2017-10

「女だらけの戦艦大和」・スモーキング・武技!?3<解決編> - 2012.08.22 Wed

松岡分隊長はその場にしゃがみ込むと、箱から出したタバコを甲板に並べ始めた――

 

見張兵曹が「どがいするんです?タバコを出してしもうて」と少しあきれたような声を出した。小泉兵曹も、麻生分隊士もうなずく。すると松岡分隊長はタバコの前にしゃがみ込んだままで、皆を見上げてニイッと笑った。

その不気味さに、皆は半歩から一歩確実に引いた。松岡分隊長はその不気味な笑いを消さないまま、

「いいですかみなさん。タバコってものはねただ吸ったらいいってもんじゃアない!鳥くんには正しい帝国海軍のタバコの吸い方を教えてあげなきゃですよ。タバコを吸って熱くなって、さあみんな米英撃滅に行こうじゃないか!」

と叫んだ。麻生分隊士は(なんじゃ、遠足にでも行くような言い方じゃなあ)とおかしくなってきた。見張兵曹がもう一度、

「ほいで、これをどがいにするんでありますか?」

と訊いた。松岡分隊長は防暑服のポケットから携帯用の裁縫用具を取りだした。そしてそれを皆の前に突き出して見せた。

「裁縫道具・・・裁縫道具とタバコがどがいな関係にあるんですか」

小泉兵曹がわけわからんと言った顔つきで訊いた。すると分隊長はそこから少し太めの糸を取りだすと、針に通しそれを一列に並べた煙草を縫うようにして行く。

「煙草を・・・縫っとりんさる」

見張兵曹がつぶやく。その横でマツコとトメキチが小首をかしげて松岡分隊長のすることを見つめている。皆が見守る中、分隊長は器用に作業を進めすべてのタバコを縫い、タバコは行儀よく横一列に肩を並べる格好になった。

「よし、と!」

分隊長はそういうと「鳥くん、さあこっちにおいで」とマツコを手招いた。マツコは嬉しげに松岡のもとに。

分隊長はそのタバコをマツコの前に出して、「さあ鳥くん。私が正しい軍人のタバコの吸い方を伝授しよう。いいですか鳥くん、タバコは熱い心で吸うものだよ。そのためにはちびちび吸ってちゃいけない!時に戦闘中にも吸って、これを煙幕代わりにすることだってあるんだぞ!というわけで・・・」というとマツコの口を開かせた。麻生分隊士が小声で見張兵曹に、

「あがいな嘘をゆうて、この人はいけんなあ。相手が鳥じゃからいうていくらなんでもひどかろう?」

と囁き見張兵曹も
「ほうですねえ、タバコを煙幕にせえなんか聞いたことないですもんねえ」

とあきれ気味。確かに今までの戦闘中も、森上参謀長がくわえたばこで指揮所に上がってきたことはあったが煙幕になるほどの吸い方なぞしているのを見たことなど、当然ない。そんなことありえない。

だが松岡分隊長はマツコに、「そーうそう、その調子でそっとくわえるんだ。いいねえ。さすが君は鳥の王者・ハシビロだね、熱くなってるよ。・・・では、いいかい」と囁くとマッチを取りだし、端から煙草に火をつけていった。

「さあ鳥くん、思いっきり胸いっぱい吸い込め!熱くなれば出来る、あきらめんなよ!!」

松岡分隊長の大声とともに、マツコはひと箱分のタバコをくわえたまま<思いっきり>胸いっぱい吸い込んだ。横一列のタバコの先が、真っ赤になった。

・・・と!

「ト、トメキチ・・・アタシ目が回るう・・・」

というなりマツコはその場にぶっ倒れてしまった。驚いたのは麻生分隊士や見張兵曹・小泉兵曹にトメキチである。上を下への大騒ぎになって、やがて甲板士官の藤村少尉や機銃群の水兵嬢たちや、果ては梨賀艦長までがすっ飛んでくる事態に発展した。

「どうしたんだ!・・・ハシビロが、倒れてるじゃないか」

梨賀艦長は驚いてマツコを抱き起こした。

ふとその傍らを見れば、なななんとタバコが横一列に糸で縫われて、しかも煙があがっているではないか。

艦長は「??」とそのタバコを拾い上げた。さらによく見れば松岡中尉の足元に「櫻」の箱が落ちているではないか。

「か、艦長の『櫻』!」

梨賀艦長は叫んでいた。梨賀艦長はハシビロをその場に置くと、「櫻」の箱を拾い上げた、そして

「これえ!これ艦長の『櫻』あ~!さっきおとした『櫻』じゃないのぉ・・・なんでここにあるのぉ?しかもこんなに縫われてハシビロが吸ってたし・・・。

松岡中尉、これどういうこと!説明して!」

と半分べそかきながら、でも最後の方は毅然として言った。その場の皆が固唾をのんで松岡中尉を見た。

だが松岡中尉は、

「艦長。これはですねハシビロが是非帝国海軍の一員としてタバコによる米英撃滅砲を学びたいと持ってきたのでありますよ。ですから私はハシビロのその心意気に感じて帝国海軍流のタバコの吸い方を伝授したのであります。いいですか艦長、タバコだってただ漠然と吸っていてはなーんの意味もないよねえ。ですから私はタバコで煙幕を作るべく・・・」

と話し出して止まらない。

梨賀艦長は両手を大きく振り話を遮った。そして、

「ああもういいから!私はそんなおかしなタバコの吸い方なんか海軍に入って今日まで聞いたことがないよ。煙幕だって?笑わせちゃいけないね、あのエントツみたいな吸い方する森上さんだってそんなこと考えついちゃいないよ」

とまるで欧米人のように両手を広げて見せた。そこに、森上参謀長が後ろから「おーい、何があったあ?どうしたあ?」と間延びした声でやってきた。

一同がふりかえるとそこには、タバコをいっぺんに五本くわえている森上参謀長が立っているではないか。

参謀長は「なんかめんどくさいからな、いっぺんに吸ってみようと咥えてみたよ。でもなんかこれじゃあ吸えねえよな。それでちょっと思ったんだが総員でこれ訓練してやったら<煙幕>にならんかなあ~、なんてな!ワハハハハ!!!」と大笑い。

麻生分隊士や、藤村少尉そして見張兵曹たちがプッと吹き出した。「煙幕、じゃと」と誰か機銃の兵が小声で言うのが聞こえ、梨賀艦長は悲劇的な表情になってしまった。

そして、

「森上の、あほう!」

というなり艦長はあっという間にそこを走り去ってしまったのだった。

森上参謀長はタバコを一本づつ口から取ると、ポケットから出した箱に納めると

「梨賀のやつ、何怒ってんだ?で、貴様たちはいったい何してんの?」

と初めて尋ねる。麻生分隊士は

「いえ、なんでもありません!」

と言ってハシビロをさりげなく後ろに隠した。参謀長は「そう、そんならいいんだが」というと「じゃな」と歩み去る。

その後ろ姿が消えるか消えないうちにマツコは気を取り直し、
「ああ―もう、ひどい目に遭ったわ。ねえトメキチこれってさこういう吸い方するもんじゃあないとあたし思うんだけど、どう?」
とトメキチに訊く。トメキチは困ってしまって、「そうね、でも僕よくわからない」としか言えない。マツコは皆が見守る中しばらく甲板に落ちたタバコを見つめていたが急に「そうよ!こうだわ」と叫ぶとタバコを器用にくわえた。

そして「マツオカが言うのはこれを武器代わりにするってことよ、ならこうよ!」というなり、一列になったタバコをすごい勢いで「フッ!!!」と吹き飛ばし、タバコの一群はまっすぐに、見事海へと落ちて行った。

「すごい、すごいのう!」「ひと吹きであのタバコの束をふっ飛ばしたわ!」「ハシビロの武技じゃ、これなんぞ使えるかも知れんで?」

皆は大騒ぎ、その中で一人松岡分隊長が「そうでしょうそうでしょう。鳥くんはいちいち私が言わなくっても私の思いを汲んでくれたんです。いいですか皆、鳥くんを見習いなさい!皆は鳥くんより鈍いですよ、もっともっと熱くなって冴えてくれなきゃ、私は怒りますからね。さあみんな諦めんなよ!」とわめき散らす。

マツコは、「なんだか知らないけどアタシ松岡に褒められてるんだわ。ホホホ」とうれしげであった。トメキチが「・・・よかったね、マツコサン」と微妙な表情で見つめている。

 

さて。傷心の梨賀艦長は大事な『櫻』を鳥ごときに吸われた悔しさ悲しさに、しばらくの間艦長室で泣いてから重い足と心を引きずるように第一艦橋に戻ってきた。

その艦長に、「艦長、これを」と野村副長が差し出したのが『櫻』のひと箱。艦長は副長の顔を見つめ、「これは」というと副長は「いいんですいいんです。何も言わないで取ってください」と言って笑っている。

「副長・・・」梨賀艦長の顔がぱっと晴れた。やっぱり野村副長は私の良き片腕だ、もう誰が何と言っても野村次子中佐は離さない・・・

さっそく艦長は箱を開けて一本に火をつける。今回は副長がくれたのだからとぎりぎりまで吸ってみた。

「ああ・・・うまい」

艦長は感激の声を漏らした。

副長は思っていた(ああ、よかったバレてないみたい。艦長のタバコの吸い方ってもったいないでしょう?先っちょを少しだけしか吸わないなんてねえ。だから吸殻を集めて解いて、もう一遍巻きなおしたんだけど・・・気がついてないみたいでほっとしたあ。なーんだ結局『先のこの辺が一番うまい』なんて気分だけか。うふふ)。

 

恐るべし、副長の妙技――

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

長い割にはしまらない話でした(-_-;)

松岡分隊長の「煙草煙幕」構想は子供だましです。マツコのタバコ吹き飛ばしという武技は危ないですので決して真似をしないでくださいね(って誰もせんわ)。
煙幕イメージ

煙幕のイメージ。船じゃないのが残念!(画像お借りしました)



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● COMMENT ●

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
「朝霜」の生存者が一人もいない哀しすぎる現実を、小滝司令のご子息が代表をお勤めになったことで実感します。
小滝さんのご子息と杉原さんの御令嬢のご結婚、なんだか不思議なようなそれでいて何か見えない糸に結ばれたような気がします。
双方のお父様のお導きでしょうか。

あの作戦、ともすれば『大和』一人で行ったようなふうに間違ってとられています。それでは一緒に死出の旅に出て戦って散った他の艦たち、その乗員は浮かばれませんね。
「よくやりましたよ!」
と言ってあげたいです。そして「雪風」などの、生存者救出に尽力した駆逐艦の存在も忘れてはいけませんね。

酔漢さんの次回記事、楽しみにしています。
いつもありがというございます^^。

小滝様ご夫妻

慰霊祭の各艦幹事の皆様。大和は清水さん、矢矧は原さんの時代。朝霜は、小滝国男さんでいらっしゃいました。肩書きが「朝霜代表」生存者が一人もいないことから、小滝司令ご子息の同氏が勤めておられました。奥様とご一緒に毎年ご参加されておられます。奥様の旧姓が杉原様。杉原与四郎、朝霜艦長のお嬢様。
父から案内された際、「こんなこともあるんだ」と強い印象を持ちました。
「大和一艦が沖縄へ」という印象が強い報道が多い事実。
戦闘に参加したそれぞれの艦が、同じ重みを持っていることを忘れてはならないと思います。
「涼月」の記事を拝読いたしました。
この場でそれを伝える意味を見張り員さんは、十分お分かりになられていらっしゃる。この思いが伝わりました。
くだまきへのコメントもありがとうございます。
次回(来週)はこの視点から、番組を語っていこうかと考えております。

鍵コメさんへ

こんばんは。
本当に大変でしたね、お疲れが出ませんようにお過ごしくださいね。
どうぞゆっくり休まれて思い出に浸りつつ、お心癒してください。本当にお心落ち着くまでは長い時間がかかると思いますが、あせらないで時に身を任せるのがいいと思います。

待っていますよ!
こちらこそまたよろしくお願いいたします^^!

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!
記事のURLありがとうございます、さっそくこんやゆっくりはいどくしたいと思います。
『大和』の陰に隠れて忘れられがちな「涼月」の活躍は私も大変心に残り、別ブログでも紹介したことがあります。

そういえば「朝霜」はだれにも知られないまま沈んでしまいましたね。
小滝司令はどんな思いで戦いそして散って行ったか…察するに余りあります。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
本当にタバコって不思議な存在ですよね。
火が付いていなくてもあるだけで絵になってしまうなんてそうそうないですよね。思いつきませんもんね他には。

松岡分隊長単なる面白半分のようですね。マツコ目を回して損した・・・かな^^。
松岡分隊長、あまりのモノの価値がわからないかもしれません(実家は裕福という設定です)。出もちっちゃいことに細かい人よりおおらか(おおざっぱ?)な人のほうが好きですね、私も^^。

本当に暑い東京です。雨が降りません、降ったのは一週間前でそれ以来ぽつりとも降りません(-_-;
困ったものです。

暖かきお心遣いをいつもありがとうございます、本当にありがとうございます。
適度の「ブレーキ」を掛けながらこの夏を乗り切ろうと思っています。まろにいさまも御身大切にお過ごしくださいね!!

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涼月の奮戦

祖父・海軍そして大和 奮戦スレド徒死スルナカレ 「月」の真上 一
http://blog.goo.ne.jp/tsukutaku8384/e/9bfc5c0b29ffa65b201e1df8dc58d8dd
祖父・海軍そして大和 奮戦スレド徒死スルナカレ 「月」の真上 ニ
http://blog.goo.ne.jp/tsukutaku8384/e/1614939e213557aeddc7316b15ad66e3
上記のように、過去に整理致しております。
御高覧下されば、幸いでございます。

タバコってそれぞれのその場に似合う雰囲気があるんですよね。ただあるだけで絵にもなるし。不思議な小道具です。
もしかしたら松岡分隊長はマツコさんにタバコの不味さを教えたかったのかも……。いや、そこまで考える人だったか。
貴重なタバコをそんな風に扱えるのですから本物のお嬢様(お坊ちゃま)には違いなさそうですね。
こういう胆の太い人、好きだなぁ。雑さも鷹揚に見えて結構、サマになるんですよね。

東京はものすごく暑いとか。
ご実家で蓄えたせっかくのエネルギーを使い切らないようにと祈っています。ほどほどの消耗でひどい暑さをしのいでくださいね。無理も禁物です!!

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!

涼月!!
かの坊ノ岬沖海戦で大破しながらも佐世保にたどりついたあの駆逐艦。語るも涙ですよね・・・

その涼月の操舵長が「松岡」さんとは知りませんでした。そうか~やはり松岡という名の人は熱くなってあきらめないんですね!
これから「女だらけの~」の松岡分隊長がカッコよいときはダブらせて読むのも手かも!?

涼月はただの奇跡の艦ではなくみんなの努力の結晶の艦でもあったわけですね。

えええ!『大和』沈没の際副長が・・・タバコをですか!
うーん、副長。やることが一味違うなあ~~ww

松岡分隊長とお聞きいたしまして・・

大和よりは「涼月 松岡洋仁 操舵長」を思い出しました。
涼月が大きな痛手を負い、後進を余儀なくされた際、その適格な判断でもって無事佐世保まで帰還させた「凄腕の操舵長」でした。
本編とはおそらく違うのでしょうけれども、その恰好良さ!にダブらせて拝読いたした次第。
松岡分隊長。いいなぁ。

涼月・倉橋先任将校(砲術長兼)談。
「松岡じゃなかったら、原田(機関長)じゃなかったら、涼月は、佐世保へたどり着けなかった・・」

副長の妙義>
大和最期の時、副長が傾いた艦中で、たぼこを配っていたという、
これもやはり・・(裏)証言が残されております。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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