2017-10

「女だらけの戦艦大和」・見合い写真2<解決編> - 2012.08.12 Sun

戦い終えた空母「蒼龍」の飛行甲板で下士官搭乗員たちが何やら楽しげに――

 

騒ぎの中心は、大島上飛曹。彼女も故郷から送ってきた手紙を先ほど受け取ってそれを開封したようだ。

その手紙には、「見合い写真」が同封されていたのである。大島上飛曹は最初一人でその手紙と写真を見ていたがそれを同僚の黒沢上飛曹に見つかり、あっという間に仲間に取り囲まれてしまったというわけである。

黒沢上飛曹がうらやましげに見合い写真を見つめて、

「親方いいなあ、こんな素敵な人と結婚なんてねえ!」

と鼻息荒い。「親方」とは大島上飛曹のあだ名である。

親方と呼ばれた大島上飛曹はその場に座り込むと飛行靴の足を組んで飛行帽を取ると頭を手拭いでごしごしこすった。そして、飛行帽をかぶりなおすと

「まだ結婚するとは決まってないって!母親がさ、お前の写真も送れっていうんだよね。だからさ、偵察の村上兵曹に頼んで取って貰おうかと思ってるんだけどね」

と少し照れくさそうである。

黒沢上飛曹はずっと写真に見入っていて、ため息をついている。その隣の井本一飛曹、宮川一飛曹、内村一飛曹などがしきりに「いいねえ、大島兵曹は結婚のお話があって」「私もいい人探してもらおうかなあ」「お前は無理だろ」「なんでですかあ!?」などなどにぎやかである。

黒沢上飛曹は写真を大島上飛曹に返しながら、

「親方、やっぱり結婚するんでしょ」

と聞いた。大島上飛曹は足を組みかえながらウーンと唸って考え込んだ。その大島兵曹に黒沢上飛曹は

「その方がいいよ、だっていい人そうじゃない?こんないい人と結婚できたら最高じゃないの!」

という。大島兵曹はさらに唸って考えている。井本兵曹も「そうですよ、この写真の人とてもいい人みたいですもん。結婚したら大島兵曹、幸せになれそうですもん。いいなあうらやましいなあ」と言って両足を抱えこんで飛行靴の先を見つめた。

宮川・内村の両一飛曹もそれぞれうなずく。大島兵曹はまだ唸っているがそれがはたから見ている飯田中佐には(恥じらいだろうか。いや、なんか少し違うような気もするな)と気になっている。

飯田中佐はそこで、皆の座っている場所におもむろに近づいて行った。

黒沢上飛曹が、「あ、飯田飛行長」と言って皆がたちあがって敬礼。飯田中佐はそれを制し、「座りなさい、・・何を話していたのかな」と言うとその場に座った。

皆も中佐に倣い再び座り込んだ。大島兵曹が懐から封筒を引っ張り出しその中から一葉の写真を引きだした。それを中佐に手渡しながら「これであります・・・実家から送ってきたのであります」と言った。

飯田中佐はそれを受け取って、写真の中の男性を見た。

年のころなら278歳だろうか。大島上飛曹には少し年が上過ぎぬだろうかとふと思った。写真の男性は人のよさそうな感じは受ける。だが・・・。

「で?」と飯田中佐は大島上飛曹を見て問いかけた「親方はどう思うんだね?この人を」。<親方>と中佐が言ったことに、皆の間から笑いが起きた。

そう聞かれて大島上飛曹は頭を掻きながら

「はい、見た感じはいい人そうだと思いました。でも・・・」

と最後の方は言い淀んだ。飯田中佐は「でも、どうしたね?」と優しく訪ねた、大島上飛曹は飯田中佐の優しい瞳を見つめると、

「私はその人がどういう人か写真だけでは判断できかねるんです。確かにその写真ではいい人のように見受けられるんですが、こればかりは実際会ってみないとわからないし。自分の人生を左右する大事なことを写真で判断せよ、なんて土台無理な話じゃないでしょうか」

と一気に言った。

飯田中佐は(そこだ!)と思った。自分が親から見合いの話の手紙を受け取った時感じたことはまさにこれだった。心の中に淀んでいてはっきり言葉にならなかったこと、それが親方こと大島兵曹の言葉ではっきりした。

(そうだそこなんだよ。その人の善しあしは写真では測れない。それは向こうにとってもそうだろう。写真とは決して重要な判断材料ではないのだ。写真の第一印象で決めるよりまず会ってみることだろう。本当に結婚する気があるなら、まずそこからだ。それにあまり年上過ぎるのもどうかと思う。あまり年をとっていると頑固な面も否めないかもしれない。そういう人は我々のような軍人とはそりが合わないこともあるかもしれないしなあ)

飯田中佐は大島上飛曹に優しいまなざしを向けながら、

「そうだね親方。あなたはいいことを言います。私も実は実家から写真をくれと言われています。が私はまだまだ結婚をする気がないので写真を送るのは今回見送ろうと思っていますよ。断ります。でも親方は、自分の心のままにすればいいんだよ?」

と言ってやった。大島上飛曹は飯田中佐を見つめると、

「では私も今回はなかったことにしてもらいます。まだ私もやらねばならないこと、やるべきことがたくさんあります。結婚などはまだ先で良いのであります。大体、雑念があると戦闘に差しさわりがありますから。結婚はもっと先で良いのであります!」

と一気に言った。飯田中佐は少しあわてて、

「いや、私がそうだからと言って親方まで真似しなくていいんだよ?」

と諭した。が、大島兵曹は首を横に振ると

「飛行長、私は自分の意思でそう思ったのです。ですから真似ではないであります!」

と明るく言った。それを聞いて黒沢上飛曹が「はあ、もったいないなあ~」とため息をついた。宮川兵曹が小さな声で「でも私は大島兵曹が結婚してしまってもし、「蒼龍」からほかに行ってしまうようなことがあったら寂しいから、ほんとはまだ結婚してほしくないな・・・」とつぶやき、内村兵曹も「そうだね、蒼龍飛行隊はこのみんなで成り立ってるからそんなことになったら、たとえめでたいことでも私もいやだな」と言った。

この時、皆の間に不思議な連帯感が走った。

 

その時、偵察員の村上兵曹が大きなカメラを持って走ってやってきた。飯田中佐に敬礼してから弾んだ息を整えると、

「親方―!遅くなってごめん。さあ見合い写真を撮るよ」

と言ってカメラを構えた。このカメラは彼女の私物である。大島兵曹は笑って

「む―さん、見合い写真は中止だよ。その代わりここにいるみんなで戦捷記念写真を撮ろうよ、さあお願い!」

と言い、飯田中佐は「おお、それはいいね!さあ、写真の名手むーさん、お願いしますよ!」というと皆を抱きよせるようにしてカメラに向かって笑った。

大島兵曹も、黒沢上飛曹も井本兵曹も、宮川・内村兵曹も皆、肩を寄せ合ってカメラに向かって笑顔を向ける。

「いいですかあ!いきますよー!」

村上兵曹が叫んでシャッターが下りた。

 

その様子を艦橋の見張所に立っていた蒼龍・柳本艦長が微笑みながら見ている。

そして、「若いっていいことだね。皆溌剌としている」というとそばで一心不乱に双眼鏡をのぞいている見張り員の肩をポン、と軽くたたくと艦橋の中に入って行ったのだった。

 

陽光が、海のさざ波にまぶしくきらめくある日のことだった――

          ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

この話は、現在靖国神社・遊就館にて開催中の「特別展・大東亜戦争開戦70周年」で展示中の飯田中佐のお手紙をモチーフに作ってみました。飯田中佐のお手紙に、見合いのお話のことがありましてそれでこの話を思いついた次第。
遊就館特別展

遊就館でのこの特別展は今年の12月9日まで開催中です!



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● COMMENT ●

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんにちは!

いやいや・・・例のコメントで私が気分をどうにかしたとかいうのでは全然ないので全く気になさらないでください。
ただ私も説明が下手なのでいろいろ書きこんでも「スパムコメント!」とか書かれて投稿できなかったり、「これじゃあ論理が通らない」と悩んだ末のことですので。

あの時代、他の時代に比して特殊性の高い時代ですのでその時代の検証はまだまだ難しいものがあります。あるいはもっと先--例えば50年から100年後--の日本人が冷静にあの時代を見たときに初めてわかることなのかもしれません。

彼らを、日本人をあそこまで突き動かしたのは先祖代々から脈々とそのDNAの中に流れる「武士道」の心だと私は思う時があります。子供のころから教え叩き込まれたことです。ある意味しつけと同じように「君主のために」「国家(古きにおいては藩の)ため」と教え込まれてきたのですから、それをぬぐえない人もいましょうし、激しく嫌悪感を持って否定する人がいてもいい。
そこからさまざまな見方が出来るのですから!

どちらが正しい、悪いという問題ではないですよね。でも言えることは自国の正しい歴史を見つめ悪しきところは反省し検証しよきところは見習い、未来につなげてゆかねばならないということでしょうか。

今回は私も刺激になりましたよ!
ありがとうございました、また何かありましたらぶつけてください。一所懸命考えてみたいと思いますので!

またよろしくお願いします^^。

酔漢さんへ

酔漢さん、わざわざありがとうございます。
私もよくやる変換間違いです^^。
PCは時にとんでもない変換間違いをしてくれますよね(-_-;)

酔漢さんへ

酔漢さんこんにちは!
もし私が遊就館に行かなければこの話をきっと永遠に知らなかった・・・と思うとあの場に行ってあのお手紙を読んだことが何やら不思議なことに感じてきます。

開戦劈頭の航空部隊は熟練搭乗員がたくさんいたのですばらしい活躍をしていますね。戦史に名を残す登場員たちが大勢いてわくわくしますがその彼らもやがて戦争末期特攻で散った人も少なからずいらして悲しい思いです。

なるなら航空将校!!MMKですね^^。
女航空将校もMMKだあ~!
だってかっこいいですものね。


>「よい話しだったなぁ」素直に読後の感想でした
ありがとうございます!嬉しいですとても!!

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誤字ご容赦

先コメントに於きまして。
「零戦」です。「冷戦」誤変換でした。
ここにお詫び申し上げます。

零式艦上戦闘機二一型

飯田中佐のお話しを拝読。そうでしたか、そのようなお話しがあったのですね。知りませんでした。
三菱零式艦上戦闘機二十一型。飯田中佐固有機番号BI-151。
伝説の搭乗員でありました。
第一航空艦隊第二航空戦隊。開戦から数々の武運に恵まれた部隊でした。
艦攻の楠少佐。艦爆の小林大尉。(飛龍)
冷戦の飯田中佐、菅原大尉。艦攻の阿部大尉(蒼龍)。個性的でいずれも歴史に残る搭乗員達です。人としても魅力的ですよね。
飛行機乗りは女性に(もとい!男に・・)モテル!
颯爽とした彼女達の姿を一生懸命想像しておりました。
「よい話しだったなぁ」素直に読後の感想でした。




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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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