2017-10

「女だらけの戦艦大和」・野田のチェスト2 - 2012.08.29 Wed

「近いうち、近いうちに綺麗にしますって言ってるんだから、うるさい事いうとひっぱたきますよ!」と怒鳴った野田兵曹であった――

 

その野田兵曹が体の向きをくるりとかえるとそこには悪鬼羅刹のような形相の、生方中尉が両腕を組んで仁王立ちになっていた。野田兵曹の今の今まで下士官たちに見せていた強気の顔がしぼんだ。

生方中尉は、さっき野田兵曹が見せたよりすさまじい白目をむき、鼻息も荒く「野田あ!」と一喝した。

前原水兵長、松原兵曹、厳場兵曹が驚いて2、3歩あとじさる。生方中尉は立ちすくむ野田兵曹の真ん前に立つと

「私は以前に言ったはずだ。貴様のあの臭くて汚いと評判のチェストを速やかに片付けよとな。しかるに貴様はあれから数カ月以上たつというのにいまだに片づけをして居らぬようだ。私の命令が聞けないようだな、そんなに私をなめているのか?ああ?」

と詰め寄った。野田兵曹はその大きな顔に、脂汗を浮かべて必死に首を横に振り

「いいえ、いいえ!そんな生方中尉をなめているなんてことはありません!決して、あの・・・」

と弁解に夢中である。生方中尉はさらに野田兵曹に詰め寄ると、

「ならどうして片づけないのだ。・・・ははあん、貴様はなにか、今内地で話題の<片づけられないおなご>というやつか?普通の生活のおなごならいざ知らず、我々はいやしくも帝国海軍の軍人であるぞ。その軍人がこのざまでいいと思っているのか?こんなことをしているようなら私は河崎少佐に申し上げて貴様の昇進を止めねばならん。当然だらしのない奴は艦隊勤務から外れてもらわねばならん」

と言った。野田兵曹は今度は真っ青になった。野田兵曹はそろそろ兵曹長への昇進が近いのだった。そして唯一の自慢の<大型戦艦乗務>。

「そんな、それだけは・・・」

さすがに泣きそうになった野田兵曹に生方中尉は、

「いやだろう、私だってそんなことを少佐に申し上げるのは本意ではないし大体が高角砲分隊の恥になることだ。だから」

とそこで言葉を切った。野田兵曹は涙を浮かべて生方中尉の顔を見つめた。中尉は、

「今から私がたちあいのもと、貴様のチェストをきれいにする!前原、松原、厳場。貴様たちご苦労だが手伝ってほしい」

というとその場に打ち捨てられたようになっているソーフとデッキブラシを取り上げた。前原水兵長・松原兵曹・厳場兵曹がかすかにため息をついた。

 

五人は野田兵曹のチェストの前に立った。

前原水兵長が心なしか緊張したような顔で立っている。手にはデッキブラシ。これは松原兵曹が「もしかしたらチェストの中から鼠が飛んで出るかもしらんで。出てきたら貴様、このデッキブラシでぶったたけ。鼠上陸出来るで」と持たせたもの。

厳場兵曹は、

「生方中尉。野田兵曹のチェストからおかしな物音がします。うちらその音が気色悪うていけんです」

と訴えた。生方中尉は

「おかしな物音ね、この居住区の連中がよく言ってるがどんな音なんだね?」

と聞いた。厳場兵曹は手にした塵取りを持ち直すと

「なんといいますかこう、たとえるならトンネルの奥のような音がします」

という。はあ、トンネルの奥?と首をひねる中尉に前原水兵長が、「コオオオオ・・・というような音であります」と音を真似て見せた。松原兵曹が「ほうほう、そがいな音じゃ」と言った。生方中尉は「そんな音がチェストの中からするわけなかろう?なんか別の音じゃないかね」と言ったがそれよりなによりまず、「掃除掃除、そっちが先決だ」とのことで一同緊張の面持ちのままブラシを構える。

生方中尉が「野田、開けろ」と命令し野田兵曹は扉に手をかけ、そっと開けた。

ギッ、と音を軽く音を立てて扉は開いた。

と!

「ぐえええ!」「オ、オエエエ」「く、くせえッ!」・・・

野田兵曹以外の皆は一斉に悶絶した。とんでもなくひどい臭気がチェストから<噴き出して>来たのだった。生方中尉は右腕で鼻を覆うようにして「野田、野田早く閉めろ」と怒鳴った。あわてて扉を閉める野田兵曹。

生方中尉・前原、松原、厳場の四人はその場にうつ伏したり仰向けになったりしてハアハアと苦しい息をついている。まるで毒ガスでも艦内で発生したかのようで、いつかの<シュール缶事件>をほうふつとさせる。

野田兵曹だけが平気な顔で、だが申し訳なさそうに立っている。生方中尉は今にも吐きそうな顔で「ぼ、防毒面を持ってこい。命にかかわるぞ、この臭気は」と言い、前原水兵長が這いながら人数分持ってきた。

 

そして一同、防毒面を装備して再度野田のチェストを開けるため、気を取り直してチェストの前に立つ。事情を知らない他の兵が「なになに?何しとるんね」と入ってきそうになるのを松原兵曹が「いけんで、これはうちらだけで始末するけえ。野田のチェストを掃除じゃ」と押しとどめる。それを聞いた兵は「えッ!野田兵曹のチェストを開けるんで?こりゃあ大ごとじゃ・・・どうぞお気をつけて」と言って敬礼する。

なんだか今生の別れの敬礼のようで松原兵曹は泣き笑いのような顔になってしまった。

「さあいいか、松原兵曹。野田、開けろ」

生方中尉は防毒面の顔を野田にむけて言った。

ふたたび、ギッと音を立てて扉が開く。今度は防毒面のおかげで臭いに直撃されないで済んだが野田兵曹が「うっ・・・オエっ!」と唸って皆から「貴様何言うとるんじゃ!あほ!」とデッキブラシで殴られる羽目に。

 

「うわあ・・・いったい何をこんなに押し込んだんじゃね」

恐る恐るデッキブラシで中のもの――ゴミばかりだが――を掻きだしながら厳場兵曹が唸る。生方中尉もあきれて野田の顔を見つめている。

野田兵曹はデヘヘと笑って

「バナナとか果物が多いですかのう、あとそうだ、父島でもろうた魚の干物を入れとったんですが」

と悪びれもせずに言う。前原水兵長が面の下から「オエエエ」と唸りながらブラシでかき出したものは確かに果物の皮、しかも真っ黒に変色して元がなんだったかさえ分からない。

そのほかにもくちゃくちゃになった手紙のようなもの、真っ黒にカビの生えたパン、きのこの生えた(!)褌などが引きずり出されてきた。

「うっひゃあ、野田兵曹こりゃあエライことじゃわ」

厳場兵曹が感心したように言って、ごみの山を見つめる。

前原水兵長は必死になってブラシでチェストの奥からごみをかき出しているが、生方中尉は<あること>に気がついて

「おい、ちょっと待て!皆何か気がつかないか、このチェスト・・・」

と言ってチェストを見つめた――

  (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・

すさまじいごみ入りチェストです・・・オエエ、と言いたくもなりますね。考えただけで倒れそうです。

さて、生方中尉何に気がついたのでしょうか。緊迫の次回に続きます!!

防毒面

防毒面。(画像お借りしました)



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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
中々要・不要をわけるのも難しい場合がありますね。
書類なんかはうっかりすると後で「あれいるんだよ」とか言われてしまったりして、それが困るから不要と思ってもとっておいたりするのかもしれないですね。

しかし、当てつけの整理整頓日はちょっと…(-_-;)
私も気がつけば要らなくなったものやどうしてこんなものを取っておくのか??というものが狭い部屋や家を占領している状態、時折思い切って処分します。

政界の大処分を私は期待するものであります!!
全く永田町には不要も不要、大型の不用品が多すぎやしませんでしょうか。
一刻も早く処分されてすっきりすることを祈るばかりですね^^。

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
素晴らしい「鉄の三規」です。これは家庭にも当てはまりますね。今はあまり家で料理をしない女性が増えたと聞きますし、これはいまだに信じられないんですがまな板とか包丁がない家があると…(-_-;)
この三規、紙に書いて我が家の「烹炊所」に貼っておこうかしらと思います!

野田のチェスト。
あまり想像なさらない方がいいかも…ウウウっ!!
でも中学でのトラウマ体験はきついですね(・。・;ボーゼン・・
私もありましたね、そういう経験!皆で「開かずのロッカー」と呼んでましたがww。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
坂本竜馬さんではないですが「日本を今一度洗濯いたしたく候」です。日本中、上は政治家から下は幼児に至るまでどうしようもない日本人が増えて困りものです。
大人がだめだから子供も自然だめになる。
この悪循環をどげんかせんといかん。と思いますね・・・

何でもふたをして知らん顔、がいつまでも通るわけないんですよね。臭いものでも手を突っ込んで取り除く気概がなくて何が政治家か。

鹿児島弁の「チェスト」!
カッコいいですね、さすが薩摩の「漢(おとこ)」って感じがします。西郷さんあたりがこう叫んでるのを思うとわくわくします!!
そういえば一昨年靖国神社で「薬丸示現流」の演武を見たことがあります、その掛け声は「猿叫(えんきょう)」と言うらしいですね。
なんか日本の中にありながら薩摩という国はちょっと特別な雰囲気で好きです。

荒野鷹虎 さんへ

荒野鷹虎 さんこんばんは!
いやいや・・・荒野さんに比したら私なんか・・でございます(^^ゞ

野田さんたちのやっていることのほうが、へたな番組よりずっと面白く(と言ったら不謹慎ですが)観る甲斐があるような気がします。
しかし国民からこんな風に言われるようになっちゃ…終いですね(-_-;)

チェストの清掃、なんか耳が痛いですね。
昔の自分の仕事場(今でもそうですが)、不要な書類の山でした。見るに見かねた上司に、全社で週1回整理整頓の日を決められたのですが、これは何を隠そう自分への当てつけだったんですね。今でもその悪癖が治りません(笑)。
不要なものから順次捨てていく勇気、これは何事においても絶対必要ですね。
とりわけ政界には不要と思われる諸先生方がゴロゴロいます。処分することで、美観もさることながら、資金の節減にも繋がります。早急に実施してほしいですね。

主計長ぅぅぅ!

大和厨房内に掲げれていた訓示。
「盛ンナル調理報国ノ精神」
「厳正ナル調理軍紀」
「親切丁寧ナル」
鉄の三規。
上甲板中部左舷。
主計科・第22分隊。

食べ物を粗末にしては申し訳が立ちません。
しかしてチェストの中身を想像して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。デス。
中学同期の某君のロッカーから異様な匂いが教室へ流れてきて。
開けたとたん!
トラウマがぁぁ。
学校には防毒マスクないもんなぁぁ。

チェストの中はゴミだらけ。どこかの国会もゴミだらけ。
見張り員さんならではの眺め方に感服しました!!
臭い物に出来ないことがあるんですよねぇ、フタ。いっそのことぶちまかして何もかもきれいさっぱりにすればいいんですよ。どこかの先生たちの首も。

チェスト。鹿児島弁で気勢をあげる時に「チェイストォォォ!!」と叫ぶらしいです。

見張り員さんへ!!

野田総理への揶揄と思って読みましたが、中々面白かったです。すごいお上手な比喩だと感心しました。!よく長い文章をかけますと思い感心しきりです。☆彡

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
冷蔵庫の奥から出土する「モノ」ほど恐怖をかきたてるものはないですね・・・うちの冷蔵庫はかわいそうに、姑の手にかかり「悪魔の箱」になっています。もう片付けるのもいやです正直。
そのうち我が家の冷蔵庫から石油が産出される日も近いでしょう・・・なんつってww。

さあ!
野田兵曹のチェストは一体どうなったのでしょうか。
ご期待ください^^。

こんにちは。チェストの中…悪臭!!キョーフの冷蔵庫みたい(笑)奥の方から出てくる得体の知れない物体…特にかつてキュウリだったものは…イヤ…!!
何かステキなものが最終的には出現することを願っています(笑)


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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