2017-10

「女だらけの戦艦大和」・『武蔵』あれこれ6 - 2012.09.17 Mon

「女だらけの武蔵」でおかしなことが頻発していた時、同じくトレーラー碇泊中の他の艦艇でも同様なことが起こっているのを、加東副長は知った――

 

「猪田艦長。先ほど『金剛』と『摩耶』の副長から聞いたんですがどちらの艦でも最近酒が減ったり気味の悪い人影が見られるというんですよ。下半身がなく髪をふりみだした人影が歩いてるって」

昼戦艦橋に入ってきた加東副長は、碇泊中の艦船の副長の集まりで聞いてきた話を猪田艦長にした。猪田艦長は艦長席から立ち上がると、その美しい眉をちょっとひそめた。そして、

「ふむ。『金剛』と『摩耶』でもか。どういうことだろうか。うむ、待てよ・・・もしかしたら幽霊妖怪の類ではなくそれこそ生身の人の仕業ではないか?現地人を疑いたくはないが一応気にしておかねばなるまいよ。それに、複数の艦でとなると単独犯ではなく複数犯の可能性もある。用心に越したことはないから今夜から各分隊から二名ほどだして夜警をしようか」

と提案した。副長はわかりました、と言って各分隊の分隊長・分隊士を招集した。

招集された分隊長・分隊士たちは副長の話を緊張気味で聞き入った。もうすべての分隊でこの話は有名になり、中には怖がりの兵隊が夜になると泣き出すようになって、

「ほとほと困っております。いやしくも帝国海軍軍人がたかが幽霊妖怪の類で泣きだすとは」

とこぼす分隊長もいる。特に主計科では、

「倉庫に行くのが嫌だ。何かいそうで怖い」

と言って食材を取りに行くのを嫌がる主計兵嬢が多く、そのたびに班長や分隊士がついてゆかねばならず

「仕事に差し障ります」

という事態にまで発展。機関科の分隊士が主計の分隊士をにらんで、「だからか!最近飯がうまくなくなったのは!貴様の兵隊、たるんどる!」と怒鳴り、あわやつかみあいに発展しそうになり副長があわてて間に入る。

「今は争ってる場合か!それより一刻も早くそのわけわからんもんの正体を突き止め、捕獲するのが先決だろう。くだらん喧嘩はご法度だ、いいな!」

そう言って副長は二人から手を離す。二人の分隊士はそう言われてにらみ合いを止める。副長は、「であるから今夜より交代で各分隊から二名ほど夜警を出すことにした。時間は主に目撃情報のある〇一〇〇から〇三〇〇までとする。なるべく屈強な体格の兵を出してほしい。間違っても怖がりは出すな、怖がりはベッドの中に押し込んでおくように」

と言って解散。

各分隊長・分隊士たちは今の話を分隊員に伝えるべく駆け足で各部署に走った・・・

 

その数日あとの昼下がり。

一人の現地の漁民男性が日本海軍の碇泊港近くの海上でおかしなものを発見した。

小型のフネである。男性は(ナンダロウ、これ。不審ナ船ネ)と思い自分の小さな船をそれにこぎ寄せて櫂でその船を引きよせた。

大きな木をくりぬいたような船で、しかしその真ん中あたりに雨よけだろうか、小屋風の物もついている。

男性は「誰か、イルノー!」と声をかけたが応答なし。意を決してそっと乗り込んでみた。小さな小屋のようなものの中を覗くとそこには何もない。

(ナンダこれハ?シカモ・・・)しかもその船にはオールがない。エンジンらしきものもない。動力もオールなしでどう動かしているのか?男性は頭をひねった。もしかしたらどこかで嵐に巻き込まれ流されてきた丸木舟かとも思った。

だがしかしこのところトレーラー周辺で嵐が起きたという話はラジオでも聞かない。しばらく考え込んでいた男性は、この船を「不審船」と位置づけて日本の海軍の警備隊に引き渡そうと思い、自分のフネの後ろにロープでつなぐと、警備隊のある港へと小さな漁船を漕ぎ出した。

 

さらにその頃。

加東副長はトレーラーの潜水艦基地司令から「いいものあげる!って言ってもなんだかわかんないけどたぶんおいしいものだと思うよ。猪田さんにもあげて」と何かもらってきた。

副長は、それを袋に入れて手に提げて帰って来た。

艦長室には猪田艦長は不在で、従兵に聞くと「艦長は今、昼戦艦橋にいらっしゃいます」ということなので急いで艦橋に。

副長が艦橋に入ると猪田艦長はちょうど艦橋の真ん中あたりに立って考えごとの最中。副長が入ってきたのに気がついた艦長は副長を見て微笑んだ。そして、

「ちょっと砲の有効な使い方を考えていてね。副砲はどうも仰角が不足だからそれを主砲や高角砲でどう補うか?今後の戦闘で敵が航空機を大量投入してきた場合を考えると、ちょっと不安もあるからね。噴進砲はあるが、敵味方の航空機入り乱れての戦いでは同士討ちになりかねん。その辺をどうしたものかと考えていたの」

と言った。さすが猪田艦長と思った副長、「確かに。対空砲としての副砲は少し不安が残りますね。どうです、高角砲や機銃の増設を申請しましょう?」と艦長に言う。

艦長はうなずいたが「しかし、軍令部もけちだから、素直にうんと言うかね?」とため息つく。副長は「この戦い、負けるわけにはいかないのですから。その辺を力説されれば軍令部だって出すでしょう。なんなら艦隊でこぞって申請しましょう」と力み、艦長は「どの艦もみな高角砲や機銃を増設しまくったらまさにハリネズミだね。見ただけでアメリカはお手上げかもしらんな」と言って笑った。

ひとしきり笑った後、副長は「あ、そうでした」と言って海図台の上に手にしていた袋を置いた。

猪田艦長は「これは、なにかね」と聞いた。副長は潜水艦司令からもらった何かおいしいもののようだ、と言ってそれを取り出し海図台の上に並べた。5個ほどが並んだ。

ちょうど入ってきた仮谷航海長が目を止めて、

「あっ、なんですかそれ!開けましょう開けましょう。開けなきゃ分かんないですよ」

と寄って来た。艦橋にいる信号兵と見張り兵が興味しんしんで聞き耳を立てているのがわかる。猪田艦長は

「そうだね。では早速・・・」

というとその場に置いてあったスパナを手にとった。加東副長も「では私ももう一つを」、仮谷航海長も「私も!」と海軍ナイフを手に取ると、それに振りおろし突き立てた。

艦長の振りおろしたスパナやナイフは、それ――銀色の缶――にずぼっ!と突き立った。

と!

ブシュウウウ!!

とすさまじい勢いで中身と臭気が噴き出してきた。

思い出してほしい、以前『大和』や『伊号4444潜水艦』『某巡洋艦』で惨事が起きたあのこと。そうシュール缶。

あの事件は『武蔵』で少し時を置いて発生したのだ。すさまじい勢いで噴出する中身と臭気は、『大和』他の時とは比べ物にならなかった。なぜなら・・・副長たちは気がつかなかったがそのうちの二つの缶が少し膨らんでいたのだ。中で発酵が進んでいた。

ともあれ昼戦艦橋は阿鼻叫喚に陥った。その場にいた信号兵嬢・見張兵嬢は臭気に倒され気絶していた。

仮谷航海長はもろに中身の汁を浴びこれも白目をむいて倒れ、艦長と副長がかろうじて意識を保っている状態。

艦長のそばにいた愛犬・ナナは痙攣をおこして倒れている。

そして恐ろしいことにこの恐るべき破壊力を持った臭気はエレベーターと伝声管を通じて全艦に流れていったのだった。

「うわっ、なんだこれは!」

「敵襲か!?」

「うう・・・臭いっ、防毒面をつけよ!非常事態!」

全艦で同時発生的にパニックが起きた。しかし艦長や副長の指示がない・・・あるわけもない、二人は半分意識を失いかけてそれでも艦橋から逃げようと這いずりながら、仮谷航海長を引きずっていたのだから。

艦橋に防毒面をつけて咳こみながらあがってきた掌航海長はこの場面を見て完全に舞い上がってしまい、伝声管に向かって

「艦長と副長戦死!艦長戦死!」

と叫んだのだった。絶望が『武蔵』を駆け抜けた。

 

――『武蔵』艦内の全員が、露天甲板に集合した。ほとんどの兵が吐き気や頭痛などを催しているが肝心の衛生兵嬢たちがやられてどうにもならない状態である。そこに「戦死」したはずの艦長と副長が死んだように伸びている航海長を引きずってやってきた。

艦長が生きていた!という叫びに総員が湧いた。それを抑えて猪田艦長は吐き気を催しながら「皆には迷惑をかけた!これは私の不徳の致すところである。これから艦内の換気及び清掃をしよう」

と言い皆はぞろぞろ艦内へ戻る。

 

そして更なる大ごとが起こったのはそれから一時間ほどしたときであった。

主計兵嬢が烹炊所の換気をしに行った時――!!

  (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・

また出たシュール缶!しかも話をずいぶん引っ張っています。

結構使えるなあこれ、ってもうこれが最後ですが(-_-;)。このシュール缶騒動が何かの引き金になったのでしょうか、そして肝心の酒保の事件と幽霊騒動はどうなったのでしょう??次回いよいよ解決編です!

不審船
『不審船』(画像拝借しました)。
これほど立派ではない・・・



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● COMMENT ●

荒野鷹虎 さんへ

荒野鷹虎 さんこんばんは!
『大和』級の戦艦数隻をもって尖閣諸島および竹島周辺に警戒をしいたらかなりの効果があるんじゃないかしらと私も常々妄想しますね。
抑止力にはなると思います、日本は海洋国家ですから海の守りは最重要なはずですが・・・

緊迫する日中関係、打開策はあるのでしょうか???

しかしこういう時代になった以上、再軍備は必要かもしれませんが軍備を持ったからと言って中・韓が懸念するように「戦争を進んでするための」軍隊ではないわけです。

でも本当にあの海域から目が離せません。

NoTitle

突然思い起こしたのですが、こんな時に、尖閣に戦艦大和を出擊すればなんて・・とんでもないことを・・・笑)しかし、憎い敵ですねー。
やはり、再軍備しかないのでしょうか?憲法改正は困難ですし。複雑な心境です。汗)

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
シュール缶の洗礼だけは受けたくないとつくづく思います。
さあ、不審船といい艦内でのおかしな出来事といい、いったい誰の仕業でしょう??もしかしてホントのゆうれい!・・・まさか・・・?

東京は昨日あたりから時折ザーッと降ります。これで水不足解消になってくれると嬉しいのですが。
今日は蒸し暑くて気分悪い日です、いつもご心配をありがとうございます!

NoTitle

幽霊よりも怖いシュール缶!! 神出鬼没ですね。
丸太をくりぬいた不審船も不気味ですし、幽霊も酒保もこれからが楽しみです。
関東は台風の影響は全くなかったのでしょうか。せめて雨でも降って水不足が解消できれば良いのですが。
明日は湿気を含んだ暑さになるとか。お体を大切になさって下さいね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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