「女だらけの戦艦大和」・『武蔵』あれこれ4

三浦中尉の妻となった桃恵は初産を安産で終え、女の子を産んだ――

 

三浦中尉はベッドに横たわる妻のほほをそっと撫でて大仕事をねぎらった。桃恵は出産時に出血が多かったとのことで青い顔であるが今はもう落ち着いている。

看護兵嬢が来て、

「赤ちゃんは新生児室にてお預かりいたします。三浦さんにはごゆっくりお休みくださいね」

というと赤ん坊の寝ている小さな車輪のついたベッドを押して出て行った。三浦中尉は妻を見ると、

「ゆっくり休みなさい、出血が多かったそうじゃないか?また夜になったら来るから、それまでゆっくり眠りなさい」

と言って桃恵はうなずいた。中尉はもう一度桃恵のほほを撫で、そしてそっとその唇に自分のそれをつけると真っ赤に顔を染めて「じゃあ、あとでね」というと病室を出て行った。

部屋に残った桃恵はしばらくまどろんでいたが杉山軍医大尉が産後の診察に来て目を覚ました。軍医大尉は「おなか空いていないかね?朝ごはんもあまり食べていないようだったから、今から昼食を持ってこさせよう。ベッドの上に起きられるかね?」と言って診察を終えた。

「出血もだいぶ収まったし、顔色も少し良くなったから食べられるようなら食べたほうがいい」そう言って看護兵嬢を呼び、昼食を持ってこさせた。

ご飯に味噌汁、魚のフライや野菜サラダなどの昼食を、桃恵はそっと起き上って食べた。桃恵の背中に、看護兵嬢が「これにもたれると楽ですよ」と枕をたくさん積んでくれたから楽に食事ができた。桃恵は看護兵の心遣いに感謝しながら食事をすべて食べ終えた。

そしてもう一度眠りに着いたのだった。

 

その日の夕方、三浦中尉は足取りも軽く海軍病院産科病棟にやってきた。手には喜木少佐から祝いにもらったあんころ餅の入った箱。

まず中尉は軍医大尉や看護兵嬢にあいさつしてからまず、新生児室へ。

三浦中尉の<長女>はその部屋の小さなベッドで無心に眠っている。中尉はその顔を飽かず眺めた。

その全身に、子供に対する愛情とか責任感とかいうものがふつふつとわきあがってくるのを感じていた。次の瞬間、「そうだ!」と大きな声を思わず出してしまった中尉は、妻の病室へと足早に急ぐ。

そっとドアをノックしてドアを開くと桃恵はベッドの上に体を起して茶を喫しているところだった。桃恵は夫を見て微笑んだ。

中尉はベッドの横の椅子に腰を下ろすと、喜木少佐からの贈り物を差し出し「これは喜木少佐からお祝いにいただいたよ。あんころモチ、これを食べるとお乳がよく出るんだそうだ」と言った。桃恵はそれを肩より高く捧げ持って感謝の意を表して、

「喜木少佐が・・・ありがたいことです。あなた、明日少佐にお会いになったら私がとても喜んでいたとお礼申し上げてくださいね。そうですか、あんころモチ。では少しずついただきましょう、よいお乳を出さないとなりませんからね」

と言ってその箱を胸に抱くようにした。

「で、なあ桃恵」と中尉は少し身を乗り出して言った。はい?なんでしょうと問う桃恵に中尉は、

「なまえ、名前をどうしようかと思ってるんだよ。何か桃恵は考えていたかな?」

と言った。桃恵は「なまえ・・・少し考えてはいたんですがあまりよいとは。あなたは何かお考えですか?」と言って夫を見た。中尉はうーん、と唸って

「なんだか嬉しさが先だって考えがまとまらないんだ。喜木少佐はお七夜に間に合えばいいと教えてくださったんだが、あっという間だろうと思う。どうしたものかなあ」

と腕を組んだ。桃恵も「そうですねえ。一生のものですからよい名を考えてやりたいものですね」と言って少し天井を見上げて考える。

その妻を見て中尉は、

「まあ、私も今夜いろいろ考えてみるから桃恵も何か思いついたらメモしといてくれね。女の子だからねいずれ名字が変わってもいいような名前でないと」

と言った。桃恵は「そうですねえ。変わった名前より落ち着いた名前でつけてやりましょう」と言ってどんな名前にしたものか、と考える。

 

その夜、家に帰った三浦中尉は漢和辞典とか名付け辞典と首っ引きで名前を考えている。(○○・・だめ。ありきたり)とか(××・・・ちょっとこれじゃ奇をてらいすぎ)などと紙にかいた候補は次々バツ印がつけられる。

「ああ~、名前をつけるとは難しいものだな」

中尉は思わず仰向けになって天井に向かって嘆息した。「私たちの命を継いでくれる、あの子にいい名前を・・・」

そう言った瞬間、中尉の脳内に電光のように一つの名前がひらめいた。あわてて新しい紙を机の引き出しから出すと、その名前を万年筆で書きつけた。

 

翌日三浦中尉は出勤前に病院に寄った。

まだ朝食前の桃恵はベッドの上で窓の外を見ていた。夫の早朝の訪問に少し驚きながら桃恵は「おはようございます。あなたご飯はちゃんと召し上がってますか?」

と聞いた。その妻に返事をするのももどかしく三浦中尉は鞄から一枚の紙を出すと桃恵の前に出した。

そして、

「夕べ閃いたんだこの名前。どうだろう、この名前?」

と早口で言った。桃恵はその紙に書きつけられた名前を読んだ。しばらくその名前を口の中で反芻した。

三浦中尉は心配そうに妻を見つめ、「・・・気に入らないか?ダメだろうか?」と言った。

すると桃恵は満面の笑みで夫を見て、

「あなた、最高の名前だと私は思います。この名前で決めましょう」

と言った。三浦中尉は思わず立ち上がって桃恵を抱きしめると「そうか。これで良いか!ありがとう桃恵!」と言ってその腕に力がこもった。桃恵は夫の腕に抱かれてうなずいていた。

 

三浦継代 みうらつぐよ

 

子供の名前である。この名前について三浦中尉は、

「この子が私たちの子供としてこの世に生まれたということは私たちの先祖からの命を引いているということだ。そして日本人として真っすぐに育って次の世代に日本の心を継いでほしい・・そんな意味とか願いを込めてみたんだよ」

と言って笑った。桃恵は素晴らしい名前だと思った。そして、

「あなた、最高の名前ですよ。命を継いで国も継ぐ。海軍軍人の子供として最高・最良の名前ですね。この子は幸せですよ」

と言った。桃恵の心からの思いである。その思いを中尉も汲んで、「ありがとう。さっそくこれから届を出してくるからね」と万感の思いを込めて言った。

 

その日。

三浦中尉と桃恵の初子である女の子供は「三浦継代」という名をもらった。

それを中尉は喜木少佐や工廠の関係者、ハワイの両親に二人の名前で伝え、桃恵も『武蔵』の医務科宛てに手紙を書いて伝えた。

『武蔵』にはその日から十日ほどで手紙が着き、村上軍医長以下「おう、やったぞ!春山兵曹女の子を出産だ!しかもいい名前だなあー!」と大喜び。

秋川兵曹は北野少尉と「祝いの品は何にしたものか」と考えた挙句大きい椰子の実を磨きに磨いてぴかぴかにしたものに三浦中尉と桃恵、そして子供の名前をきれいに彫って贈った。

これが三浦中尉と桃恵を大変に喜ばせた。

しかも、その実の裏には猪田艦長・加東副長の署名まであったのだから――

 

  (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・

二人の赤ちゃんの名前が決まりました!

名前にはいろいろな意味や願いを込めます。最近は「ドキュンネーム」というのがあって当て字で全く普通に読めない名前があるそうですが、普通が一番、と私は思っています。
椰子の実
椰子の実(画像お借りしました)



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Secre

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます!
よい名前とおっしゃっていただきうれしく思います^^。
物語の中の子供の名前ですが考えに考えてつけました。
名前には親の願いなどもろもろがこめられていますよね。私もにいさまも、自分の子供に名前にはいろんな思いを込めてつけ、そして世の中に送り出しましたよね。
この「継代」ちゃんには話の中の日本もそうですが現実世界の日本のよき部分の継承を願ってつけました。

ドキュンネームと言えばある小学校の授業参観で一人の子供が「僕は大きくなったら総理大臣になって子供にへんな名前をつけてはいけないという法律を作ります!」と言って子供たちの喝采を受け、親たちは顔をそむけたそうです。
その子の名前は「恋獅子(れんじし)」くんだとか。いかに彼が自分の名前で悩んでいたか・・・哀れですあまりにも。
奇をてらうのもいい加減にしないと本当に子供の恨みを買いますよね。今頃の親のものの考え方、私には理解不能ですよ(-_-;)
実際、この先10年20年後改名流行りになるかも…しれないですね・・・

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます!
ありがとうございます^^!
出産の話は自分の体験などを思い出して書いていました。あのときの二回の経験はどんなに時が移ろっても忘れませんね。

名前を考えるについてどうしたものかと考え続けていました。いくつか候補があったのですが「継代」は仕事中に急に思いつき「これだ!」とメモしておいたものです。

この子が大きくなるころには「女だらけの大和・武蔵」も呉や横須賀でのんびり、の時代になっているといいです^^。

かなやのぶ太さんへ

かなやのぶ太さんおはようございます!
新入りの『三浦継代』ちゃんをどうぞよろしくです^^。
赤ちゃんのあのほのあまいミルク臭さ…いいですよね、あれが命のにおいそのものの気がします。
いずれ母親の跡を継いで『武蔵』に乗るかもしれませんよ♪

お名前に対する思い・・・お小さい頃はある意味「苦」だったですね。
私も苗字はとても変わっていてちょっと読めないですね、いくら親からは由緒ある(父方は出雲の神官の出身です)ものだと言われても学校や学年が変わるたび先生から「なんて読むんだ」とかあげく「なんだこりゃあ!」と言われ半分喧嘩になったことも(-_-;)

名前も問題って結構後あとまできますよね…タメイキ。

よい名前ですね。
三浦中尉の体と心を借りて見張り員さんのメッセージが込められているのが痛いほど分かりました。
名付け親は希望と夢と息災を託して大役を果たしますが、継代ちゃんにはまさしく日本の清き精神の象徴のような娘さんになってもらいたいと念じています。

ドキュンネームというのですか。何処の国の人間だか何て読むのか皆目分からない奇妙な名前。あれはバカ親の骨頂ですね。情けない。いずれ成長した子供から恨まれるでしょう。10年後、20年後日本中の占い師さんが改名で大繁盛だったりして。

前の出産の話は胸がいっぱいになってしまい、なんのコメントも書けないままでした。しばらくして、そうだ、名前は?と思っていたらまたステキな物語の中にその答えがありました~!!継代ちゃんが大きくなる頃には平和が当たり前の世の中であってほしい…そう思いました。今回も愛溢れるお話、ありがとうございました。

三浦中尉と奥さんおめでとうございます~☆「継代」ちゃんですか!
かわいい名前を付けてもらってよかったね。未来の「武蔵」乗組員さんになるのかしら。
あかちゃんのあまいミルクのにおいが感じられるような気がしております^^

わたしは「のぶ太」も本名ですがファーストネームもわりとドキュンなので、
幼いころ母に「どうしてわたしは○○子っていう名前じゃないの!」と問い詰めたことがあります。私の同級生たちは「○○子ちゃん」がまだ多くて、自分の名前を名乗りたくない時期がありました。
今では変わった名前が増えたのでファーストネームに関しては「今風だね~」(←でもこれもあんまり気持ちよくない)と言われるにとどまっていますが、いまではむしろ「のぶ太」と名乗ることに抵抗が^^; 少し前にそういうドラマがあったよねー…とかなんとか。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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