまともではないから世の中の子供たちもまともじゃないんですよね。今どきの女は責任が持てないのならば子供を産まなきゃいい!! もっと違う星の下に生まれてもらいたい子がたくさんです。

体調は如何ですか。無理しちゃダメですよ。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
母と子は一緒にいないといけない!と思うのですが、女海軍の泣き所です。
子供は日に日に大きくなり賢くなりますね、それを身近に感じることが出来ない彼女たちは不幸なのでしょうか・・・?
写真や脳裏に写る思い出や、本に残った噛みあとを胸に抱いている彼女たち、でもきっとそれなりに幸せであってほしいですね。

流れ星が彼女たちの思いをかなえてくれると思います!絶対に!

おはようございます。離ればなれの母子は辛いですよね。思い出せる出来事も赤ちゃんの頃だと寝顔ばかりだろうし、話せるような年なら泣かれてまた辛いですし…。小説についた歯形よりしっかりした歯が生えた子どもに早く会いたいでしょうね。
暗い夜空に輝く星たちが船上(戦場)にいる彼女たちの涙のようにも思われます。流れ星は願いがかなった証ならいいなぁ、なんて考えてしまいますね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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