2017-10

「女だらけの戦艦大和」・長妻兵曹涙する3<解決編> - 2012.09.28 Fri

長妻兵曹と懐かしげに握手を交わす男性の顔を見た見張兵曹は(ああ、あの人じゃ!)とハッと気がついた――

 

長妻兵曹には、男好きのほかにもう一つ大きな癖があった。それは、椰子の実を見るとどうにも矢も楯もたまらなくなって木に登り、椰子の実を落とすという癖である。

実際、ハワイ奪還作戦の後のワイキキでの休暇では、小泉兵曹とワイキキの浜を散策中どうにもたまらなくなって服を脱ぎ捨てて椰子の木に突進。そのままふんどし一つで木に登り椰子の実を落とし、周囲の将兵の喝さいを浴びなおかつ遠くでそれを見ていた山本いそ聯合艦隊司令長官をも感動感激させた人物である。

長妻兵曹はここトレーラーで、椰子の実を落として売ることを生業としているこの男性と知り合い、その相棒のお猿と良い競争相手になっている。

と言っても長妻兵曹が一方的に強くて勝ち続けるため男性もお猿も長妻兵曹を怖がって避けているという噂もあったが。

ともあれ。

長妻兵曹は男性の手をやっと離し、

「長いこと日本に帰っていたからご無沙汰してました。おじさん元気でした?」

と言って笑った。男性も「元気ダッタヨ。ながつまサンモ、元気デナニヨリネ」と言って海軍式の敬礼をして笑った。がなんとなくその笑顔に力がないのを、長妻兵曹も傍観していた見張兵曹も感じていた。

長妻兵曹は敬礼を返し、あたりを見ると

「ほいで、おじさん。おじさんの相棒のタロはどこ行ったんね?」

とたずねた。いつもこの男性の肩に乗って離れないあのお猿が長妻兵曹にはとても懐かしい。椰子の実落としの勝負の時はお互いに闘志をむき出しているが勝負が終わればいい友達である。昨年、名前がまだないというあのお猿に兵曹は「タロ」という名をつけて内地へ向かったのだった。

と。

長妻兵曹は、男性の顔がくしゃくしゃに歪んだのを見た。

見張兵曹・小泉兵曹・増添兵曹もそれを見てはっと息をのんだ。

男性はくしゃくしゃにゆがめたほほに、涙を流した。嗚咽が漏れた。長妻兵曹は男性の両肩に手を置くと軽く男性を揺すった、そして

「おじさん、どうしたんじゃ?どうして泣くんね?」

とその顔を覗き込むようにして言った。すると男性は、涙をぬぐいながら

「タロ。わたしのダイジナおさる。・・シンジャッタ。ながつまサンの帰り、ずっとマッテタ。でもタロ、ビョウキニナッテ。ながつまサンにモラッタ大きな椰子の実大事ニカカエタママ・・・シンジャッタ・・・」

とやっとこさ言った。

「そんな・・・」

長妻兵曹の両手が、男性の肩からするりと落ちた。長妻兵曹は呆然として立ち尽くしている。

そして、

「タロが。タロが死んでしもうた・・・タロ、なんでうちが戻ってくるまでまっとらんかったんじゃ。・・・タロ、うちはお前にあと4勝せんと20勝にならんというんに。タロ、タロ・・・嘘じゃろう、嘘じゃいうてくれえ・・・」

と叫ぶように言うなりその場にくずおれると泣き出した。

軍帽がその場に落ちた。それでも構わず兵曹は悲痛な泣き声をあげる。二種軍装の袖に砂がつく。男性もそれを見てまた悲しみが込み上げて来たか、声をあげて泣きじゃくる。

見張兵曹はいたたまれなくなった。

そっと膝を砂につけて、長妻兵曹の背に手を置いた。そして「長妻兵曹・・・」と呼びかけたが自分も声にならない。見張兵曹もあのお猿を知っていたからたまらないものがあった。

長妻兵曹の背に置いた見張兵曹の手に、長妻の悲しみがそくそくと伝わってくる。

小泉兵曹・増添兵曹は言葉もなく少し遠巻きにして黙って見ている。

辛そうな泣き声をあげる長妻兵曹、その兵曹のそばに男性は涙を拭き拭き膝をつくとその手を長妻兵曹の揺れる肩に掛けた。

そしてそっと兵曹を引き起こした、長妻兵曹の涙に濡れた瞳を覗き込むと

「ナガツマサン。タロはあなたにカワイガッテもらって幸せデシタ。・・・タロはキット、天国であなたやアナタノお友達のコトヲ見守ッテルネ。・・・もう、ナクノハヤメマショウ。タロは、タノシイコト好きダッタネ。ダカラ、ながつまサン。タロのコト、笑ってオモイダシテヤッテネ・・・。タロハ、いつもワタシタチのソバニイルカラ・・・」

と言い聞かせるようにした。長妻兵曹は涙を軍曹の袖で拭きながらうんうん、とうなずいた。そして、軍服の胸ポケットから手帳を出した。

それに挟めてあった写真が二枚、そのうちの一枚を男性に手渡した。見張兵曹がそっと見るといつだったか長妻兵曹がこの男性とタロ(当時はまだ名無しだったが)に勝負を挑んだ際の記念写真――裸の女海軍数名と日章旗に挟まれるようにして、ちょっと複雑な表情な男性とタロがいる――である。

男性はそれを見つめ、やがてその顔に嬉しそうな微笑みが浮かんだ。長妻兵曹は「それ、もうずっと前撮ったんだけど渡し損ねて・・・いまになってしもうてごめんねおじさん」と言うと男性は

「アリガト、ながつまさん。これワタシノ宝物ニシマス。アリガトネ。・・・タロノコト、ずっとワスレナイデヤッテネ。タロハ、きっと天国でヨロコンデルヨ、イイヒトニ会えてヨカッタッテ」

と言って微笑んだ。

長妻兵曹はやっと落ち着いたのか、それでもひくひくしながら砂の上に座りなおした。男性もその横に座った。見張兵曹他もその少し後ろに座る。

長妻兵曹は海を見つめながら、

「ほうじゃおじさん。椰子の実取りはこれからどがいするんじゃね?」

と聞いてみた。男性はもらった写真を見ながら、

「マダわかりません。デモそのうちタロのカワリヲ見つけないとイケマセンネ」

と言った。長妻兵曹はそっとうなずいて

「ほうじゃな。せっかくのタロの椰子の実落としの技これで絶やしたらタロも悲しもう。落ち着いたらタロの後釜を探したらええよ」

と言った。男性は力強くうなずいて、そして長妻兵曹とがっちり握手をしたのだった。

 

そのあとはしばらく気の抜けたような感じの否めない長妻兵曹であったが、次の上陸の際例の男性から、

「ナガツマサン!タロの親戚ノオサルをモラッタネ!だからこれがタロの後釜。コウケイシャです!!ナガツマサン、また名前ツケテチョーダイネエ!」

と言われ、タロの親せき筋という猿に「ジロ」と名をつけて来た。

その晩、巡検後に露天甲板で長妻兵曹とあった見張兵曹は

「ほう、タロの親戚のお猿ですかあ。どがいなお猿ですか」

と聞いてみた。いつの間にか、増添兵曹も小泉兵曹、石場兵曹も寄ってきている。

見張兵曹に長妻兵曹は、手帳からあの写真を出して眺めながら

「それがのう、タロにも増して気の弱いオサルじゃ。・・・さあ!うちはこれからジロをタロみとうに立派な椰子の実落としザルに育てんならんけえね。ほいでうちとの椰子の実落とし競争を一から始めるんじゃ!忙しゅうなるでー!」

と張り切って言って・・・

見張兵曹は(良かった。これで今まで通りの長妻兵曹じゃ)とホッとしたのだった。

 

写真の「タロ」がそんな皆にほほ笑んだような気がした――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

 

椰子の実落としは長妻兵曹の趣味です。

そのライバルが死んでしまったお猿さんでした。兵曹や男性の心はどれだけ悲しかったか。

でも後釜の「ジロ」ができました。タロの分まで頑張れ、ジロ!!
椰子の実落としをするお猿さんの映像を見つけました!




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● COMMENT ●

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
私も「こんなことするのにどこが適当かなあ?」なんて思って艦内図面を見ることしばしばですw。
酔漢さんならこの動物たちをどこに住まわせますか?

動物を使う心のケア、最近よく聞きますよね。痴呆症にもいいとか!!
私も将来こうしたセラピードッグの世話にならんよう、気をつけたいと思います(-_-;)

長妻兵曹は自分でも好きなキャラの一人です♪

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
動物と言えど、心通った相手の死は辛いですよね。
「北斗の拳」!アタタタタ…!って私が言うと「どこか痛いの?」って言われますが(^_^;)

新しい椰子の実猿と長妻兵曹のタッグにご期待くださいませ^^!

動物の底力!

変な癖がありまして・・
「動物を住まわせるとなると・・・」
と大和の図面を広げております。(汗)
精神科医の友人が動物を使ったケアをしております。実戦じゃなくて実践しているわけですが、効果大の報告。
大和の殺風景の中に小動物がいてもいいですよね。
二話目にコメントせず、「どんな結末なんだろう」と思っておりました。
長妻兵曹。いいキャラですね。

こんばんは。心を通わせた者との別れは悲しいですね。「強敵」と書いて「とも」と読む、北斗の拳の世界のふたり(?)みたいです。出逢いと別れを繰り返しながらたくましくなっていく乙女たち…これからも期待しています!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!

そうだったんです・・・
長妻兵曹にとっては大変悲しい話になりました。
しかし彼女とこの男性やタロとは心がしっかりつながっています。ジロもそのうち一人前の椰子取りになることでしょう。ご期待くださいね^^。

都会の喧騒を離れて、それこそ竹富島や石垣あたりに行きたいですね。小笠原も行ってみたいですしそれこそ「トレーラー」のモデルにしたトラック諸島(現・チューク諸島)にも行きたいですね。

『大和』に子犬と鳥、『武蔵』にも子犬。
動物は人間間の心の潤滑油になりますね。そういえば広島大学の研究で「可愛いもの」をみた後は集中力が増すそうです。
可愛い犬や鳥を見て、さあ「女だらけの大和」に『武蔵』、がんばりましょー!

そういうことでしたか。
せっかくの再会のはずだったのに悲しい知らせでしたね。
ほのぼのとした島人やタロとの交流が優しく伝わってきました。こんな記事を拝見すると石垣島や竹富島に行きたくなります。猿はいないかもしれませんが。のんびりとした暮らしを営んでいる人たちの笑顔と元気だけでも頂きたいです。そして南国の花々で心を潤したいです。
さてこれからのジロの成長と活躍が楽しみですね。
ヤマトには様々な動物たちが参加して、優しい空気が充満しているのが心憎いです。人間ばかりだと軋轢もありますが、さすがに見張り員さんの心配りかもしれませんね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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