「女だらけの戦艦大和」・野田のチェスト1

「女だらけの大和」はいよいよサイパンをあとにしてトレーラーに戻る――

 

トレーラーまでの道中、各種訓練はもちろん兵器の整備や生活居住区の整理整頓も行う。皆各分隊、班ごとに清掃を行う。

航海科の居住区でもそれぞれが各自の持ち場を清掃、松岡分隊長は例のラケットを振りながら「さあみんな、熱くなって片付けと整理整頓だ。いいですかあ、人間身の回りをきれいに出来ない人は偉くなれませんよ?身の回りをきれいにきちんとすればおのずと心も体もしゃんとするんだよ!いいか、皆あ!熱くなれよ!」

と怒鳴りながら回る。

はては他の分隊にまで顔を出して苦笑される始末。それでも野村副長は、

「いいじゃないか、ああして皆を鼓舞してくれるっていうのはいいことだよ。うん、松岡中尉、もっとあちこち行って来てよ」

とはっぱをかける始末。麻生分隊士はソーフを手にして

「やだなあ副長のやつ、分隊長に変なこと言わんでほしいわ。あの人一人おらんでも結構大変なんじゃけえねえ」

と思いっきり口をひん曲げた。それを聞きつけたか松岡分隊長はつかつかと麻生分隊士のもとへ。(ゲッ、『副長のやつ』って言ったんを聞かれちゃったかのう)

と少し顔色を変えた分隊士であったが、分隊長はそれをとがめたのではない。分隊長は麻生分隊士の両肩に手を置いた。分隊長は右手にラケットを持ったままなのでそれが分隊士の背中に当たる。

「いてっ!」と声を出した麻生分隊士にはお構いなしに松岡分隊長は、

「麻生さーん、私のことがそんなに気になるのかねえ?嬉しいよ麻生さん、これこそ分隊長冥利に尽きる!が、麻生さんには特年兵くんというものがありながらいいのかね?

・・・なあんて、冗談はさておいてだ。私はちょっとだけ場を外すが、すぐに戻ってくるから大丈夫だ!まだまだ航海科には掃除すべきところはたくさんあるからな。

というわけでちょっと行ってくるよ!」

と一気にしゃべるとラケットをひっかつぐと風のように走り去る。

走りながら担いだラケットが通路の天井部分の鉄の梁に当たって派手な音を立てている。

「もううちはあの人がようわからん」

分隊士はぶつぶつ言いながらも、脚立の上に「よっこらしょ」と上がって天井部分をソーフで拭く。

その分隊士を心配げに見上げる見張兵曹、その兵曹を見つめる石場兵曹・・・妙な三角関係?が展開中のようだ。

ともあれ、松岡分隊長は右舷・左舷を縦横無尽に走り回って「熱くなれよ!」「きれいにしろよ」「やればできる、やらないからできないんだ!」と檄を飛ばして回る。

その後ろを、トメキチとマツコが面白がってついて回る。マツコは大きなくちばしをガタガタ言わせて、トメキチは後足で立って走りながらキャンキャンと吠える。人の耳には言葉としては聞こえないが、マツコは

「マツオカ―。面白わねえ、皆がびっくりしてみてるじゃないの。もっと走りましょうよ~」

と言い、トメキチは

「マツコサン見て、僕前よりずっと早く走れるようになったよ?」

と言っているのである。

その奇妙な一行は艦長室の前やら参謀長の部屋に駆けこんで走り回り、医務科で叫んで日野原軍医長に「入室患者がいるんだぞ、静かにせんかあ!」と怒鳴られ機関科居住区では居合わせた浜口機関長と松本兵曹長に『気合い』を入れられる始末。

露天甲板では機銃の手入れ中の長妻兵曹や増添兵曹が「ほう、松岡中尉はまた何ぞやっとるんかねえ?あの人は珍奇なお人じゃね」と言いながら笑う。

 

さて、松岡分隊長の「艦内めぐり」が一段落して航海科居住区のあたりに帰ってきたころ、高角砲分隊の居住区の一室ではちょっとしたもめごとが起きていた。

 

もめごとの渦中の人は、野田佳子上等兵曹。

いつぞや、野田兵曹は自分のチェストの中に泥鰌を入れられたとして大変ご立腹になり、班員や分隊の皆を「貴様か?貴様が入れたんじゃろ?言わんか!」と執拗に追求した人である。

その野田兵曹、分隊員から詰め寄られているのだ。

前原水兵長、松原二等兵曹、厳場一等兵曹など大勢の兵が野田兵曹を取り囲んでいる、口々に「野田兵曹、ご自分のチェストを開けて掃除してください!」「野田兵曹のチェストはいつも変なにおいがしてたまらんがです、どうにかしてください!」「我慢にも限度いうものがありますけえ、これがええ機会です。どうかねがいます!」と叫んでいるのだ。

だが野田上等兵曹はしれっとして、大きな顔をつとめて無表情にしながら

「近いうち、近いうちに綺麗にします」

としか言わない。厳場兵曹が、「近いうちっていつでありますか?もうずうと前から野田兵曹はそういっとられますがね、今日はその日にしてくれないと皆迷惑しとってですよ!」とついに怒鳴った。

すると野田兵曹は大きな顔を真っ赤にして

「今日はだめなんだよ今日は!だから近いうちにって言ってんでしょうが!!」

と大きな声を出した。

ふうふうと鼻息荒く白目をむいて怒る野田兵曹。その前に詰め寄っていた兵たちが、そろそろと後じさりを始めた。

野田兵曹はフフンと鼻を鳴らすと、

「わかりましたか?私はね、近いうちにやると言ってるんですからね。四の五の五月蠅いことを言ったら私は今夜みんなを甲板整列でひっぱたきますからね」

と恫喝した。そしてくるりと体の向きを変えたその野田兵曹の顔がみるみるひきつった。

そこには――。

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

チェストとは要するに「モノ入れ」ですね。

ものの本によればおおよそ縦50センチ、横40センチ、奥行き40センチほどの金属製。ここに私物を仕舞いました。下には靴入れがついていたと言います。チェストの上には手箱(裁縫箱や手回り品を入れる箱)を置いておいたようです。この手箱は時に腰かけ代わりにもなったようです。

 

さて、野田兵曹どうしたんでしょうか???
野田兵曹
「近いうちに…」(画像お借りしました)



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鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!

ぎゃああ!!
見てませんでした、ちょうど仕事が終わって買い物に・・・・涙・・・・・
アーカイブを見てみますね、情報をありがとうございます!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
松岡分隊長、わが道を行く!!です^^。私もTVで松岡修造さんをみると…思っちゃいますw。あの「女性版」だと思うとなんだか…(-_-;)

野田さんココが政治家としての本領発揮の時なんですが、きちんと懸案を片付けてほしいですね。国会のお掃除も、外交の問題も。
それらをしっかりできたら一定の評価をしてあげましょうか。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

独りよがりの松岡さん、行動が機敏で羨ましいです。現実的にテレビで拝見するたびに分隊長の面影を追ってしまっています。
本物の野田さんは近いうちに国会議員をきれいにしてくれるのでしょうか。それとも尖閣と竹島をしっかりと奪い返してくれるのでしょうか。
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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