「女だらけの戦艦大和」・YMY3<すべてよし>・解決編
その晩、『大和』『武蔵』『矢矧』のトップの面々はさんざん痛飲し、飲んで歌って楽しくすごしそしていつの間にかその場に倒れて眠ってしまった――
翌朝早くまだ暗いうちに、猪田艦長は目を覚ました。少し頭がずきずきと痛んで(いけないな、飲みすぎた。二日酔いか)と思って水差しに残っていた水をコップに注ぐとごくごく飲んだ。
そしてその場を見回せば、『武蔵』の加東副長がナナと抱き合うようにして眠っているし、『矢矧』の原・新艦長は一種軍装の前をはだけていびきをかく。古村司令と森上参謀長は頭をくっつけるようにして寝ているし梨賀艦長は一升瓶を抱いて褌を出し、野村副長はトメキチとマツコの下敷きになって眠っている。
それを見た猪田艦長は(動物二匹に下敷きにされてよく眠れるものだ)と感心している。
そして艦長は鼻をひくひくさせた、夕べのタバコの残り香がまだ結構残っている。(梨賀と森上のあのヘビースモーカーぶりは、まったく常人離れしているね。まるで二人で艦の煙突状態じゃないか。しかも梨賀はタバコの先をほんの少し吸っただけで灰皿にねじ込むし・・・これは相変わらずだが。でも、その長い吸いさしを野村さんがこっそり集めていたけどあれ何するのかなあ)
野村副長はそれを艦に持って帰って再び巻きなおして、艦長のお気に入りタバコ『櫻』の再生品を作り箱に入れなおすのである。しかし猪田艦長はその辺の事情を知らないので不可解なのだ。
猪田艦長はそっとコップをテーブルに音を立てないように置くと、もう一度体を丸めて眠りに入った。
そしてもう一度目を開ければもう夜は明けて、森上参謀長と加東副長が小声で話をしている。猪田艦長が体を起こしたのを見て「おお、おはよう」「おはようございます」と声をかけた。猪田艦長もあいさつをして頭をごしごしと掻いた。
みまわせばまだそのほかの連中はよく眠っている。
(よく眠ればまた今日からの元気になる。眠れるということはありがたいことだね)
猪田艦長はそう思って、そっと立つと厠へ急ぐ・・・
ようやく皆が目を覚まし、ナナやトメキチ・マツコも起きている。マツコとトメキチは副長を下敷きにしてしまったことに狼狽し、
「ごめんなさい副長さん!寝られなかったでしょう?」
と平謝り。しかし副長はどこ吹く風で「ああよく寝た~!ハシビロとトメキチもよく寝たかい!?」と言って二匹はほっとする。
そして皆は朝食を取った後、艦へ戻るため「大松」を出た。「大松」の仲居がマツコやトメキチ・ナナをかわるがわる抱きしめて、
「またおいで下さいね、待っておりますよ」
と言ってくれたのが三匹には嬉しかった。
ともあれ一行は歩きだす。
海が見渡せる通りに出ると、『大和』かはたまた「武蔵」からかわからないがごみを満載した船が海上を走ってゆくのが見える。
古村大佐がそれを指差して、
「おお、あの船。そういやあごみ処理場を少し拡張したらしいね。内地から働き手を募集したらしいよ?」
と言った。梨賀艦長が、
「それで?誰か来たのかねえ」
と聞く。古村大佐は梨賀艦長を見てうなずくと、
「結構来たらしいがそれがさ、年配者が多かったらしいよ。あまり年取ってる人じゃあの仕事はつらいんじゃないかねえ。だからか知らんが半年交代で内地とここを入れ替えるとか聞いたよ。内地勤務者でもこっちにきたい人が多いらしいから」
と言って腕を組んだ。へえ、と原艦長が言ってその船の行方を見つめている。
そしてなお歩くうち、前方に年配男性が水兵嬢や現地の人に何やら聞いてはがっくり肩を落としてゆくのを見た。
その男性に声を掛けられていた水兵嬢に、野村副長が「なんだあの人?何を聞かれたの?」と尋ねてみるとその水兵嬢は、
「変なのでありますあのお爺さん。『ブゾウ』とか『タケグラ』とかいう船を知らんか。わしの孫がその船の111分隊にいるんだが知らんか、って聞くんです。でもそんな船聞いたことないし、第一111分隊なんてどこの艦にもありませんって言ったらあのお爺さんほんとにがっかりして、それでもまだ他の人に聞いてるのであります。ちょっと気の毒ではありますが私にはどうしようもないであります」
と言って困惑の表情を浮かべている。
それを聞いた野村副長も「ほう・・『ブゾウ』に『タケグラ』ねえ。そりゃ私も聞いたことがないわ」と言って水兵嬢は敬礼してその場を離れる。
「いったいなんだって?どうしたっていうんだね」
古村司令が野村副長の肩をつかまえて聞いた。副長はこれこれこうだ、と話をしたが皆「そんな艦、聞いたことがないなあ」とか「111分隊なんて聞いたこともない。何かの間違いじゃないか」と首をひねった。
加東副長がはたと手を打って、
「まさかあの爺さん、敵のスパイじゃないでしょうねえ!そうやっていい加減な艦名を出して何か軍機を引き出そうとかしてるんじゃないかしら?だとしたらほうっちゃ置けませんよ。拘束すべきじゃないですか」
と言って猪田艦長の顔を見つめた。猪田艦長は口の中で「まさかそんなことは」と言ったが梨賀艦長は、
「うん、ちょっと怪しいかもしれんね。爺さんを捕まえて話を聞こうじゃない?」
と言って皆がうなずく。と、艦長連中が拘束する前にお爺さんの方からこちらにやってきた。
「あ、あのぉ。ちょっと伺いたいことがあるんじゃが・・・」
お爺さんは必死の形相である。原艦長が少し身を引いた。お爺さんは必死のまま、森上参謀長の二種軍装の袖をつかんだ、そして
「『ブゾウ』とか『タケグラ』とかいう名前の軍艦を知りませんですかのう?わしゃずうっと通る人通る人に聞いてるんじゃがだ―れも知らんという・・・」
と言って最後の方は涙声になった。
それを見ていた古村司令は、猪田艦長をつついて小声で「なあ。悪い人とかスパイには見えんがなあ?どう思う?」と聞いた。猪田艦長も困り果ててこれも小声で「うむ。スパイには見えんがしかし、万が一ということがあろう?もしものことがあった時どう責任をとるね?」と答える。一行は途方に暮れた、そのときトメキチ・ナナ・マツコが後ろから出てきてお爺さんを取り囲んだ。
驚く爺さんを尻目に、三匹はお爺さんの頭からつま先まで匂いを嗅ぎまくる。フンフン、クンクン、カタカタと鼻息やくちばしの音をさせて匂いを嗅いでいた三匹であったがやおらトメキチが「艦長さん、この人うそつきじゃないよ!ほんとに困ってる人だから大丈夫、スパイじゃないから大丈夫よ」
と叫びナナも「猪田艦長、困った人を助けてあげて?」と言いマツコも「森上さん、あんたを女の中の女と見込んで、この爺さんを助けてよ!」と叫ぶ。その様子に森上参謀長が、
「ホントかハシビロにトメキチにナナ・・・」
と三匹をなだめてからその爺さんを路傍の椰子の木の根元に誘った。皆はそこに移動しじいさんの話を腰をおちつけて聞くことにした。
「わしゃ、横須賀から来ました・・・」という爺さんの話、何でもこの爺さんの孫娘はその『ブゾウ』とか『タケグラ』とか何とかいう艦に乗って南方に来ているのだという。でも軍機でどこにいるのかははっきり言えないまま別れた。が、じいさんは孫娘に死ぬほど会いたくなり(なんとかして手がかりをつかめんものか)と思って日夜呻吟していた。そんなある日、海軍で内地と南方基地のごみ処理場の働き手を募集しているのを知った爺さん、もう矢も盾もたまらず応募した。最初、面接で爺さんを見た審査官嬢ははっきり困惑の表情を浮かべた、そして
「この仕事はきついですよ?それにもし南方勤務になれば一年ほどは内地には戻れませんが?」と暗に止めた方がいい、と言ってきた。が不屈のじいさんは孫娘に会いたさ一心で「いや!私は若いころから百姓をしてきましたから体力には絶対の自信があります。ちょっとやそっとの熱さや寒さにはへたらん体力があります!ですから、どうか・・・」と懇願。審査官嬢はふーっと息を吐いてからふとその爺さんを見た。そして少し爺さんの方に身を乗り出すと、
「あの、どうしてそれほどにこの仕事に就きたいのですか?」
と聞いた、すると爺さんは孫娘が海軍にいてどうやら南方の方で何とかいう船に乗っているらしい、しばらく顔を見ていないので会いたいのだということを言った。
審査官嬢は思わず目を瞠って爺さんを見た。そしてふとその後ろに視線を当てるとそこには同じような年恰好のじいさんたちが列をなしていたのだった――
「ですから」とじいさんは言った。「皆同じように孫に会いたい一心でこの仕事に来たんです、ハイ」
そうかそうだったのか、と猪田艦長はひとりごちた。原艦長が、
「しかし、肝心の艦の名前がわからんでは困りますな。お爺さん、艦の名前を漢字で書けますかねえ」
というとじいさんは首を振ったが、「『ブゾウ』とか『タケグラ』とかいう船はどえらくでかいんじゃそうです。孫が言うには船の中を回るのにも一日じゃあ回れんそうです」と言ってため息をついた。
不意に。
古村司令の頭に電光のように閃いたものがあった。司令は「お爺さん、もしかして」と言ってその場の地面に指先で
「武蔵」
と書いて、
「これ!こういう名前の艦じゃなかったですかねえ?」
と指差した。とたんにじいさんが「おお!」と叫んで服のポケットから何やら引っ張り出した。少し端っこのすりきれた封筒、その中に入った便せんを引き出すとそれを艦長連中の前に突き出した。
そこには何やらかな釘流の文字で文章が書かれていたが「ここじゃ」とじいさんが指差す先には「武蔵」
と汚い文字。じいさんは「わしはよく字が読めんもんで、これを隣の嫁に読んでもらったんじゃが・・これは『ブゾウ』か『タケグラ』だと言っておったね。で、どっちなんじゃろう?」とほほ笑みながら古村司令を見る。
古村司令はもうおかしくて仕方がない、と言った顔で笑いを噛み殺しながら
「お爺さん、これはね――む・さ・し――と読むんですよ」
と教えてやった。
「ムサシ、だと!」
猪田艦長と加東副長が叫んだ。加東副長の顔が悲痛に歪んだ、そして「まさか、まさか帝国海軍期待の大和型弐番艦・武蔵を『ブゾウ』だの『タケグラ』だの・・・ひどい、ひどすぎる」と泣きそうな声である。
しかしお爺さんは「ほう、むさし。むさしというんじゃなあ。勇ましい名前であの子に合っているぞ」とうれしげである。
猪田艦長は穏やかに副長を見ると、
「いいではないか副長。間違いが正されこのお爺さんは孫娘似合う手がかりが出来たというものだ。・・で、問題はその<111分隊>だが・・・お爺さんちょっとその手紙を貸してもらえないだろうか」
と言って手紙を受け取った。差出人は、とみれば<田中まき>とある。軍機に配慮したとあって艦名は書いていないが、漢数字で一一一分隊、とある。
(いちいちいち・・・分隊?)と猪田艦長はわけがわからなくなった。加東副長も、原艦長もそのそばで首をひねる。
と、野村副長が「あのこれはもしかすると、二一,21分隊ってことじゃないですかねえ」と言い猪田艦長は手のひらに二,一と書いて「おお!そうだそうだ!!」というと
「では、お爺さん。私はお孫さんの乗っている『武蔵』の艦長です。私はこれから艦に戻ります、戻ったらあなたのお孫さんにあなたがここに勤務しておられることを伝えます。ですから少しの間待っていてほしいと思いますが」
と言った。お爺さんは「か、艦長さんで!?・・・こりゃあ失礼いたしました。私は田中まきの祖父で角衛と申します。どうか、どうか孫によろしく・・・」と涙声になる。
古村司令は、「なんだ・・・そういうことだったのか。しかし肉親てものはありがたいなあ」と言って目がしらを指先で拭った。
トメキチとナナそして、マツコは嬉しげなお爺さんを囲んでいる。
そのあと、艦に戻った加東副長は21分隊の田中まき一等兵曹を探しだし祖父がこの地に来ていることを話した。田中まき兵曹は恐縮しながらもさっそく上陸日に会いにゆき、祖父から「武蔵の皆さんへ」と祖父が釣った魚をたくさんもらって帰ってきたという――
Y=大和 M=武蔵 Y=矢矧
艦長同士の結束もでき、乗組員とその親族の心も繋いでYMYはこれからも進撃してゆく。勝利の日まで!
・・・・・・・・・・・・・
最後の方はちょっとだけ実話が混じっています。
親であろうが祖父であろうが肉親を思う気持ちは変わりませんね。そして、YMYのトップ連中は一層結束が強くなって良かったですね。
特に梨賀艦長と古村司令との確執も取れたのが最高です。
さて次回はどんなお話でしょうか・・・
南の島・・・行きたいです(画像お借りしました)。

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コメントの投稿
酔漢さんへ
なるほど、大きさからいうとYよりyですねw。
仙台護国神社にある英霊顕彰館…これはいつか絶対行ってみたいですね!矢矧は軽巡でしたね、それでも単体で見れば相当でかいと思うのですがやはり「大和」『武蔵』と比較すると小さいというのだから、あのド級戦艦どのくらいだったのか・・・
もし大和・武蔵が沈まずにいて日本が戦勝していたらきっと両艦とも呉と横須賀で記念艦になっていたかも?歴史にIFは禁物とは言いますがでも考えてしまいますね。
そうか!古村さんも有賀さんも「ゴリラ」でしたね!
ご本人の前で「ゴリラだっちゃ」ww、周りの人は慌てたかしら?
でも笑い飛ばしてくれる古村さん素敵ですね、お会いしたかった人の一人です。
「もうかじでたいへん」
聞いた言葉と書いた言葉で全く違う内容になるのが日本語の面白いところですね!
YMy って・・・・いいなぁ
古村さん有賀さん渾名は両方とも「ゴリラ」ですが、原さんとお会いした際に「ゴリラだっちゃ」と本人の目の前で言ってしまった酔漢でした。古村さんも原さんも大笑いしてくれましたぁぁ。
「大和」と命名された際、後まで聞こえなくて、「亜細亜」と聞こえたそうな。
本題です。
「もうかじでたいへん」
「家事で大変」が「火事で大変」と明治時代の笑い話。
先の記事と合わせてのコメントでした。
設計コンセプトを見ながら、矢矧のスペックには驚くばかりです。
オスカーさんへ
ええ!?3抜けでいきなり4になっていましたか!
いかんいかん…ついにボケた私。さっそく直しておきます(+o+)
言葉遊び、好きですよ~よく子供のころ父親と遊びましたね^^。
「飛鳥」あすか。しかし見方によれば「ひとり」、飛翔の鳥だ!
あすかという読みも素敵ですが「ひとり」も素敵、人名に使えそうですね!!かっこいいなあ!
まろゆーろさんへ
本当に読み方でおおいに変わってしまうことがありますね(^_^;)
最近話の組み立てがうまくいかなくて内心悩んでおりましたがそうおっしゃっていただけると嬉しいです!
どんなに離れていても肉親の情とか思いは断てないですよね。あの時代どれほどの親や肉親が戦地に赴いた子供や孫を思ったことでしょう・・・
私が思う『大和魂』の中にはは柔軟さもあります。臨機応変とでもいいましょうかその場に即して対応できる柔らかい心も『大和魂』のひとつではないかと。
お真紀さん、どこまでおとなしくできるでしょうか?
なんかコワイ・・ww。
matsuyama さんへ
漢数字、いざ書こうと思うとこれが悩みの種だったりしますね。
以前友人の住所だったか123とかいうのがあり、これを漢数字で書いたら「宛所ありません」で還ってきました。きちんと一文字づつわけたはずだったのに…ショックでした(-_-;)
のし袋の文字は壱、弐…の方がいいですし、「壱萬」のように書いた方がおっしゃるように重みがありますね!
ですがのし袋にボールペンで書かれるとちょっと…見識を疑いますね。
やはりせめて筆ペンで書いてほしいものですね(-_-;)
ところで「1」「2」ときて「4」で完結していますが「3」は意図的に抜いた番号ですか?
しかしなかなか趣のあるお話でした。そこに行き着いたおじいさんの孫思いの気落ちも温かいですね。
そしてすぐに行動に移してくれる人たちの心根の美しさ。大和魂は決して堅物ばかりではないということでしょうか。柔よく剛を制す、なんとなくそんな思いがします。
田中まきさん、真紀子さん、今のところ大人しいようですね。
自分も手紙を書く時、封筒には漢数字で住所を書きます。縦書きですから一、二、三は字間を空けないと紛らわしいんですよね。三と書いたつもりが一二に見えたり。今のところ郵便物が住所不明で返送されてきたことはないんですが、配達員も困るかもしれませんね。最近ではなるべくアラビア数字で書くようにしております。
よく祝儀袋とか香典袋の裏面に金額を書く欄がありますよね。自分はここには漢数字で一を壱、二を弐、三を参と書きます。これは金額の間違いを防ぐためなんですけどね。ちなみに五は伍、千は阡、万は萬、円は圓と書くと何かその金額にも重みが出てきますよね。