「女だらけの戦艦大和」・松岡の○○…講座3<解決編>

その夜、いきなり航海科員は分隊長から召集を受け、前甲板に集まっていた――

 

「いったい何ごとじゃ?わしら何か悪いことしたかのう」

そう囁き合う兵員たち、麻生分隊士がそれを制して「静かにせえ。もう分隊長がみえるけえね。あまりあの人を刺激せんほうがええよ」と言った。

皆それもそうだと押し黙った時、向こうから月明かりの中片手にラケットを持ちもう片手に何やら大きな袋を担いだ松岡分隊長が歩いて来るのが見えた。お伴にマツコとトメキチを従えている。

「えらいでかい袋じゃね・・・大黒様みとうじゃわ」

谷垣兵曹が言うと石場兵曹が「ぷっ!」と噴き出した。皆の間にさざ波のように笑いが広がりかけ、麻生分隊士が「これ!」と軽く叱責した時、松岡分隊長が皆の前に到着。マツコとトメキチもその横にしかつめらしい顔で並ぶ。

皆は一斉に敬礼、それに返礼した松岡分隊長は

「はーいみなさん!夜も遅くに熱くなってくれて私は嬉しいですよ~。さあ、今夜ここにみなさんを集めたのは何を隠そう、私の講座を聴いてほしいからなんです」

と言って破顔一笑した。

「・・・講座でありますか?」

麻生分隊士と見張兵曹は同時に言った。松岡分隊長はうなずいて、

「そう!とても大変めちゃくちゃ役に立つ講座です。いいですか、私が見るにですねあなたたたちは少しふざけ過ぎてないか!?このところ戦闘がないからって緩んでるだろう!駄目だ駄目だ。もっと熱くなって尻の穴を閉めろ!・・・というわけで私が素晴らしい教材を発掘しましたのでこれを皆で勉強しましょう」

と、少しばかり「あなたたち」の「た」が多くはなったものの話終えると袋から一所懸命作った冊子を出して皆に配った。

皆が手に取り、月明かりに透かして見ると

吉田松陰先生のお言葉

と書いてある。ほう、松陰先生のおことばかね、と誰かが感激したように言う。松岡分隊長はさらにうなずいて「そうです、松陰先生です。先生は大変素晴らしいお言葉を残しておられるんですよ。みなさんは食うことと男の尻を追っかけまわすしか興味がないからそんなことは知らなかったでしょう。だが!!今日からみんなも富士山だ、松陰先生のお言葉を勉強して素晴らしい日本人になりましょう!」というとラケットを天に突き上げた。

と、麻生分隊士が「松岡分隊長、あの」と声をあげた。分隊長はなんです、麻生さーんとそちらを見た。分隊士は、

「素晴らしいお言葉を勉強するんは嬉しいですが分隊長、ここでは暗うてせっかくの教科書が読めません。どこかもうちいと明るい場所でしませんか?」

と提案。確かにいくら月明かりがあると言っても本を読めるほどの明るさではない。それに気がついた分隊長はおお!と声をあげた。そして、

「いけないいけない、私としたことが熱くなりすぎましたね。じゃあ、皆の居住区に言って熱くなりましょう、さあみんな諦めんなよー!」

というと一散に走りだす。あわてて皆もそのあとを追って走り出した・・・

 

居住区に落ち着いた皆は、松岡分隊長を囲む形で座った。松岡分隊長は至極ご機嫌で「さあ、最初の一ページめを開いてえ!」と言い皆は開いた。そこには、

わが国は三千年来未だ嘗て人の為に屈を受けず、宇内(うだい)に称して独立不羈(ふき)の国と為す。

と書いてある、松岡は偉そうに「この意味がわかるもの、おらんか!居らんのか。なら私が教えてあげよう。ようするに日本の国はこれまで三千年来一度だって外国に屈服したことがない国なんだよ。世界に独立して、他国に束縛されない国だ、と言っているわけだ!どうだ松陰先生も日本国も熱くなってるだろう?」と言い皆は「ほう~、さすがでありますな日本は。とくればやはり未来永劫これを守らんといけんですねえ」と感激。

そして松岡は「次!」というと、

若しそれ罪を知りて改めざる者は、真に如何ともすべからざるの人なり。人の患い(うれい)は罪を犯して罪を知らざるにあり。

と読んだ。皆がなんとなくぽかんとしていると分隊長は

「これはねえ、大体が自分が正しくないことをしていると知っていながら改めない者は本当にどーしようもないよねえ、ということだ。人の憂えるべきことってのは罪を犯してながらそれをちーっとも自覚してないことなんだよ、ということだ。ねえわかってるかねえ?麻生さん」

と言い急に名指しされた麻生分隊士は「ひえっ!なんですか分隊長は私がなんぞ罪を犯しとる言うんですか!」といきり立つ。

が、その分隊士に構わず先を急ぐ分隊長は、「次!」と叫ぶ。

人情は困しめば(くるしめば)即ち振るひ、得れば即ち怠る。

「いいですかみなさん。人の心は苦しめば苦しむだけ奮い立ち、思うようになったら怠けてだらけちゃうものなんだよ、それではいけない!もっと熱くなれよ!と松陰先生はおっしゃってらっしゃるんだ」

「はあ、そがいなものですか・・・」

「次!」

徒に(いたずらに)身を衛ることを知る者、安んぞ(いずくんぞ)能く(よく)国を安んぜんや。

「なーんの意味もないのに保身ばっかりに走るような奴がどうして国を守ることができるか?いや!できるわけがないじゃないか!ということだ。これは・・・うーん、艦長クラスに教えたい言葉だがね」

松岡分隊長はそう言ってちょっとあたりを見回したのがみんなには可笑しかった。

「次!」

人を諌むる者安んぞ自ら戒めざるべけんや。

「人を諌める人はどーして常に自分を諌めなくてよいだろうか!いやっ、いさめるべきだ!・・・ということでこれはまさに普段の私の姿だね。私は常に自分を諌めて人を諌めてるんだよ君たち。熱くなってるんだよ私だって」

分隊長がそういうと誰かが「フッ!」と妙な笑いをしたのが聞こえたが分隊長は聞こえなかったらしい。

 

講座は延々二時間も続いた。

深夜になりそろそろ当直の時間も近づいてきたので松岡は「ではそろそろ締めだね」と言い急に立ち上がった。それまでおとなしくしていたマツコとトメキチがそれに倣う。

驚く皆をそのままに松岡分隊長はそれはそれはでっかい声で、

親思ふ心に勝る親心 けふの音づれ何ときくらん

と怒鳴った。マツコとトメキチが唱和するようにくちばしをガタガタ言わせ、また吠えた。松岡分隊長は瞳に涙をあふれさせると

「みなさんいいですかこれは松陰先生が刑死確定の知らせを受けて詠まれた歌ですよ。わたしが思うより親が私を思う心の方が強いのに、その私の刑死の日が決まった知らせを親はどんな気持ちで受け取るのだろう、という、ああ~~まさに親を思う子の心ですよ!熱くなってますよ松陰先生―!」

と解説した。涙が滂沱としてあふれる。マツコさえ羽の先で涙をぬぐっているようだ。
なんだか皆がしんみりとしたその瞬間、松岡分隊長はさらに大声で

「ラスト一本!」

と叫んで皆は驚いてその場から座ったまま20センチほど飛び上がった。皆が着地したころを見計らい分隊長はさらに直立不動になり、

身はたとい武蔵の野辺に朽ちぬとも 留めおかまし大和魂

と叫び、マツコとトメキチもすさまじい咆哮。その激しさに皆はあっけにとられている。すると分隊長は亀井一水をびしっと指差し「これの意味は?どういうことだね!」と問うた。突然のことで亀井一水はしどろもどろになって、

「あ、あの・・・武蔵は大和より先に出しゃばってはいけん、言うことでしょうかのう」

と全然なってない答えを言う。

と!

「そんなわけねえじゃん!」

と怒号が飛び、次に亀井一水が飛んだ。亀井一水は、松岡中尉の「愛の鉄拳」をほほに受けてすっ飛んでいたのだ。何と2メートルほど吹っ飛んで気絶してしまった亀井に麻生分隊士や見張兵曹が駆け寄って抱き起こした、それを尻目に分隊長は

「いいですかもっと熱くなってきちんと考えてくれなきゃいやですよ?誰だよ武蔵がどうの大和がどうのって言ってたやつは!出てこい!」

と怒鳴ったが相手は気絶中で名乗り出られない。

分隊長は今度は静かに皆を見回しながら、「いいですか」と話し出した。

「これは松陰先生の辞世の句と言われる歌です。先生はご自分の体は消えても魂だけはいつまでもこの世にとどまって日本を守る、とおっしゃってらっしゃるのだ!この心意気を皆見習って熱くなれよ!皆もトレーラーの海の藻屑と消えて大和魂をこの世にとどめるんだ!

さあ、みんなで松陰先生万歳三唱して解散だ。

松陰先生、ばんざーい、万歳、ばんざーい!!」

最後は一人で30人分くらいの大騒ぎをし、マツコは両方の羽を大きく広げてその辺を飛び回るわトメキチも吠えながら走り回るわの上を下への大騒ぎになってしまった。

分隊員たちがどうしたらいいかわからなくなっているそこに、

「やかましいっ、何時だと思ってるんだ!!」

と大声が。松岡分隊長がそちらを見ればそこには憤怒の形相の副長が怒りに身を震わして立っている。

「松岡中尉っ、一体今を何時と持ってるんだ!しかも指揮所に当直がいまだ一人も来ていないじゃないかっ!いい加減に散会しろ!この野郎、麻生ももっとしっかりしろよ、てめえそれでも分隊士か!」

副長は怒りに我を忘れ汚い言葉で罵倒した。とばっちりを食った麻生分隊士は泣きそうな顔になってしまった。
恐れ入って散会した分隊長ではあったが、

「明日の晩は副長のお部屋に上がりますのでよろしくー!」

と余計な予告をして副長にひっぱたかれたのだった。

 

しかし。

この企画は梨賀艦長や森上参謀長には大変受けて「では早速各分隊を回って?」と言われた松岡分隊長はたいへんに喜んで翌晩からマツコとトメキチを伴って、第一分隊から順に講座を開いて回ったのだった。マツコはことのほかこの仕事を喜んで、
「これであのあほどもが真面目になってくれるなら言うことないわよ、ね、トメキチ」
と連日分隊長とともに回っている。

副長だけが「あんなうるさい集会(・・)、私は認めませんからね!松陰先生の教えはもっと静かで深いものじゃないかねえ!全く!」と怒っているという――

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・

良かったエッチな講座とかじゃなくって・・・ホッ。

吉田松陰先生は言わずもがなの幕末の志士です。わずか292カ月の人生ではありましたがその教えは今も通用する教えばかりです。

世の政治家とか指導者と言われる人たち、松陰先生のお言葉を勉強しましょう。

 

(参考にさせていただいた御本―吉田松陰一日一言 魂を鼓舞する感奮語録・川口雅昭編 致知出版社)
吉田松陰一日一言



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Comments 10

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見張り員  
鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
まさに「謎」と言うべき部分ですね・・・
しかしすさまじい金額です。
こうした現金があったから「特攻」ではないとも思いますが、結果的には「特攻」と扱われている・・・なんだかどうしようもないジレンマに陥りますね。
そういえばこれも何かで読んだ話でご存じかもですが、沖縄県民向けの衛生用品を多数積んだ、という話もありました。
ますます「???」です。
しかし特攻ならなぜ戦死した将兵は「二階級特進」をしなかったのか?私はこれが一番わかりませんし、戦没されたみなさんが大変気の毒です。『大和』もそうですが私はやはり『朝霜』がとても哀れで、今からでも坊ノ岬沖海戦での戦没者は「特攻」なら二階級特進させてほしいです。


さあ、驚かれましたか!
これこそが「女だらけの大和」の真髄です(っていい加減だなあこの話も・・・泣)。

2012/09/10 (Mon) 20:42 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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2012/09/10 (Mon) 13:30 | EDIT | REPLY |   
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酔漢さんへ

酔漢さんこんにちは!
私ももう一度萩に行きたいです。
松陰先生の『大和魂』に触れ直してきたいです(-_-;)

山口県出身の方結構多いですね。
そういえば昨晩、「沈没船のお宝」云々という番組に大和がちょっと出てきました。一説によれば大和には今の価値にして数億円の現金が積まれていたといいます、沖縄での物資購入資金とか、乗組員の給料だったという話でしたが。
だとしたら本気で「特攻」かけたとは言えないと思いますね・・・どうなんだろう???(-_-;)

2012/09/09 (Sun) 12:32 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
酔漢です  
松下村塾

うーーん。
呉の次には、萩に行って修行しませんと・・・・。
「大和魂」を肌で感じる必要があるのかも。

「坊ノ沖海戦」大和での戦没者名簿を紐解きます。
山口県ご出身の方は、192名(海軍省関係者2名を含みます)おられました。

2012/09/09 (Sun) 09:15 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
ウフウフウフ・・・お好きですねえ、にいさまもwwってみんなそうですよね~~。
次回はお待ちかねの❤…ですのでお楽しみに。

松岡分隊長、実は松陰先生に心酔していました。
吉田松陰という人の「熱血」「愛国の情」は今の日本人は見習うべきものがあります。彼の憂国の情は連綿と今に引き継がれ心ある「平成の志士」たちによって生かされることを祈るばかりです。

思いがたぎるばかりで中々今回の話はうまい信仰ではありませんでしたが、まろにいさまが私の思いを汲んでくださりうれしく思います!
松岡の熱い部分…私の思いをシンクロさせているんですほんとは!

2012/09/08 (Sat) 21:06 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
みなさん「そちら」系だと思うんですね~~みんなも好きねえ、あたしも好きよ~~♡です。

松陰先生の言葉は今の日本に大事なことがたくさん入っています。戦時中は戦意高揚に使われた部分もあったんじゃないかなあ~なんて思います。

マツコ、意外でしょうww。
人は、いや鳥は見かけによらないのでした^^。

次回、いよいよみなさんお待ちかねの❤❤・・ですぞ!!

2012/09/08 (Sat) 20:33 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

皆さんと同じ、私もてっきり発禁もどきのご本で萌え萌えかと思っておりました。
しかし、さすがに熱い松岡です。あの時代の国士であった松陰先生で勉強とは見上げたものでした。日本が軋みを上げて変わる時代によくぞ生まれたものだと歴史の神様の存在を感じる松陰です。彼のその後は命がなくても昭和の時代にまで脈々とつながれていったのですから凄いですね。そろそろ松陰先生の思いが届かなくなってきたから今が混沌としているのかもしれません。

ヤマトの場を借りて見張り員さんが今の日本に向かって仰りたかったこと、よく分かっていますよ。松岡分隊長はもしかしたら見張り員さんの熱い部分かもしれませんね。

2012/09/08 (Sat) 08:18 | EDIT | REPLY |   
オスカー  

こんばんは。私もいかにして貞操を守るか、もしくはあやしげな通販ビデオみたいな内容かと…半分期待しておりました(笑)
皆さま、いつも心の奥底に大事にしまっていることなのだと思いますが、改めてみんなで確認したり、唱和するっていいかもしれないですね。
案外マツコがモラリストで笑えました!!

2012/09/07 (Fri) 23:36 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
かなやのぶ太さんへ

かなやのぶ太さんこんばんは!

○○○作戦でした…なんちゃってでも最初「エッチ話!?」って思っちゃったでしょう?w
マツコも参加とくればふつうは・・・なんですが、今回はちょっとだけ真面目に。

ということは私の性分からして次回は思いっきり下ネタ・あるいはエッチ話に突っ走ると思いますのでまたよろしくです^^。

吉田松陰という人の生き方は時に激しく時に静かな生き方でとてもひかれますね。
維新の元勲と呼ばれた人やそれ以外の維新の立役者にも影響受けた人がいると思いますね、その思想と理念は100年以上たっても決して色あせない。
どころか今の日本にとって大事な言葉・理念だと思いますね。

私ももう一遍修行だあ!!熱くなるぜ^^。

2012/09/07 (Fri) 23:23 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
かなやのぶ太  
修行してきます

こんばんわ^^
完全に○○○(下ネタ的な)おはなしだと思っておりましたので、最新話で思わず姿勢を正してしまいました^^;きゃ~、マツオカさんごめんなさい~>< だってマツコだって話に乗ったんだものすごく「熱く」なれる話なのかな、と第1話以降ドキドキしちゃって!
松陰門下から明治政府の要人がたくさん出ていますね。もちろん、維新を迎えられなかった功労者を含めて。かれの「理想」は、たしかに時代を動かしたのだなあと思うと、30を手前にして身が引き締まる思いがします。

2012/09/07 (Fri) 22:58 | EDIT | REPLY |   

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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)