「女だらけの戦艦大和」・『武蔵』あれこれ5

それは、ある時から『武蔵』艦内で起きていたことであった――

 

主計長は酒保の在庫を、倉庫で確認中であったがふと首をかしげた。補佐していた鹿野主計大尉は「どうなさいました、主計長」とたずねた。

林主計長は首を傾げたまま「なんだかなあ、最近酒の消費が激しくないか?酒は副長の許しがない時は出せないはずだが?」とブツブツ言う。

「酒が、ですか?」と鹿野大尉が酒の保管場所を見て主計長の持っている在庫表と引き比べると確かに在庫が少ない。

しかもその減り方が微妙に少ないためあまり気がつきにくい。

「いったい誰が?きっと夜中に兵隊がこっそり忍び込んで持って行くのかもしれないね。鹿野大尉、あと二・三日調べてみてそれでも減るようなら不寝番を立てて調査しようか。『武蔵』の中にこんなことをする奴がいるなら許しがたい」

主計長はそう言って在庫表を持って倉庫を出ていった。

残された鹿野大尉は、ふうっと息をついた。兵隊たちの<ギンバイ>行為はある意味当たり前のように行われていたがもっとカワイイ行為であり、目くじら立てるほどの行為ではなかったはずだがいったいどうしたというのだろう?

「たるんでいる、ということだろうか。最近大きな戦闘もないしここでずっと訓練しているだけだからなあ」

鹿野大尉はそうひとりごちると艦内帽の頭を軽くたたいてもう一遍倉庫を見回してからそこを出た。

 

その頃と時を同じくして艦内に「幽霊騒動」が持ち上がっていた。

最初<それ>を目撃したのは夜間に防空指揮所に上がっていた見張り員の一人である原水兵長。彼女は当直で指揮所にいて暗い空を双眼鏡で見つめていた。南方の夜空には無数の星がきらめいてまるで生きているかのように見える。

(星が息をしてる・・・)

そう思った。その時後ろから肩をポン!と叩かれ振り向けば、小椋兵曹が立っていて「ご苦労さん、交代だよ」と笑った。原水兵長は「異常ありません」と報告して双眼鏡の前を離れた。原水兵長はその時何気なく視線を前甲板あたりにむけた。

「!?」

原水兵長は急に体を指揮所の前部分の囲いに乗り出すようにした。小椋兵曹が「あ?どうしたね」と聞いた。原水兵長は、前甲板を指差して

「あのあたりに誰かがいました!」

と言った。心なしか顔色が青ざめているのが星明かりにもわかる。小椋兵曹は双眼鏡を調整しながら「甲板士官じゃないのか?あ、もしかして用でも足したくなって物陰でしたかあ?」と言って笑った。その小椋兵曹に原水兵長は青い顔のままで、

「いいえ、甲板士官ではないです・・・だって」

「だって、どうしたね?」と問う小椋兵曹に水兵長はごくっと唾を飲む音も大きく、

「だって。その人らしいものは・・・下半身がなかったんです・・・」

と言い、小椋兵曹は背筋がぞーっとしてしまった。二人は少しの間黙っていたが小椋兵曹は「おお、そうだ。原、貴様まだもうちょっとここに居れるだろう?今夜は星がきれいだからもうちょっとここにいろ!」と無理を言って原水兵長とその場に立っていたのだった。

そしてまた別の晩には、深夜厠に起きたとある居住区の兵が廊下を曲がってゆく人影を見た。薄暗い常夜燈のもとで見たその人影は・・・やはり下半身がない!

「う、うわああ・・・」

その兵はその場に腰を落として声も出ないほどに恐怖にかられていた。そこへたまたま来かかった少尉が「どうした?」と引き起こし、事を聞いてこれも真っ青。

この少尉は先だっての晩の前甲板での幽霊?騒ぎを聞いていた一人であったから「出た、出たんだ!いったい何がどうして『武蔵』にそんなものが出るんだ・・・」と言って兵隊の二人で抱き合って震えている。

その話はあっという間に艦内を走りぬけ、夜になると当直を嫌がったり、厠に行くのにおおぜいでぞろぞろと金魚のフンのように列を連ねてゆくようになった。

まず、加東副長が「いったい何なんだよこのざまは!」と怒りだした。「いやしくも帝国海軍期待の『武蔵』がこんなざまで良いのかね!ええ!?」

そして副長自ら一人で露天甲板から艦内、最下甲板に至るまで見まわると言いだした。副長はかつて「忍者丸事件」で怖い思いはしたが(結局あれだって生身の人だったじゃないか。今回だってそうに決まってる。皆なんだかんだ言ってサボりたいんじゃないのか)と思い直して巡回を買って出たのだ。

そんな副長を見て猪田艦長は「副長。そうだよ結局人間は心の持ち方一つだと思うよ。だからもし本物の幽霊妖怪の類でも生身の人だと思えばいいわけだね。そうだそう思えばどんな幽霊妖怪でも怖くはないよね」と却って副長を怖がらせるようなことを言った。

加東副長は(もしも・・・本物だったらどうしよう)と一瞬腰が引けたがもう引き返せない。腹をくくり心を引き締めて手には自慢の日本刀と懐中電灯を持ってまずは露天甲板を歩き出した。

略帽の下の瞳をめぐらしてあちこち見たがそれらしい人影など、ない。

砲塔の影や三連装機銃のプルワークの中まで調べた。頭をあげて高角砲のアーマーの影も電燈で照らして見たがそこにも人影はない。

(なんだ、結局見間違いかなんかだろう。馬鹿臭い)

そう思ったが艦長の手前いい加減には済ませられない、仕方ないなあと言いながら今度は下甲板へ降り兵員居住区など見て回ることにした。

副長はそれこそ厠の中から居住区の柱の陰から烹炊所の窯の中まで調べたが・・・誰もいない。鼠一匹、ごきぶり一匹さえいない。

「くだらないこんなことで時間をつぶして。寝る間がなくなってしまう」

それでも責任感の塊の副長は最下甲板まで巡回した。

最近酒が消えると主計長がこぼしていた酒保倉庫も見た。誰もいない。

副長は時計を見た。もう深夜二時になる。さすがにもう何時間もあるきまわって疲れた、(今夜はもういいだろう。何も出なかったということで猪田艦長に報告しよう)と思って日本刀を持ち直し、懐中電灯を胸ポケットに突っ込むと艦橋に向かって歩き出した。

 

――その後ろ・・・人影が一つ副長とは反対方向にそっと歩いて行ったのを副長は知る由もない――

     (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・

またも!『武蔵』に幽霊騒動でしょうか?

酒保の酒の問題・幽霊騒動は関係があるのか!?そして副長の反対側を歩いて行った人影はいったい!?

武蔵ほか
単縦陣で進む艦隊(後ろから二、三隻目が<大和型戦艦>)画像拝借しました。



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matsuyama さんへ

matsuyama さんこんにちは!

ビール工場見学でビール攻め!
たしかにあまりそればかりだともうちょっと結構・・になりますね。度を越した酒好きにはいい逆療法ですね。

さて、『武蔵』他を荒らしまわるものの正体は!幽霊かそれとも!
いよいよ今夜公開!!

以前ビール工場の見学に行ったことがあります。ビールの製造過程を見学した後、最後にビールをただで飲ませてくれるんですね。そしてお帰りには缶ビールなどのお土産まで貰えるんです。好きな人にはたまらない見学コースですよね。と同時にもうビールは見るのも嫌、という気にもなります。
もし酒泥棒だったら、その人に逆療法で浴びるほど強制的に飲ませると、もう酒を見るのも嫌ということになるかもしれません(笑)。
昔、子供の頃「きもだめし」というのがありましたよね。夏休みの夜、お墓にあるものを取りにいくとか。怖かったですよね。今でもその頃のことが思い出されて、稲川淳二さんの怪談話は怖くてきけません。

武蔵で戦死した英霊なんでしょうか。ドキドキしますね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
さあこの酒泥棒、あるいはゆうれい?の正体は!
その前にちょっとしたドタバタがありますよ~~お楽しみに^^。

敬老の日です・・・
貴重な戦時中の経験をお持ちのご老人にはぜひお話をしていただきたいですね。正直もうあまり時間はないと思っています。
あの頃の経験は今後の日本の行き方に密接な関係がありますからね。

日本という国家国民を守るという気概のある政治家。そのためには死さえ覚悟して突き進むというくらいの政治家が出てくりゃいいんですが。
どうもいけんですね、最近は保身ばっかり考えて。
情けないですホントに・・・(-_-;)

酒泥棒でしょうか。
酒くらいだったらいくらでも盗み飲みして良いですよ~~。みたいな今の中国の盗人ぶり!!
きっと幽霊じゃないですよね。誰だろう?? 正体を楽しみにしています。

敬老の日ですね。戦争を知っているお年寄りから貴重な話を遺産のように聞いておかねばと思う私です。あの体験をした直後の日本人であれば中国にここまでやられっぱなしで何も言わないわけがないと思います。たとえ無条件降伏であったにしても骨のある政治家がいっぱいいましたから。NHKの吉田茂のドラマを観てつくづく思っています。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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